護法戦記   作:ほすほす

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私は平安。璃月のしがない物書きだ。
朝目を覚ますと仙衆夜叉の一人、弥怒が私の部屋にいた。
私自身意味が分からなかったが、事実なのだ。
だが、どうやら私は彼の怒りを買ってしまったらしい。
どうすれば、なだめることができるだろうか……。

――これは層岩巨淵のイベントストーリーの裏側で巻き起こる、もう一つの護法夜叉の話。


護法戦記 4話 融合

 すさまじい気迫だった。

 

 ただでさえ私より頭一つ分ほど背の高い弥怒が、まるで天井に届きそうなほど大きくなった錯覚すら覚える。

 

 もし弥怒のことを夜叉だと塵ひとつ信じない輩でも、今の彼を見れば大きく縦に首を振っただろう。

 

 

『早く、答えぬか』

 

 

 弥怒は終始落ち着き払ったまま、一歩、また一歩と覆いかぶさるように迫ってくる。

 

 私は浅い呼吸を繰り返し、弥怒から目をそらすこともできず後ずさった。

 

 目の前の巨漢は眉ひとつ動かさずに私を見下ろす。

 

 

 怒鳴りつけられるほうがまだましだ。

 

 底知れぬ静かな恐怖がそこにはあった。

 

 とん、と背中に固い感触が伝わり、私はこれ以上後退することができないことに気が付く。

 

 

『なぜ逃げる。己れはただ聞いているだけだぞ? 答えれてくれればそれでよい』

 

 

 ずいと息がかかりそうなほど弥怒は顔を寄せてくる。

 

 背は壁にビタリと張り付き、手は無意識に握ったり開いたりを繰り返す。

 

 そんなことをしても、意味がないというのに。

 

 

 私の後退をせき止めるこの壁がなければ、きっとわき目もふらず一目散に駆けだしていただろう。

 

 この場から逃げ出したい一心だった。

 

 声すら出せず小刻みに震えていると、弥怒の眉が徐々に吊り上がっていく。

 

 

『沈黙は何も生まぬぞ? んん? もしやお主、何か知っているのか――?』

 

 

 そう言うやいなや、弥怒は私の首元めがけぬっと長い手を伸ばしてきた。

 

 

「ひぃっ!」

 

 

 口から情けない声が飛び出す。

 

 こんな時堂々と対等に受け答えができる度胸があれば、どれほどよかっただろう。

 

 私は自分のふがいなさに後悔を覚えながら、目をぎゅっとつぶる。

 

 

 首を絞められ、天井近くまで吊られると思った。

 

 もしくは胸倉を掴んだまま、壁に何度も背中を打ち付けられると思った。

 

 

 どうやら、私はまた選択肢を誤ったらしい。

 

 以前も降魔大聖、もとい旅人に召喚されたときはこっぴどくひっぱたかれた。

 

 あの時は私が悪事を働いていたのだから仕方ない。

 

 だが今回は何を間違えたのか、どうすれば正解だったのか全く分からない。

 

 ひとつわかっていることは、きっとまた痛いのだろうということだけだった。

 

 私は未来の自分に同情を禁じ得ない。

 

 

 が、しかし。

 

 

 

 

 

 ……おかしい。

 

 

 

 

 

 いくら待っても、なかなか≪その瞬間≫がやってこないのだ。

 

 不思議に思い、私は目を恐る恐る開けてみた。

 

 

 目の前にあった弥怒の目と、私の目がばっちりとあう。

 

 

 あわてて目線を逸らし、そのまま私の目は弥怒の肩から肘、腕と輪郭を伝うように追っていく。

 

 

「うひぃっ!」

 

 

 私はまたしても奇声を上げてしまう。

 

 弥怒の腕から先が私の胸の真ん中に、丸ごと突き刺さっていたからだ。

 

 

 あわてて引き抜こうと私は弥怒の腕を掴もうとしたが、手は触れるすらできずにスカスカと空を切る。

 

 

『……ふむ』

 

 

 弥怒は何かに納得した様子でひとりごちると、腕をゆっくりと引き抜いた。

 

 感触は一切なかったが、自分の胸の中から腕がずるずる出てくる様は見ていて気持ちがいいものではない。

 

 

『やはりな。術式が完全ではなかったか……』

 

 

 ため息交じりに弥怒はそうこぼし、ベッドの方へ目をやった。

 

 つられて見てみると、そこには無造作に置かれた護法夜叉の札。

 

 

 札はうすぼんやりと琥珀色に輝いている。

 

 弥怒は私に向き直ると札を指さし、やや不機嫌そうにに吐き捨てた。

 

 

『おいそこの。お主は己れが怖いのだろう? あの札を破れ。そうすれば己れはすぐに消える。見ての通り己れはお主に危害を加えるどころか、触れることさえできぬ。武器を持つことも、戦うこともできぬ。たとえ岩王帝君の敵を見つけても、指をくわえて見守るのみ。そんなこと、己れが耐えられるわけがない。そんな思いをするくらいならば、消えたほうがましだ。お主も、この悪夢からいともたやすく目覚めようぞ』

 

 

 弥怒は言い切ると書斎棚の前でどかっと胡坐をかき、頬杖をついて目を閉じた。

 

 

「札……夢……、覚める……」

 

 

 うわごとのように弥怒の言葉を繰り返しながら、私は言われるがままふらふらと札へと吸い寄せられた。

 

 ベッドの上でほのかに明暗する金色の札。

 

 私はそれを持ち上げ、ごくりと喉を鳴らした。

 

 

 札はまるで生きているように温かい。

 

 弥怒を見れば、好きにするがよい、といった表情で片目をつぶりこちらを睨んでいる。

 

 私はもう一度、札に目を落とした。

 

 

 ――これを破れば。

 

 

 弥怒は消え、いつもと変わらぬ平穏な毎日が戻ってくる。

 

 手の中にある札は脆く、たやすく破けそうだった。

 

 

(私は、私はどうすればよいのだ……)

 

 

 正直、いろんなことが立て続けに起こりすぎ、もはや何が正解かわからなくなっていた。

 

 こんなことになるとは、夢にも思っていなかったのだ。

 

 私は瞼を閉じ、考え込む。

 

 

 

 脳裏に札と出会ってからの記憶が走馬灯のように蘇った。

 

 

 

 銅雀の寺へ、うららかな日差しと共に届けられた小さな箱。

 

 最初はかすかな期待程度しか持ち合わせていなかった。

 

 私は今回も偽物かもしれない、と自分に言い聞かせ続ける。

 

 期待に裏切られることは、日常茶飯事なのだから。

 

 

 しかし箱の中の札を自分の目で見て、その期待は確信へと変わっていく。

 

 同時に膨らんでいった、札の危険性に対する恐怖。

 

 それも琳琅さん、白朮先生、七七に見てもらうことで拭い去ることができた。

 

 

 そして今朝。

 

 心猿大将、弥怒と名乗る大男が突然現れた。

 

 彼は温和で豪快、そしてまごうことなき伝説の夜叉だった。

 

 そんな彼が、術式の不備に落胆し早くもこの場を去ろうとしている。

 

 

(本当に、それでいいのか……)

 

 

 私は答えを出せず、俯いたまま目を開ける。

 

 ちょうどそこに、一冊の本が開きっぱなしで落ちていた。

 

 描かれていたのは、私の英雄たち。

 

 五人の夜叉の姿がそこにはあった。

 

 それを見た瞬間、心の奥底で何かが燃え上がる。

 

 

(――ああ、そうだ。私は何を迷っているのだ。なにも、迷うことなどないというのに。今も昔も、私の心根は全く変わっていないじゃないか)

 

 

 勝手に口元が緩む。

 

 私はおもむろに口を開いた。

 

 

「心猿大将」

 

 

『……なんだ』

 

 

 私は座り込んでいる弥怒の前まで歩を進め、片膝をつき弥怒と目線を水平にする。

 

 

『フン、別れのあいさつでも思いついたか?』

 

 

「いいえ」

 

 

 私は首を振り、頭を垂れる。

 

 

『……何の真似だ?』

 

 

 やや困惑した弥怒の声が聞こえた。 

 

 

「今私の胸の内を打ち明けるのであれば感恩、感激、感慨無量、といったところでしょうか」

 

 

 面を上げれば、目を見開いた弥怒がそこにいた。

 

 

 私は胸に手を当て訴えかける。

 

 

「鈍い私をどうかお許しください。私はやっと、今になってこの状況を理解し始めたようです」

 

 

 顔を上げたはずみのせいだろうか。

 

 目尻からさっと暖かいものが頬を伝う。

 

 

「札を破るですって? とんでもない。私は幼少期から、ずっと、ずぅっと、あなた方の物語を繰り返し聞いて育ちました。両親の帰りが遅く、ひとり待ち続けた夜だって怖くありませんでした。私の心の中には、いつも英雄たちがいたからです。彼らは悪と戦い、どんなに苦しい戦いでもその身を厭わず果敢に攻め、この大地と人々を守り抜きました。今の私や璃月があるのも、夜叉の皆様のおかげなのです。ですからっ」

 

 

 声に熱を帯びた私とは対照的に、弥怒はすっと目をそらし表情に影を差し込む。

 

 

『……現実は、お主が思うほど、崇高なものではない』

 

 

 私はぶんぶんと首を横に振る。

 

 

「いいえ、たとえどんなことがあったとしても、今私はこうやって生きている。それが、それこそがすべてなのです! なので、もう消えてしまいたいなど言わず、もう少し、もう少しだけでもっ! あなたが触れないのであれば、私の手をお使いください。文字が読めなければ、私が読みましょう。戦いも……できる限りお力となります。ですからっ!」

 

 

 もはや自分でも何を言っているのかわからなくなっていた。

 

 それでもこの熱い思いだけでも、目の前の恩人へ伝わってくれたらいい。

 

 私はひたすらそう願いつつ弥怒の顔に穴があくほどまっすぐ、力を込めて見つめ続けた。

 

 

『クックック、あっはっはっは!』

 

 

 突然弥怒の豪快な笑い声が響き渡り、私は目をしばたかせる。

 

 

『いやお主、変わった男よの本当に』

 

 

 弥怒は目尻に涙まで浮かべていた。

 

 よくわからなかったが、私もつられてぎこちない笑みを浮かべる。

 

 

『まあ、お主がそう言うかもしれぬとは思っていたが』

 

 

「……へ?」

 

 

 頭が追い付かない。

 

 彼は何を言っているのだろうか。

 

 ポカンと口を開けたままの私を見て、弥怒が謝る。

 

 

『ああ、すまないすまない。己れに予知能力はないし、適当な嘘をついているわけでもない。実はな、先ほどお主の体に腕を通したとき、不思議なことにお主の記憶の断片が己れの頭の中へ流れ込んできたのだ』

 

 

 弥怒は自分の頭を人差し指でトントンと叩く。

 

 

『いやまったく。不完全な術だったが……逆に都合がよいかもしれぬ』

 

 

「……?」

 

 

 訳も分からず私が首をかしげると、弥怒はうんうんと虚空にうなずく。

 

 そして私に向き直ると、満足そうに微笑んだ。

 

 

『しばらくの間、動かずじっとしているがいい』

 

 

 弥怒は四つん這いになり、ぐっと正面から顔を寄せてくる。

 

 私はあわてて立ち上がり、両手を前に出して大きく振った。

 

 

「え? ちょ、ちかい……近いですって!」

 

 

 だが弥怒は聞く耳を持たずか同じように腰を上げ、再びゆっくりとにじり寄ってくる。

 

 先ほどのような、底知れぬ恐怖はない。

 

 だが得体のしれない何かを感じ、うなじがぞくぞくと別の危険を告げていた。

 

 

(あわわわわ、顔が! 近い近い近い近い‼)

 

 

 どんなに腕を前に出しても、すり抜けてしまっては意味がない。

 

 私の手は弥怒の胸を貫通しバタバタとむなしく暴れる。

 

 弥怒の顔はもう目と鼻の先に迫っていた。

 

 

(こ、こんなところで、私のファーストキスがっ!)

 

 

 あわや私は男同士で唇を重ねるという稀有な体験に見舞われようとしていた。

 

 唇と唇の距離は、わずか数センチ。

 

 

(ああ、もうだめだ、終わった)

 

 

 抵抗もむなしく、私はすべてをあきらめ全身から力を抜いた。

 

 

(私にもし子供が生まれたら、私は護法夜叉とキスをしたことがあるんだと、自慢するのだ。――男同士だが……)

 

 

 そんな言葉が、最後に脳内を駆け抜けていった。

 

 

(さよなら、私の初体験……)

 

 

 そう悟りを開いた次の瞬間だった。

 

 唇の代わりに重なる私の額と弥怒の額。

 

 触れることができないはずなのに、額に燃えるような熱を感じた。

 

 

 すると同時に弥怒の体がはじけ、数多の金色の粒子へ変化する。

 

 

 粒子は風に乗せ大地に撒いたもみ殻のように、部屋の隅から隅まで縦横無尽に散らばった。

 

 

「わっ……!」

 

 

 私は思わず声を上げ、そのまま目を見開いた。

 

 

 部屋の中は、まるで小さな星空だった。

 

 

 私はその美しさにただただ目を奪われる。

 

 

 金剛石のように輝く粒子は輝きを増し、壁を、ベッドを、本棚を、机を、そして部屋全体を黄金色へと塗り替えていく。

 

 しばらくすると光の粒たちは私の目の前でゆっくりと旋回をはじめた。

 

 光の奔流が渦を巻き、部屋の中央で光の柱となる。

 

 あまりのまぶしさに私は目も開けていられない。

 

 

 やがて柱の中央へ光は集まると、まばゆい閃光がほとばしった。

 

 

 目を閉じていても、瞼の裏まで真っ白に塗りつぶされる。

 

 

 その閃光を最後に、忽然と光は消えた。

 

 私は閉じた瞼をゆっくりと開く。

 

 部屋に渦巻いていた光の粒はもうそこにはなかった。

 

 代わりに手を伸ばせば届くほどの場所で、夜叉の仮面が一枚だけ、ぽつんと闇の中に浮かんでいたのだった。

 

 

「これは……心猿大将の、仮面……」

 

 

 私が言葉とともに漏らした吐息で仮面はふわりと絹のように揺らぐと、さらさらと細かい砂金となり崩れていく。

 

 黄金の粒はキラキラと輝きながら、音もなく私の胸元に流れ込んできた。

 

 やがて最後の一粒が胸元に消える。

 

 

 幻想的な光景を目の当たりにして、私は何と口にすればいいかすらわからずただ感嘆するばかりであった。

 

 

 ハッと我に返ると、私はカーテンの閉まった部屋の中、ひとり呆然と立ちすくんでいた。

 

 

「今のは……?」

 

 

 夢か現かわからぬまま、私は手に持った札へ目を落とす。

 

 札は先ほどまでうすぼんやりと輝いていたのだが、今はもう初めて見た時と変わらないくすんだ古紙の色へと戻っていた。

 

 

「いったい何が――」

 

 

 口をついて出た言葉と共に、私は弥怒の姿がどこにもないことに今更気が付く。

 

 

 あれほど消えてくれるなと訴えたのに。

 

 私の英雄は、忽然と姿を消してしまった。

 

 別れの挨拶すら交わすこともできずに。

 

 

「弥怒? 弥怒は、どこへ行ってしまったのだ?」

 

 

 私の泣きそうな声が、部屋の中に反響した。

 

 

『ここだ』

 

 

 どこからともなく、低く落ち着いた声が返ってきた。

 

 私は安堵と共にぱっと顔を輝かせ、私の英雄を探した。

 

 見える範囲に姿が見えなかったので勢いよく振り返ると、私は壁に思いきり頭をぶつけた。

 

 鈍い音と同時に、我が家と私の頭の中身が一緒に揺れる。

 

 

「いぎっ!」

 

 

 尻尾を踏まれた猫のような声を上げ、私はうずくまった。

 

 

 最近私は頭をぶつけ過ぎではないだろうか、本当に頭がおかしくなるのではないかと不安がよぎる。

 

 

『はっはっは』

 

 

 再び聞こえる弥怒の声。

 

 声は私の背後ではなく、まるで頭の中から聞こえてくるようであった。

 

 

「な、なんだこれ! き、気味が悪いっ!」

 

 

『まあそう言うでない。これが一番手っ取り早いのだ』

 

 

「ど、どういうことですかっ⁉」

 

 

 頭の中の弥怒の声と会話が成立している。

 

 はたから見れば、薄暗い部屋の中でひとりで喚く狂人だ。

 

 あまりの珍事に私の声は裏返っていた。

 

 弥怒の声は相変わらず落ち着いたまま、私をなだめるように響き続ける。

 

 

『ほう、これは便利な。己れはこの時代の文字や世俗に疎い。だが、お主の記憶を媒介にすれば、直接内容を理解することができるようだ。よかったではないか。お主の言う通り、お主は己れの手足目鼻になれたぞ。……ん、なるほど。璃月七星という者たちが今の璃月を治めているのか。ふむふむ、実に興味深い。うん? これは岩王帝君の葬儀か? まさか本当に崩御されているとは……信じがたい』

 

 

 弥怒が私の記憶をあさるたび、体中にぞわぞわと虫が這うような感覚が走り抜ける。

 

 

「や、やめてくれ! ちょ、ちょっと! 弥怒!」

 

 

『うむ? お主も男ならそのような些細なこと気にするでない。おや? これは先ほどお主が書いていたという書物の断片か?』

 

 

 私はぎくりとした。

 

 机の上の本は未だ書きかけで、数ページも書き終えていない。

 

 スランプで続きを書きあぐねているというのもあった。

 

 しかし筆が止まった一番の原因は、続きを書くのが恥ずかしくなったからだ。

 

 誰かが勝手に読んでも問題ないところまでしか書き終えてないという事実は、私に一種の安心感をもたらしていた。

 

 

 だが頭の中にはその続きがいくらでも転がっている。

 

 推敲すら済んでいないとりとめのない内容を、弥怒はこれ見よがしに朗読していく。

 

 

『なになに? ほほぉ、なかなかの想像力ではないか、お主は』

 

 

 私は顔が一気に熱くなるのを感じた。

 

 

「や、やめろぉ! やめてくれ‼」

 

 

『はっはっはっは! 愉快! 愉快だぞ、お主! こんな傑作、己れは未だかつて読んだことがない! だがなぁ、夢を壊すようで申し訳ないが、残念ながら伐難はお主が想像しているほど、豊満な女性ではなかったぞ』

 

 

「こ、殺してくれぇぇぇえええええ‼」

 

 

 

 私が両手で頭を抱え、床に打ちつけても弥怒は痛くもかゆくもないようだ。

 

 弥怒は人には言えぬ恥ずかしい内容を、次から次へと私の頭の中で見つけては読み聞かせてくる。

 

 

『いやはや、この体も便利なことよ! 己れは名実ともに心の中で騒ぎ立てる大猿、心猿大将となったのだ!』

 

 

「御託はいいので、頼むから大人しくしてくださいぃぃ……」

 

 

『断る!』

 

 

「ああぁぁあぁぁ、なんてことだ……」

 

 

 悲しいかな、部屋の中にはしくしくと泣く私の声だけが、むなしく響き渡る。

 

 

 

 こうして私と護法夜叉の、奇妙な共同生活が幕を開けたのであった。


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