俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~   作:これ書いてるの知られたら終わるナリ

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盗賊団殲滅3

 溜まっていた掃除や洗濯などの仕事を終え、久々にベッドで眠った翌朝。俺たちは鍛冶場に集まっていた。

 

「ほら、これだ」

 

 ガドは以前と寸分たがわぬ形の両手剣と、既製品の両手剣を二本差し出した。

 

「ダマスカス加工はしてないから、こっちのは使うんじゃねえぞ。予備の剣はこいつだ」

「助かる」

 

 俺は二本の剣を肩にかけ、軽く体を動かす。重量は増えたものの、動きは制限されない。許容範囲だ。

 

「あれ、もしかして……おじいさんって結構腕がよかったりします?」

 

 俺の背にある両手剣を見て、キサラが恐る恐る聞く。

 

「んー、まあな」

 

 ガドは煮え切らない答えを返すが、自信満々に答えても良いほどの腕前だ。

 

「キサラ」

 

 しかし、本人が語る気が無いのはよく知っている。代わりに俺が説明してやることにした。

 

――鍛冶の神

 ガドの冶金技術を讃えて、いつしか誰ともなく呼び出した名がそれだ。彼が鍛えた剣は刃こぼれを知らず、装飾品は鉄でさえ輝くと言われており、作り上げた武具は高値で取引される。

 

「――って事だ」

「けっ、嫁と息子に逃げられたジジイに大層な名前を付けやがって」

 

 そう言いながら、ガドはまんざらでもなさそうだ。

 

「へぇーすごいんですねぇ、じゃあワタシにも武器を――」

「おいっ! 僕には作らないのに、どこの誰とも知らない奴に二本も作るとは何事だ!」

 

 キサラが言いかけたところで、騎士鎧に身を包んだ男が入ってくる。昨日に引き続き……もしかして、毎日来ているんだろうか。

 

「んー嬢ちゃんか、惜しいなあ、もうちょい育って――いでっ!?」

「悪いな」

 

 さらっと男を無視して、セクハラをするガドにチョップをしつつ、騎士鎧の男に謝罪する。ガドは信頼できる相手としか仕事をしない。鍛冶の神と呼ばれるようになって以後は特に、金に困ることが無くなったのでその傾向が強かった。

 

「僕は町を守る騎士団の一員だぞ! その僕よりこんな奴を優先するとは何事だ!」

「あーうるせえうるせえ、お前に槍一本渡すより、こいつに剣二本渡した方が人のためになるんだよ」

 

 ガドは椅子にどっかりと座って小指で耳をほじる。この格好をする時は、ガドは絶対に仕事を受けない。

 

「っ……じゃあ僕とこいつで決闘して、僕が勝てば作ってもらうぞ!」

「ん?」

 

 男は俺を指差し、ガドに喚きたてる。ちょっと待て、なんで俺に飛び火してくる。

 

「こいつと……か? がはははっ!!! いいぞ、気が済むまでやれ!」

 

 ガドは大声で笑い、囃し立てる。戦うのは俺なんだが……

 

「仕方ないな」

 

 俺は予備の剣に手を掛けて、男と一緒に鍛冶場の外へ出ることにした。

 

 

――

 

 

「勝敗は武器を落とすか『参った』って言うまで……でいいか?」

「ああ、勿論だ」

 

 薪割り場はある程度開けている。こいつの得物である槍を振り回すならちょうどいいだろう。

 

「とうさまがんばってー」

「さっさと決めちゃってくださいねぇ、弱い者いじめとか陰キャ丸出しなことやらないで下さいよぉ」

 

 それぞれの形の応援に、俺は予備の両手剣を構える。

 

「かかってきていいぞ」

「待て!」

 

 開始の合図をするのも面倒だったので、軽く手招きをすると、彼はそれを手で制した。

 

「決闘をするなら、まずは名乗りが必要ではないか!」

「……ああ、そうか」

 

 芝居がかった調子でそう宣言する目の前の金髪に、俺は頭痛を覚えた。もう好きにしてくれ。

 

「僕はアレン=デュフライト! 由緒正しいイリス王国西方騎士団分隊バウツダム領所属騎士だ! この鎧は三代前デュフライト家当主ユーグ五世の――」

 

 よくもまあ名乗りが沢山出てくるものだ。俺は呆れ半分感心半分に聞き流して、あくびを噛み殺した。

 

「――という訳だ。お前はどうなんだ冒険者!」

「白閃」

 

 五分ほど経って口上が終わって、相手が構えたので、手短に答えて一歩踏み込む。隙だらけの構えなので一発で終わるだろう。

 

 両手で構えている槍を思いっきり叩き落す。武装解除は片手で持った状態が一番やりやすいが、この程度の相手ならこれでも十分すぎるほどだ。

 

「終わったな」

「とうさますごい!」

「あー、本当に一瞬で決めちゃいましたよ。大人げなーい」

 

「……え? あっ」

 

 アレンは俺が指摘するまで全く気付いていなかったようで、両手に持っていたはずの武器が、地面に落ちているのに気づくと、慌ててそれを拾って俺から距離を取った。

 

「ふ、ふふふ、まだだ、今のは無効だろう。虚をつくとは卑怯で反則だ、冒険者よ。ここからが本番だ」

 

 彼は再び構えなおすと、今度は槍をしっかり握りなおしていた。一度叩き落しを食らったので、それに対する警戒なのだろうが、その姿は少しばかり滑稽だった。

 

「虚を突くのが卑怯って言うなら、そっちから打ち込んできたらどうだ?」

 

 ガチガチに固まっている奴を相手に、何を何回やっても結果は同じだと思うが、せめて相手が納得させるまでは付き合うとしよう。

 

「ふ、ふふ……その言葉にお前は後悔することになるぞ……でやああぁぁっ!!」

 

 気合の言葉と共に突進してくるが、俺は最低限の動きで躱し、足を払う。

 

「うわっ……ぃでっ!?」

 

 面白いように引っかかったアレンは、重い鎧を着ているというのに、綺麗な円を描いて地面に倒れた。

 

 俺はそんな彼に両手剣を突き付けてため息をつく。

 

「まだやるか?」

「っ……ああ、勿論だ!」

 

 アレンは槍を握りしめ、急いで立ち上がると、再び突進の構えを取る。何度来ても同じだというのに……負けん気が強すぎるのも問題だな。

 

 俺は両手剣を構えなおし、突貫してくる相手を刀身越しに見つめる。鎧ごと切り裂いた後回復スクロールを使えば納得する――

 

「っ!?」

 

 ある事に気付いた俺は、両手剣を引いて、彼の突貫をもう一度足払いで潰した。

 

「っ……まだまだ」

「おい、頭に血が上り過ぎだ」

 

 なおも立ち上がり、槍を構えるアレンに、俺は宥めるように声をかける。

 

「うるさいっ、冒険者ごときに三度も土を付けられたとあっては――」

「降参だ」

 

 なおも闘志をたぎらせるアレンに、俺は短く答えてやる。

 

「は……?」

「お、おいっ、小僧……」

 

 俺以外の全員が困惑していた。だが、全員にとってこれが一番いいのだ。俺はガドに向き直って、改めて宣言した。

 

「俺は降参だ。こいつは強い。槍を作ってやってくれ」

 

 

――

 

 

 武器には耐久度があり、ダマスカス加工はそれを飛躍的に上昇させる効果がある。

 

「つまり、あのまま戦っていた場合、ガドは武器を二本打つことになる」

 

 ガドの作った武器は精度も耐久力も一級品だが、同じ素材で出来ている以上、金属同士がぶつかれば欠けたり曲がったりするのは避けられない。木剣同士でももちろん同じことが起こるだろう。

 

「なんだ、嫌味とかそういう発言じゃなかったんですね」

「はぁー……そういう事かよ」

 

 窓枠に腰掛けて、足をぶらつかせているキサラが呟き、ガドは禿げ頭をボリボリと搔きながら、ため息交じりに鉄を溶かしている。

 

 アレンが絶対に降参しないであろうことは、簡単に想像できた。ということは、時間的にも労力的にもガドに一本作ってもらうのが手っ取り早い。

 

「随分賢い考え方するようになりやがって」

「悪いな」

「責めてねぇよ」

 

 アレンは俺に勝った後、意気揚々と山を下って行った。他の連中が俺も俺もと続々と来ては敵わないので、騎士団で自慢しないよう釘を刺したが、それはどこまで信用できるか分からない。

 

「それより、いつこの町を発つんだ? そんな長い間ここでダラダラするわけじゃないだろ」

「とうさま、どこか行くの?」

 

 話をしていると、シエルが口を挟んでくる。火加減が難しくなるからと昨日は入れて貰えなかったが、今日はガドに何も言われていないらしい。ガドのせめてもの抵抗か、それに気づいた俺は、思わず苦笑していた。

 

「シュバルツブルグっていう都市だ。魔法や工学の発展した大都市で、そこで武器を完成させに行く」

 

 彼女が太腿に手をまわして抱き付いてきたので、俺はシエルの頭に手を置いてやる。竜種の擬態はほぼ完璧で唯一の違いは虫や蛇のように体温が低い事だ。

 

「出発は……そうだな、この町で一つ依頼をこなしてからにするか」

 

 えへへと安心しきったような笑みを浮かべるシエルを見ながら、俺は考える。

 

 この町についてからギルド支部には顔を出していない。金等級以上の冒険者が貴重なだけあって、急を要さないものの、難易度の高い依頼は放置されがちだった。そういった依頼を一つ一つ潰していくのも、白金等級の責務という奴だ。

 

「そうか、まあお前に限ってそんなこたないだろうが、無理すんじゃねえぞ」

「ああ」

 

 ギルド支部へ向かおうと扉を開けたところで、違和感に気付く。

 

「とうさま、どうしたの?」

「……キサラ」

 

 彼女がついてきていない代わりに、シエルがついてこようとしていた。キサラの方に声をかけると、そっぽを向いて唇を尖らせる。

 

「おい、なに機嫌悪くしてんだ」

「べっつにー、シエルと一緒に依頼こなして来ればいいじゃな――」

 

 ビキニトップのひもを引っ張る。簡単にズレた。

 

「ぎゃあああああああああああああ!! なんですか!? それやるとおっぱいまろび出ちゃうのまだ分かってないんですか!!!!??」

「いや、生まれたばっかりのシエルを連れていくのは気が引けるなと」

「これやっといて他の子の名前出します!?!?」

 

 お前はなんでシエルに嫉妬してるんだ。とは言わなかった。


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