俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~   作:これ書いてるの知られたら終わるナリ

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収穫祭2

 景品を受け取ったあと、俺たちはそのままエリーと合流して、屋台で買った鉄盾焼きに舌鼓を打っていた。

 

 鉄盾焼きとは、盾を模した鉄板で作った野菜炒めで、濃いめの味付けが特徴のアバル帝国の料理である。

 

「まさかここで食えるとは思わなかったな」

「さすがはルクサスブルグの収穫祭ですよねぇ、仮想敵国の郷土料理も屋台があるんですから」

 

 遠征時に食事用の鍋を壊してしまい、鍋の代わりに大盾を鉄板代わりにして野菜と肉を焼いたのが鉄盾焼きの始まりだと言われている。この濃いめの味付けも、遠征中で体内のミネラル分が不足していたためらしい。

 

「ちょっとこれ……しょっぱすぎません?」

「そうか?」

 

 ヴァレリィが半分ほど食べたあとに苦い顔をする。日常的にそれほど汗をかかない彼にとって、この味は過剰らしかった。

 

「私は結構好きだな、このくらい濃い方が『食べてる!』って感じするし」

 

 同じく汗をかかないはずのエリーは、この味が気に入ったらしい。しかしよく考えてみれば、彼女は警備の目を盗んで逃げ出したりで、めちゃくちゃ身体を動かしていそうだ。そう思うと当然とも言えるかもしれない。

 

 現に今、護衛もなしで目の前に居ることがおかしいのだ。王位継承権を持った人間がこの場にいることの異常さを、感じさせないのがエリーの長所であり、短所でもあった。

 

「ね、これから広場の方でオース皇国の――」

「やーっと見つけましたよ、姫様」

 

 エリーが何かを言いかけたとき、また聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「うげ」

「この人混みで単独行動って何考えてるんですか、またヴィクトリア様に小言をもらいますよ」

「だって、太ったおじさんと宝石でがんじがらめになってる女の人ばっかりの懇親会なんて、退屈なんだもん」

 

 金髪に色素の薄い肌、そして牙折兎の毛皮――白金等級の傭兵、リュクスだった。

 

「『もん』じゃないですよ、退屈なのも含めて仕事でしょうに……あ」

 

 頭を掻いて溜息をつくリュクスがこちらに気づく。俺は何か反応した方が良いかと思い、手を振ってみた。

 

「白閃、てめぇ、来てたのか!? シュバルツブルグのリベンジだ! 今すぐ闘技場で決闘を――」

「リュクス!」

「はい!」

 

 俺の友好的アプローチむなしく、喧嘩腰でまくし立てるリュクスに、エリーが叱責する。

 

「貴方の仕事は何!?」

「はい! エリザベス殿下の護衛です!」

「じゃあなんで喧嘩を売ったの!?」

「仕事に関係ないけれど気に入らない奴だからです!」

「自分の仕事に専念しなさい!」

「了解しました!」

 

 いつか聞いた二人の会話をまた聞くことになって、俺は思わず口元が緩んでいた。

 

「それに俺は今、戦えない」

 

 エリーと、彼女の叱責を受けて直立不動になっているリュクスに、俺は肩をはだけてみせる。内出血が止まりきっていないため、腕全体にバンデージを巻いてそれを防いでいる。

 

「え、それ、どうしたの!?」

「回復阻害の付与がされた武器で負った傷だ。解呪が出来る聖職者を探している」

 

 その姿を見て、エリーは心配そうにのぞき込んでくる。痛み自体は動かさない限りそこまでではない。ということは戦闘は出来ないが日常生活を送る限りは問題ないわけで、必要以上に心配されているように感じて、俺はすこし居心地が悪かった。

 

「そんなヘマしてんじゃねえよ、所詮は冒険者だな」

「リュクス」

「はい、すいません!」

 

 二人の会話で軽く笑ったあと、俺たちはリュクスに引きずられていくエリーを見送った。

 

「またシュバルツブルグに来たらよろしくねー!!」

 

 

――

 

 

 人類圏最大の収穫祭ということで、世界各国から興行が集まっているらしく、屋台の集まっている場所を抜けると、大きな柵とその中に居る道化師の化粧をした人たちが、様々な曲芸をしていた。イクス王国からの道化師が行っていた、魔法を使った曲芸にはヴァレリィはぶつぶつとケチをつけていたが、オース皇国の魔物を使った曲芸には言葉を無くしていた。

 

「すごい! 魔物をあんな風に手懐けられるなんて!」

「くふ、そうだよね、ボクも故郷で見たときは目を疑ったよ」

 

 以前も聞いたことがあったが、ティルシアの出身はオース皇国らしい。魔物絶滅主義の教皇と強いつながりを持つあの国で、魔物使いという文化が発生したのは違和感があるが、それには理由があった。

 

 元々魔物に対する姿勢は、距離を置いて関わらないというスタンスが一般的だったが、教皇が今の代になってから、急進的に魔物に対して排他的な思想になっていったらしい。

 

 教皇は即位して五十年。当時の年齢から考えれば、もうすでに百歳を越えていてもおかしくないはずだが、未だに健在でその椅子に留まり続けている。

 

 その結果、オース皇国の伝統である金細工と魔物調教術は、前者のみ保護され、後者は一つの集落に留まることすら許されず、放浪するように世界各地を渡り歩いていた。

 

「さあ! このリングに火をともします! そして、魔物達にはこれをくぐってもらいます!」

 

 タキシードを着た男がそう宣言すると、三つに連なったリングが勢いよく燃え始め、狼型の魔物が周囲を走り出す。

 

「ごくり……」

 

 俺のすぐ脇でシエルが息をのむ、俺はそっと肩に手を置いて、魔物たちの芸が成功するかどうかを見ることにした。

 

 魔物は一切恐れること無く炎のリングをくぐり、俺を含めて観衆は拍手を送る。こうしてみると、普通の狼や犬と同じような見た目をしているように感じる。

 

「すごいよねえ」

 

 続けて芸をしていく魔物達を見ていると、ティルシアがぼそりと呟いた。

 

「あんな風に魔物とも仲良く出来るんだ。ボクにはとてもじゃないけど無理だね」

 

 その表情は侮蔑や諦観では無く、羨望が宿っている。俺はすこし考えたあと、彼女に応えた。

 

「職業柄か?」

「いや、両親の方針だよ、ボクの家は敬虔な信徒だったからね。昔これを見たのも両親に隠れて見に行ってたのさ」

「苦労したんだな」

 

 そう言うと、ティルシアは「まあそのおかげで今この職業に就いてるんだけどね」と軽薄に肩をすくめた。

 

 正直なところ、教皇の方針に懐疑的な勢力は、それなりに多い。魔物は人間への敵意を持っているが、竜鱗や牙、角といった物は、武器素材であると同時に美術品としての価値もあるのだ。

 

 だから商人の意見が強いエルキ共和国や、武具や武功を必要とするアバル帝国は、魔物を管理飼育して素材を採取出来るように研究をしたり、強さを示すために闘技場に魔物を放したりもしている。まあ、独占したあとに希少価値を上げるために絶滅させるという考えもあるようだが。

 

 俺としてはシエルなど対話可能な魔物もいる点と、一部の魔物を狩り尽くしてしまうと、他の魔物が大量発生する恐れがあることから、魔物絶滅主義には懐疑的だ。

 

 とはいえ、人類圏最大の宗教がその方針であるのと、一般民衆の心情的に、魔物を一匹残らず絶滅させるべきという思想が、人々の中では主流となっている。

 

「さあ! 次は小鬼の玉乗りです!」

 

 俺はそんなことを考えながら、魔物使い達の曲芸を眺めていた。

 

 

――

 

 

 冒険者ギルド併設の酒場兼宿屋は、街の経済状況の指標となる。ということは、ここルクサスブルグの酒場が人類圏で最も豪華な酒場と言うことだ。

 

 天井からは数百キロはありそうな重厚にして華美なシャンデリアが五本の鎖で吊されており、床には赤い絨毯が敷かれている。テーブルには絹製の真っ白なテーブルクロスが掛けられ、その上にはブーケが飾られている。俺の目には、どこかのパーティ会場か何かのようにすら見えた。

 

「今日は久しぶりにゆっくり出来ましたねぇ」

「ああ」

 

 ヴァレリィやシエルは既に部屋に戻り、ベッドに入っている。起きているのは俺とキサラだけだった。

 

 こいつと二人でゆっくりするのも随分久しぶりのように思える。ちょくちょくあったはずではあるのだが、やはりパーティの人数が増えてくると、二人だけ、という時間は多くはとれない。

 

「それにしてもお兄さん、依頼を受けないなんて珍しいですねぇ、もしかして、怪我してから依頼をこなすの怖くなっちゃいました?」

「受けない。ということもあるが受けられる物がないって事でもあるがな」

 

 白金等級はギルドの顔とも言える等級だ。ということはつまり、依頼の達成率は九割九分以上を維持しなければならないし、受ける依頼も見られることになる。ここでもし怪我を理由に依頼を失敗したり、低級の依頼を受けた場合は、ギルドの名前に傷がつく可能性がある。

 

 それに加えルクサスブルグは人が多い。ということは、俺以外の冒険者も複数いることになる。だとすれば、俺がわざわざ受ける必要も無い。

 

 俺はバーテンダーにトニックウォーターと蒸留酒のカクテルを二つ注文し、片方をキサラに渡した。

 

「んー、おいしー……ってかお兄さん、男のくせにこんな甘いの頼んでるんですかぁ?」

「たまには良いだろ」

 

 アルコール特有の苦みとトニックウォーター特有の甘みと炭酸が喉を潤していく。蒸留酒ベースと言うことで、それなりに強いカクテルではあるのだが、この飲みやすさは深酒をしてしまいそうだった。

 

「明日はヴァレリィとは別行動、午前中はティルシアに付き合って、午後からお前だったか」

「おお、朴念仁の鳥頭なお兄さんにしてはちゃんと覚えててワタシ、感激ですよ」

 

 キサラはこのカクテルが気に入ったのか、かなり速いペースで消費している。首筋が既に赤くなっており、俺はこれ以上飲ませるのは危険だと考えた。

 

「それにしてもおいしいですねえ、バーテンダーさん、おかわりくださーい」

「キサラ――」

「止めないでくださーい。今日はワタシとことん飲んじゃいますんでぇ」

 

 俺は明日、彼女が二日酔いで大変なことになるのを予見した。

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