タマゴが、そこにいつのまに置いてありました。
なぜでしょう。
どうやら、ウミガメのタマゴみたいです。
誰かが、守ってあげられたらいいのですが。

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ウミガメのなみだはしおらしい って聞いた

ある日、誰も知らないような場所に一つ、ウミガメのたまごが生まれました。

もう出てきそうなのか、そのたまごは動き回っていて少しヒビが入っていました。

 

それをたまたま見つけた人は、たまごが孵った時に生まれた子が危ない目に会わないように箱を作りました。

人が何人か入れるような、広い箱でした。

それを見ていた他の人は、たまごが無事に孵ってくれることを願いました。

その願いは次第にまた他の人へと伝わり、やがてそのたまごの話は有名になっていきました。

 

ある日、その人がたまごを見に行ってみると、ビックリするような光景がありました。

箱の中にあったのが、たまごの殻だけだったのです。

「もしかしたら悪い人が連れ帰ったのかもしれない」「箱に頭をぶつけて死んじゃったのかもしれない」

有名なだけあって、噂話もあちこちで経ってしまいます。

それでも、みんなどこか心の奥底でこう願っていました。

「無事に孵っていて、実はただお散歩に行ってるだけ」と。

 

ある日、名も知れぬ2人が箱にやってきました。

「もしかしたら、ウミガメが欲しがっているものを作れば帰ってくるかもしれない」と考えたのです。

2人の内1人は、ウミガメが寂しがって友達を欲しがっているのかもしれないと思い、海のお友達を呼びました。

もう1人は、ウミガメが寂しがり屋だから隠れる場所を欲しがっているのかもしれないと思い、大きな岩を持ってきました。

それを見た人たちは、その素晴らしさに胸を打たれてより希望を深く持ちました。

 

ですが、ウミガメは何日経っても、何ヶ月経っても帰ってきません。

2人のやったことを最初は称賛していた人たちも、次第にその2人のことを怪しい目で見るようになっていきました。

そしてある時、ある人がこういいました。

「あいつらの作ったものには、毒が塗ってある」

そんな噂が出てきてしまったのです。

次第に噂は広がり、名も知れぬ2人はこっそりと姿を消してしまいました。

 

それから数年が経ちました。

もはやウミガメのことも箱のことも名も知れぬ2人のことも、ほとんどの人が忘れてしまいました。

箱は朽ち果て、岩は苔蒸し、海のお友達たちは既に死んでしまっていました。

そんな場所にある2人がビックリマークだけの標識やパイロンを超えてやってきました。

2人は箱を見にきたのです。

 

2人はこの世界では珍しく、ウミガメのことを知っている人間でした。

そのことを人々に知らせ、悔い改めてもらおうと活動していました。

ですが、そんな2人を人々は受け入れませんでした。

孤独になった2人は箱にやってきて、歌でも歌った後に死んでしまおうと思っていました。

 

1人は、あの海のお友達を思い出しながら人々に少しでもウミガメのことを覚えてもらえるよう、優しい声で歌いました。

もう1人は、あの岩のことを思い出しながら人々が犯した罪を揶揄して後悔してもらえるよう、厳粛な声で歌いました。

 

そんな2人の歌声が、ある人にたまたま届きました。

その歌声を聞いた人は、こう思いました。

「この歌は人々を変えてくれる歌だ」と。

その人はすぐに周りの人に歌のことを教えました。

最初のうちは相手にもされませんでした。

ですが、その人は諦めずに教え続けました。

やがて歌の噂は各地に広がっていきました。

そして、最初は半信半疑だった人たちも、その歌のことを信じてくれました。

 

自分達の噂が広がっていると知った2人はビックリしました。

まさか、本当に人に聞かれるとは思ってなかったのです。

それと同時に2人は希望を持ちました。

「今ならこの歌を、この気持ちを受け入れてくれるかもしれない」と。

2人は再び箱の元へと向かいました。

 

箱の周りには、歌声を聞ける日を待つ人がたくさんいました。

その歌声がどれだけ美しいのか、その歌詞がどれだけ胸を打つのか、それを楽しみにする人たちです。

あまりに評判がいいので、その歌声を模倣するような曲を作る人が出てくるほどです。

そしてある日、また歌声が聞こえてきました。

初めて歌声を聞いたあの人はピンときました。

「あの日聞いた歌声と同じだ」

知らず知らずのうちに呟いていました。

その言葉を聞いた他の人たちは歓喜し、箱から聞こえる歌声に耳を傾けました。

 

「全てあなたの所為です」

「日は新たあの世の丸の中」

そんな言葉が、人々の心を突き刺していきます。

泣く人すら出てくる始末です。

人々は数年ぶりに、あの日のことを思い出しました。

そして、ウミガメとその人のために頑張った人のことを思いながら心の中で懺悔しました。

 

やがて、ウミガメたちのために捧げる曲のことを誰かが「  界隈」と呼びました。

ジャンルとして確立されるほど、ウミガメたちのこととそれを思う人のことが有名になったのです。

「  界隈」の曲は次第に多様化していき、ウミガメをまた呼び込むための曲、数年前の罪を揶揄するための曲、あの日を思い出すための曲、と増えていきました。

人々の心にウミガメたちと素晴らしい歌声は残り続けてくれたのです。

 

そしてある日、大きなニュースが舞い込んできました。

なんと、ウミガメが見つかったと。

人々は箱に向かいました。

もちろん、ウミガメはいません。

でも、いるのかもしれないという噂は人々にあの日の絶望とは違う感情をもたらしました。

「もしいるのなら、という希望」

その感情を胸に、箱にいきました。

 

箱には既にたくさんの人がいました。

ウミガメが寂しくならないようにと、周りに海のお友達を連れてきた人がいました。

ウミガメが快適に過ごせるようにと、岩をきれいにしている人もいました。

 

中心には人々の心を打った歌声を持つ彼と彼女が立っていました。

2人は言いました。

「歌おう」と。

 

最初は小さな歌声でした。

でも、その小さくも美しい声は広がっていきました。

何年前かに消えた記憶を、万年甲羅が繋いでいきます。

割れた窓の向こうにいる友達が待っていると、人々は歌います。

もう孤独じゃなくていいと。

もう涙を流さなくていいと。

彼らは心を込めて歌いました。

 

歌が、終わりました。

歌い切った人々の心にあるのは、疲労でも絶望でもなく、達成感でした。

大きな歌声のせいか、その後の静寂がより深く感じました。

 

そんな静寂が、突然ある声で断たれました。

「…ごめんなさい」

人々は声のした方へ向きました。

そこにはなんとビックリ。

ウミガメが、いたのです。

「ごめんなさい…!私…!」

ウミガメは、泣いてるような笑っているような顔でこう言いました。

「私…ただみんなを驚かせたくて…隠れてたんです。

ひょっこり出たら、みんなビックリするだろうって…

でも、だんだん嫌な噂が立ってきて、みんなも戻ってきてくれるようにっていろんなことしてくれて…

私、出てきづらくなっちゃって…」

ウミガメは、少しずつ「あの日」のことを話します。

「だんだんみんなも私のことを忘れて…それで、どうせ私なんかが今更出てきたって意味ないって塞ぎ込んじゃって…

本当に…ごめんなさい…!」

その時、ある人がこう言いました。

「いや、生きててよかったよ」

その言葉を皮切りに人々は励ましの言葉をウミガメに掛けました。

「大丈夫だよ」「私たちのせいだよ」「ごめんね」

そして、あの2人がウミガメのもとに向かいました。

そして、一言。

 

「おかえり」

 

その言葉は、ウミガメにとっても人々にとっても、きっと幸せな言葉だったのでしょう。

ウミガメは2人に抱きつき、泣きじゃくりました。

その涙は、どこかしおらしかったみたいです。

 

それからずっと、「  界隈」の曲は語り継がれています。

今日もどこかで、あの歌が歌われています。

またあの日みたいな事が起きないように、ウミガメが元気でいられるように、忘れられた人がまた帰ってくるようにという願いを込めて。

 

さあ、歌いましょう。

「ウミガメのなみだはしおらしい」と。




原作
楽曲「ウミガメのなみだはしおらしい」/ 鯡苦心
  「.」/xx
  「イワシがつちからはえてくるんだ」/xx
  「ヤツメ穴」/xx
  「クロマグロがとんでくる」/xx
  「amber」/2号.
  「basalt」/2号.
  「cobalt」/2号.
  「granite」/2号.
  「malachite」/2号.
  「andesite」/2号.
  「peridotite」/2号.
  「sanukite」/2号.
  「quartz」/2号.
  「.」/全てあなたの所為です
  「..」/全てあなたの所為です
  「...」/全てあなたの所為です
  「」/

帰ってこない彼らと、今を紡ぐ彼らに賞賛の拍手をどうぞ。

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