「(幼馴染を恋愛的に見るのは)いやーきついでしょ」と言ったオリ主が幼馴染達に娶られるまで後…   作:ネマ

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お久しぶりです。
今回ですね。なんと25日…ついさっきに見た劇場版プロセカの舞台挨拶verを見まして、これは書かなくてはならない!と思ったので映画館から帰ってきて今まで書いていたのを投稿です。

いやぁ、よかったですね。舞台挨拶ver。私は小会場からライブビューイングで見ませてもらいましたが
あまりどこまで語っていいものか分からないので大分ボカしますが、やはりプロセカの映画は…最高やな!
もう見たのが9、10回目になりますがやっぱり泣かされました。ミクチャンカワイイヤッター‼︎

もちろんその後のアフライもなんか少し振り付けとか曲のパート分けを変えてたのかな?
新鮮でとっても良かったです。レオニのSTORYもいいけどファイアダンスも好きなんだ

後はですね。何と言っても舞台挨拶。私がレオニにハマることになった曲を書いた伝説のあの方が登壇されましてもう感激の雨あられですよ本当に。小会場で全力でペンラ振りながら身体をリズムに合わせて動かしてる狂人がいればおそらく私です()

とまあそんな話はおいておいて、書く書くと言っていた劇場版です
ネタバレ期限は過ぎてるから大丈夫…だよね?それではどうぞ!



劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク 上

 

 

いつものある日だった。バイトを終えて今も練習しているであろう幼馴染たちを迎えに行こうと教室のセカイに向かおうと『need/Le』を起動したところだった。セカイへと誘う極彩色の光。それが画面から溢れて願を包む。いつも通りに練習している幼馴染を迎えに行こうと、目を開けた所だった。

 

「………誰?」

 

「お前は……そして、ここは……」

 

教室のセカイの校舎の地面ではなく次に願が降り立ったのは白い砂の上。無数の窓の向こうは暗闇だけが見え、他には何も無い。ただ奇妙に窓だけが浮かぶそんな静寂さに満ちたセカイに願は降り立っていた。

 

セカイとは不思議な空間。そんなセカイに住むバーチャルシンガーたちによると想いの数ほどセカイは存在していると言う話を聞いたことがある。だがこのセカイはあまりにも静寂さに満ちている。それも居心地の良い静寂では無く、今にも崩れ落ち破綻する直前の様な危ない気配。

 

「ワタシは……ミク」

 

「……よろしくな。ミク」

 

そんなどこか惹かれる感覚を意図的に無視し目の前で目を身広げ、願を見たまま立ち尽くすミクの姿に願も自己紹介をする。黒とグレーの服に身を包み、特徴らしい特徴といえば頭の上にある大きな二つのバッテンの髪留め……

 

「それで…ここは、セカイだと思うんだが……」

 

「うん。ここは、セカイ……でも貴方は、違う?」

 

教室のセカイにいるミクとは違う、一歌が教えてくれたどの曲のミクとも違う。だが直感的に願がわかったことと言えばこのセカイのミクであることは間違いないということだろうか。

 

まるで灰の様に降り積もる白い砂が降り続け、空は閉ざされたドームの様になっているこの閉塞感と淀みに満ちたこのセカイがこのミクを生み出したというのなら、どれほどセカイとは運命とは残酷なのか。

 

「それに、なんでその窓から……」

 

「あ、ああ……この窓、か」

 

だがそんな願とは裏腹に目を輝かせて今先ほど願が出てきた窓をミクは面白そうにその窓に触れる。このセカイにあるどの窓よりも脆く見えるかの様に窓全体にヒビが入り、紫の小さな華が咲く蔓が窓全体を補強するかの様に覆っている。

 

窓枠だけは色彩溢れるセカイにただひとつ白と黒だけのシンプルな窓。正方形を更に四つ区切っただけのそんな面白みがどこにもない壊れかけの窓にこのセカイのミクが小さく手を翳す。まるで何か知りたげなミクの姿に願が踏み込んだ。

 

「………なにか、おかしいところでもあるのか?」

 

「ううん。けど、なんでこの窓からアナタが出てきたのかなって」

 

ミクがいうこのセカイ。今は閉じて、諦めた想いが降り積もるこのセカイに最初期からあった地面に突き刺さったままの窓。今もなお、誰かが諦めて想いを塞ぎ込んだ誰かの窓が決壊して白い砂とひび割れの数字が吐き出される中で、うんともすんとも言わなかったのがこの窓だった。

 

「そうか。だがこのセカイ、セカイ?はどうやら少し…………っ!?」

 

そんな窓から現れたのが願だとミクが解説する横で、ようやく願も窓に近づく。だがやはり窓から見える向こうは暗い、黒い靄が掛かり何も映らない。何も見えないはずだった。

 

確かにそうこのセカイのミクには見えている。いつも通りのこのセカイの窓。他とは少し特異なところはあるが、それでもこのセカイにあるものから出てきたこの窓の人物である願の顔を見ようと振り返ったところだった。

 

「それで………え?」

 

渋顔に、脂汗までも滲ませて口を覆いながら窓を支えにどうにかたっている願の姿。まるでショッキングなモノを見たかのように息を荒げる願にミクは近付くがやはり何も分からない。一体、願は何を見たのだろうか?

 

心配そうに願の背中を摩りながら、何を見たのか窓を何度も何度も深く覗き込むがそれでも何も見えない。だが、確実に願が苦しんでいることは分かる。だというのにその苦しみに共感する事は出来ても理解することが出来ない。その苦しみに寄り添えないミクは歯噛みすることしか許されない。

 

(…………ああ、そうかよ。そういうことか)

 

だがそんな心配そうな自分の無力を悔やむ姿に反応することもできず今見た、一言で片付けるならあまりにも()()()()()()()に願は自分の内心を抑え込もうと必死に息をする。

 

酷い、あまりにも酷すぎる悪夢だった。だがそれと同時に願は心のどこか冷静な自分が納得する。【外夜 願】として抱えた想いの一部が形になったのがあの教室のセカイだとするのなら、その前にあったはずの“前”の想いの一部がこのセカイの一部としてこの窓が出来たのだと考えれば理解できる。

 

(既に諦めたモノか……皮肉なモノだな)

 

このセカイは諦めた想いが降り積もるだけのセカイ。現実の前に折れた理想が、理想の前に砕けた想いが、このセカイに打ち捨てられた。だからこそ、あり得るのだろう。かつて願が諦めたあの日の幸福を手から抜け落ちたあの幸せを残酷なまでに、この窓は映した。

 

幸せな夢だった。きっといつかの自分ならその夢に縋っていたと思うぐらいにはギリギリで跳ね除けた。いやここを諦めた想いが降り積もるセカイであると事前に認識しなければ危なかったと思うぐらいには。

 

「………丈夫、大丈夫?」

 

「あ、ああ……すまないな。それで」

 

そんなグロッキーになった願の身体を支えるようにしたから見上げるミクの姿にようやく気が付く。心配そうにこちらを見るミクの姿はやはり自分がよく知る教室のセカイのミクとはまた違った存在なのだと理解させてくる。

 

あまりにも幼い様子のミクの姿。いや背丈や外見はよく見る初音ミクやあの教室のセカイで見るミクと同じ姿をしているだろう。だがそれでもその内面は、いや精神はあまりにも幼すぎると願は青白い顔でミクを心配する。

 

「………こ、こはセカイ」

 

「ああ……よく知ってる」

 

無限とも言えるほど連なり空に浮かぶ閉じたままの窓。おそらくドーム構造となっているであろう天井には黒い種子らしい何かが蠢き、今もこのセカイを啜っている様にも見える。

 

「あなたは、別のセカイからやってきたの?」

 

「おそらくな。この窓を経由して、と言ったところか」

 

今も遠くの空に浮かぶ窓が開き、そしてその中から何かが決壊する様に白い砂がこの世界に降り注ぐ。願はそれを、その想いをよく知っていた。

 

それこそ───────

 

「今まで一度もそんな事なかった」

 

「とはいえ、俺が想いの持ち主かと言われると多分違うな」

 

心底不思議そうに願の周囲を回りながら観察してくるミクの姿に少しくすぐったいなと思いながらも、さてどうするかと考える。

 

いつかGUMIから聞いた話。セカイには必ずそのセカイが出来るのに関わった想いの持ち主が存在している。なればこのセカイは誰の想いでできているのか?勿論、願がこれは“過去の願”である窓だとは理解している。ならそれに従いこのセカイの想いの持ち主は願だろうか

 

いや違うだろうと願は即答する。

 

(おそらく、このセカイはより多くの想いが重なって出来たセカイ)

 

関係性の有る無しではない不特定多数の小さなそれでも大きな想いが重なって形成されているセカイだろうとアタリを付ける。この圧迫するほどの負の感情は少なくともひとつではない。そう願は経験上知っているから

 

そしてそんなセカイに産まれたミクが一体どれほどの性能を持っているかも願は脳裏に危機感と共に過る。セカイという異空間の生成、そしてそのセカイに想いの持ち主であるのなら現実世界に干渉できる能力……5人の想いが重なったセカイでもそれほどの能力があるのだ。

 

(……哀れだな。いっそ何も知らぬ無知の子であれば)

 

初音ミク。電子の歌姫、伝説の歌姫。彼女を、彼女たちを着飾る賛美は数多くあれど、おそらくこの幼子にとって、それは大きな重石になるだろうと気がついていた。

 

だが、それも全て彼女に弱音は許されない。

想いの持ち主を導き、時には背中を押す彼女たちを止める事は不可能だということもよく知っていた。だからこそ願は哀れむのだ。いっそ何も知らない籠の中の鳥であれば、と。

 

「どうした、の?」

 

「いやなんでもない。それで、ミク」

 

お前の想いの持ち主はどこに?と願はついに核心的なところまで踏み込む。

その答えはもう薄々勘付いているが、それでも直接聞くのとでは天と地ほどの差がある。おそらく今も聴いているだろうアイツのためにもそれぐらいの泥は被っても良いだろう。

 

そんな願の質問に、ミクは顔を曇らせる。きっと目の前でそれを見ていた願はその顔を、まるで親に怒られる子どもが泣き出す3秒前だと形容するほどその顔はぐしゃくしゃに歪んで泣きそうになっていた。

 

「……届かない」

 

「……想いの持ち主に、か?」

 

小さく頷くミク。その後まるで堰を切ったかのようにしゃくり上げるミクから断片ながら言葉が漏れる。そんなミクの言いたい事を脳内で整理しながら聞いたところどうやらこういう事らしい。

 

……ミクは、当初より本当の想いを見つけて欲しくて呼びかけていたそうだ。

だが誰にもその歌は届かず、次第に諦めた想いだけがこのセカイに充満しこのままでは行けないと自分の手でセカイを離れて心に響く歌を奏でる人に教えを乞いに行こうかと考えていたその時に、願が現れたのだ。

 

「…ということだな。つまりは」

 

「うん……どう、したらいいと思う?」

 

ミクがやろうとしている事は間違いではない。ただそれ以上に今のミクには危うさがあった。それはまるで張り詰めた糸のような、教えを乞うてその教えさえも拒絶されたらその時、きっとこのミクは()()()()()()()()()という予感が願にはあった。

 

とはいえ確かに今のミクには足りないものを知るには己の手で気が付かなければ何にもならない。ならばきっと今日、同じように音楽で想いを伝えるのはLeo/needだけではないのだから。

 

「……一回、その歌を聞いてみてもいいか?」

 

「?分かった。いくよ」

 

あと気になるのは、そのミクの歌だろうか。

本当の想いを見つけてほしいという、このセカイで生まれた歌。ミクはこれを不完全、まだ見つけられていないから歌えないと言っていたがそれは果たしてどんな感じか願はふと興味が湧いた。

 

そんな願の言葉に、ミクは目を瞑って小さく息を吸う。

セカイの存在といえど、それは確かに初音ミクそのもの。そこに刻まれた歌に想いを込めてミクは歌い出した。

 

「きっと、届くはず」

 

その瞬間だった

 

「きっと、─────見えるはず

 

ミクの歌声にノイズが混ざっているように聞こえた。

 

「そんな──────会ってみたい未来を」

 

(………なるほどな)

 

なるほど。諦めかけた、或いは諦めてしまった想いの持ち主には“こう”聞こえているんだなと願は一瞬で理解する。そりゃ届かないし届けられないだろう。ただ耳障りなだけだと“そう”なってしまった人間にはどの声も届かない。それは願がよく知っていた

 

「僕はひとりきりのセカイでずっと、」

 

「そう。歌うたっていた」

 

思い出す。願は【外夜願】の原点を。あの日の公園を、そして流星群を。

それがキッカケだったのだろう。ミクの歌がよく聞こえるようになったのは、やはりこのセカイに来てからどこか少しおかしい気がする。まるで精神が前に引っ張られていたような気がしたのは間違いじゃないのかもしれない。

 

「月並みな言葉だが……良い歌だな」

 

「うん。ありがとう」

 

願の言葉に少しだけ表情を崩すように微笑むミク。いやはやなんというかどうにも調子が悪いと願は頭を掻くしか出来ないが、それを抜いても良いフレーズの曲じゃないかと思う。

 

願だってそんな想いの歌に救われた1人だ。誰かのためであり、君のための歌であるそういつか聞いたあの星々に願はずっと手を伸ばし続ける事を良しとした言うなれば心を動かされた側だから分かる。

 

「……ミク、君はここを出て探しにいくのかい?」

 

「うん。絶対に諦めないで、って伝えたいから」

 

救われる側も救われるために手を伸ばさなければ、その手は決して届きはしない。

そういう意味ではよく分かる。このセカイのひとりになり掛けた願だからこそこれ以上凄惨な光景を見て失望しないように、とミクを制止する。

 

けどそんな願の心配を受けたとしても、ミクは成さなければならないと強い目で願を見る。心配してくれていることは分かる。けどそれでもミクには成し遂げなければならないからこそ。

 

「……いつでも、俺のところにおいで」

 

「!ありがとう」

 

分かっている。そんなので止まる子ではないのだろう。

だからこそ願はミクに優しくしてしまうのだ。これからどうなるかなんて最悪な方向の想像の方が多く出てくる大人として、願はせめてミクが心休める場所を置いておこうとスマホを手に取る。

 

「………!」

 

「多分、時間なんだろな」

 

願の背後で砂に埋もれていたはずの窓が輝く。巻きついた紫色の華の上から、それを補強するように黒い鎖とそして曼珠沙華が咲きその扉を開く。その向こうには輝くほどの流星群が絶えず流れている。

 

「もう、来ない?」

 

「わからない。だけど、きっといつの日か再開しよう」

 

まさかこうして窓が開くなんてと驚いているミクに比べて、この奇跡的な出会いも、ここまで。そうなんとなく願は察していた。約束する事はできないがきっとまたどこかで巡り会える。そんな気がして小指と小指を繋ぎ合わせる。指切る事はできないけど少しでも願掛けになるのならばと指と指を繋いだまま腕を上下に動かす。

 

「じゃあね」

 

「うん。また」

 

背を向けて立ち去る。互いに引き留める事はない。

 

「……最後に」

 

「?」

 

けどそんな最後、後一歩のところで背を向けたまま願が何かミクに伝えたいと足を止める。

 

「誰も彼もが君の献身に報いれるほど、人間は強くないんだ」

 

「………」

 

それだけ、と願は小さく手を振りそのまま窓に潜り込む。後ろは見ない、決して。どんな顔をしているのか、どんな考えを持ったのかは聞かないことにするから。けど少しでもミクの助けにでもなったら、とそう思わざるをえなかった。

 

ふと、そんなセカイの狭間で願の背後から聞き覚えのよくある声が聞こえてきた。おそらくずっと聞き耳を立てていたであろうGUMIの声に願は、背を向けたまま返事をする。

 

「……どうだった?」

 

「GUMIか。いたんだろう?」

 

その願の問いにGUMIが一度小さく首を縦に振ったような気がした。

だろうなともう驚くこともしないが、それでも一度も現れることもないなんて性格が悪いとため息を吐く。

 

「最初からね……出ない方が良かったでしょ」

 

「さぁ?聞いた話によるとお前は“特別”らしいからな」

 

皮肉げなその様子に願はどこかで聞いたGUMIの特異性を口にする。セカイの中でも異質の役割を持つ子。その想いを問いただすものにして、その想いに殉するもの。願という想いが生み出した純粋なカケラ。それがGUMIだと、もう覚えていないが誰かから聞いた記憶がある。

 

「…どうだろうね。けど私は願の味方だよ」

 

「……まあ、その点は信用しているさ」

 

さて一体誰が言っていたのだろうか。そう考え始めるのを狙ったようにGUMIが声を上げる。GUMIにとってあのセカイはもう半分以上終わりかけのセカイだ。いずれ崩壊する…きっと少なくない犠牲を伴って。と考えていた。

 

「あのセカイはどうなると思う?」

 

「……さぁ、でも」

 

──────少なからず救われる事を祈るよ

 

だがそんなGUMIの予想とは反して、願の方が希望論を唱える。

誰もが最初から無理だと思って始めるわけではない。けどいつの日か自分に、理想に、現状に裏切られるのだ。それは決して逃げられない壁であり、いつの日か必ず合間見える壁である。

 

今一度、そう簡単に奮起できるのなら人間はもっと違う形になっているだろう。だからこそ願は祈るのだ。いつの時か、私を照らすような星々が誰かの頭上で光が焼照らしますように。と

 

 

 

「………ぁ」

 

窓が閉ざされて、そして光となって消えていく。

そう閉ざされたセカイのミクが残念そうに名残惜しそうに声を上げる。その後の窓はまるで最初からそこに無かったかのように綺麗さっぱり消えて、そこには元通りの砂のセカイが広がっているのだった。

 

 


 

 

ある雨上がりの日だった。いつものように仲の良い幼馴染5人が集まって帰路に着くそんなある日のこと。先を行く咲希を追いかけるように4人が歩きながら話す。

 

「雨上がって良かったねー」

 

「……傘持ってないから助かった」

 

「「私もー」」

 

結構雨が強かった気がするから、こうして帰る頃に上がってくれているのは嬉しいと街路樹から滴る雫を避けながら帰る。どうやら今日傘を持ってきていないのは願だけでなく、一歌や穂波も一緒らしい。

 

「購買で傘買えばいいじゃん」

 

「そんなものうちには無いよ……」

 

「余分な傘が増えるのも、ちょっとね」

 

だがそんな3人に志歩が真っ当な意見を述べる。問題は願が通う神高の購買に傘が置いていない事を除けば、だが。まあ傘があったところで雨の日の変人ワンツーが全身ずぶ濡れになっているのは変わらないので仕入れてないのは間違いでは無いのかと悩む。それはそれとしてよく司先輩、風邪引かないなとも思う。

 

「咲希、どうしたの?」

 

「昨日この辺で猫ちゃん見かけたんだよね〜」

 

そうして先に行った咲希が止まった場所に辿り着いた時、咲希がまるで何かを探すかのように手を目の上に当ててぐるーりとゆっくり見回っている。一歌が何をしているのかと聞くと、どうやら昨日ここでまるまると太ったふてぶてしい灰色の猫を見かけたらしい。

 

「今日はいないのかな…」

 

「せっかく煮干し持ってきたのに〜!」

 

だがやはり気ままな猫ということもあってか、その姿を見ることはできなかった。残念だまあそもそもが野良猫だそこまで期待することでも無いだろうと思いながらもお徳用と書かれた煮干しを一袋まるまる入れている咲希には驚かされる。

 

「…袋ごと」

 

「あれ絶対キッチン用だろ」

 

志歩の呟きに同意するように願が小さく口にする。やっぱり中々表には出てこない様に見えるが咲希も割と司先輩の片鱗が見えている。元気になって楽しそうな姿を見るのは嬉しいが少しお転婆すぎじゃないかと思うのは願の老父心だろうか

 

「でもお腹空いてるかな〜とか、家族が居たりするかもしれないじゃん!」

 

「それにしたって多すぎ……」

 

確かに願は何故かよく野良猫と出会うから、猫でもおそらく子どもを連れて移動しているところなども見かける。そうなると一つや二つじゃ足りないという咲希の意見も分からなくはない。分からなくはないが、それでも多いよ…と志歩が言う。

 

「むぅ……みんなも食べる?」

 

「私はいいかな」

 

「私も」

 

そんなあまり乗り気ではないみんなの反応に咲希は少し疎外感を感じたのか、煮干しの袋を開けてみんなの方に向ける。…今更だが煮干しはそのまま食べてもタンパク質やカルシウムに優れており、血液をサラサラにする効果も含まれる立派な食べ物である。

 

あまり気に乗らなかった2人は一歌と穂波はさておき、それに乗ろうとしたのはなんと志歩と願だった。

 

「なら貰う」

 

「俺も」

 

おお!流石しほちゃんとげんくん!という咲希の喜ぶ声を置いて、2人は無造作に袋の中に手を突っ込み取り出す。…うんなんの変哲もないただの煮干しである。そのまま口へと突っ込み噛み砕いていくと特徴的な魚の味が口の中に充満する。

 

「たまに食べると悪くないね」

 

「だな。小腹すいた時とかに丁度いい」

 

手についたカスを舐めとる様に2人はまるで左右対称で指を口元に当てて沿わせる。そんなどこか芝居じみた2人の動きと、食レポに食べる気がなかった2人まで手を伸ばしてみようかなんて気が湧いてくる。

 

「2人とも食欲を唆らせるね…」

 

「うう…お菓子は最近控えてるのに…」

 

ただ食べているだけなのにそんな事を言われた2人は首を傾げながら?を頭に浮かばせる。ちなみに一歌は気分で食べなかったのに対して、穂波は最近体重計に乗って衝撃だったため食べない様にしている。ついこの前、願くんとアップルパイの食べ歩きしたぐらいなのに何故

 

やっぱり抗えなかったのか2人も咲希の差し出してくる袋に泣く泣く手を伸ばす。

おそらくそんな2人の様子に、どう?どう?と袋を差し出しながら近づいてきた咲希も同罪である。

 

「その分動けばいいのに」

 

「むしろ細いぐらいだと思うんだけどなぁ」

 

泣く泣くの2人に志歩と願が呟く。食べたら痩せたい分だけ動けばいい。むしろそれで健康的になると思っている志歩はさておき、願はむしろ幼馴染が華奢すぎる方なのでは無いかと心配している。

 

「しぃちゃんもげんくんも辛辣ぅー!」

 

「うう……おにぃ、鬼だよ……」

 

そんな今のいっちゃんたちには聞きたくないであろう正論と誘惑を前に咲希が笑う。全く女心を解さない幼馴染たちだ。そういうところも可愛いがしぃちゃんとげんくんが同じ意見なのが引っかかる。

 

ま、今はそんな空気じゃ無いかと泣き言をいう穂波をヨシヨシしながら2人がこっちにくるのを待つ。全くほなちゃんのアップルパイ好きは今に始まった事ではないが、最近自制できてないのはげんくんが一緒に行くからという事に気が付かないのか。付かないんだろうなと面白く思ってる。

 

そうしてふざけ合いながら、帰路にたどり着く頃には日も大分落ち始める。

夕暮れはいつどこの景色も変わらず空を茜色に染め上げながらこの街を彩る。

 

「それじゃ、また夜に」

 

「「「「うん(おう)、セカイで!」」」」

 

夜が来る。一足早くネオンが輝き出し、この街がまた眠らない街である事を告げるかの様に昼の明るさを守ろうとして街灯が煌めく。それでもここにある星の光だけは健在で、幼馴染はいつも通りの様に手を振ってそれぞれの道に帰る。

 

「あ、そうだ。今夜うちで食べろってお母さんが」

 

「おばさまが?」

 

一歌は1人新曲のミクのCDを漁りにビル街に、穂波は電車に、そして咲希は歩きに比べて願と志歩は同じバス通学だ。幼馴染の中でも家が一番近い2人はこうして家族間での交流が少なく無い。

 

……とはいえ、願が一方的にお世話になってるだけとも言うが。

 

「……いやい「バイトも無いんでしょ?なら一緒に食べた方が得」」

 

他人の家庭のお邪魔になるわけにはいかないと願が首を横に振るのを見越していたのだろう。被せる様にスマホを見たままの志歩が畳み掛ける。志歩は願の家が“どんな感じ”か一番よく知っている1人だ。…勿論それは日野森家全員が知っている。

 

バイト漬けの願の今の不健康な生活に一番心を痛めているのは日野森家である。願が全力で断り続けないのならばおそらく養子として取っていたほどには願は日野森家に馴染んでしまった。……願にとってそれは不本意だとしても。

 

「もう晩御飯用意してるって……はい」

 

「……………」

 

別にそんな事気にする必要なんてないのにと志歩は常に思っている。義兄妹からの秘められた恋愛とかも面白そうだとむしろ滾ってくる…のは置いておいて、おそらく願がゴネるのを見越して先に準備を終えてるというメッセージが入ってきたのを願に見せる。

 

食事を無駄にしたくない。願の善性に漬け込む様で悪いが、ここまでしないと願をあの冷たい1人だけの牢獄から切り離せない。何もないあんな場所が願の居場所じゃない。私の、私たちの家こそ願の居場所なのだと願に刷り込まないといけないと腕を取る。

 

「……分かったから腕だけ離して」

 

「ダメ。それで逃げたことあったでしょ」

 

数年前だろうか。或いはそろそろ10年近くになるだろうか。願と一緒にご飯を食べる日を一体なにを考えているのか願はウソまでついて家に来なかったことがある。その時は悲しくてもうずっとしばらく願から離れなかったっけ。

 

「何年前の話だよそれ」

 

「同じことしないと限らないでしょ?」

 

むしろあの時よりもずっと巧妙に逃げ続けそうだと志歩は鼻を鳴らしながら一緒にバスに乗る。2人掛けの席の奥に願を押し込んで、片手を決して離さないように持って手錠スタイルだ。

 

少し恥ずかしいけど、私の言葉に無言の同意をした願は反省するべきだと思う。

そう志歩は思いながらバスに揺られる。片手スマホには互いに同じゲームをしていた。簡単なオンライン要素もあるスマホゲームで協力プレイをしながらステージを攻略していたその時だった。

 

「降りるよ」

 

「はいはい」

 

最寄駅に着いたのだろう。あれほど一時期はぎゅうぎゅう詰めだったバスの中も、着いた頃には余裕ができるほどだ。相変わらず腕を掴まれたままバスを飛び出した頃にはもう日が暮れていた。

 

「逃げないでね」

 

「はいはい」

 

いつの間にかその腕は、手と手の繋がりになっているのを長い影と夜の空だけが見ていた。

 

 

 


 

 

「……ミク!?」

 

 

人知れず、新たな物語の幕が開こうとしていた

 

 

 

 







 願

Leo/needのサポーター担当。
基本的に表に出てくることは少なく、たまにLeo/needのツインギター/ボーカルの片割れとして出てくる
幼馴染の一歌、咲希、志歩、穂波とLeo/needというバントを立ち上げた。
違うセカイの初音ミクに強い関心を抱いている様で仲間を励ましながら想いを探している



感想、評価お待ちしてます。
あ、あと次回どうするかアンケート取るのでそちらの回答だけでもお願いします

次回何書きましょう(最終的に全部書きます)

  • 異聞:魔法少女パロ
  • 異聞:夜の娘続き
  • もしも冬弥と兄弟だったら…
  • もしも奏と双子だったら…
  • もしもまふゆと双子だったら…
  • TS願
  • 配信者願
  • 幕間1 続きリメイク
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