「疲れた…。もう働きたくない…」
11時から午後1時ランチタイムの2時間。泣き止まない子供の為にサービスで即席のオムレットを作ったのが間違いの始まりだった。無事、その子を泣き止ませる事に成功したが、それを見ていた他の家族から「あれは何?」となり、注文が殺到する事になる。俺以外事前に練習をしていない為、深く考えず午後1時までの限定提供としたのが想定外に購買意欲に火をつけてしまった。最後の1時間はひたすらオムレットを作った記憶しかない。暫くはたまご料理は見たくないな。ジャンルはスイーツの為、一之瀬クラスに売上を渡すつもりだったが、比企谷オリジナルという事で俺たちの売上としてくれた。
外野では龍園がAクラスとの対決を大々的に風潮している。卑怯にも一之瀬クラスと組んでDクラスを潰しに来ている。もし、負けると退学にさせられるかもしれない。高額なポイントを賭けた勝負らしい。などなどである。龍園への対策は清隆の意見を参考に練ってきたので問題はないだろう。龍園は俺達が一之瀬クラスを吸収した為、判官贔屓の客を上手く取り込んでいるようだ。また、ひよりが点てるお茶が好評と耳にはいってきた。文化祭が色々落ち着いたら、一度お願いしてみようか…。たまには日本茶もいいだろう。
午後1時を過ぎ俺達のクラスは執事カフェへとシフトする。高円寺も無事参加してくれているようだ。それぞれキャラクターが異なる執事に扮装した生徒達にリアル乙女ゲーを想起したのかメイド喫茶と変わらない賑わいをみせていた。
「ハチ君〜、ちょっと手伝って〜」
波瑠加から声がかかりバックヤードに戻ると
「きよぽん、天沢。確保」
清隆と天沢に拘束された。過剰戦力すぎないか?あまりにも急な展開にそんな関係ない事を考えていると桔梗は続けた。
「いろは準備はいい?」
「バッチリです」
「なっ…なんでいろはと天沢がいる」
「「休憩時間です!」」
「違う所で休め」
「で、これはどういう状況なんだ。桔梗」
「八幡のプランにはどうしても欠けているものがあるんだよっ」
「どこがだ。男性陣の人選も問題ないだろ」
「はあ、これだから…乙女心がわかってないね」
「じゃあ、何が足らんと言うんだ」
「「「「知的メガネ」」」」
「もし、ゆきむーがいれば、こんな事しなかったんだよ?」
「啓誠は引き受けんだろ」
「という事で本日のサプライズ第二弾だよっ。きよぽん、天沢、こっちに連れてきて」
「はーい。はちまんも抵抗しないでね。あと、終わったらオムレットよろしくね〜」
予算に計上した覚えのない執事服と私物のメガネ…。髪型を桔梗といろはに弄ばれた俺はそのまま執事カフェに放り出される。店員、お客全ての視線が集まる。
「はっはっはっ。なかなか様になっているじゃないかボーイ。これは私も負けてられないね〜」
いち早く俺に気づいた高円寺が声をかけてくる。
「ぽ〜…」
フリーズしたままの堀北。
「しまった…
あのブラコン。知的メガネの効果がばつぐんだ」
「あ…あなたはいったい…?」
「「八幡」」
「ハチ君」
「先輩」
「そ…そうなのね…まずは友達からお願いするわ」
どうやら堀北が壊れたようだ。『執事カフェに謎の知的メガネ登場!』という噂は『雫』以上の早さで学校中に広まる。女子のネットワークは恐ろしい。俺は最後の仕上げがある為、14時30分までの約束でフロアに立った。
「本当に比企谷なのか?」
「何を言っている。ちょっとメガネかけて髪型セットしただけだ。何も変わらんだろう」
「おっ…おぅ。そんなものか?」
「須藤。こいつの感覚がおかしい。俺も始めてこの姿を見た時、櫛田にバラされるまで八幡とわからなかった」
「何言ってんだ。ひよりと高円寺はすぐにわかったぞ」
「逆だ。ひよりと高円寺にしか見破れてないんだ」
「そこ〜。いつまでもしゃべってないで、今は目の前の仕事に集中集中」
「へいへい」
メイド喫茶から執事カフェに変えるのは正直賭けだった。執事役の男性陣はそれぞれのキャラクターを活かした接客を心がけてくれた為、メイド喫茶と遜色のない売上となっている。高円寺は流石の1言だ。紳士としての振る舞い。お客を楽しませる話術。全てが1流だった。チェキの売上も堂々1位の活躍だ。そして、俺が僅差の2位…。解せぬ。唯一の計算外は終始堀北がポンコツだったことだな。
「いい勝負だったよ。ボーイ。今度、紳士というものを私直々に教えようじゃないか。なぁに遠慮する事はないよ。はっはっはっ」
そう言って高円寺は去っていった。正直迷惑なんだが…。さて、最後の仕上げといこうか