俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~   作:これ書いてるの知られたら終わるナリ

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小鬼駆除3

 翌朝になって俺は、シエルとロットを連れて小鬼が営巣している洞窟の近くまで来ていた。巣となっている洞窟の入り口は崖下の割れ目が入り口になっていて、俺たちは崖上の高所から相手の戦力を確認する。見張りを立てており、共通する装飾を身につけていることから、上位の魔物がいるか、それなりに大規模な群れが形成されつつあることがうかがえた。

 

「とうさま、本当にロットさんを守るだけでいいの?」

「ああ、この程度であればすぐに片がつく」

 

 小鬼を率いるような上位の魔物は、大鬼(トロール)か雌小鬼(ゴブリンレディ)辺りか……ああ、それと赤小鬼(レッドキャップ)も警戒しておくに越したことはないか、発生初期の小規模な巣ならともかく、ここまで大きくなっては初心者のパーティでは荷が勝ちすぎるな。受けておいて正解だったかもしれない。キサラの目測以上の規模感に、俺は少し依頼への認識を改めた。

 

「お、おい……本当に三人だけで行くのかよ」

 

 いつ仕掛けるかタイミングを計っていると、ロットが微かに震えた声で訴えてきた。

 

「当然だ。巣は洞窟に作られている。狭い通路は大人数で戦うには適していないし、魔法も同士討ちの可能性が高くなる。進行方向に一人、背後を警戒する一人の少人数パーティがベストだ」

 

「で、でもよ、戦えない俺がいるんだし、もうちょっと……」

「ロットさん! わたしが守るから心配しないでね」

 

 彼の泣き言を黙殺しようかと思ったが、シエルが自信満々に自分の胸に当てて宣言したので、俺は彼女に返答を任せた。

 

「何にせよ、これが冒険者の仕事で、闘技大会に出るような奴はもっと研鑽を積んでいる可能性がある。自分がやろうとしていた事は本当に出来ることなのか、その目でしっかり判断しろ」

 

 何かを始めるのに遅すぎると言うことは無い。だが、俺と同じくらい生きてきて、未だに身の丈に合わない事を夢想するような輩には、希望を見いだせないというのが、正直なところだ。

 

「さて、シエル、行くぞ」

「はい、とうさま」

 

 シエルに声を掛け、俺は両手剣を覆うバンデージの留め金を外した。

 

 金属が爆ぜるような音と共にバンデージがばらけて、ダマスカス加工特有の波紋状酸化皮膜が施された刀身が露わになる。

 

「え、ちょっと待てよ。どうやって――」

「ロットさん、お口は閉じててね」

 

 崖上から崖下へ、崖を滑り降りるようにして俺が移動すると、シエルはロットを担ぎ上げて俺に続く。小さく見えていても神竜である。大人の一人や二人を担ぎ上げるくらいどうってこと無いはずだ。

 

「う、うわっ!? わぁっ!?」

 

 情けない声を上げるロットだったが、俺は彼に構うこと無く見張りの小鬼を二体、横一文字に切り裂いた。

 

「グギャッ!?」

「ゲベベッ!?」

 

 見張りに勘付かれて増援を呼ばれると面倒なことになる。巣内部の魔物はもちろん、巣から出て行動している小鬼達まで一斉に襲ってくる可能性があり、その場合かなりの物量戦をすることになる。魔物の巣を排除する場合は、可能な限り各個撃破が基本だ。

 

「このまま内部へ進むぞ」

「はい、とうさま」

 

 ロットを下ろしたシエルは、なんてことは無いようにそう答えた。

 

 

――

 

 

「ギャギャッ!」

「グギ、ギギャッ!」

 

 耳障りな鳴き声を上げて襲いかかる小鬼達を切り払いながら、俺は巣の中心部を目指して進んでいく。

 

「……うわっ!?」

「あまりぼーっとしていると、俺たちが守っているとは言え危ないぞ」

 

 俺がなんて事は無いように魔物を斬り倒す様子や、シエルが小鬼が振り回す棍棒やなまくらな武器を弾く姿を、ロットは口を半開きにして見ていた。

 

「わ、悪い。だけど……冒険者ってここまで出来るのか?」

 

 頭を抱えて防御姿勢を取る彼に、当然そうだという返答代わりに襲いかかってくる小鬼を切り捨てる。

 

 洞窟は天然の物を小鬼が手を入れて整備した物らしく、自然な岩肌に粗末な板と松明が打ち付けてある中に、手彫りらしき通路がアリの巣のように掘られていた。

 

 こういった形に営巣し、なおかつ小鬼達の量から言って、恐らくこの巣の主は――

 

「グゴガガガァッ……」

 

 そこまで考えたとき、通路の先にあるひときわ大きな空間から、下品なゲップのような鳴き声が響いてきた。

 

「っ……あ、あの声って……」

「雌小鬼だな」

 

 推測通りにその魔物が居て、俺は両手剣を握り直す。それと同時に頭から僅かに血の気が引いて、冷静さを保つように身体が反応する。

 

――雌小鬼

 

 小鬼は通常の場合、雄しか存在しないが時折雌の個体が誕生することがある。それが雌小鬼である。

 

 魔物学的には、赤小鬼と同じく小鬼の突然変異に分類されているが、雌小鬼の姿は通常の個体と大きく違っている。

 

「ゲェェ、ゴゥルル……」

 

 地面が揺れるような錯覚さえする。開けた空間の奥から鈍重な身体が一歩、二歩と進んでくる。

 

 小鬼と同じ緑色の肌、しかしその身体は醜く膨らんでただれたようになっており、手足と思しき場所には申し訳程度のぼろ切れがついていた。

 

「うげっ……なんだよ、あれ……」

「雌小鬼、銀等級の魔物だな」

 

 あからさまな嫌悪感を漏らすロットに、俺は努めて冷静に答える。

 

 雌小鬼は他にはない小鬼を産むという能力が備わっている。だからこそ強靱で巨大な体躯を持っていた。

 

「っ」

 

 俺はシエルにロットの安全を確保して貰いつつ、力強く踏み込んで雌小鬼との距離を詰める。

 

「グゴァァッ」

 

 それとほぼ同時に、雌小鬼は汚泥から腐敗ガスが湧き出すような声を出す。すると雌小鬼の腹が不格好に膨らみ、内側から小鬼が五体ほど飛び出してきた。

 

「ふっ」

 

 俺はそれを一息でなぎ払い。その切り返しで喉元を狙って切りつける。あまりに質量が違いすぎるため、一太刀で首を切断するほどの間合いに入り切れなかったのだ。

 

「ゴボボッ」

 

 切り口からは魔物の血液が迸り、それにまみれた小鬼達が更に飛び出してくる。

 

 それに両手剣を突き立てて、両手に力を込めて引き下ろす。避けた腹部と喉元の傷が繋がり、おびただしい量の返り血と小鬼の残骸が飛び散った。

 

「ガボッ、ゴボッ」

 

 しかし雌小鬼は絶命しない。この特殊個体は、死なないと言うことに特化しており、頭を潰す以外の方法では生命活動を停止させることは出来ないのだ。

 

「しぃっ!」

 

 返り血や臓物を口に入れないよう小さく開いた口から鋭く息を吐き、俺は引き寄せた両手剣を再び雌小鬼へとたたき込み、その脳天を両断した。

 

 

――

 

 

 べっとりとついた血糊を軽く振って払うと、俺は改めて周囲の安全を確認する。

 

「うっぷ……お、終わったのか?」

 

 ロットは青い顔をしている。初めて見る魔物との戦闘……しかも雌小鬼という一際醜悪な魔物を見たのだ。この反応は無理もないだろう。

 

 これを見て、冒険者になろうなんて無謀な考えはやめてくれるとありがたいが……

 

「ロットさん、大丈夫?」

「あ、ああ……まさか村の近くでも、こんな凄い物が見れるなんて……なあ、俺をあんた達の旅に連れてってくれよ」

 

 この程度で懲りるわけが無い、か。

 

「ピギュー」

 

 どうしたものか、そう考えていると、小さな鳴き声が聞こえた。

 

 視線を向けると小鬼の幼体が雌小鬼の死骸から這い出してきており、この世に生まれ落ちた最初の声を上げていた。

 

「あっ……」

「まだ残っていたか」

 

 俺は何の感慨も感傷もなく、ただ両手剣を振って小鬼の頭を潰す。ぶよぶよとした肉の感触の中に、骨を砕く手応えが返ってくる。

 

「これで終わりか、シエル、帰るぞ」

「はい、とうさま」

 

 シエルに声を掛けると、彼女は小鬼の死骸を避けて駆け寄ってくる。当然シエルもうち漏らしの警戒は怠らない。

 

「ちょ、ちょっと待てよ……」

 

 そんな俺たちをロットは呼び止める。振り返ると、彼は膝とがくがくと震わせていた。

 

「なんであんな小さい子供まで……」

「何を言っている。当然だろう」

 

 小鬼は繁殖力が強く、人間が暮らす領域に近い場所では一匹残すだけでも問題となる場合がほとんどだ。

 

 なにせ生き残りは「人間に殺され掛けた」という記憶が残るのだ。当然そんな物を生かしておく道理などない。

 

「ロットさん。大丈夫?」

 

 シエルが青い顔をしたロットに歩み寄る。先ほどまでの戦闘では、ギリギリで折れていなかった好奇心が、幼体を殺したことで最後の一押しがされてしまった。というところだろうか。

 

「……生きていくとは、こういうことだ。冒険者も闘技大会も、こういう正義だとか、華々しいとかの言葉から遠い事を経験して、それでも前を向いている。依頼なら何でもやる。それが冒険者だ」

 

 少しだけ、ロットに俺たちの現実を語ってやる。こんな地味で汚れた仕事も当然あるからこそ、冒険者は「誰でもなれる最後の職業」なのだ。村に住んでいて、叱ってくれる人間がいる。それだけでも、冒険者よりも何倍もマシなのだ。

 

「そこで立っていても仕方ないだろう。ロット」

 

 俺は彼にある下すよう促すと、先導しつつ村へと戻る道を歩き始めた。

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