俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~   作:これ書いてるの知られたら終わるナリ

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聖女奪還5

 薪木が弾けて崩れ、火の粉が茜色の空へ混ざって溶けていく。もうすぐ二人が返ってくるはずで、俺は膝の上で寝息を立てているシエルの頭を撫でていた。

 

「感謝します。白閃殿」

「こちらこそ、助かった」

 

 ハヴェルの感謝を素直に受け取りつつ、俺も感謝を述べる。解呪を使える支援魔法の使い手は本当に少ない。今回なんとかなったのは、僥倖としか言えなかった。

 

 彼と巡礼の聖女――セラは、教会に事件を報告することなく、俺と一緒に宿へついて来ている。

 

「しかし依頼をした時にも思いましたが、白金等級の冒険者がなぜこんな廃墟で?」

 

 今日の宿も昨日と同じく壁街の廃墟だ。住めば都とはよく言ったもので、案外悪いものでもなかった。

 

「少しな、教会の人間に目を付けられたくない事情がある」

 

 教会中枢の方針と対立する二人なら、シエルの事を話してもいいかと思ったが、ギルド本部の後ろ盾なしに彼女の素性を話すのは憚られた。

 

「……分かりました」

 

 その返答で、彼がある程度の事情を察してくれたことが分かった。

 

「それで、報酬の話だが、情報が欲しい」

「と、言いますと」

「深淵院についてだ」

 

 ハヴェルの身体が揺れる。あの組織の存在は、ティルシア―ー教会関係者しか知らなかった。俺としては、どうにもそれがきな臭いように感じてしまうのだ。

 

「深淵院は――教会内の不正を暴く自浄機関、そういう事になっています」

「聖女を攫うのが自浄作用か?」

 

 その事はティルシアに聞いている。だが、俺が欲しいのはそこではない。俺の予想と事実のすり合わせがしたいのだ。

 

 ハヴェルは大きくため息をつくと、観念したように全身の力を抜いて俯いた。金色の髪がしなだれて、顔を覆い隠す。

 

「あなたの予想通りですよ……すでに深淵院は、教会の暗部、実行部隊と成り果てています」

「そうか」

「私自身、セラと巡礼の旅をしなければ気付く事は無かったと思います……ですが、確実に今の教会はおかしい。私と彼女は何とか逃げ回りつつ活動を続けていましたが……」

 

 そこまで聞けて、情報は十分だった。こういった事は、今役に立たないとしても、いつかは役に立つ。長い冒険者生活で、俺はそれを良く知っていた。

 

「とにかく、今回は助かりました」

「まだ聖女として旅を続けるつもりか?」

 

 言外にそれ以外の道を勧めてみる。別にアルカンヘイムで腰を落ち着けろという話ではなく、冒険者として登録して、教会権力から距離を置く、という選択肢もあるはずだ。

 

「勿論、セラ――巡礼の聖女が望んでいる事ですから」

 

 しかし、ハヴェルの返答は変わらず、ある意味で予想通りだった。

 

「私達はすべての人を救う事は出来ません。なので、全ての人を救うために行動するのです――彼女の受け売りですがね」

「綺麗事だな」

「聖職者が綺麗事を言わなくて、誰が言うのです?」

 

 俺の揶揄するような言葉に、ハヴェルは顔をあげて口元を緩める。その表情は自嘲気味ではあったが、それでも意志を貫く強さがあった。

 

 

――

 

 

「私達はすべての人を救う事は出来ません。なので、全ての人を救うために行動するのです」

 

 人一人では、救える人間はたかが知れている。だとすれば、頑張ったところで何も変わらないのではないか。ボクの質問に、セラ様はそう答えた。

 

 白閃とハヴェル枢機卿は二人で何かを話しているみたいだった。ボクとセラ様は彼らとは少し距離を置いたところで話している。

 

「頑張ったことは無駄になるかもしれません。私の自己満足で終わることもあるでしょう。それでも、私は何かせずには居られないのです」

 

 その言葉は、行動に裏打ちされていた。だけど、ボクの考えも経験から導き出したものだった。彼女の考えを肯定することは、今までの自分を否定する事だった。

 

 彼女以外から言われたなら、そんな理想論を語ったところで、意味がないと切り捨てていた。だけど、セラ様はそれを実践している。

 

「ボクにはとてもできないですね」

 

 彼女が持つ、静かで強い意志の宿った目から視線を逸らして、ボクは自嘲気味に笑う。

 

 修練を積まず、慢心して、彼に深い怪我を負わせて、結局なんの役に立つ事もなく、セラ様だけの力で何とかなってしまった。結局、ボクは何もしない方が良かったのかもしれない。

 

「そんな事はありませんよ」

 

 考えを見透かしたように、彼女はボクの手を取った。

 

「誰にでも、どこかに譲れないものがあるはずです。貴女はまだそれが見つかっていないだけ、焦ることなく、静かに考えてみましょう」

 

 セラ様の手は暖かく、ボクは緊張がほぐれるのを感じた。譲れない物……あるとすれば、それは何だろう。ボクが大事だと思うものは――

 

 

――

 

 

 陽が沈み切ってしばらく経った頃、キサラとヴァレリィが戻ってきた。

 

「へぇーよかったじゃないですかぁ、ラッキーだったですねぇ、へぇーそうですかぁー」

「巡礼の聖女が近くに来ていたのか、それは幸運でしたね」

 

 ヴァレリィは水を大量に持っていた。どうやら昼間の暑い時間帯が相当堪えたらしい。

 

「じゃあさっさと出発しましょう。本部まで無駄な時間使いたくないで――」

 

 ビキニトップのひもを引っ張る。簡単にズレた。

 

「ぎゃあああああああああ!!! 何ですか!? いきなり何なんですか!?」

「いや、心なしか機嫌が悪いなと」

「機嫌悪そうな相手にやることじゃなくないです!!?!?!!?」

 

 何か悪いことをしただろうか、そう思っていると、ヴァレリィがその理由を教えてくれた。

 

「キサラちゃんは包帯や湿布をたくさん買い込んでいましたからね、無駄になったのが癪なんですよ」

「えっ、ちょ……ちち、違いますよぉ、確かに買い込みましたけどぉ、お兄さんが使い過ぎたんで予備を買い足しておこうかなって」

 

 なるほど、それは悪いことをした。回復スクロールがあるとはいえ、衛生用品は多くあるに越した事は無いからな。

 

「それはそうと、ティルシアさんが見当たりませんが、彼女は?」

「ああ、どうやら巡礼の聖女と一緒に旅をするつもりらしい」

 

 彼女が何を言われたかはわからないが、出発する前の彼女にはしっかりと意思の光が宿っていた。ならば、俺が止めることはできない。

 

「えぇー、折角回復属性を使える仲間ができたのにもったいなくないですかぁ? 残念ですねぇー、折角回復スクロールの節約ができると思ったのにぃ、いやー残念ですねぇー」

 

 妙に機嫌がよくなったキサラは放っておいて、俺はシエルを起こす。夜の間動くので、今まで寝かせておいたのだ。

 

「ん……おはよう、とうさま」

「俺達も出発するか」

 

 旅を続けるなら、いつか名前を聞くこともあるだろう。それが旅をする人間にとっての再会になるはずだ。

 

 

――

 

 

 ボクはセラ様についていくことにした。

 

「いいのかしら? 貴女もあっちで一緒に旅をしたかったんじゃない?」

「良いんですよ、ボクはあの人達についていくには力不足過ぎます」

 

 みんなと旅をして、見ないようにしていた事実は、自分の能力の低さだった。修練で勉強した程度の事は、外の世界に出てしまえばだれでも当然持っているもので、それが優秀だからと言って、どうにかなるものじゃなかった。

 

「でも、いつか胸を張れるようになったら、また一緒に旅ができたらな、くらいには思ってますけどね、ふへへ……」

 

 せめて、守ってもらうだけのお荷物からは卒業しなきゃ、あの人達――白閃とは一緒に居られない。それに、ボクだけの譲れない物はまだ全然見つかりそうになかった。

 

「そう、でも……好きな人とはいつも一緒に居なきゃダメよ」

「うぇっ!?」

 

 思わず身体を跳ねさせる。その反応が答えになっていることに気付いて、ボクはそれ以上何も言わずに下を向いた。

 

「……どうしてわかったんですか?」

 

 彼女と一緒に居た時間はそんなに長くはない。それなら、バレてしまった理由が気になった。

 

「同じ匂いがしたから、かしら」

「匂い?」

「セラ! ようやく石塔が見えてきましたよ!」

 

 ボクが聞き返した時、ハヴェル枢機卿が偵察から戻ってきて、次の町が近い事を知らせてくれた。

 

「ええ、ありがとう」

 

 その時、ボクは彼女の顔を見て理解した。どうやらそういう事らしい。

 

 こっちについてきたことは失敗だったかな? 邪魔しちゃったみたいだし。ボクは皮肉を込めてそんな事を考えた。




 お読みいただきありがとうございます。思えば半年以上書いているので、ついて来てくれている方には感謝しかありませんね。

 さて、今回で別れてしまったティルシアですが、きっとどこかで再会することもあるでしょう。とりあえずは、お互いのやるべきことをやるという別れでした。

 そして、次回の話ですが、少し視点を変えた話を挟もうと思います。白閃もキサラたちもいない話ですが、きっと楽しんでいただけると思います。

 ではこれからも、見捨てずにお付き合いいただければと思いますので、よろしくお願いします。
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