護法戦記   作:ほすほす

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私は平安。璃月のしがない物書きだ。
胡桃の過去の話を聞き、感銘を受けた私は胡桃と和解することができた。
そもそも私が気を使い過ぎていただけだったようだ。
……しかし、この空間。
なかなかどうして、素晴らしい。
このままずっとここにいたいとすら感じる。
なあ弥怒。
弥怒もこちら側へはやく来ればいいものを。

――これは層岩巨淵のイベントストーリーの裏側で巻き起こる、もう一つの護法夜叉の話。


護法戦記 16話 未知の感覚

「それがちょうどここ、平安さんが今いる無妄の丘なの。その後私は璃月港に帰って、この服に花の刺繍を入れた。この花は、私がちゃんと胡じいを送り出すことができた証。そしてこれから先も葬儀屋として、旅立つ人を同じように見送り続けるという私の誓い」

 

 

 胡桃はそう言いながら服の裾を持ち上げ、私に見せてくれた。

 

 不吉と悲しみの象徴、白い彼岸花。

 

 胡桃の服の上で、その花は誇らしげに咲き誇っていた。

 

 

「若いのに……偉いな」

 

 

 私はそんな平凡な言葉しか口にすることができず、語彙力の少なさを情けなく思う。

 

 天を仰げば、いつの間にか雲の間からは光が差し、うっそうとした森に光の柱を伸ばしている。

 

 

「はは、私とは大違いだ」

 

 

 自嘲しながら、私は胡桃に肩をすくめて見せた。

 

 胡桃は両手を前にぶんぶん振っておどけて見せる。

 

 

「そんなつもりで話したわけじゃないから、安心して! ちょっと長話になっちゃったけど、平安さんのこと、全然気にしてないって言いたかったの。あと、心配しなくてもお客さんのプライベートに深入りするつもりはないから、私の話をしたからって平安さんの過去を根掘り葉掘り聞いたりしないよ!」

 

 

 言い終わると、胡桃は黒いベンチに腰掛けたまま、両手と両足をぐっと伸ばす。

 

 

「うーん、気持ちがいいねぇ。この場所にしては不自然なくらい。よし、じゃあ平安さん」

 

 

 胡桃がぴょんとベンチを飛び降り道の真ん中に立つ。

 

 

「そろそろ出発か」

 

 

 私も肩に鞄をかけなおし、お尻をはたいて立ち上がる。

 

 すると胡桃は私を見て、首を横に振った。

 

 

「え?」

 

 

 てっきり話も終わり、出発するものだと思っていた私は首を傾げる。

 

 どうしたのだろう。

 

 行かないのだろうか。

 

 目的地は目の前だというのに?

 

 胡桃が言っていた、境界と言う場所まで案内してくれるのではなかったのだろうか。

 

 話の流れだと、そんな風に思えたのだが。

 

 

 戸惑う私を見てうんうんとうなずき、胡桃は声高らかに宣言する。

 

 

「平安さん、こーれーかーらー、寝るよっ‼」

 

「……はい?」

 

 

 胡桃はこれでもかと、満面の笑みを浮かべていた。

 

 私の脳は突然状況にそぐわぬ一言を受けて、混乱を極める。

 

 

「ええっと、胡桃。今から、お化けツアー再開じゃなかったのか? 寝るって、ここ森の道の真ん中だぞ? 近くに宿も見当たらないし、それにまだ真昼間だ。一体どういう……」

 

 

「チッチッチッチ、残念平安さん、違うんだな~」

 

 

 リズムに合わせて胡桃が人差し指を振る。

 

 その姿は妙に小憎たらしく、先ほどまでは胡桃のことを尊敬すらしていたのに、なぜだか今は無性に腹が立つ。

 

 

(なあ弥怒)

 

 

『なんだ』

 

 

(私が間違っているのか? 私の常識が、おかしいと言われているような気がしてならないのだが)

 

 

 弥怒は退屈そうにあくびをすると、ため息をついた。

 

 

『愚か者。小娘に遊ばれているのだ。お主は。その程度で一喜一憂するなど、修業が足らん』

 

(うぐっ)

 

 

 苛立ちが顔にも出てしまっていたのだろうか。

 

 胡桃は私を見て、ニマニマと笑っていた。

 

 

「おやぁ? おやおやぁ? 状況が理解できなくって、そーんなに悔しかった? じゃあ特別にヒントをあげよっか? 今から私が何をしようとしているか、平安さんにはわっかるっかなぁ~って、ごめんごめん、怒らないで―!」

 

 

 私が腕を組み調子に乗る胡桃を睨みつけると、胡桃は私の背中をパンパンと叩き、横から顔を覗き込んでくる。

 

 眉がぴくぴくと勝手に動く。

 

 私は胡桃に気付かれないように、それを必死に押さえつけようと努力した。

 

 ああ、我慢だ平安。

 

 私は大人、私は大人だ。

 

 

『嘆かわしい』

 

(う、うるさい!)

 

 

 おかしい。

 

 なぜいつもこうなるのだ。

 

 なぜ私ばかりが責められる流れに。

 

 考えるのも馬鹿らしくなり、私はがっくりと肩を落とした。

 

 

「はぁ、で、これからどうするんだ胡桃。こんなところで地べたに横になるのはごめんだぞ」

 

 

「そこは安心してもらって大丈夫! 私は今回のツアーの開催者、平安さんはお客さん。お客さんにそんな待遇はできないよ!」

 

 

「じゃあ、どうするっていうんだ」

 

 

「ふふん、こうするのっ」

 

 

 胡桃は得意げに笑うと、先ほど腰かけていたベンチを藪の中から力任せに引きずり出す。

 

 ベンチは思ったよりも大きく、その全長はちょうど上に大人が一人寝転がってもまだ足りるほどであった。

 

 

「って、これ、ベンチじゃなくって……」

 

 

 私は絶句する。

 

 

「ん? 平安さんはこれをベンチだと思ってたの? 罰当たりだなー。これは正真正銘、本物の棺桶! 平安さんが座ってたのも、同じくちゃんと本物だよ? 私がちゃんと保証する。必要であれば、往生堂マークの保証書を発行したって構わないよっ!」

 

 

「いやいやいやいや! なんてものに座らせるんだ! というより、座るよう指示したのは胡桃だろう! なんでこんなところに棺桶がふたつも!」

 

「私が運んだから?」

 

「どこからっ⁉」

 

「璃月港から」

 

「なぜっ⁉」

 

「んーなんとなく?」

 

「……っ‼」

 

 

 

 

 だめだ。

 

 

 胡桃のペースで会話していると、だんだん頭が痛くなってきた。

 

 私がこめかみを押さえていると、パチパチパチと手を叩く音が聞こえてくる。

 

 

「いいよっ! いいよ平安さん! そのリアクション最高だよっ! こんな面白いお客さん久しぶりだよ!」

 

「……」

 

 

 私は知っている。

 

 ここで胡桃にかみついたところで、どうせもてあそばれるだけなのだと。

 

 私は胡桃の気を引かぬよう、極めて冷静なふりをしつつ言葉を返す。

 

 

「……それで。これが棺桶なのはわかった。まさかお化けツアーを銘打っておいて、棺桶の死体を見せるなんてことはさすがにしないだろう。一体、何が目的なんだ?」

 

 

「えへへっ、そんなことしないよ! 確かにその案はちょっと興味惹かれる内容だったけど、不正解。ね、平安さんもそっちの棺桶引っ張り出して、開けてみてよ! そしたらわかるって」

 

 

 胡桃に促されるまま、私は先ほど自分が腰かけていた黒い箱にしぶしぶ手をかける。

 

 箱は思ったよりも重く、私は胡桃ほど軽々と引き出すことができずに、ずりずりと音を立てながらやっとのことで草むらから引き出せた。

 

 

 肩で息をする私に、胡桃が「ほらほら開けてみて」と楽しげに笑う。

 

 蓋の金具を外し天板にぐっと力を込めると、蓋は音もなく持ち上がった。

 

 

「うわぁ……」

 

 

 私は中を見てげんなりした。

 

 今までで一番疲れた瞬間だったかもしれない。

 

 対照的に、胡桃は鼻息を荒くして目を輝かせる。

 

 

「どお⁉ これすごいでしょ? 往生堂が開発した、最新携帯式寝具! 名付けて【そのまま往生Doセット】!」

 

 

「見た目も名前もえらく不穏だな⁉」

 

 

「まあまあそう言わずに、ちょっと横になってみてよ! きっと違いがわかるから!」

 

 

 棺桶へ私の身体を押し込もうと、胡桃の両手がにじり寄る。

 

 私はあわててその手を振り払った。

 

 

「な、何と比べた時の違いだ!」

 

 

「それはもちろん、普通の棺桶だよ!」

 

 

「いや、普通の棺桶でも寝たことなんてないぞ!」

 

 

「あー、そうか。なるほどなるほど。平安さんの家には棺桶がなかったんだね。うんうん、でも大丈夫! 人生の最後にはきっと入ることができるし、その時に思うよ! 『ああ、あの時に使った往生堂印の携帯式寝具、そのまま往生Doセットの寝心地、よかったなぁ……』って!」

 

 

「そんなこと思うかっ! って、そもそも棺桶に入っているときには私は死んでしまってるだろう! どうやって寝心地を検証するというんだ!」

 

 

「あっ、確かに! な、なんてことっ! 私としたことが、一生の不覚っ! 幽霊になったら、ベッドの感触が分からない……! この製品にそんな欠点があったなんて!」

 

 

「むしろ欠点だらけだぞ!」

 

 

 まるでツッコミが追い付かなかった。

 

 天才となんちゃらは紙一重と言ったものだが、胡桃は何というか、その類なのだろう。

 

 

「ああ、頭が痛い……」

 

 

 私が眉間をぎゅっと押さえた瞬間だった。

 

「えい」

 

 胸元に軽い衝撃。

 

 棺桶のふちで、もつれる足。

 

 崩れる姿勢、傾く視界。

 

 驚きに目を見開けば、胡桃がペロッと舌を出し、両手をゴメンネと突き合わせる。

 

 

「いでっ!」

 

 

 私はきれいに棺桶の中へ尻もちをついた。

 

 胡桃が私の足を目にもとまらぬ速さで棺桶の中へしまい込む。

 

 その動きは手馴れていて、流れるように洗練されている。

 

 なんだか、すごく嫌だった。

 

 

「一名様、ご案内~!」

 

 

 バタンと、目の前で閉まる棺桶の蓋。

 

 私はあっけにとられ、開いた口がふさがらない。

 

 昼間の明るさから一転、私は闇の中に閉ざされたのであった。

 

 慌てて蓋を持ち上げようと腕に力を込めるが、蓋はびくともしない。

 

 

「おい! 冗談が過ぎるぞ、胡桃! 早くここから出してくれ!」

 

 

 ドンドンと蓋を叩くも、やたら頑丈な作りで棺桶はびくともしない。

 

 その上棺桶の中が狭いため、思ったように力も入らなかった。

 

 力づくではどうにもならないことを悟り、私は胡桃に交渉を試みる。

 

 

「なぁ胡桃、私が悪かった! ふざけているのならやめてほしい。こんなところで今から寝るなんて、考えられない! もっといい場所が探せばあるはずだ。お願いだ、胡桃!」

 

 

 すると棺桶の真上から、くぐもった胡桃の声が聞こえてくる。

 

 

「こんなところってどんなところ?」

 

 

 どうやら棺桶の上に、胡桃が座っているらしい。

 

 そりゃあ開かないわけだ。

 

 私は怒鳴りつけたくなるのをこらえつつ、胡桃の質問に答える。

 

 

「どんなって、そりゃあ、真っ暗で、狭くて。それに……首周りはちょうどいい高さで、妙に腰のカーブにフィットした形状になっていて、ふわふわした毛布のような内装材が体を包み込み、狭さが逆にちょうどいい。そしてわずかに香る線香の匂いが、心を落ち着かせてくる。こんな、こんな……!」

 

 

 私は闇の中でぎりぎりと奥歯を噛み締める。

 

 

『どうした、大丈夫か?』

 

 

 さすがの弥怒も心配そうに尋ねて来た。

 

 思わず私は弥怒の言葉に縋りつく。

 

 

(どうしよう、どうしよう弥怒!)

 

 

『なんだ、どこか痛むのか? それとも、閉所恐怖症でも発症したか?』

 

 

 私は誰も見ていないのに、首を大きく横に振る。

 

 

(違うんだ弥怒。違うんだ……。こんなの、絶対間違ってる! こんな、こんな棺桶がっ! 私が今まで寝たことがあるどんなベッドよりも、心地よいと感じられるだなんて……っ‼)

 

 

 体はもうほぼほぼ屈服しかけている。

 

 何とか理性で踏みとどまってはいるが、全身から伝わる「快適」のサインが、グラグラと私の感情を揺さぶっていた。

 

 

 

 

『……阿呆が。心配して損した』

 

 

(弥怒ぅぅ! 一度、一度でいいから寝てみろ! あ、そうだ。私の感覚を共有すればいいじゃないか。ほら、今の感覚をもとに頭の中に棺桶を想像してやったぞ! 入れ、入ってみるんだ弥怒!)

 

 

『断るっ‼』

 

 

 なぜだ。

 

 なぜこの悔しさと心地よさのハーモニーを誰もわかってくれないんだ。

 

 もう理性は吹き飛び、心がぐしゃぐしゃになりかけていた。

 

 再び棺桶の上から、楽し気な胡桃の声が降ってくる。

 

 

「あははっ! 詳細なレビューありがとっ! 今度紙に書いて、実際に寝てみたお客様の声として紹介させてもらうね!」

 

 

「うぎぎ……」

 

 

 反論したくてもできない。

 

 こんな野ざらしの棺桶が、望舒旅館のベッドより寝心地がいいだなんて、誰が想像できようか。

 

 

「平安さん、ちょっと今は幽霊が少ないみたい。さすがに真昼間じゃ、雰囲気も出ないでしょ? 歩き回っても疲れちゃうから、とりあえず棺桶で夜までお昼寝しようよ。目が覚めたら驚くよ? きっと世界が変わってるから。そしたら、そこからが正真正銘、“未練がある魂の浄化ツアー”の始まりだよっ!」

 

 

 ザリ、と胡桃の靴が砂を踏みしめる音が耳元で聞こえた。

 

 もう棺桶の上からは退いてくれたらしい。

 

 腕を持ち上げて天井を軽く押すと、開いた蓋の隙間から一筋の光が差した。

 

 暗さに目が慣れていたので、差し込んだ光源はやけに眩しく感じられ、私は眉間にしわを寄せつつ手を離す。

 

 再び棺桶の中は光の届かぬ世界となり、無性に心が落ち着いた。

 

 

『出ないのか?』

 

 

 弥怒が訪ねてきたが、私はいや、と頭に言葉を形作る。

 

(もうどうにでもなれだ。別に出たければいつでも出られる。胡桃の言う通り、こんな何もない場所じゃひとりですることもない)

 

 

『お主が良いのであれば、それで良いが』

 

 

 弥怒はあまりこの状況に納得していないのか、やや不満気だ。

 

 そう思うのであれば、私が頭の中に作ってやった棺桶に入ってみればいいものを。

 

 世界が変わるぞ。

 

 

「あ、平安さーん、言い忘れてたけど、肩のあたりに小さな引き戸があるから、開けておいてね! それ開けて寝ないと、息苦しくなってきて、本当に往生堂行きになっちゃうよー!」

 

 

 少し離れたところ、胡桃の棺桶の方向からそんな忠告が聞こえてくる。

 

 私は言われるがまま肩のあたりを探ってみると、小さな突起があったのでそれを引いてみる。

 

 開いた窓には細い糸が格子状に組んであり、風を通しつつ虫の侵入を防いでくれるようだった。

 

 窓の位置も絶妙で、やや高い位置にあるため雨が降ったとしてもそこから浸水するようなことはなさそうだ。

 

 腹立たしくも、窓には日よけが設けられているため、入ってくる明かりで眠りが妨げられることはない。

 

 

「形が棺桶でなければ、いや、形にさえ目をつぶれば……」

 

 

『おい、これを買うなどと言い出してくれるなよ』

 

 

 揺らぐ私の心を見透かしてか、弥怒が釘を刺してくる。

 

 

(別に、値段によっては考えてもいいなんて、思っていないさ。人目につかない室内であれば、ありかもしれないなどと、考えるはずもない)

 

 

『お主、心の声がだだ漏れだぞ……』

 

 

 かくして、胡桃のお化けツアーの行軍は一時中断、夜を待つことになったのである。

 

 

 

 

「夜まで寝る、か……」

 

 

 私は闇に向かってぽつりと独り言をつぶやく。

 

 

『ん? どうかしたか?』

 

 

(いや、大したことじゃない。それより弥怒。今夜はこのツアーのメインイベントになりそうだ。もともとこのツアーに参加したいと言い出したのは、弥怒だろう。出発前に言っていた、弥怒の約束を待ち、あの世に旅立てぬ魂の話、私はまだ覚えているよ。それで、だな。つかぬ事を聞くようで悪いが……弥怒の言うその魂に、弥怒は思い当たる人物がいるのだろうか?)

 

 

 そう尋ねながら、私の心臓の鼓動はだんだんと緊張で大きくなっていく。

 

 実は旅の途中もずっと気になっていた。

 

 弥怒が会おうとしている、その人物。

 

 気にするなと言うほうが無理がある。

 

 目的地を前にして、今尋ねたとて不自然ではないだろう。

 

 

『ああ、そのことか。お主に話してはいなかったな。話すほどのことではないかと思っていたが、知りたいか?』

 

 

 私は弥怒に気付かれぬよう、努めて冷静なふりをする。

 

 

(ま、まあ、ここまで来たのだからな。ちょっと気になっている)

 

 

 嘘だ。

 

 正直めちゃくちゃ気になっている。

 

 

『うむ。まあよいだろう。お主には今回付き合ってもらったのだからな。知る権利はあるだろう』

 

 

 そう言うと弥怒は言葉を選んでいるのだろうか、しばらくの間考え込む。

 

 棺桶の中は途端に静かになり、私の息遣いと高鳴る心臓の音だけが響いている。

 

 私は手に汗を握りつつ、弥怒の言葉を待ち続けた。

 

 

 ようやく、弥怒が口を開く。

 

 

『その、だな。己れが命を終える前、約束を交わしたままになった者がいる。その者とは、苦楽を共にした戦友であった。お主の部屋で本の挿絵を見て、後世でその姿が誤って伝わっていることを知った。残念ながら、その者も戦乱の中で命を落としたのではないかと思っている』

 

 

 私はごくりと生唾を飲み込んだ。

 

 弥怒は懐かしむような声で続ける。

 

 

『その者の存在自体は、お主も知っておるだろう。かつてその索敵能力で戦局を見定め、果敢に攻めたかと思えば一気に引いて敵をおびき出す。彼女は策略に優れるだけでなく、その透き通った尖爪は敵を切り裂くと同時に、敵軍の最中、勝利への道をも切り開く』

 

 

 

 思わず、私は息をするのも忘れて弥怒の言葉に聞き入る。

 

 

 

 弥怒が会いたいと願う人物とは、まさか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その人物とは、螺巻大将と呼ばれし仙衆夜叉がひとり、――伐難のことである』

 

 

 

 ひゅっと喉元から短く空気を吸い込む音がした。

 

 

 闇の中に、少女の笑顔が浮かび上がる。

 

 

 

 その瞳は私が夢で見た時と同じように、どこまでも蒼く、透き通っていた。

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