俺は基本ソロの剣士なんだが、自称凄腕の盗賊とバディを組まされている。~お兄さんってぇ、陰キャのぼっちですよねぇ~ 作:これ書いてるの知られたら終わるナリ
地図で示された場所は、昨日の依頼が出された集落から、すこし離れた位置にある崖の下だった。
「ふっ……!」
短く息を吐き、数体の豚鬼をまとめて両断する。キサラの方も的確に急所を突くことで豚鬼の数を減らしている。
地図で示された場所へ向かった俺たちが見たのは、崖を背にして囲まれ、動けなくなったロウエン達だった。
近郊の衛星集落からは引き離すことはできたものの、物量に負けて身動きが取れなくなった。というところだろうか。
「あ、あんたは……」
「動ける奴は何人いる」
彼らの場所まで豚鬼を薙ぎ払いつつ到着し、彼らを守るように両手剣を構える。地図でも確認したが、警戒すべき方角の少ない崖下を選んで、逃げ込んでくれたのはありがたかった。囲まれていたのは三人、装備からして魔法使いと剣士、そして弓手――ロウエンだ。確か以前見た時にはあと二人いた筈だが、はぐれたかもう死んでいるか……確認するのは後だな。
「ぅ……」
「矢は尽きた。魔力の残りも少ない……剣士は――」
「俺は……まだ、動ける」
周囲を牽制しつつ、魔法使いと剣士を見ると満身創痍という言葉を、そのまま形にしたような姿をしていた。魔法使いは魔力切れによる昏睡状態で、剣士は壊れかけた鎧の隙間から、大量の血を流して青い顔をしていた。
「全員動けないな」
腹部に受けた傷の様子を見るに、失血もかなりの量であるし、体力的にも限界だろう。攻撃手段の尽きた二人を守るために無理をしすぎたな。
俺は収納鞄から回復用スクロールと回復薬をあるだけ出してロウエンに渡す。
「消費期限の近い薬だ。遠慮なく使え」
気に入らない奴らではあるが、キサラが助けると言った手前、俺はこいつらを助ける。それは決定事項だった。
「待てっ、おれはまだ……」
「おい、補助武器も持ってきていないお前」
なおも立ち上がろうとする剣士を一瞥して、ロウエンに声をかける。剣士がここまで無理をする羽目になったのはこいつの責任が多少なりともあるのだ。
「っ……」
「最低限、二人を守れよ」
敵の数を減らし続けているキサラに倣って、俺は両手剣を構えなおした。
――
防衛戦は日没には終わり、町にはほとんど被害を出さずに済んだ。ロウエン達のパーティも、犠牲者を出したわけではなく、単純にはぐれただけだったそうだ。
俺は事務処理を済ませた後、明日装備品の補充をするリストと、両手剣の手入れを部屋で行っていた。
砥ぎを入れる必要はないが、血糊や油を取り除かなければ、ダマスカス加工とは言え劣化を速めてしまう事もある。濡らしたボロ布で汚れを落とした後に、全体に油を差していく。これを買って以降、研ぎなおしをしたことは無い。規格外の丈夫さを持っているからこそ、俺はこれに全幅の信頼を置いている。
「……よし」
魔法灯の灯りを頼りに刀身を観察し、問題が無いのを確認して革製のバンデージで巻いていく、この町でやる事はある程度済ませたし、そろそろ次の集落へ向かう頃合か。
両手剣を立てかけると、俺はベッドに腰掛ける。隣のベッドにはキサラはいなかった。
――じゃあ、ワタシは元パーティのみなさんとはなしてくるんでぇ。
そう言って別れたのは、事務仕事に取り掛かる前だった。討伐証明をほとんどとってこなかったので、作業が面倒なことこの上なかったが、武器の手入れを終えても帰ってこないのは、すこし遅すぎるような気もする。
「はぁー、お兄さんおつかれさまでぇす」
様子を見に行こうか迷っていると、部屋の扉が開かれて、キサラが戻ってきた。その姿はいつも通りで、会いたくなかったであろう元メンバーと会ってきたようには思えなかった。
「遅かったな」
「ま、散々引き止められましたからねぇ」
問いかけに応えつつ、キサラはベッドに飛び込んで枕を抱き寄せる。
「でもワタシはあいつらと違って金等級になりましたし? つり合いが取れませんよねぇ、みたいな?」
「……そうか」
強がっているのか、それとも本当にそう思っているのか、判断がつかない。なので、彼女の話には相槌だけうつことにした。
「いやあ、でもいい気分でしたよ、ワタシが凄腕の盗賊になってる間にあいつらは銀等級で燻ぶってたんですから」
くすくすと笑いを零す。俺は彼女を咎める訳でもなく、話しをじっと聞いていた。
彼女はそのまま、堰を切ったように話を続ける。彼らから感謝され、そして追放したことを謝られた事。復帰を打診されたが、断った事。そして――
「あとロウエン……あ、あっちのリーダーなんですけど、お兄さんに謝ってましたね」
「そうか」
顔を出さないのはどういうことだ。と怒りたい気持ちもないわけではなかったが、相手もあれだけ助けられて合わせる顔も無いだろう。俺も鬼ではないので、追及はしないでやる事にした。
「それで……えっとですね」
話を聞き続けるうち、キサラは徐々に言葉数が減っていく。
「……あの、お兄さん」
言葉が途切れたタイミングで、彼女は起き上がり、俺に向かい合ってこちらを見た。
「私、迷ったんですけど……お兄さんと一緒に行きます。きっと、あっちに戻ったら、またいつか、追放される気がするんで」
「そうか」
まあ、古巣に戻ると言い出したら、ロウエンの所に行って釘を刺すところだった。それをしなくていいのは面倒がなくていい。
「ちょっとお兄さん聞いてます? ワタシが何言っても『そうか』しか返さないじゃな――」
ビキニトップのひもを引っ張る。簡単にズレた。
「ぎゃあああああああああああ!!!! いきなり何ですか!? 折角人が真剣に話してるのに!!!」
「いや、無事に済んでよかったなと思っていつものを」
「まあちょっと『いつもの』感があるのは否定しませんけど!!」
これからもよろしくな。とは言わないでおいた。
これで一区切り、次のお話が浮かんだころにまたお会いしましょう。