俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~   作:これ書いてるの知られたら終わるナリ

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王女捜索3

「はあぁーー……」

 

 見つからない。

 

 案の定魔法研究所では見ていないと言われるし、そうなると手掛かりがなく八方塞がりだ。

 

 恐らく魔法研究所がある東地区にはいないだろう。シュバルツブルグの外には出ていないはずだから、探すのは南北西のうちどれか、さっきまでいた市場は南側にあることから、広場や闘技場のある西地区か、工場のある北地区と言う事になる。

 

「となると、北地区か」

 

 市場の人々がこそこそ話していたことを思い出す。確か工場の知り合いがどうとか言っていたはずだ。俺はどうにも頼りない手がかりを元に、北地区へ向けて足を進める。

 

 東地区を候補から外せたのは助かった。東地区は最も古く、道が入り組んでいて最も大きいからだ。

 

 魔法や兵器の研究開発をし、子供への教育等も行うイクス王国の心臓部である東地区は、シュバルツブルグの中心として機能している。

 

 シュバルツブルグの地図は、かなりいびつな形をしている。東側と中心部が丸々東地区となっており、白城(ディ・ヴァイス)もここに含まれている。

 

 そして、それに張り付くように、南西北に各々の地区がある。これは、東地区を中心として都市が形成された歴史と深いかかわりがあり、北と南側に市場と工場が配置されているのもそういう事だ。南から入ってきた素材を解析し、北からの魔物に対抗するための兵器として加工する。そういう形で発展してきたという訳だ。

 

「あ、リュクスおじさんだ!」

「おークソガキ、次おじさんって言ったら泣かすからな」

 

 失礼な子供に返事を返しつつ、俺は東地区を後にする。まだ二〇代前半だぞ、ギリギリ。

 

 

――

 

 

 ヴァントハイムを出てからは、乗り合い馬車を利用して離れた土地へ向かい、傭兵ギルドに登録を行う事にした。

 

 食い詰めた人間が最後に行きつく職業という事で、特に問題なく登録できるはずだ。

 

「そういや、ランハルト家の子息が御前試合でボコボコにされたらしいな」

 

 受付で登録するための書類を書いていると、傭兵たちの会話が耳に入ってきた。

 

「へえ、あのブラド様が? 相手はどんな奴なんだ?」

「なんでも、ランハルト家の遠縁にあたる養子らしいぞ」

 

 彼らの話に耳を傾けていると、どうやら俺のやらかした復讐の事を話しているらしい。覚悟していた事だが、うわさが拡がるのが早い。そして、その名無しの中で興味深い情報があった。

 

「で、ランハルト家の当主はそれにカンカンでさ、今逃げ回ってる遠縁の親戚に懸賞金を出して追いかけてるらしい」

「ふーん、遠縁の親戚ねえ、ゴリラみてぇな赤毛なのかね?」

「多分そうじゃねえの、ブラド様とシェリー様の容姿が奇跡だって言うくらいだし」

 

 それにしても、ランハルト家は面目丸つぶれだな。と言って、傭兵たちは笑い声をあげる。

 

 この時ばかりは、ランハルト家の特徴を一切引き継がなかった自分の生まれに感謝した。周囲が赤毛の筋肉ダルマを想像してくれるなら、対照的な姿の自分はかなり動きやすくなる。俺は安堵の息を零しながら、登録用紙に名前を記入することにする。

 

「……」

 

 名前の頭文字である「RY」の文字まで書いて、思い直す。追っ手を確実に撒くつもりなら、偽名を使うべきじゃないか?

 

 そう思って、俺はそこまで書いた名前の隣に取り消しの意味で「X」を記入する。しかし、偽名など今まで考えていなかった。あそこまで逃走経路を考えていたというのに、この体たらくは、あまりにもまぬけで俺は笑ってしまった。

 

「『RYX』……リュクス様ですね。登録承りました」

「えっ!? あっ――」

 

 手が止まったのを、書き終わったと判断されてしまい。俺は思わず声を上げる。しかし受付嬢は首を傾げ、何を意図しているのか分からないようだった。

 

「……はい、リュクスです」

 

 どうせ偽名など思いつかないのだ。もういっそこのまま通してしまおう。

 

 

――

 

 

「いいですか姫様、ヴィクトリア殿下も鬼じゃないんで言えば城下町に遊びにいく位は許してくれますから、勝手に抜け出すのはやめましょう。中庭の植え込みだって直すのに労力掛かるんですから……」

 

 姫様は今、俺の前で正座している。

 

 北地区の彫金工場で、楽しげに話しているところを何とか確保し、今はお説教の真っ最中というわけだ。

 

「うー……だってぇ」

「まあまあ、リュクスさん。そのくらいで」

 

 工場のおっさんに宥められて、俺は深くため息をつく。全く、憎まれ役は損だね、こりゃ。

 

「エリーちゃんも、君のためにお城を抜け出してきたんだ。あんまり怒るのはかわいそうだよ」

「俺のため?」

「あっ、おじさん!」

 

 俺が聞き返すと、姫様は慌てて言葉を遮った。おっさんも「しまった」みたいな顔をしてるし、白城の外に抜け出すのが俺のため……? 別に仕事はきつくないし、白城の外に出たいわけでもないんだがなあ。

 

「えっと……リュクス。そろそろ私に仕えて四年じゃない?」

「そんなになりますかね」

 

 そうなると、あのクソみたいな生活から五、六年経ってるのか、そう考えると、やっぱり姫様には頭が上がらないな。

 

「で、これ、プレゼントしようと思って」

 

 そう言って彼女が取り出したのは、兎と百合の意匠が刻まれた金属製のブローチだった。高そうなものには見えないし、言ってしまうとどこか不格好で、手作り感が溢れるものだった。

 

「へえ、手作りですか? 結構上手いじゃないですか姫様」

 

 ただ、市場の人々の話を聞くかぎり、これは彼女の手作りだろうという事は想像できた。

 

「でしょ? モチーフにも意味があってね、貴方が兎で、私が百合なの」

 

 俺が兎というのは、牙折兎の毛皮から取ったんだろう。しかし、王族の紋章と組み合わせるとは、文官連中に見せたら卒倒しそうなものを……

 

 イクス王家を継ぐ人間は、各々植物をモチーフにした印章を持っている。現国王は月桂樹で、妹君――ヴィクトリア殿下はアマリリスだったか、姫様の百合は先々代の女王と同じモチーフとなっていた。

 

「……どう? 気に入った?」

「ありがとうございます」

 

 勿論、彼女の厚意を無下にするわけにもいかないし、この印象が持つ意味なども教える必要はない。俺は彼女に仕え続けることが生きる意味なのだから。

 

「そっか、良かった! どうにかして今日中に渡したかったんだよね。ども、ビッキーにも協力をお願いしてたんだけど、タイミングが悪かったのかな」

 

 快活で太陽のような笑みを浮かべた彼女は、それでも納得していないように首をかしげた。

 

 恐らく、ヴィクトリア殿下は今の状況を予見して俺に指示をしたのだろう。姫様が今日渡したいと言ったから、絶対にオレが捕まるように指示をしたという訳だ。

 

「しかし、なんで今日なんです?」

「えっリュクス、今日が丁度私に仕えてくれるって誓ってくれた日でしょ?」

 

 姫様は、当り前のようにそう言って、俺の手にブローチを握らせる。

 

「はい、じゃあこれからもよろしくね」

 

 満面の笑みを浮かべる彼女に、俺は膝をついて礼をする。他になびく気もないが、やはり俺は彼女以外に仕えることなど考えられそうになかった。

 

 

――

 

 

 腹部の出血から、自分の生命そのものがこぼれ出ていく感覚がある。元同僚――刺客の剣が俺の脇腹に深々と刺さっていた。

 

「悪いな、何も生きて連れてこいとは言われていないからな」

 

 元同僚は俺を見下ろしながら冷静に告げる。俺の想定が甘かった。そう言わざるを得なかった。

 

 御前試合で大恥をかかされたからといって、なりふり構わず国境を越えてまで指名手配をするほど、執念深いとは思わなかった。

 

 名前も知らない大都市の、古びた路地の奥で、俺は命を終えようとしている。空は分厚い雪のように灰色をしていた。

 

「さて、俺はお前の首を刎ねてランカスト家に持ち帰るが、最後に言い残す事はあるか?」

「……小物がよ」

 

 俺相手に負けようとも、あの義兄なら名誉を回復することもできただろう。だが、それだけでは気が収まらないらしい。実力主義を謳うアバル帝国で、面子にこだわる貴族など、小物意外に何と形容すればいいのか分からない。

 

「へっ、俺もそう思うがな、金さえもらえりゃ相手がクソみてぇな小心者でも構わないって訳だ」

 

 結局のところ俺も、俺の母も、ランカスト家に踏みつけられて終わりか。せめて一発噛みつけただけでも良しとするか。自嘲気味に笑うと、俺は先程まで脇腹に刺さっていた剣が、頭上にふり上げられるのを静かに見ていた。

 

「待ちなさい!」

 

 その動きが止まったのは、幼い少女の声が威厳と自信に満ち溢れていたからだ。少なくとも、俺にはそう聞こえた。

 

「『私の街』で何を勝手にしてるの!?」

 

 刺客も俺も、突然現れた少女に呆気にとられていると、彼女はずかずかと歩いて来て、自信満々に胸を張った。

 

「……えーと、何だこのクソガ――」

 

 刺客が何かを言おうとして、言葉を切る。そしてその表情が驚愕に変わり、武器を落として平伏する。

 

「っ……申し訳ありません」

 

 その様子を見て、俺は気付く。少女の髪が青みがかっていることに。つまり、この方はイクス王家に連なる人――

 

 こいつも金は欲しいが王家に逆らうような度胸は無いらしい。

 

「姫様! 一人で歩いてはあぶのうございます!」

「姉さん。あんまり執事さんを困らせちゃ……あら?」

 

 ゴチャゴチャと人が増え始めた。先程までの生きるか死ぬかの土壇場は抜けたようだが、脇腹からは相変わらず生命が流失し続けていた。

 

「だってこの人が街中で剣を抜いて人を殺そうとしてるんだもん! ビッキー、こういう人って牢屋行きでしょ!?」

「し、しかし、俺は仕事で……」

「言い訳しないのっ!」

「どうでもいいけど姉さん。ほっとくとその人死ぬわよ」

 

 先程までの緊張感はどこへやら、俺はそんな言い合いを聞きながら、意識を手放した。

 

 

――

 

 

「姫様ー、妹君がお呼びですよー」

「はーい、今行くからちょっと待っててー」

 

 ノックをすると、珍しく姫様から返答が返ってきた。さすがに昨日の今日で、城を抜け出すような事はしないようだ。

 

「あっ、リュクスさん!」

「おー昨日の」

 

 昨日焼き菓子をくれた侍女が声を掛けてくれた。

 

「昨日のクッキー美味かったよ、ありがとう」

「ホントですか!? 作ってよかったです!」

「ホントホント、姫様も大絶賛」

 

 あまりに絶賛していたので姫様が八割くらい食ってたことは本人の名誉のために黙っておこう。

 

「え、あっ……ありがとうございました。じゃあ、また作りますね!」

 

 侍女はそれを聞いて少し気落ちしたように見えたが、俺は気付かない振りをする。仕事をする上で距離感は大事なのだ。

 

 さて、姫様はそろそろ出てきてもおかしく無い頃だが、準備に手間取っているらしい。

 

「姫様ー? まだですかー?」

 

 ……返事が返ってこない。

 

 嫌な予感がして、扉を開く。目の前には昨日と同じ光景が広がっていた。

 

「はぁー……」

 

 頭痛に頭を抑えつつ、窓の下を見ると角材で簡易的な足場が作られていた。昨日話したのはそういう事じゃないんだよなぁ……

 

 仕方ない。いつも通り窓とカーテンを閉めて、俺は城下町へ姫様を探しに行くことにした。

 

 実際の所、この日常は嫌いじゃないとは口が裂けても言えないな。




 お読みいただきありがとうございます。ちょっとバタバタしててペースが落ちました。

 さて、今回はちょっと箸休め的なお話を挟んだので、次からはようやく白閃一行の話に戻ります。

 もう少しで第二巻も終わりかな? 終わったらちょっと別作品書きたくなってきたので、区切りがついたところで更新やすみたいと思います。よろしくお願いします。
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