俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~   作:これ書いてるの知られたら終わるナリ

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決闘代行1

 ビッキーは私の自慢だった。

 

 だって、私にできない勉強が得意だし、食事の時も、私は何度も言われてようやく覚えたことを、すぐに出来るようになってしまった。

 

 どうしたらビッキーみたいになれるんだろう。直接聞いてみたことがある。彼女は困ったように笑って「私は姉さんの方が羨ましい」って答えてくれた。

 

 嬉しかったけど、どういうことなのか全然分からなかった。私なんか、何もできることはないのに。

 

 私は素直にそのことも聞いてみた。ビッキーは「そういう所ですよ」って言った後、溜息をついた。よくわからなかったけど「自分の劣等感を素直に言えるのはうんぬん……」という事みたいだった。それがどうやら褒められているという事を理解して、私は素直に喜んだ。

 

 いつまでも仲良くしていられたらいいのに。そう思ったけれど、じいやとか、家来の人はそうじゃなかった。

 

――青派と赤派。

 

 たしか、そんな呼び方だったと思う。私の味方が青派、ビッキーの味方が赤派。髪飾りの色でそんな名前がついたらしい。

 

 どちらがお母様の後継ぎになるか、そんなことで赤青に別れてみんなが言い争っている。私はそれが悲しかった。

 

 アネットはマナーを教える時は厳しいけれど、それは私にしっかりしてほしいからで、ジギーはいつも私を見張っているけれど、食堂につまみ食いをしに行くときは、時々目を瞑ってくれる。カレルにスミスも、城下に出るための抜け道をこっそり教えてくれる。

 

 それでも、一番はビッキーだった。他の誰に嫌われても、ビッキーにだけは嫌われたくなかった。

 

 

 

 私の姉は、嫉妬もできないほど優秀だった。

 

 彼女は人の心を掴むことについて、並ぶものが居ない。きっと、どんな凶悪犯でも、意志の疎通ができれば彼女を好きになるし、もしかしたら意思の疎通ができなくても、彼女が好きになるかもしれない。

 

 誰に対しても優しく、冬の分厚い雪でさえも、彼女の温もりを遮る事は出来ない。彼女は、まさにこの国を照らす太陽のような存在だった。

 

――それに毒が混じり始めたのはいつだろうか。

 

 いつもと変わらない彼女の周りに、彼女を利用しようとする家臣たちが現れた。彼らは、姉の優しさを利用して、実権を得ようとしていた。

 

 彼らがしようとしていることは、国家の転覆に他ならない。だけど、もしそうなったとしても、姉さんはそんな事を考えていないし、きっと知る事もない。

 

 だったら、私がすべてを守らなければ。

 

 姉さんを悲しませるのも、優しさを翳らせるのも、絶対に許さない。その為なら、私は何だってする。

 

 だからきっと、こんな振る舞いも許してくれるはずだ。

 

 

――

 

 

「あっつーい……」

 

 街の門を抜けると、キサラがぼやいた。この暑さで外套を着ているのは、服が体温調節機能を持っている恩恵だった。

 

「とうさま、大きい街だね!」

 

 肩車の上でシエル楽しげな声を上げる。神竜は変温動物で、戦闘時は今の気温とは比べ物にならないほど体温が上がる。このくらいの暑さなど、誤差の範囲だろう。

 

 太陽は真南を向いており、俺達の頭を焼いている。ちなみに俺は、あまりにも暑かったため、前の街で夏用の旅装に着替えていた。

 

「それにしても人が多いですねぇ、お兄さん、人ごみに慣れてないんじゃないですかぁ?」

「首都は俺以外にも白金等級が居ることが多いからな」

 

 人と物の往来が激しい首都は、依頼も難しいものから簡単なものまで多く舞い込んでくる。首都周辺で生計を立てる冒険者は、そういった依頼をこなしているわけだ。

 

 彼らは俺達みたいに地方をドサ周りするよりは、文化的な生活を送れるが、その代わりかなり緻密なスケジュールを強いられている。日没が近いし疲れたから早めに野営をしよう。なんていう暮らしは出来ないわけだ。

 

「なんにせよ、王立魔法研究所だな」

 

 表通りの凄まじい屋台の呼び込みと、市場を行き来する人の波に軽く眩暈を覚えつつ、俺は道を進み始める。

 

 この近辺で採取できる泥は暗褐色をしており、当然それを焼いて作った煉瓦は黒くなる。黒い都(シュバルツブルグ)という名前の由来がそこにあった。

 

 ちなみに、この国――イクス王国は北海から吹き込む季節風があるため、冬が厳しい。だからこそ日光をよく吸収する黒い煉瓦が役に立つのだが、夏はその分周辺より気温が高い。今感じている暑さは、シュバルツブルグ特有の物だった。

 

「えーっと、王立魔法研究所って、どんな建物でしたっけ?」

 

 キサラが街を歩きながら首をひねる。そういえば、ガドから何も聞いていなかったな。

 

「そこら辺に居る兵士にでも聞くか」

「おっ? そこのお父さん。迷っておられますか?」

 

 兵士の姿を探していると、若い女から声を掛けられた。

 

 ツーサイドアップのボリュームを感じさせる髪に、深い緑の瞳、人懐っこそうな顔は柔和に綻んでいた。

 

 その中でも、目につくのは青い宝石をあしらった髪飾りと、濃紺色の髪、見るからに高価そうな髪飾りだが、服装は動きやすさを重視した安物のように見える。

 

「ぷっ……お父さんだって、お兄さん老け顔ですもんねぇ、私が奥さん役なのは不満ですけど――」

「子供二人もつれて観光は大変でしょ? 私が案内したげよっか?」

 

 妙に嬉しそうに言葉を続けるキサラが凍り付いたのを見て、俺は苦笑する。

 

「……そうだな、助かる」

「よし、決まりだね。私はエリー」

 

 白い歯を見せて笑う彼女に、俺は右手を差し出した。

 

「白閃だ。冒険者をしている。こいつがキサラで、肩に乗ってるのがシエルだ」

「よっろしくぅ!」

 

 軽い自己紹介をして握手をすると、エリーは街の案内をするべく歩き始める。

 

 シュバルツブルグの印象は洗練されていて、しかしそれを鼻にかける様子もない。居心地の良さを感じられるものだった。他国の首都をいくつか回ってきたが、こういう印象を持つ場所は無かったように思える。交易で栄えている商人の国、エルキ共和国のルクサスブルグは、目も眩むような豪奢さが前面に出ていたし、圧倒的軍事力を背景に栄える国、アバル帝国のヴァントハイムは高い壁に囲まれた威圧感が強烈だった。教会権力と結びつきが強いオース皇国は、救いと慈悲を求める民衆でかなり雑多な雰囲気を醸していた。

 

「へぇー、親子じゃないんだね」

「そうですよぉ、こう見えてもワタシ、凄腕の盗賊なんですからね」

 

 調子を戻したキサラが、自慢げにエリーと話しているのを見ながら、俺は彼女の髪を留めている青色の髪飾りと、髪色が気になっていた。

 

――青い血(ブルーブラッド)

 

 イクス王国の王族は、青い髪をしている。そんな話を酒場で聞いたことがある。彼らは神に愛されているので、土くれと岩の色ではなく、空と同じ色を受け継いだ。そういう与太話だ。

 

 ……いや、与太話だと思っていた。が正しいか。実際に目の当たりにすると、不思議な感覚だ。パッと見たところで黒髪にしか見えないが、光に透かされると、鮮やかな青色が浮かび上がる。ここまで明らかに特徴が出ているとは思わなかった。

 

「エリーさん、あの大きなおうちは?」

「ん、シエルちゃん。よく聞いてくれたね、あそこが王立魔法研究所。お父さんが探してる場所だよ」

 

 シエルが指さした先に、巨大な望遠鏡が見えた。恐らく天体を観測するための物だろう。ならば、あそこを目指せばいいわけだな。

 

「じゃ、もうちょっとだから頑張っていこう! ――ぁ」

 

 意気揚々と走って前に出るエリーだったが、こちらに振り返った瞬間、フードを被った男が彼女の背後に迫った。右手には鋭く光るものがあり、明らかな殺意が見て取れる。

 

「っ!!」

 

 間に合うかどうか考えるよりも早く、俺は地面を蹴っていた。王族に近い貴族であることは既に分かっていたのだ。襲撃くらいは警戒するべきだった。自分の迂闊さに歯噛みしつつ、手を伸ばす。

 

「エリー様に何するんだいっ!」

 

 その声は、全く予想外の所から聞こえてきた。それと同時にフードの男がバスケットで殴打される。

 

「おい! こいつエリー様に手を出そうとしたぞ!」

「なんてやつだ! やっちまえ!」

「憲兵さん呼んでくる!」

 

 近くを歩いていたおばちゃんや、退屈そうにあくびをしていた青年、店で肉を量り売りしていたおじさんまでもが騒ぎ立て、あっという間に男はボコボコにされ、憲兵に連れていかれた。

 

「うわぁ……」

「不用心だとは思ったが……こういう事か」

 

 俺は襲撃者に同情の視線を送りつつ、王族であることを隠していない彼女が、無警戒に街を歩ける理由を知った。

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