過去にpixivで公開したものです。

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改ニ・進水日

改ニ

(入らない……)

 

 めでたく改二になった矢矧の服を試しに着ようと(無断で)して、スカートが入らずに身体を捩ったりしてかれこれ三分くらいは格闘している。能代の改二服を着ようとしたとき(無断で)もこうだった。

 

「も〜、何で入らない……の……」

 

 ふと視線を上げると私の目の前に笑みを浮かべた長良さんが無言で立っていた。

 

「…………」

「…………」

 

 長良さんと目が合った私はそのままゆっくりと目を伏せる。一体いつから居たんだろう。少なくとも着替え始めたときはいなかったはず。いや、そんなことより気になるのは長良さんが今まで見たことない笑い方をしていたことだ。

 

 

(何……あの顔……)

 

 目を弓なりに、口を半開きにして貼り付いた様に笑っている長良さんに言い知れない不安を感じる。こういうときはいつも話しかけてくる長良さんが私が気づく前も気づいた後も無言でずっと立っているという事実が何より不気味だ。

 

「…………」

「…………」

 

 私は目を伏せた姿勢のままピクリとも動けなかった。全身から嫌な汗が吹き出してくる。もう既に十数分くらい時間が経ったように感じる。

 

「あっ……」

 

 緊張で押さえていたスカートが手から滑り落ちる。 その瞬間私は血の気が引く音を聴いた。

 

「…………!」

「…………」

「…………!!」

「…………」

「…………!!!」

 

 絶対に離したら駄目だ。離したが最後、地獄の走り込みコース一直線た。

 

 

「…………」

 

 上だけ私の服を着てうつ伏せになってる阿賀野姉の足を長良さんが持ち上げて引きずっている。何故か廊下に落ちてるスカート。床に爪を立てて必死に抵抗する阿賀野姉。張り付いた様な笑顔で無言の長良さん。

 訓練が終わってシャワーを浴びていたらいつの間にか服が無くなっていた。慌てて改の頃の服を着て廊下に出たらそんな光景が広がっていた。

 

「……はぁ」

 

 大体分かった。

 

「長良さん手伝います」

「ありがとう矢矧」

「ちょっと矢矧!!!!!」

 

 

改ニ祝い

 

「矢矧ー! 阿賀野がマッサージしてあげる!」

「いらない」

「何で!?」

「能代姉にやった奴でしょ?」

「うん」

「やっぱりいらない」

「えー……」

「…………」

 

『改二になりたては慣れない艤装で疲れやすい』能代姉が改二になったときに阿賀野姉がそう言ってやってた足ツボマッサージ。それを私にもやりたいと言ってきた。

 

「阿賀野姉、酒匂もやめた方がいいと思うな……」

「えー、何で?」

「だって前にそれやったら能代姉に蹴られて……」

 

 

『阿賀野姉大丈夫!?』

『へーきへーき!』

『阿賀野姉でも鼻血が……』

『へーきへーき!!』

『阿賀野姉ほっぺが腫れて……』

『へーきへーき!!!』

 

「って、なってたし……」

「そうだけど……」

 

 そう、酒匂の言う様にあの時は阿賀野姉がツボを押した痛みで能代姉が反射的に阿賀野姉の顔を蹴り飛ばしたのだ。痛みに顔を真っ赤にして必死に謝る能代姉とやると言ってきかない阿賀野姉とで壮絶な雰囲気になっていたのを鮮明に覚えている。

 

「……阿賀野姉、私は本当に大丈夫だから」

「えー……せっかくの姉の厚意を……」

「何でそんなにマッサージにこだわるの?」

「大切な妹の改ニだもん。姉として何かしてあげなきゃ駄目でしょ?」

「……それだけ?」

「? それだけよ?」

 

 『当然でしょ?』とでも言わんばかりに阿賀野姉がキョトンとした顔をしている。

 

「…………」

 

 正直、阿賀野姉が能代姉や私の改ニを祝ってくれることは素直に嬉しい。ただ、普段があんな感じだから今の阿賀野姉をみると何となく調子が狂う。それに何でこんなにマッサージにこだわるの?

 

「矢矧受けてあげたら? せっかく阿賀野姉が自発的にやってくれるっていうんだし」

「! 能代姉!」

「疲れがとれるのは本当よ? 私が受けたときそうだったから」

「…………」

 

 能代姉から視線を逸らすと今度は阿賀野姉と目が合う。阿賀野姉が微かに微笑む。

 

「わかった……マッサージお願いね阿賀野姉」

「ふふん、お姉ちゃんに任せなさい!」

 

 ソファーに座った私の足を阿賀野姉が包み込むようにして持つと足裏を指先で撫でている。少しくすぐったい。

 

「じゃあいくよー」

「……ん」

「えいっ」

 

 

「阿賀野姉―――!!! しっかりして阿賀野姉―――!!!」

「ぴゃーーー!!! 阿賀野姉返事して!!! 阿賀野姉―――!!!」

「ちっ……ちがっ……! 私こんなこと……こんなことするつもりじゃ……!」

 

 

 

「っていうことがあって大変でしたよよ長良さん。いやー、改ニの蹴りは強い!」

「…………」

 

 『改ニになった妹に姉として何かしてあげたい』 能代が改ニになる前に阿賀野に相談された。でも改ニ祝いって軽巡に限らず豪勢なご飯を食べてお終いなのが殆ど。

 だけどそれ以外で何か無いかと言われたから『長良はいつもマッサージしてる』って答えると阿賀野の琴線に触れたのか、教えて欲しいと言って来た。

 

「大丈夫だったの……? その……色々と……」

「大丈夫でしたよ! ちょっと気を失ったけどその後ちゃんとマッサージしましたから!」

「そっか……」

 

 能代にやったときも蹴られたと言ってたけど今回も蹴られるとは。こんなことなら教え無い方が良かったかな? なんて考えが頭をよぎる。

 

「矢矧も疲れが取れたって言って喜んでたし、ほんと良いもの教えてもらいました、ありがとうございます!」

 

 阿賀野の弾んだ声と満開の笑顔を見て、口元が緩む。

 

(まぁ……こんなに喜んでるなら教えて良かったのかな……?)

 

「また今度私にもやってください〜」

「じゃあマッサージ必要になるくらい運動しないとね」

「うっ…………」

 

進水日

 

 

「長良さん進水日おめでとうございます。これ、プレゼントの鳥ささみ1キロ。タンパク質です」

「ありがとう!」

 

 阿賀野から進水日のお祝いに鳥肉1キロを貰う。

 

「長良姉さんこれ、進水日の……」

「ありがとう!」

 

 名取からも貰う。

 

「長良さん進水日おめでとうございます。これ、十戦隊の駆逐隊一同から」

「……ありがとう!」

 

 駆逐艦を代表して夕雲ちゃんからも鳥肉を貰う。

 

「はい、これ。あんたはこういう方が良いでしょ?」

「……ありがとうございます」

 

  足柄さんからは3キロ貰う。

 

「進水日おめでとう! プレゼント」

「……どうも」

 

  比叡さんからも。

 

「どうぞ」

「…………」

 

 赤城さん。

 

「長良ぁ、ちょっと良いか?」

「……何?」

「渡したいものがあってさ。ほら、これ」

 

  長波ちゃんから花束を渡される。

 

「花?」

「長良進水日だろ? だからさ」

「! 長波ちゃんありがとう!」

「あ、後これ。鳥ささみ1キロ。タンパク質だから」

「…………」

 

 鳥肉も渡される。

 

 

 

 

「…………」

 

 机の上で鳥肉が山になっている。それもそうだ、あの後出会った進水日を祝ってくれた人みんなから鳥肉を貰ったんだから。

 

 

 

「そんな訳で長良のやつさっきからあんな感じよ」

「わ、私、こんなことになってるなんて知らなくて……」

「五十鈴姉さんどうしよう……。由良も鳥肉買ってきたちゃった……」

「あの量はマジパナイ……」

「ねー、長良姉さんずーっと鳥肉を眺めてるんですけど……」

 

「……取り敢えず。長良のやつ珍しく落ち込んでるみたいだし、用意したケーキでも出して……」

 

「よし決まり! 今日は唐揚げにしよ!」

 

「ごめん。落ち込んでるってところは撤回する」

 

その日の夜。長良型の食卓には大量の唐揚げが並んだ。


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