俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~   作:これ書いてるの知られたら終わるナリ

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前回までのあらすじ
ソロ冒険者の主人公は、盗賊のキサラと共に旅をしていた。
旅の途中に竜の卵が孵って生まれた子供、シエルの親代わりになったり、魔物マニアのヴァレリィと一緒になったりして、仲間も悪くないよね、と思い直すのだった。


第二巻 魔物と皇国
要衝防衛1


――要衝防衛

 魔物の侵攻があるとの情報を、ギルドの斥候部隊が確認した。人のいる集落へ向かう途中、石橋が要衝となるため、防衛線を敷く。銀等級以上の冒険者には、この石橋を拠点として魔物の侵攻を防いでほしい。魔物の戦力は現地本部にて説明を受ける事。

 報酬金貨五万枚を成果により配分。

 

 俺は依頼書を再度確認すると、目の前にある巨大な石塔へ目を移した。その石塔は西日を受けて燃え上がるように赤く染まっており、所々に空いた穴からは、時折鎧を着た兵士がせわしなく動き回っているのが見える。

 

「む、誰だ!」

 

 一人で石塔へ近づこうとすると、同業者に道を阻まれた。俺は軽くため息をつくと、道を阻んだ冒険者に白金の印章を見せる。

 

「防衛依頼に参加する。前線まで通してもらおう」

「っ……! 失礼しました!」

 

 相手の等級がどれくらいかは知らないが、白金等級の数はそう多くない。あの態度と後方で見張りをしている辺り、恐らく銀等級だろう。

 

 俺はそのまま石塔へ入り、入ってきた方とは逆側の門を抜けてさらに歩く。

 

 この石橋の構造は、両岸に砦の役割を持つ石塔を建てて、石橋を実質的な関所として運用していた。さすがはイクス王国とアバル帝国の国境か、戦争になれば恐らくここは戦略的にも重要な拠点となるだろう。

 

 石橋の上でなにやら馬車から荷物を降ろしているイクス正規軍を避けつつ、反対側の石塔まで到着する。石塔の内部を見回すと、広いテーブルに地図を広げて三人が首をひねっているのが見えた。恐らく防衛本部はそこだろう。

 

「数が多いな、受け止めきれるか?」

「やはりこちら側の石塔を放棄して、石橋の上で迎撃するべきかもしれないな」

「だが、そうなると飛行する魔物への対処はどうする? 石塔一つでは火点が不十分だぞ」

 

 どうやら魔物の物量が多く、二本の石塔から弓で対空、地上援護を行うか、橋の上という閉鎖空間でボトルネックを利用した戦いをするかで意見が割れているらしい。

 

「白金等級冒険者、白閃だ。配置を聞きたい」

 

 なんにしても、俺は駒であり、将はこの三人と見ていいだろう。蹴散らすにしても、魔物の侵攻をせき止めるにしても、指示を仰がなければ話は始まらない。おれは再び印象を見せて、自分の身元を証明する。

 

「白金等級!? 助かる……!」

「なるほど、君が来てくれるなら動きやすくなる」

「ちなみに他に同業者は? いるならありがたいが」

 

「いるにはいるが到着が遅れている。作戦中には追いつくだろうが……不確定要素と考えてくれていい」

 

 シエルとキサラは準備に手間取っていて、ヴァレリィは死んだように眠っていて起きる気配がなかった。まああいつはここ数日シナトベの解剖資料と論文の作成で缶詰め状態だったし、キサラが来る前に起こすだけ起こしてくれるという事だったので、放っておくしかないだろう。

 

「……なるほど、では、白閃殿にはこの配置をお願いします」

 

 俺が三人に思いをはせている間に作戦はまとまったようで、俺は司令官の一人から説明を受ける。

 

「なるほど、了解した。ああ、それと――」

 

 俺は持ち場へ向かう前に、言伝を頼むことにした。

 

「俺の『仲間』が来たら好きにさせてやってくれ」

 

 

――

 

 

 作戦としてはオーソドックスなもので、俺が最前線で打ち漏らしを前提に暴れまわり、戦力を削ぐという作戦になった。ついこのあいだも同じ作戦で暴れまわったので、特に構える必要も無いだろう。

 

 少し前に陽は落ちて、背後の石塔では灯りがともっている。夜は魔物の動きが活発になるのと同時に、視界が利かなくなる。つまり、今の状況は俺たちにとって、不利に働くことになる。

 

 久しぶりに周囲に人がいない状況で、魔物を待ち構えている。それに気づくと同時に、そんな事を考える自分を自嘲的に笑う。

 

 視線の先には深い闇と、その中にある小さな光が無数に見える。魔物の眼球が、明るく照らし出された石塔を、映しているのだった。

 

 魔物は人間への敵対心が強く、暴走した集団となった時には、人がいると分かっている場所に向かって、進攻する特徴がある。この石塔は絶好の的となっているのだ。

 

 俺は収納袋から持続治癒と暗視のスクロールを取り出し、破り捨てる。小さな光点が輪郭を持ち、魔物の姿を取ったのを確認すると、俺は両手剣を構えて、バンデージの留め金を弾く。

 

 吹き飛ぶように金具が外れると、丈夫なバンデージが地面に散らばり、ダマスカス加工の施された武骨な刀身が露わになる。

 

 刀身の表面は波紋状の酸化被膜が覆っていて、その上を滑るように青い燐光が揺れている。強く握れば握るだけこの光は強くなり、それにつれて剣自体の切れ味も上昇する。

 

 両手剣を強く握りしめ、光量を上げる。陽動と撹乱を行うなら、魔物たちに俺の姿を認識させたかった。

 

「ギャオギャオッ」

「ピギャギャッ」

 

 見える範囲に居るのは、小鬼と豚鬼の混成軍と、大鬼や単眼鬼などの巨大な銀等級以上の魔物。どうやら人型が中心の編成らしい。ならば、あまり対空戦力に警戒する必要はなさそうだ。人型で飛ぶのは石鬼(ガーゴイル)と夜鬼(ナイトゴーント)だけだから、それは石塔の火力だけで対処できるはずだ。

 

「ふっ……!」

 

 襲い掛かる魔物と交錯する瞬間、俺は両手剣を無造作に横薙ぎする。それだけで数体の魔物が上半身と下半身を分かたれる。

 

「ブギッ!?」

 

 その光景を見たからと言って大勢は止まらない。しかし、周囲にいた魔物は違う。唐突に隣にいた存在が二つに断たれた光景は、ショックと混乱を与える。

 

 俺はそれを見逃さず、一瞬でも止まった豚鬼をはじめとする雑魚や、近くにいる大型の魔物を両断して赤黒い飛沫をあげさせる。

 

 市街地を防衛した時と違うのは、背後にあるのは石橋――砦という事だ。つまり戦力を削ぐ必要はあるが、被害を出す心配はしなくていい。ならば、俺がやるべきなのは戦意を挫くことだ。

 

 魔物は、同族ならまだしも、お互いの生死についてかなり無頓着だ。とはいえ「かなり」である。完全に頓着しない訳ではない。とくに目の前で魔物を殺されれば、流石に「次は自分かもしれない」という認識を持たざるを得ない。

 

 だが、それでもかまわずに、むしろ自分の強さを誇示するようにこちらへ攻め込んでくる魔物も存在する。

 

「グオオォォォオッ!!!」

「しっ……!」

 

 襲い掛かってきた単眼鬼の両腕と頭を切り飛ばし、前蹴りを入れて仰向けに倒す。金等級の、しかも耐久力のある魔物がいともたやすく倒されたことで、空気が少し変わる。

 

 このタイミングから、俺は魔物にとって「倒すべき敵」から「避けるべき障害」に変化する。だが、それは魔物にとって致命的な間違いであった。

 

 敵意の無い魔物は、俺にとってはただの巻き藁にも等しい。

 

「グギャァアアアアッ!!」

 

 相手も選ばず。ただ青い燐光を湛えた両手剣を夜の闇を切り裂くように振り回し、血の飛沫をいくつも上げる。魔物は夜目が利くので、通常であれば俺の方が不利なのだが、暗視のスクロールを使っている限り、それは互角以上だった。本来ならば暗く、見えないはずの血の色や、魔物の表情までもが容易に見て取れる。周囲を気にするまでもなく、後方で響く剣同士が打ち鳴らされる音はまばらで、俺の食い止めが想像以上に功を奏していることが察せられた。

 

「ガ……アアアァァァアアアアッ!!!」

 

 対魔物戦では、いつも理想的な展開が続くわけではない。

 

 獅子の下半身に人間の上半身、背中には巨大な棍棒を担いだ巨大な魔物、大業魔(グレーターデーモン)が周囲の魔物を蹴散らしながら、こちらへ突貫してくる。

 

「っ……おおおっ!」

 

 俺は渾身の力を込めて両手剣を振りかぶり、袈裟口に切りかかる。しかしその刃は、分厚い筋肉と強靭な骨に阻まれて致命傷には至らない。燐光がすでに消えかけており、鋭さが落ちていた。

 

「グガァアアアアっ!!!」

 

 魔物が反撃に拳を振りかぶったのを認識して、俺はすぐさま飛び退いて距離を取る。大業魔相手に純粋な力比べは避けるべきだ。

 

――大業魔

 単純な戦闘能力と強靭さで、白金等級に分類されている魔物だ。それに加え魔法に似た能力を持ち、極大の火球や大型武器の使用を得意としている。

 

「オオオォォ」

 

 切り傷を気にすることなく、大業魔は両手を前にかざし、低く唸る。それと同時に両手に炎が発生する。火球による攻撃を察した俺は射線から外れるように地面を蹴り、円弧を描いて大業魔に接近する。大業魔は正確に俺の方向へ掌を向けながら、炎を大きくしていく。

 

「ちっ」

 

 ギリギリで躱して関節部を狙って肉体破壊を狙う。それが俺の作戦だったが、距離とため動作の早さから、それは不可能だと悟り、俺は両手剣の峰と外套で防御姿勢を取る。耐火加工はしてあるものの、大業魔の火球に耐えられるかどうかは不明だが、そうするのが最善策だった。

 

「ガアアァァァァッ!!!」

 

 炎が臨界点に達し、目の前が光に漂白される。全身に熱風を感じて、俺は歯を食いしばる。

 

 しかし、しばらく待ってもそれ以上のことは起こらず、熱が冷めていく。

 

「とうさま、おまたせ」

 

 その言葉に防御姿勢を解くと、俺と大業魔の間に、倭服を着た銀髪の少女が立っていた。

 

「シエル、助かった」

 

 彼女の名前を呼ぶと、シエルは嬉しそうに笑う。

 

「早く片付けよう」

 

 両手剣を構えなおそうとすると、背後で魔物の断末魔が上がる。

 

「間一髪って感じですねえ、お兄さん大業魔相手に戦うなんてちょっと無理し過ぎじゃないですかぁ?」

 

 魔物の血を滴らせたナイフを片手に、厚手の外套とビキニトップにホットパンツを合わせたツインテールの少女がにやにやとオレを覗き込んでくる。

 

「ま、そんなお兄さんの為にこのワタシ、キサラちゃんが――」

 

 ビキニトップのひもを引っ張る。簡単にズレた。

 

「ぎゃあああああああああああああ!!!! 命の恩人に何するんですか!!!?」

「戦場で無駄口叩くと死ぬぞ」

「誰が無駄口叩かせてるんですか!!??!?」


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