科学の世界にチートはいらない   作:マンガン電池

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科学の世界にチートはいらない

 俺は今、真っ暗な空間の中にいた。

 

 指先一つ動かせない永劫の闇。周囲のことは愚か、自分がどこにいるのかすらわからない絶望的なこの状況。俺は、生まれてこの方感じたことのないような焦燥感に襲われていた。

 

 さて、そんな俺の名前は相良 夜一(よいち)。どこにでもいるただの男子高校生だが、一つ他の人とは違うところがある。

 

 まあもったいぶる必要は無いだろうから明かすが、俺は転生者だ。ある日突然心臓の痛みに倒れ、神様に出会い死んだことを知らされた。で、神様は道楽として俺をチートをもたせた上で転生させることに決め、俺は俺の意思関係なくこの世界にぶっこまれた。

 

 異世界に転生させられると聞いて、俺は一体どんなファンタジーな世界に行くことになるのかと戦々恐々としていたわけだがーーーー蓋を開ければそこは科学の世界だった。それも、俺が以前まで生きていた世界と違いなど無い、平穏そのものの日本だった。

 

 俺は素直に喜んだ。何がファンタジーだ、平穏バンザイ、科学バンザイ、と心のなかで喝采したほどだ。

 

 だが問題はあった。それはチートについてだ。俺のチートはなんと念動力…手で触れずに物を動かすことのできるというものだったのだ。創作物で言えばモブサイコ100に近いだろうか。物を動かす、バリアを張るなどはもちろんの事、衝撃波を生み出してふっ飛ばしたり、岩程度のものなら軽く持ち上げられる。

 

 当然、こんな何の変哲もない世界でそんな物を使えば即座に見世物orモルモット確定だ。俺はチートを使わないように、自分を締め付ける人生を送ることになった。

 

 なにせ、この念動力、つい無意識に使ってしまう程に手に馴染みまくるのである。

 

 気がつけばリモコンをひょいと引き寄せたり、コケて頭を打ちそうになった時についついバリアを張ってしまったりと、不自然な程に俺の身体は念動力に慣れすぎてしまっている。多分神の仕業なのだが、迷惑以外の何物でもない。そして間違いないが、これは親切心ではない。俺がボロを出すのを期待しているのだ。俺の出会った神はそういう存在だった。

 

 ま、とは言えだ。問題というべき問題はそれだけ。一般的な家庭に生まれたし、特に何の病気にもかかることなく生活できている。その上今のところは誰にも、それこそ親にも念動力の事はバレていないし、俺は自分で思ったよりも順調に生きていくことができていた。

 

 というか、やはり科学のあるこの世界は最高だ。漫画やアニメも最高だし、ゲームして過ごす休日の充実感と言ったら無い。学生の特権である勉学と趣味の時間を、俺は全力で楽しんでいたのである。

 

 そう、楽しんでいたのだ。

 

 ある日のことである。特に何の変哲もない、ただの平日だったはずだ。

 

 突如として、緑色の謎の光が空一面を包み隠した。それは最初波のように空を行き渡り、そしてすぐに重量さえ感じるほどの光量を持って俺たち全員を包み込みーーーー俺は、石化した。

 

 そう、石化である。俺は完全に石化した。何故か意識は残っているが、石化する寸前に自分の体が石となっていく所をしっかりと見たのだ。

 

 だが問題はそこではない。いやさ、石化というのも衝撃的な事件ではあるのだが、それ以上に衝撃的な事実が発覚してしまったのである。

 

 信じられないかもしれないが、この現象に俺は覚えがあった。と言ってもそれは創作物の一つだったし、もう十数年前の事で、漫画を1巻しか読んでいないのでほとんどおぼえていないのだが。

 

 それは、前世で人気になった科学と未知の物語。『Dr.ストーン』と呼ばれる物語で語られる現象だった。

 

 Dr.ストーン…通称ドクストは、突如として世界中の人間が石化してしまい、そのまま3000年以上経過して文明が影も形もないほどに滅びてしまった世界で、蘇った科学使いの千空と呼ばれる少年が全人類を救う為に科学を駆使して石化の謎に迫る…という、とてつもなく壮大なSF漫画及びアニメなのだ。

 

 …と知ったふうな口を聞いたが、先程も言った通り俺は原作知識をほとんど失っている。主人公の名前と粗筋くらいしか思い出せないのである。前世越しの10年以上前の記憶など、記憶力が一般人以下の俺にとってはこんなものだった。

 

 そのことを踏まえて現在の状況を振り返って見るが…俺の絶望がおわかりいただけるだろうか。

 

 まず、石化状態から元に戻る為のは絶望的だ。何か奇跡的な条件が重なってやっと石化状態が解けるような設定だったはず。それだけは覚えている。

 

 で、その奇跡的な条件の一つで俺が覚えているのが『3000年以上、思考を止めないこと』。不可能にしか思えないがこれがマジなのである。

 

 実際、主人公の千空は季節を知るために正確に秒数を数えることで3000年間思考を止めなかったし、その友人である体力担当の男は好きな相手への思いを支えに同じように思考を止めなかった。

 

 はっきり言おう。化け物であると。こんな闇の世界で3000年間意識を保ち続けて壊れない精神ってそれもう人間超えてるから。少なくとも俺は絶対ムリだ。

 

 その上、もし思考を止めず、他の条件が奇跡的にクリアできたとしても、もし起きるタイミング…時期がズレてしまったら目も当てられないことになる。

 

 というのも、主人公が石化状態から復活するのは3000年後のことだ。もしそれ以前で目を覚ましてしまったらどうなるだろうか。ここまで規模のでかい話なのだ、近くても10年、50年…100年も違えば、俺は自然溢れる科学のかの字もない世界に一人放り出されることとなる訳だ。

 

 更に追加で絶望要素が入る。というのも、石化状態の人間は普通に砕ける。そして砕けた後は石化状態が解除されても死んだ状態で復活してしまうという恐怖の設定が存在する。

 

 つまり、3000年以上俺という石像が砕けない、もしくは地下深くに埋もれない、というのが条件に入ってくるわけだ。

 

 地殻変動、土砂崩れなどの土地の変化…俺の身体は果たして最後まで保ってくれるのだろうか。不安しか無い。

 

(…あ、ヤバい。もう限界っぽい…)

 

 と、ここまで延々とこの暗闇の中思考するだけで過ごしてきた。1日経過したのか、それともまだ数時間しか経過していないのか。とにかく、俺の中では人生で一番長く感じた時間だった。だが、それも眠気が襲ってきた時点で終わりを告げようとしていた。

 

(クソ、神め…滅びろ…)

 

 俺は最後に神を呪った。こんな世界に何の説明もなく押し込んだ神を心底恨んだ。八つ当たりとかも大量に混ざっていたが、俺の怒りは真っ当なはずだ。

 

 そして、俺はそんな呪いの言葉を最後に、意識を失わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

(…おっと、また寝てた…)

 

 …あれから、5度目の起床だ。

 

 どうやら俺、この暗闇の世界で永遠に意識を失うということができないらしい。眠気が来て眠る事はできるのだが、その後必ずといっていいほど起きることになる。

 

 詳しい理由ははっきりしていないが、見当は付いている。こういう人とはちょっと違う何かが起きた場合は、チートが原因だと相場が決まっているのである。

 

 俺には、空間把握能力が他の人よりも異様に高く、野球とかで百発百中でホームランを打てるという謎の才能があったりするのだが、それも念動力の所為だった。どうやら念動力を動かす為に空間把握能力が必要らしく、俺はその分野が他の人間よりも発達しているようだったのだ。

 

 翻って、この謎の起床もチートが原因である可能性が大。むしろそれ以外に選択肢が無いとも言う。

 

 問題はこの強制的な起床が、一体どのような周期で行われているのかということだ。もしこれが1日毎で、ドキッ、強制3000年間意識を保ち続けようのコーナー!みたいなことが起きたら、ぶっちゃけ俺は最後まで精神を保っていられるか分からない。

 

 むしろ数年も立たない内に精神崩壊する自信が俺にはある。俺の精神力は主人公程強固ではないのだ。

 

 というか、現時点で正直絶望感がヤバいというか…って、あれ?

 

 違和感を感じ、俺はすぐに黙った。いやさ、石化された状態で黙ったというのも変な話だが、とにかく何も考えずに感じた違和感に全神経を集中させた。

 

 その時だ。

 

 ピシ、バシッ…という、何かが割れるような音が耳朶に飛び込んできたのである。

 

 そう、耳だ。俺は久しぶりに音を聞いた。その実感は俺の中をすぐに行き渡り、まるで枯れた草に水をやるような、清々しい開放感に包まれる。

 

「ぅ…おおおおおおおお!」

 

 全身に力を入れる。戻れと強く念じる。この暗闇から俺を開放しろと咆哮を上げる。

 

 そして、ついにその瞬間は訪れた。バキッ、という一際大きな破砕音が響き渡り、俺はガバっと身体を持ち上げていたのだ。

 

「うおおおおおおお、解けたああああああ!」

 

 石の破片と水滴が宙を舞う中、俺は新鮮な空気を目一杯吸ってそう叫んだ。まばゆい景色が視界いっぱいに広がる。

 

 鳥が飛び去る音がする。それはしばらく騒がしく木々を揺らしたが、すぐに収まり、後は風に葉を擦らせて穏やかな葉なりの音を奏でていた。

 

「って、冷たっ!」

 

 次に感じたのは、冷たさだ。

 

 バシャン、と手のひらが水に濡れる。というか、尻も冷たい。見てみると、どうやら浅い小川の中で俺は目を覚ましたらしい。

 

 慌てて立ち上がり、俺は周囲を見渡す。

 

「…森、だな。人工物は一つもなし、か…」

 

 少なくとも、文明が姿かたちもなくなる程度には俺は寝ていたらしい。

 

「気温はだいたい春くらいか?ちょっと肌寒いな…」

 

 俺は近くの木に巻き付いていた蔦を念動力で引き剥がし、自分の腰に巻く。

 

 やはり、文明は消え去ってしまっているようだ。開放感が徐々に現実に飲み込まれていく。吾を取り戻して冷静になったとも言う。

 

 どうやら俺は、この石の世界で一人で生きていかなければならないらしい。

 

「…戻れたのは嬉しいが…これからどうしようかね…」

 

 裸一貫で森の中。石化状態の時とはまた違ったベクトルで絶望的な状況に、俺は深い深い溜め息を吐き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

○日目

 

 

 あれから3週間が経過し、やっと生活基盤作成が一段落付いたのもあり、ちょうど切りも良いので日記をつけることにした。

 

 紙もないのに日記とか何言ってんだ、とか突っ込まれるかもしれないが、実はこの日記は俺の念動力を使って作っているものなのだ。俺の念動力は記録媒体にもなるらしく、自分が思ったことや覚えていたいことを書き込むと後から閲覧することが可能なのである。

 

 以前までの使い道と言ったらゲームの際の攻略だったり、お使いのメモ代わりだったりくらいだ。学校の試験とかで使うのはズルい気がしたのと、結果が数字として出てくるため疑われることも危惧して使えなかった。

 

 とは言えもうここは石の世界…人の目を気にしないで良い為、使えるものは全部使う所存だ。

 

 さて、この3週間で俺が何をしたのかをまず説明するとしよう。

 

 まず衣食住の確保。俺が最初に手を出したのは住だった。

 

 といっても適当に洞穴を見つけてそこを住処とするよう決めたくらいだ。ちょっと先客でクマがいたりしてゴタゴタがあったものの、そこは弱肉強食の掟に従ってもらった。後は掃除をして、そこに取ってきた木材を持ってきて壁を作ったり入り口を作ったりと改良を加えた。

 

 ここではっきり分かったのは念動力は最高だという事実だった。どれだけ重たいものでも軽く持ち上げることができる為、今まで使ってこなかった分も合わせてとても便利に感じる。むしろ、これが本当の俺だったのかと自分で自分に驚いたくらいだ。

 

 更に生体バリアが常時体を覆っているらしく、虫刺されも無い。思えば今生は生まれてこの方蚊に刺されたことが一度もなかったが、そういうことだったのか。

 

 次に食。と言ってもこっちも念動力様様と言った感じだった。魚でも鳥でも簡単に捕まえることができるのだ。食に困ることは早々無いだろう。

 

 だが、同時にこのチートの弱点も見つかった。どうやら俺の念動力、射程が存在するらしい。俺を中心に半径20mくらいの範囲。しかも俺から遠ければ遠いほど力が入り辛くなり、重たいものを持ち上げる時は近いものを持ち上げる時よりもずっとエネルギーが必要となるようだ。

 

 それに加えて、念動力の限界も当然のようにあった。筋肉を酷使すれば脱力感に襲われるように、念動力でもずっと作業を続けていれば疲労感を感じるらしい。これもまあ当然と言えば当然な話で、無限に使える力など存在するはずもない。しかも次の日になると筋肉痛っぽい痛みもあった為そこも筋肉と同じなようだ。ということは念動力も筋肉と同じく成長するということなのだろうか。要検証である。

 

 その上、最大の弱点がもう一つある。俺の念動力は生命体に長く触れていると力を失うのである。まるで力を吸い上げられているかのように脱力してしまうのだ。魚等の小さな生命は大丈夫だが、クマほどともなると3秒保たない。原因は不明だが、何かメカニズムがある気がする。

 

 で、最後の衣に関してなのだが…正直に白状するが、俺はサバイバルのプロではない。唯一ある経験値といえばサバイバル漫画を読んだりサバイバル動画をぼーっと眺めたりした位のもの。毛皮は取れど毛皮の鞣し方も服の作り方も知らない。

 

 更に付け加えるなら鳥や鹿の血抜きの仕方も捌き方も知らない為、実は食の方も果物か魚が中心だったりする。魚は内臓を取れば食べられるくらいは知っているので、それでなんとかしている状態だ。

 

 火は念動力を頑張って圧縮したら火花くらいは出せる為、それでなんとかしている。

 

 そんな感じで最低限の生活基盤は整ってきたわけだが…正直状況はかなり不味い。病気にでもかかったら一巻の終わりな状況なのだ。少しずつでも生活の質を上げていかなければならない。

 

 とは言え、頭で分かっていても知識がないのでどうすることもできないというのが現状だ。こんなことになると分かっていたら念動フォルダに知識を書き込みまくっていたのに、神がにくい。

 

 

 

△日目

 

 前回の日記から更に一週間が経過した。あいも変わらず俺は魚生活を送っている。他にもベッドや椅子など簡単なDIYに挑戦したり、粘土をこねて焼いては皿を作ろうと試行錯誤を続けているが、ぶっちゃけ全部結果は芳しくない。釘を使わないモノづくり等知識は一つもないし、皿を作る知識もない。だが一歩ずつ前に進まなければ同しようもない状況であることは変わらないため、文句を言う前に行動するのが最善のはずだ。

 

 だが、その前に一点。今日は大事件が起きた。

 

 と言うのもだ、人間がいた。その上チートを使っている所を見られた。

 

 まず人間がまだ存在していたという所から予想外過ぎて頭が追いついていない状況なのだが、俺は今日たしかに人間を見た。

 

 しかもちゃんと服を着ていたし、靴らしくものも見えた。少なくとも今の俺よりもずっと文化的な暮らしをしていることは間違いない。

 

 何が起きたか一つずつ説明しよう。

 

 まず、俺は周囲の地形と資源を把握するために森を散策していた。目当ては果物やどんぐりと言った魚以外の食物と粘土だ。キノコは手を出すには怖すぎるためスルー。俺は念動力で脳内マッピングしながら大自然のパノラマの中を進んでいった。

 

 だが、その呑気な姿はどうやら彼らにとっては絶好の狩りのチャンスに見えたらしい。具体的に何が起きたかというと、野犬の群れに襲われたのだ。

 

 恐らく人間がペットとして買っていた犬の子孫なのだろう。完全に野生化したそいつらは統率の取れた動きで俺を瞬く間に包囲し、襲いかかってきた。

 

 ぶっちゃけ怖すぎてチビッた。だが俺はあいにく普通の人間ではなくチートを持った転生者だ。無益な殺生はしたくなかったが、簡単な威嚇では引かなかったため、襲いかかってきた犬の一体を念動力で吹き飛ばし、それを見せしめにした。すると群れは俺…というか、俺の持つチートに恐れをなして逃げ出していき、なんとか難を逃れることに成功したのだ。

 

 で、ここで事件が起きた。近くの茂みから、ガサッと音がしたのだ。そちらの方を見ると、黒髪の少年が腰を抜かした状態でそこにいた。俺はその姿を見て思考が停止した。なにせいないと思っていた自分以外の人間がそこにいたのだ。

 

 だが、俺がなにか声をかける前に、そいつは俺と目と目があった瞬間に駆け出していってしまった。『やべええええええええ!?』とか言いながら。

 

 やべえ?今日本語喋ったのか?そんな疑問が頭を過ぎ去って、俺は何がなにやらわからないままぽつんと一人置いていかれてしまったのだった。

 

 というのが今日のあらましというわけだった。うん、完全にやらかした。油断していた…というか、野犬の群れに襲われて冷静さを欠いていたのだろう。念動力で生命感知すれば一発でそこになにかいるくらいはわかっただろうに、俺はあろうことかそうするのを忘れてしまっていたのである。

 

 もし彼の逃げた先に彼の集落があったら、それが一番やばい。なにせ俺は人類にとって完全なる異端の存在だ。運が悪い方に転がれば、もしかしたら全面戦争ってことになるかもしれない。

 

 まあそうなっても逃げればいいだけなのだろうが、今いる住処はやっとの思いで作り上げた俺の力作だ。手放すには惜しすぎる。

 

 なんとか話し合いで済ませたいものだが…そもそも、言葉が通じるのかどうか。

 

 本当、石の世界になってから綱渡りしている感覚がずっと抜けない。将来のことを思うと不安で仕方がない毎日である。

 

 

 

■日目

 

 第一村人発見事件つあった次の日。毎日の日課で川に魚を取りに来たところ、昨日見かけた黒髪の少年がそこにいた。

 

『おぅおぅおぅ!俺は天才妖術使いのクロム様だ!謎の妖術使い、俺と妖術で勝負しな!』

 

 驚く俺にそう啖呵を切った少年…クロムは、脇に抱えた壺の水に手を突っ込んで指を丸くして、そこに息を吹きかけた。するとシャボン玉がいくつも出てきたではないか。

 

 どうやら彼にとって、俺は妖術使いらしい。しかも凄腕のヤバいヤツ扱いだ。…いやまあチート持ってる転生者なんて普通の人から見たら正しく異常そのものだろう事は認めるが、まさかそんなヤツ相手に単身乗り込んできて勝負かましてくるとか。これには俺も予想外過ぎて呆然としてしまった。

 

 で、自分もまた妖術使いだと言っていたクロムだが、その中身はほぼ小中学校で習う理科の授業のようなものばかりだった。

 

 木炭のアクで石鹸みたいな泡が作れるのは知らなかったが、火に色々とぶち込んで色を替える変色反応くらいは知っている。他にも硫黄のボールで静電気を起こしたりと、石の世界に来てから久しく見る科学的なそれらに俺は年甲斐もなく目を輝かせてしまった。

 

 なにせこいつの住んでいる村は話を聞く限りでは原始的な集落らしいが、その中で独学でこうした知識をつけてきたというのだ。何でも試して何でも記録して、そうして少しずつ発見していったらしい。天才とはこういうやつのことを言うのではないだろうか。

 

 ちなみに妖術勝負とやらは引き分け…というか、そもそも俺の力はクロムの言う妖術とは別のものだと説明することでなあなあとなった。相手も俺のことを謎のヤベエ妖術使いから、話ができる相手に格上げされたらしく、そこからは普通に会話をすることとなった。

 

 といっても殆どは俺の今の状況を教えたり、気になったことをクロムに質問するだけの時間が過ぎていったが。俺が石像から戻ったというとクロムは目を丸くして『やべえええ!あれ本物の人間なのかよ!?』と騒ぎまくっていた。石像の人間はみんな俺と同じ能力を使えると勘違いしたクロムの誤解を解くのに少し時間がかかったりもした。

 

 後は俺がチートをずっと隠して生きてきたことや、今は一人でサバイバル生活していることを教えたり、逆にクロムが幼なじみのために妖術使いになったことや森にはよく探検に来る事、すっげえでっけえ洞窟があることを教えてもらったりした。

 

 そうしていると、急にクロムが、

 

『おぅヨイチ、だったらお前をクロム探検隊に入れてやってもいいぜ!』

 

 と誘いをかけてきた。俺の念動力で手伝ってほしいことがあるらしく、その見返りに生きていく術を教えてくれるらしい。

 

 願ってもないことだったので二つ返事を返した。だが条件付きだ。といっても俺のチートについてはあまり言いふらさないでほしいってだけなのだが、クロムはこれを快諾してくれた。

 

 という訳で明日からは生活がガラッと変わりそうだ。クロムから服も貰ったし、鳥の捌き方も教えてもらったしで生活の質は確実に上がっていくことだろう。

 

 ただ、集落自体は外からの人間は完全に拒絶しているらしく近づかないほうが良いらしい。とは言えクロムという協力者を得られただけでも俺にとって千金に値する縁だ。大切にしていこうと思う。

 

 

 

 

 

☆日目

 

 チート転生者の俺と天才妖術使いのクロムでタッグを組むようになって、ちょうど1年ちょっとが経過した。

 

 家も新しく作って、今はクロムの拠点みたいな感じでツリーハウスに住んでいる。畑も始めたし、服もクロム経由ではあるが狩りの成果と引き換えに村から物々交換できるようにもなり、衣食住に関しては完全にクリア。生活がなんとか安定してきた。

 

 クロム探検隊も念動力のお陰で行ける場所が増えたらしく順調だ。最近ではクロムの拠点に入り切らなくなった為俺の家にも倉庫を作ってそちらにもおいていたりする。

 

 クロム以外にも、門番のギンロウと話したり、クロムと同じくよく外に出ては姉のために温泉を汲みに行くコハクという少女と話すようになったりして、割りと充実した日々を送っていた、のだが。

 

 今日、また事件が起きた。

 

 何でも村に変なやつが来たらしい。毛先が緑かかった白髪の少年で、クロムよりも頭が切れるヤベエやつだとか。

 

 

 

 …あれ?それ、主人公じゃね?ボブは訝しんだ。

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