俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~   作:これ書いてるの知られたら終わるナリ

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旅団救援1

 俺達にはいつか、天罰が下るだろう。

 

「……」

 

 窓に叩きつけられる豪雨と暴風は、俺達の沈黙を紛らわせてくれるが、心の中にまでのしかかる罪悪感は、到底ごまかせるものではなかった。

 

 あいつが崖を落ちる瞬間の顔。それが脳裏に焼き付いて離れない。

 

 教えられることは全て教えてきたし、あいつ自身も全力でそれを吸収していた。だが、しかしそれらはすべて無駄になった。

 

「依頼は失敗、だな」

 

 リーダーがぽつりとつぶやく、暴力的な音が周囲を満たしていたが、それでもその声はしっかりと聞こえる。

 

 ――依頼は失敗。

 

 それは全員にとって漠然と感じていた事だった。事実、誰一人反論しようとする人はいない。

 

 失敗し、仲間を一人犠牲に生きのこった。冒険者を続けるうえで、それは日常的に起こりうることだった。

 

 だが、日常的に起こりうることだからと言って、慣れたことにはどうあってもなり得なかった。

 

 魔物の討伐は失敗、俺達は翌朝嵐が過ぎ去った後に街へと戻る。それがこの依頼に関して行える事だった。

 

 だが、それでもいつか、あいつのためにも仇討ちをしたかった。それがせめてもの償いだ。

 

「……絶対に、いつか倒す」

 

 俺の言葉に、全員がハッとする。言った俺自身も驚いていた。まさか、口に出ていたとは。

 

「そう、ね……やられっぱなしは、私たちらしくない」

 

 失意に濁っているパーティメンバーの瞳に、徐々に意志の炎が宿り始める。一人が立ち上がると、次々と立ち上がり、ついには三人全員が立ち上がっていた。

 

「まずは体勢を立て直す、そして……『シナトベ』を追いかけるぞ」

 

 リーダーの声に全員が拳を握って応えた。反省はするべきだがそれ以上過去を引きずって足を止めるのは、あいつも望んでいないはずだった。

 

 

――

 

 

 借金の返済には、いくつか方法がある。まず一般的なのは、割賦によって毎月返済をしていく方法だ。これは宝探しが主な業務になる斥候職の人間がよく行っている。依頼料よりも、魔物の巣で手に入った貴重品を売却したほうが、お金になる彼らに向いた方法だ。

 

 次に富豪や貴族に雇い入れられて、そこで働いて返す方法。これは集落に居ついた冒険者が主に利用している。依頼を求めて旅をしない彼らは、資産を持つ彼らとつながりを持ちたがるため、この方法を好んでいる。

 

 ただしこういった話は常にあるわけではなく、雇い主の希望も多岐に及ぶため、そう簡単な話でもないのが現実だ。

 

 貴重品の売却も、一つの街に留まることもしない大多数の冒険者がどうするかというと、依頼料の一部を返済金に充てる方法が採られている。

 

 つまり、俺はこれからほとんどタダ働きの依頼を、いくつかこなさなければならない。

 

「お兄さーん、ホントにあの依頼受けるんですかぁ?」

 

 俺とキサラは、ギルド併設の酒場で寝る前の軽食を取っていた。

 

 借金のある身で何をしているのか、なんてことを言われそうだが、衣食住と依頼に関する資金は別で計算しているので、このくらいは問題ないようになっている。

 

 ちなみにシエルとヴァレリィは早々に就寝していた。ヴァレリィは貫徹二日目、シエルは早寝早起きなので、流石に依頼前に仮眠を取らせないとまともに動けなくなってしまう。

 

「ああ、救援依頼は実入りが良いからな」

 

 

 ――旅団救援

 白金等級パーティ「レザル白金旅団」からの救援依頼。

 指定災害「シナトベ」討伐中に身動きが取れない状況になり、魔導文が到着。緊急依頼が発令された。

 現在のシナトベの位置と救援位置は別紙参照の事、可能な限り早い出発を希望する。

 

 

 短い依頼書の転写と二枚の地図を見るに、時間に余裕はなさそうだが、俺達はあえて仮眠をとった後に出発することにしている。

 

 その理由としては、救援の難しさが大部分を占めている。

 

 指定災害とは魔物の上位概念で、周囲への被害が甚大となる存在……人間の天敵とも言うべき存在だった。

 

「でもぉ、正直、シナトベってヤバいじゃないですか」

 

 指定災害は冒険者で無くとも知っている危険な存在だ。その中でシナトベは、暴風雨と共に訪れてあらゆる構造物を破壊して通過する生態を持ち、狐のような姿をした魔物だった。

 

「お兄さんは良くても、ワタシ達には荷が重いっていうかぁ」

「無理についてくる必要はないぞ」

 

 当然、俺が借金を返すための依頼なのだ。キサラたちが危ないと判断するのなら、無理に連れていく義理もない。

 

「またまたぁ、そうやって変に意地張るんですから、ワタシたちも鬼じゃないんですから、土下座さえしてくれたら――」

 

 ビキニトップのひもを引っ張る。簡単にズレた。

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!! 何するんですか!? 人がせっかく心配してあげてるのに!!!」

「いや、つい」

「つい!?!?!!!?!? そんな衝動的に女の子の服脱がします!??!!???」

 

 心配してくれてありがとうな。とは言わなかった。

 

 

――

 

 

「レザル白金旅団?」

 

 意識を失っていた間、世話をしてくれていた修道士に、仲間の行方を聞いてみた。

 

 全身の感覚が消失し、立ち上がる気力さえも尽きていた俺は、なんとか一命をとりとめた。あの傷でシナトベと魔物の群れから逃げ切り、ここまで歩いて来れたのは奇跡だと修道士は言っていた。

 

「それなら君が行き倒れる前日に旅立って行ったよ。何か用があるならギルドで魔導文を――」

「いや、いい……です」

 

 待ってくれる。などという楽観視はしないようにしていたが、それでも見捨てられた事実に血の気が引いていくのを感じる。

 

「それはそうと君、名前は? 冒険者だとしても、ギルドの印章が無いから身元も分からないし、カルテの名前欄が『白紙』(ジョン・ドゥ)なのは面倒なんだが」

「俺の名前……あ」

 

 そこまで言われて思い至る。そうだ、革鎧も何もかもを失ってしまった。だから、ギルドの等級章もない。そして俺の事を知っている人は、俺を見捨てて町を出て行ってしまった。つまり、俺は俺である証明が何一つ出来なくなってしまった。

 

「……ふむ、そうか、まあ、何かあれば記憶が戻ることもあるだろう」

 

 俺の沈黙を記憶喪失と勘違いしたのか、修道士はそんな事を言う。

 

「なんにせよ、その若さで両手剣を持っていたのだ。腕に覚えがあるんだろうし、冒険者として登録すれば当面の生活には困らないだろう」

「はい……」

 

 元々鉄等級で、ギルド本部の登録も済ませていなかった。だから、また一から実績を積むことに、抵抗はなかった。

 

 俺は修道士に礼を言い。その足でギルド支部へと向かって、冒険者登録をすることにした。

 

 黒ずんだ茶色い羊皮紙に、白墨で名前を書き込もうとして手が止まる。

 

 今までと同じ名前を使うのは、辛すぎた。かといって、新しい名前は思い浮かばない。

 

「どうしました?」

「いや……その……自分の名前が分からなくて」

 

 ギルドの受付に不思議そうな顔をされる。嘘の事情を話すと、彼女は少し考えた後、解決策を提示してくれた。

 

「でしたら、横棒を一本お引きください。仮の形ですが、この街で活動するかぎりにおいて、冒険者活動を許可します」

 

 俺は受付に指示される通り、名前欄に白線を一本引いた。

 

 

――

 

 

 日の光が顔に掛かって、俺は夢の世界から引き戻された。気持ちのいい陽気で、今日も暑くなりそうな予感がある。そろそろ起き――

 ……いや、仮眠で夜明け前には出るはずじゃなかったか?

 

「っ!?」

 

 慌てておきあがると、縄で両手がベッドの柱に縛られていた。なんだ、一体どうなっている?

 

 何にしても、通常の状況ではない。緊急事態と判断して俺は両腕に力を入れる。するとベッドの柱がバキバキという音を立てて折れた。

 

 柱が折れたので、両手に残った縄をほどく。周囲を見ると俺の荷物は残っており、キサラたちの荷物が無くなっていた。家具の配置や間取りを見るに、俺だけが拉致された訳ではなく、俺以外の全員がどこかへ行ったようだった。

 

「……どうなってる?」

 

 この場合、冷静に状況を把握するのが最優先だ。そう判断して俺は自分の荷物を身に着け、持ち物を確認する。両手剣はもちろんあるし、収納袋の中身はそのままだ。

 

 安心しかけたその時、依頼書と地図が無くなり、その代わりに小さな紙切れが一枚残っていた。嫌な予感がしつつ、その紙を開くと、こんなことが書いてあった。

 

「ワタシ達で依頼は解決するんでぇ、お兄さんはゆっくりしててくださいね」

「あいつら……」

 

 俺は身支度を済ませると、ギルド支部の受付へと走り出した。


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