長い準備期間を経て、ついに文化祭当日がやってきた。開始時刻は朝の9時で8時半までに登校する事が義務づけられている。俺は堀北にそれより少し早い8時にメイド喫茶が開かれる特別教室にクラスメイトを集めてもらった。当然だが高円寺はいない。
「比企谷くんの言う通りみんなに集まってもらったけど、これからどうするつもりかしら?」
「まあ、見ておけ。櫛田、波瑠加、準備はできてるか?」
「もちろんだよっ」
「オッケー」
「う…うん…」
その言葉を確認して、俺はみんなへと語りかける。
「文化祭当日の忙しい時間に集まってもらってすまない。今日まで俺は全学年で1位になる為に準備をすすめてきた。ただの1位ではない。ぶっちぎりでだ。色々と無理も言ったが、ここまで付き合ってくれた皆に感謝する。さて、秘策の第一弾をここで発表したいと思う」
「なんだなんだ」
「もったいぶるんじゃねえよ」
「そうだな。早速お披露目といこうか。櫛田、波瑠加頼む。」
「………」あれっ?
少し間があいたが、更衣室から前のめりに愛理が飛び出してくる。
「押すなんて酷いよ波瑠加ちゃん!」
「あんたがさっさとでないからでしょっ」
メイド服に身を包んだ愛里をみて、全員が息を飲む。
「グラビアアイドル『雫』ことNEW佐倉愛里だ。
せっかくだ。愛里、1言抱負を語ってくれ」
「みんなー。内緒にしててごめんねっ。今日に向けていっぱい桔梗ちゃん、波瑠加ちゃんと練習してきたんだ。足はひっぱらないと思うから今日はよろしくね♪裏方として、頑張ってくれる人も応援してるからね〜。全員で1位目指すよっ」
そこには今までのようにおどおどした愛里の姿はなかった。内密に練習をしてきたためか、波瑠加と異なり、なかなか人目に慣れる事が難しかった愛里に俺は1つ提案をした。それは『愛里モード』と『雫モード』を分ける事だ。一種の自己催眠だな。この提案に一日の長?がある桔梗がしっかりと応えてくれたようだが…まぁ…やり過ぎな気もせんではないが…。
「あなた…何をすればこうなるの?」
「愛里の覚悟と櫛田、波瑠加のおかげだな。俺は何もしてないぞ」
まだ、現実味がないのか唖然としているクラスメイトに話かける。
「今から秘策第一弾は公開だ。俺たちのクラスに来れば『雫』が接客してくれる。この情報を学校中にばら撒いてくれ。まずは11時までに一之瀬のクラスを吸収する。みんな頼むぞ」
「おぉぉぉぉー!!!」
「比企谷様の仰せのままに」
男性陣を中心に士気が一気に高まる。そして、なぜか一部の男子の俺を見る目がなんかこわい…。
2年Aクラスに引退したはずのグラビアアイドル『雫』がいるという情報はまたたく間のうちに学校中に広がる。9時を過ぎるとその噂を聞いたお客が来店した。
「お帰りなさいませ。ご主人さま」
そう言って出迎えるAクラスが誇るメイド達。
最初はみんな慣れない様子だったが、そんな初々しさも彼女たちの魅力になっている。まずまずの立ち上がりだろう。開店からすぐに『雫がいるらしい』という情報は『雫がいた』に上書きされ、1時間を過ぎる頃には行列ができるようになっていた。予定より少し早いが一之瀬のクラスを飲み込んだ。
「にゃはは。あれは反則じゃないかな?」
メイド姿に着替えた一之瀬が苦情を言ってくる。
「何を言っている。愛里もれっきとしたクラスメイトだ。何も問題ないだろ?さて、予定どおり最初のインパクトで売上は稼げたがな。ここからが本当の勝負だ。なに、一之瀬と桔梗が揃えば、あの愛里にも負けんだろ。お前たちには期待しているぞ」
「にゃっ。比企谷くん、時々ずるくない?」
一之瀬クラスを吸収した事で待たせる時間も少なくなった。学校関係者が中心な為、野次馬根性丸出しのお客が少なかったのも幸いしているな。もし、一般開放していたら…想像もしたくない。
さて、そろそろ昼食どき。午後1時までのランチタイムが始まる。俺はここを堀北と一之瀬にまかせて予定どおり料理班を手伝う為、厨房に向かった。