俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~   作:これ書いてるの知られたら終わるナリ

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盗賊団殲滅6

 ガドは「結局、二本武器を作る羽目になったじゃねえか」と笑っていた。

 

 悪いとは思ったが、腐肉百足を相手にするとは思っていなかったのだ。勘弁してもらうしかないだろう。

 

「ねぇ、お兄さん。いつまでこの町に居るんですかぁ?」

 

 隣でキサラが挑発するように笑った。

 

 夜、日付も変わろうかという時間に、俺はギルド併設の酒場で果実酒を嗜んでいる。客もまばらで、シエルは上の階で眠っていた。

 

「もしかしてぇ、支部長さんに滞在費を肩代わりしてもらえるからって贅沢三昧したいとか?」

 

 盗賊団殲滅の結果は、騎士団と傭兵ギルド内でも共有され、魔物の暴走がありつつも、盗賊を含めた被害者数を最低限に抑えた功績が評価されている。

 

 それによりこの国での信頼が上昇し、随分と仕事がやりやすくなったらしい。俺はそのお陰で報酬の金貨五〇〇〇枚と、数日間の滞在費を受け取っていた。

 

「ガドの武器が出来上がっていないしな」

 

 やるからにはこだわるのが、ガドの仕事に対する姿勢だ。槍と両手剣を一本ずつ、なんだかんだ魂を込めて作っている事だろう。

 

「失礼する。冒険者」

 

 板金鎧特有の、重々しい金属音に振り返る。その先には槍と鞘のついた両手剣を持ったアレンが座っていた。

 

「ガドからか」

「ああ、それと――」

 

 アレンは俺に両手剣とシュバルツブルグ王立魔法研究所への紹介状を渡すと、バーテンダーに酒を三杯注文して、そのうちの二杯を俺たちの前に差し出してきた。

 

「感謝しておこうと思ってな」

「え、ワタシたち代金は――」

「ありがたく貰っておこう」

 

 キサラの言葉を手で制して礼を言い。俺は果実酒を飲み干して次の一杯を受け取る。無理に格好悪いところを指摘することは無い。

 

「目が覚める思いだった。魔物の前では犯罪者も人間も同じ、その脅威から人を守ろうとするのは、もはや騎士団やそう言った枠組みから離れて考えるべきだ」

「……別に、無理にそうする必要はない。とっさの判断が必要になった時、自分の命を最優先にする人間が居てもいいし、最後まで自分の職務を全うする人間が居てもいい」

 

 金を稼ぐために冒険者をする人間も居れば、市民に対して威張るために騎士団に入る人間もいる。俺はそれを否定しない。だがこいつ――アレンはそういう奴とは違う。そういう直感があった。

 

 怖気づくこともある。だがそれで彼自身の目的を見失うのは、勿体ないと感じてしまった。

 

「だが、お前はそうしなかった。その気持ちを忘れるな」

「ああ――それと、少し僕の独り言に付き合ってくれないか」

 

 鼻から息を漏らし、俺は続きを促す。

 

「僕は、貴族の三男として生まれて、後継ぎにもなれず、政略結婚の駒としての役割しかなかった」

 

 アレンはそれを受けて、ゆっくりと話し始める。その内容は、周囲から期待されず、邪険にもされない。居ても居なくても変わらない。存在感が希薄な男の話だった。

 

 そんな彼はある時から、城を抜け出して城下町で遊ぶようになった。彼の行動を父も城の人間も咎めず、彼は楽しくその時を過ごしていた。

 

「ある時、スラム街の暴動で仲間が死んだんだ」

 

 暴動の原因は、町を流れる下水道で腐肉漁りが繁殖し過ぎたため、町の行政が冒険者ギルドへ駆除の依頼をしたが、その駆除内容はスラム街へ魔物を追いやるという、ずさんな対応だったのが直接の原因だった。

 

「その時なんだ。僕が騎士団に入ろうと決めたのは。舐められないように貴族の名乗りを上げ、ならず者と変わらないと、君達を見下していた」

「……実際、よくある話ではあるな」

 

 冒険者と傭兵は、ギルドが存在するものの、その実態は玉石混交だ。

 

 ピンからキリまで、食い詰めた人間がなる最後の職業が傭兵か冒険者と言われている。冒険者は身一つで木等級に登録できるため、等級が低いほどそういう人間は増えていく。

 

 銅等級以上になれば本部で登録作業をするため、そこまで変な人間はいなくなるものの、銅等級以上になれる人間はそこまで多くはない。

 

「冒険者は見下されても仕方のない人間たちだ。お前がそういう目で見ることを、誰も否定しないだろう」

「ありがとう、だけど、今回の件で思い直したよ」

 

 どうやら、騎士団の内部でも、対魔物戦のマニュアルが急ピッチで作られているらしい。冒険者ギルドの意見も聞きたいという事で、支部長が招聘されているらしく、機嫌が良かったのはそういう事か、と俺は一人で納得した。

 

「この町にはいつまでいるんだ?」

「明日の朝には出発する」

「そうか……君の話はもっと聞いていたかったけど、忙しいんだろうな」

 

 アレンの声は本当に残念そうだった。

 

「仕事をしていれば、また会う事もあるだろう」

 

 俺は、恐らくそれが果たされないことを予見しつつも、そう言って酒を呷った。

 

 

――

 

 

「お兄さーん、遅いですよぉ」

「とうさま、いこ」

 

 キサラは道の先で、シエルは俺の手を握りながら、旅路を促す。夏を予見させる熱く高く上った太陽が、じっと俺たちを見つめているようだった。

 

「ああ」

 

 俺はシエルの手を握りかえし、少しだけ歩調をはやめる。俺が二歩進む間、彼女は三歩進まなければならない為、シエルはとてとてと小走りになった。

 

 結局、ガドの所には顔を出さずに出てきてしまった。顔を出そうか最後まで迷ったが、アレンに武器を持たせたという事は、会って湿っぽく別れの挨拶をするつもりは無いという事なのだろう。ガドらしいというか、俺達らしいというか。

 

「次の街はシュバルツブルグですよね?」

「ああ、ダマスカス加工をしてもらう必要がある」

 

 幸いなことに、シュバルツブルグでもギルド支部があるため、預けておけば支部で引き出すことができる。ギルドの倉庫業務はこういう時に役に立つ。

 

「ねえ、とうさま、シュバルツブルグってどんなとこ?」

 

 シエルは俺を見上げる。瞳には俺しか映っていないようだった。

 

「そうですねぇ、とにかく大きいところですよ」

「キサラに聞いてない」

 

 ふいとそっぽを向くシエルに苦笑する。キサラもむっとしたようだが本気で怒ったわけではなさそうだ。

 

「……この子、お兄さんに似て性格ひねくれそうですね」

 

 幼い子供なんてみんなこんなものだろう。そう思ったが今ひとつ否定しきれないので、俺は曖昧な返事を返すだけにした。

 

「それにしても、ワタシも武器作ってもらえばよかったですかね?」

「ガドを説得出来たらそれも有りだったかもな」

 

 彼は非常に偏屈で、新規顧客はほぼ取らない。俺の紹介もあれば、数日頼み込めば受けてくれるかもしれないが、逆に言えば数日はここに拘束されるという事だ。

 

「あー……それはめんどくさそうなんで、やめておきます」

 

 予定調和というように、キサラは首を振る。なんだかんだガドに対する認識が、腕のいい鍛冶師から面倒なじいさんに代わったような気がして、俺は頬が緩むのを感じた。

 

「とうさま、それで、シュバルツブルグは?」

「ちょっ……私が教えたのに無視しましたよこの子!」

「でかい街だ」

 

 説明しようと思えば色々と話せるものの、シエルに理解できるのはこの程度だろう。そう思って俺は端的に行先の説明をした。

 

「そうなんだ、たのしみ」

「今の質問で納得するんですか!?」

「ふっ……」

 

 二人のやり取りがあまりにも滑稽だったので、俺は思わず息を漏らしていた。

 

「あっ! 笑いましたね!? 今の完全におかしいでしょ! ていうかお兄さんがロリコンなのは前から知ってましたけど、こんな時でも付き合いが長いワタシより見た目が幼い――」

 

 ブラトップのひもを引っ張る。簡単にズレた。

 

「ぎゃあああああああああああああ!!! ロリコンに汚されちゃううっ!!!」

「いや、ロリコンは『ぎゃあー』なんて悲鳴上げる女は、対象外だろ」

「誰がその悲鳴上げさせてるんですか!!」

 

 俺は思わず肩を揺らして笑い、キサラも不機嫌そうにしつつ、楽しげな雰囲気を醸していた。




 ここまでお読みいただきありがとうございます。これから先、主人公とキサラたちはそれなりの試練を乗り越えていくことを想定していますので、どうかお付き合いください。

 また、いつもブックマーク・評価ありがとうございます。更新頻度の遅い当作品に、辛抱強くお付き合いいただき、いつも感謝しています。引き続きブックマークリストのしみにでも置いておいていただければと思います。

 そして最後に、まだブックマークや評価をしていただいていない方々も、読んでいただきありがとうございます。よろしければ、高評価やブックマークをいただけるとモチベーションになりますので、ぜひよろしくお願いします。

 では、続きがしっかりと固まったあたりでまたお会いしましょう。

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