俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~ 作:これ書いてるの知られたら終わるナリ
「先客が起きたか」
俺は驚きも焦りもせず。淡々と事実を確認する。
「こんなところでうろついてるなんて、猟師か何かですかね?」
「さあな」
キサラの推測ももっともだが、俺はなんとなく違う気がしていた。なんというか、猟師の体格ではないし、それらしい道具も持っていなかったのだ。
「あれ、お前ら何してるんだ?」
俺を含めた全員が注視する中、もぞもぞと動いてロフトの手すりまで移動してきた青年は、呆けた声を俺たちに投げかける。
「外で雨が降っていてな、雨宿りさせて貰っている」
「ふーん……」
いまいち覇気のない青年の様子を見て、俺は息を漏らす。どうやら何か深刻な事情があるわけではなさそうだ。
「先客さーん。お邪魔してまーす」
キサラが茶化した風に挨拶すると、青年はいそいそとはしごを下りて俺たちの居る階まで降りてきた。
「センキャクじゃねえよ。ロットって名前があるんだ。それであんたらは……冒険者?」
「ああ、ヴァントハイムに向かう途中のな」
「ヴァントハイム!?」
ロットと名乗った少年にそう答えてやると、彼はその言葉で急に色めきだった。
「なあ、俺をヴァントハイムまで連れて行ってくれよ。闘技大会に出たいんだ」
「……」
掴みかからんばかりに距離を縮めてきたロットに面食らいつつ、キサラとヴァレリィに目配せをする。二人とも俺と同じ意見らしかった。
「無理だ」
「なんで!?」
「いや、そりゃあお金貰ってないからに決まってるじゃないっすか」
どこまでも前のめりなロットに、レンがたしなめるように声を掛ける。まあ理由は他にもあるが、先立つものはそれか。
「冒険者は金さえあれば大体何でもやるっすけど、タダ働きはまずやらないっすよ」
「ぐっ……お前らも金かよ……!」
「金だけじゃないな」
いらだちを隠せない彼に、俺は理由を追加する。
「頼みを聞けない理由は他に二つ。まずはお前の素性が全く分からない。そんな奴と旅をするのは御免だ。そしてもう一つは、闘技大会に出られる実力を持っていないことだ」
そう、先ほどから身のこなしを見るに、どう考えても素人としか思えない動きをしていた。戦いの経験もなく、ただ単に「できる」という無根拠な自信で突進しているような印象を受けた。
「なっ……なんだとぉ……っ!!」
俺の見立ては経験上九分九厘現実に即しているはずだ。だが――いや、だからこそか、実力不足を指摘されたロットは、俺に殴りかかってきた。
「白閃!」
ヴァレリィの声が聞こえたが、その時にはロットの拳は空を切り、バランスを崩した彼をしっかりと抱き留めた。
「……ふぅ」
「くそっ、離せ!」
ヴァレリィの安堵する声を聞きつつ、俺はロットを離してやる。
「分かったか?」
「ちっ……なんなんだよ、俺のやろうとすること全部邪魔されちまうのは!」
しゃがみ込んで悪態をつくロットに、俺とヴァレリィはため息をつくが、ただ一人、シエルだけが彼に歩み寄って声を掛けた。
「ねえ、どうして闘技大会に出たいの?」
ロットはシエルの方へ向き直り、続けて悪態をつこうとしたが、彼女のじゃ気のない瞳に毒気を抜かれてぽつりぽつりと話し始めた。
「実は――」
「はぁ……」
数分後、彼の話を聞き終わったヴァレリィは、頭痛をこらえるように重々しく息を吐いた。俺も同様にため息をつきたい気持ちだったが、それはなんとかこらえていた。
ロットは近くの村で暮らしているごく普通の人間で、村の生活に辟易してそこを飛び出したらしい。
飛び出したと言っても何か当てがあるわけでもなく、とりあえずヴァントハイムにまで行けば上手くいく、程度の認識しか持っておらず、このまま放置すれば野盗か何かに身をやつす未来しか見えなかった。
「とりあえず……こいつを村まで送っていくか」
俺はパーティメンバーの方を向いてそう言うと、小屋の窓から見える景色を確認する。どうやら雨も小康状態となり、しばらく待てば止みそうな雰囲気があった。
「お、おい! 俺の話を聞いてなかったのか!? 村にはもう戻りたくない!」
「しょうがないですねぇ……まあこのまま放置するのも気が引けますし、お兄さんに付き合いますか」
ロットの言葉は無視して、キサラを始めヴァレリィとレンは頷いてくれた。シエルはいまひとつ状況を理解して居なさそうだったが、俺たちの行動に反対する意思は無いようだ。
――
「ありがとう旅のお方、そして申し訳ない!」
キサラに狩人小屋の周囲を探らせれば、すぐにロットの住んでいる村は特定できた。俺たちはそこに彼を送り届けたところで、村長から彼の家でもてなしを受けている。
「構わない。旅のついでだ」
俺は村長に適当な返事をしつつ、会話をヴァレリィとレンに任せて、キサラの報告にあった周辺情報を吟味することにした。
まず、この村の立地としてはヴァントハイムとエルキ共和国の首都・ルクサスブルグ間を結ぶ主要な街道から外れたところにあり、あまり外界との接触が無いこと、そして地政学的にも重要ではないので国家からの干渉も少ないことが分かった。
ということはこの村は至極平和な村と言うことになる。これは静かに暮らすのならうってつけの場所だが、変化が乏しいため刺激の少ないつまらない村とも言える場所だった。一つ問題があるとすれば――
「ちっ、結局ここに逆戻りかよ……」
「ロット! お前はいつになったら真面目に仕事をするんだ? 小鬼の巣も結局お前がどうにかすると言ってからそのままではないか!」
不貞腐れた表情のロットに、村長は怒声を浴びせる。
「うるせえなぁ、俺にはあんな仕事ふさわしくねえんだよ!」
「何を言うか! お前が散々言うから任せた手前、冒険者ギルドへの依頼が遅れているというのに!」
言い争う村長とロットを一歩引いて眺めつつ、ちらりとキサラに目配せをする。
「……」
キサラからの返答は肯定だった。ということは、彼女が周囲の偵察で見つけた小鬼の巣らしき洞窟がそれなのだろう。
正直なところ、小鬼の駆除程度であれば、革等級や木等級の冒険者が手慣らしに受注するのが一般的だが……
「村長、その仕事、俺たちが請け負っても構わないか?」
「お前のようなふらふらとした――って、旅の方!? よろしいんですか?」
俺の提案に驚いたのは村長だけだった。キサラもヴァレリィも、レンやシエルも俺の言葉に驚いた様子も無かった。
「ああ、ただしこいつを連れて行く」
「えっ? 俺?」
ロットのことを指さして宣言すると、指さされた当人からは気の抜けた返事が返ってきた。
「何で俺が? お前らだけで充分だろ?」
「ああ、だからついてくるだけで構わない」
彼をついてこさせる理由は、言ってしまえば現実を見せるためだ。だが……見せたところで心を入れ替えたり成長したりするかは全く分からない。ただ、訓練も無く小鬼の巣に飛び込もうとしたり闘技大会に出場するなどという無謀なことは控えてくれるようになるはずだ。
「え、いやいや……いいよ、おれはその、畑仕事が――」
「何が畑仕事だ! 行積湯をつけてサボるくせに! ……旅の方、こいつの根性を鍛え直してくだされ、私からお願いさせていただこう」
言い訳をしようとしたロットの言葉を遮るように、村長は二つ返事で許可を出す。露骨に目が泳ぎ始めた彼に、俺は安心させようと声を掛ける。
「安心しろ、素人を危険にさらすようなことはしない」
そう言って俺はシエルに目配せをした。彼女は小さく頷くと、気合いを入れるように鼻息を荒くした。