護法戦記   作:ほすほす

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私は平安。璃月のしがない物書きだ。
胡桃が語り始めるは、遠い過去……ではなく、つい最近の話。
往生堂に鍾離という男が、やってきた日の話だった。

――これは層岩巨淵のイベントストーリーの裏側で巻き起こる、もう一つの護法夜叉の話。


護法戦記 23話 仙衆夜叉、伐難

 

「ねえ、あなたは、あっちに行かないの?」

 

 

 私は境界の向こうを指さす。

 

 

「きっと、こんな暗くて寂しい場所にいるより、ずっといいよ! 胡じいも、歴代往生堂堂主も、みんな向こうで歓迎してくれるよ!」

 

 

 精いっぱい励ましたつもりだったが、その子はまるで聞く耳をもたない。

 

 それは無妄の丘の境界近く。

 

 じめじめした沼地の隅っこで、膝を抱えて泣いている女の子を見つけたのは、私が七十七代目堂主を継ぎ葬儀にも慣れ始めていたある日のことだった。

 

 

 一目見てその子が他の幽霊たちと明らかに違うとわかった。

 

 頭に生えた角、鉤爪のような両腕。

 

 最初は私も警戒して恐る恐る遠目で見ることしかできなかった。

 

 璃月の海灯祭りで遠目に仙人の姿を見たことはあったが、仙人の幽霊は彼女が初めてだったから。

 

 

 無妄の丘に通い続けて、気づいたことがある。

 

 それは無妄の丘に滞在する幽霊の顔ぶれが、来るたびに変わっているということ。

 

 すぐに境界の向こうへと旅立てる幽霊もいれば、現世での記憶を懐かしみ、数日間その場に滞在する幽霊もいる。

 

 

 だから私ははじめ、彼女も後者の幽霊だと思って、見守ることにした。

 

 でもどれだけ日にちを重ねても、その子が沼の淵から動くことはなかった。

 

 

 少女はいつもじっと真っ黒な水面を見つめては、涙をぽろぽろとこぼしている。

 

 とうとういたたまれなくなった私は、勇気を振り絞って声をかけてみることにした。

 

 

 

 けれど、どれだけ話しかけたり、励ましたり、脅かしたりしても、彼女に私の声は届かなかった。

 

 やがて私は、彼女に声をかけるのをやめた。

 

 

 あきらめたわけじゃない。

 

 もっと、別の方法じゃないとダメなんだって気づいただけ。

 

 それからというもの、この場所を訪れるたび、彼女の様子を見て帰るのが私の習慣になった。

 

 

 ほら、たとえ言葉はなくっても、誰かが気にしてくれてるって思うだけで、気が楽になったりするでしょ?

 

 そうやって月日が過ぎていった。

 

 

 

 私も暇を見繕っては仙人の葬儀について研究を重ね、何かできることはないかってあの手この手を試してみた。

 

 でも仙人の葬儀は、人と違ってとても難しい。

 

 語り掛ける言葉もそうだけど、方位もお供え物も完璧じゃないとダメ。

 

 おまけに、その仙人が納得できるような葬儀じゃないと、意味がない。

 

 ただでさえ長寿の仙人の葬儀なんて、文献はおろか、石碑すら残っていない始末。

 

 だから私は、往生堂の名を背負っているにもかかわらず、ずっと自分の力不足を感じていた。

 

 

 ――つい最近までは。

 

 

 ある日の昼下がり、私が往生堂の前のベンチで空を眺めていた時。

 

 とある人物が、私に声をかけて来た。

 

 

「すまないが、一つ尋ねてもよいだろうか」

 

 

「え、なになに? 私に用事? もしかしてお仕事の依頼かな? んー、でも、あなたは見る限り、髪もお肌もツヤツヤしていて、見るからに健康そう……。あ、もしかして、ご親戚に不幸があった感じだったりして?」

 

 

 その男性は精悍な顔つきをわずかに顰めつつ、眉間を押さえて私を制した。

 

 

「まて……。少々行き違いがあったと思われる。俺はただ、貴女が何をしているのか聞きたかっただけだ」

 

 

「あー……。そっか、そっか。うん。私はただこうやって空に浮かぶ雲を眺めつつ、往生堂の流行りそうな宣伝文句をぼーっと考えていただけ」

 

 

「ほう」

 

 

 男は興味深そうにうなずいた。

 

 そんな興味を持たれるようなことをしていた覚えはないけれど、男はさらに聞いてくる。

 

 

「往生堂、と言ったか。さもすれば、貴女はそこの関係者か?」

 

 

 そこまで他人様からお膳立てされたら、名乗らないわけにはいかないじゃない。

 

 私はベンチから立ち上がると、いつものように自己紹介する。

 

 

「よくぞ聞いてくれましたっ! 私が往生堂七十七代目堂主、胡桃だよっ! それで? あなたのお名前は?」

 

 

「そうか。貴女が当代の堂主か。ふむ。紹介が遅れた。俺は鍾離という。ただの鍾離だ」

 

 

「えーっと、そうやって念を押すと逆に怪しまれたりしない?」

 

 

 鍾離はわずかに考えるそぶりを見せ、納得したようにうなずいた。

 

 

「確かに堂主の言う通りだ。ただの鍾離は、余計だった。次からは気を付けるとしよう」

 

 

「……私もよく変わってるって言われるけど、鍾離さんもなかなかだね……」

 

 

 伝わったのか伝わらなかったのか、鍾離さんは少し首を傾げる。

 

 そして何か思いついたように立ち上がると私に提案してきた。

 

 

「俺は今、特にすることがない。暇を持て余しているとも言う。もしよろしければ、堂主の手伝いなどできないだろうか」

 

 

「あー、うん。お気持ちは嬉しいけど……。往生堂の宣伝はやっぱり堂主の私がしなきゃ、だめだと思うんだ」

 

 

 鍾離さんはふんふんと感心したようにうなずき、こう続けた。

 

 

「なるほど。さすがは往生堂の現堂主だ。元来、往生堂とは医術をその根幹に据えた名家の裏の顔。そこには、命を扱う重圧と責任が常に付きまとう。たとえ宣伝ひとつとはいえ、他人に任せっぱなしとなるとその本質から外れてしまうだろう。堂主の考えは、実に理にかなったものだ」

 

 

 私は鍾離さんの博学多識に舌を巻く。

 

 

 往生堂は瘴気を蓄積させた夜叉たちの亡骸を、炎で浄化する儀式の中から生まれた。

 

 炎は疫病や病魔を祓い、死したものが今を生きる人々を脅かさないよう、明確な境界線を照らし出す。

 

 それらを担っていたのが、当時の医療を担っていた胡家の面々だった……らしい。

 

 往生堂や胡家がその昔、医術で大成していたことなんて、今じゃ誰も覚えてなんかいない。

 

 私でさえ胡じいの昔話を頼りに、往生堂の書架の奥から見つけた文献を読んでいなければ、鍾離さんの話が何のことだかわからなかったと思う。

 

 

「す、すごい! そんなこと、どこで知ったの!?」

 

 

 俄然私は鍾離という人物に興味がわいた。

 

 鍾離さんは少し困ったように頭を掻くと「ただ、記憶力がいいだけだ」と謙遜する。

 

 でもその姿が逆に、鍾離という人物の有能さを物語っていた。

 

 

 私はその時ピンとひらめいた。

 

 

 この人なら知っているかもしれない、と。

 

 

 私が堂主になってから、ずっと頭の片隅で引っかかっていた、ある問題を解決するための糸口を。

 

 

「ねぇ、鍾離さん、私からも一つ聞いていいかな?」

 

 

「……聞こう」

 

 

「仙人の葬儀について、もしかして、詳しかったり……する?」

 

 

 仙人、と聞いて鍾離の目がわずかに見開かれる。

 

 その瞬間、私は直感した。

 

 この人は何かを知っている。

 

 鍾離さんはなぜか私の視線から目を逸らし、申し訳なさそうな顔をする。

 

 

「いや、すまない。俺は特に仙人の葬儀について詳しいわけではない。各地を旅する中で、聞きかじった伝承や保管されていた古い本を読んだだけだ。だが――」

 

 

 そこまで言うと、鍾離さんは私に向き直り、はっきりとこう告げた。

 

 

「今璃月で仙人の葬儀について、一番知識を持っているのは俺だろう」

 

 

 と。

 

 

 私はもう胸のワクワクを止めることができず、鍾離さんが言い終わる前に口を開く。

 

 

「じゃあさ、往生堂で働いてみない、鍾離さん! あなたみたいな人を往生堂はずっと探していました! ええ! そうですとも! 往生堂はいいですよ~! アットホームな事務所(まるで自宅のように)! 寒い冬もあたたかい作業環境(焚き上げが主な理由)! そして何よりもお客様とのハートフルなやり取り(生身の方とも死者の方とも)! きちんと賃金をお支払いするうえ、業務に関わることならなんでも経費で落とせちゃいます! さあ、一緒に漆黒の扉を叩いてみませんか⁉」

 

 

「堂主、俺は……」

 

 

 鍾離さんは何かを言おうとしていたが、私は鍾離さんの両手を握りしめ、ぶんぶんと縦に振った。

 

 

「大丈夫大丈夫! 初めては誰にでもありますから! 一歩ずつ、一歩ずつ。手取り足取り教えます! 半年もすれば誰が見ても納得の、当たり前のことが当たり前にできる、一人前の従業員へと自然に育つカリキュラム(仮)をご用意していますから!」

 

 

 その瞬間、鍾離さんが雷に打たれたように硬直した。

 

 口元では、ぶつぶつと「当たり前のことが、当たり前にできる……」と繰り返している。

 

 私は鍾離さんの背中をぽん、と叩く。

 

 目の前には、往生堂の真っ黒な扉。

 

 鍾離さんが考え事をしているうちに、往生堂の前まで引っ張ってきていたのだ。

 

 戸を開けると、ギギギ、と蝶番も心地よく歓迎のあいさつを鍾離さんへ送る。

 

 

「ようこそ、往生堂へ……」

 

 

 私は往生堂の中へ一歩踏み出した鍾離さんの耳元でそうささやくと、そっと、背中で扉を閉めたのだった。

 

 

「ふむ。なかなか悪くない作りだ。だがどうしたことか、少しめまいを感じる。どこかに座って、ゆっくりと茶でも飲めないだろうか」

 

 

「それじゃま、その辺に座っちゃってて。お茶準備するから」

 

 

 私は鍾離さんを窓際の接客テーブルに座らせて、茶を入れた。

 

 茶を啜って一息ついた鍾離さんは、私に尋ねる。

 

 

「堂主。堂主はなぜ、仙人の葬儀について知りたいと?」

 

 

 私も鍾離さんの対面に腰掛けると、今までのいきさつを説明した。

 

 

 堂主になった後、出会った無妄の丘の女の子のこと。

 

 仙人の葬儀についての文献があまりに少ないこと。

 

 鍾離さんであれば、それらを解決できるかもしれないというところまで。

 

 

 話を聞き終わると、鍾離さんはズズ、と器に残った最後の一口を飲み干した。

 

 

「……俺は確かに知識として仙人の葬儀について知っている。だが、俺は葬儀屋ではない。俺がたとえ今まで目にした仙人の葬儀の方法が間違っていたとしても、口を一切挟まなかったのは役割が違うと考えていたからだ。人はそれぞれ異なる役割を持つ。漁師には魚を捕る役割が、商人には商品を流通させる役割がある。両者の役割を急に入れ替えた場合、経済は混乱し、下手すれば暴動すら起こりえるだろう」

 

 

 私は話半分で鍾離さんの話を聞き流し、深くうなずいて見せる。

 

 

「私もそう思うよ。でも安心して。鍾離さんはもう、往生堂の客卿。仙人の葬儀は、鍾離さんの役割だよ」

 

 

「なんだと? 客卿? 初耳だが……」

 

 

「そうでしょうね。今決めたもの」

 

 

「……よいのか?」

 

 

「いいの。堂主である私が決めたから」

 

 

「……フッ、いいだろう。面白い」

 

 

 私は鍾離さんへと手を差し伸べる。

 

 

「それじゃ」

 

 

「契約、成立だな」

 

 

 こうして、往生堂に新しい従業員がひとり増えることになった。

 

 

 握手を済ませた鍾離さんは、椅子を引いて立ち上がる。

 

 

「では、行こうか」

 

 

「おおー! 鍾離さんって、結構フットワーク軽いね! 話しぶりからして中身はお爺さんみたいだって思ったけど、意外や意外、もしかして結構動ける人?」

 

 

「……」

 

 

 天井を仰ぎつつ、眉間に皺を寄せる鍾離さん。

 

 

 鍾離さんは私のテンションが上がれば上がるほど、なぜか頭痛を感じる特異体質を持った人だと知ったのは、それからしばらく経ってからのこと。

 

 

 なにはともあれ、私と鍾離さんは身支度を整えて無妄の丘へと向かった。

 

 荷車にふたつの棺桶を並べ、私と鍾離さんは街道沿いに進んでいく。

 

 棺桶は現地でベッドとしても機能するし、葬儀の衣装や道具を雨風から守る点でも役に立つ。

 

 無妄の丘にたどり着くと、私と鍾離さんは女の子のもとへと向かった。

 

 

 その日は、あいにくの雨。

 

 

 私と鍾離さんは外套のフードを深くかぶり、森の中を進んでいく。

 

 やがて境界にたどり着くと、その女の子は、前と変わらぬ場所に佇んでいた。

 

 私がその子のもとへと向かおうとすると、鍾離さんが手を前に出して私を止めた。

 

 

「少し、私に任せてはくれないだろうか」

 

 

 私はうなずき、鍾離さんの背中にぴったりとついていく。

 

 近づくにつれ、女の子のすすり泣く声が聞こえてくる。

 

 女の子の前に立つと鍾離さんはフードを取り、片膝をついた。

 

 ただ何かを言うわけでもなく、じっと鍾離さんは少女を見つめる。

 

 

 

 

 それからどれくらいたったろう。

 

 

 

 3時間、4時間、いや、もっとかもしれない。

 

 風邪をひくんじゃないかという私の心配をよそに、鍾離さんはずぶぬれになりながらも、その場から一切動かない。

 

 

 とうとう私がしびれを切らして、声をかけようとした、その時だった。

 

 

 鍾離さんが、やっと口を開く。

 

 

「そなたを高名な仙人とお見受けして、ひとつ尋ねる。そなたの名は、なんという」

 

 

 少女は先ほどと変わらず、泣き続ける。

 

 だけど、確かに私は聞いた。

 

 油断していれば泣き声と判別のつかないほど、小さく弱々しい声。

 

 

 

 

 彼女が「伐難」と自分の名を答える声を。

 

 

 

 

 少女が答えを返したことに驚いた私は、鍾離さんの顔を見た。

 

 相変わらず鍾離さんは伐難を見つめたまま。

 

 表情も、真剣なまなざしも変わらない。

 

 

「伐難。いや、伐難殿。少し、触れるぞ」

 

 

 鍾離さんが手を伸ばすと同時に、外套の腰のあたりがふわりと黄色い光を帯びる。

 

 その時初めて、私は鍾離さんが神の目を持っていることに気が付いた。

 

 ほのかに岩元素を帯びた左手が、伐難の頭に乗せられ、ゆっくりと動かされる。

 

 幽霊は実体がないから、触れることはもちろんできないけど、鍾離さんの手はまるで本当に伐難の頭をなでているように見えた。

 

 

 それからまた、長い時間が過ぎていく。

 

 

 

 鍾離さんは根気強く、少女の頭を撫で続けた。

 

 

 何度も、何度も。

 

 

 すると驚くことに、伐難の涙が止まり、初めて彼女が顔を上げた。

 

 こちらを向いた彼女の瞳は美しく、まるでサファイヤのように透き通っている。

 

 

 しかし、なぜか鍾離さんの顔を見ると、顔をくしゃくしゃにしてまた泣き始めてしまった。

 

 

 先ほどまでの静かな泣き声ではなく、まるで取り乱したかのように号泣する。

 

 

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 

 伐難と名乗った少女は、初めて会ったばかりの鍾離さんにひたすら謝り続けた。

 

 鍾離さんは、ゆっくりと首を横に振る。

 

 

 そして泣きじゃくる彼女に、低く、落ち着いた声で語り掛けた。

 

 

「伐難殿。俺は鍾離という。貴女が深い悲しみの底にいることは理解した。きっと、さぞかし辛い思いをしてきたのだろう」

 

 

 伐難は鍾離さんが話し始めると、謝るのをやめ大粒の涙を流しながらも必死でその声に頷く。

 

 

 鍾離さんもそれに合わせて頷き、言葉を続ける。

 

 

「何があったのか、詳しいことは俺にはわからない。だが、ひとつ確かなことがある。伐難殿は、よく頑張った」

 

 

 雨足が弱まり、雲の間から月明かりが差し込む。

 

 白銀の光を帯びた伐難の瞳が、きらりと輝いた。

 

 

「一介の凡人に過ぎない俺だが、ここからは不敬を恐れずに言わせていただく。伐難よ、すべてを許そう。貴女を縛る契約は、すでに朽ち果てた。友の待つ世界へ、旅立つがよい」

 

 

 

 伐難はそれを聞くと、俯き、小さくうなずいた。

 

 

 空はすっかり晴れ上がり雲間には星が瞬いているというのに、伐難の膝の上にはぼろぼろと水滴が零れ落ちた。

 

 

 夜雨の後であたりはすっかりと冷え込んでいたというのに、少女の周りは、まるで暖炉の前に立っているみたいにあたたかかった。

 

 

 私はふたりの様子を見て安心し、そのまま踵を返すと、ひとり葬儀の準備に取り掛かる。

 

 途中から鍾離さんも加わり、式の準備は着々と進んだ。

 

 やがて、こじんまりとしてはいるが、立派な式場が完成する。

 

 私は鍾離さんと繰り返し式の順序を共有した。

 

 鍾離さんは本当に記憶力がよく、一度話せばほとんどのことを理解してくれた。

 

 伐難の涙もそのころには止まっていて、式場の真ん中で色とりどりの花に囲まれつつ、落ち着かない様子でちょこんと座っている。

 

 鍾離さんが、私に尋ねて来た。

 

 

「堂主。仙人の葬儀は、様々な条件が重ならないと執り行えない。もうすぐ朝日が昇る。今回の場合、その瞬間が最も葬儀に適した時間だ。疲れているところ悪いが、力を貸してはもらえないだろうか」

 

 

「気にしないで。徹夜は慣れてるし、これくらいどうってことない。なんてったって私は、往生堂七十七代目の堂主だからね!」

 

 

「フッ、さすがは我らが堂主だ」

 

 

 鍾離さんが軽く笑えば、山の稜線が輝き始める。

 

 ふたりでその光に目を細めつつ、うなずき合う。

 

 

「では、始めよう」

 

 

 私たちはそろって漆黒の葬儀服を景気よく羽織り、決められた配置につく。

 

 

 今回の葬儀は話し合いの結果、鍾離さんに任せることにした。

 

 

 私はそれを適宜補佐していく形だ。

 

 早朝の薄もやの中、全員がじっとその時を待ち続ける。

 

 ほどなくして朝日が山間から顔を出す。

 

 

 青白かった世界が琥珀色に染まり、ふたりの影だけがさっと長く伸びた。

 

 鍾離さんはすぅと息を吸い込み、深く、丁寧に礼をする。

 

 合わせて伐難も深々と頭を下げた。

 

 鍾離さんは顔を上げると、厳粛な声で、静かに言葉を紡ぎ出す。

 

 

 

 

「これより、仙衆夜叉、伐難の葬儀を執り行う」

 

 と。

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