「(幼馴染を恋愛的に見るのは)いやーきついでしょ」と言ったオリ主が幼馴染達に娶られるまで後…   作:ネマ

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志歩ちゃん誕生日おめでとう!!!!(クソデカ大声)
今年は間に合ったので投稿だぁ!!

いやぁ。マイセカ要素である誕生花って集めるのキツい…キツくない?
400輪って400輪ってお前…ライボ大小両方とも100以上溶けました。まあ追加で手に入る素材ウマウマなんでギリ許せる…許せるかこれ?

あとはやっぱりモザイクロールのMVですね。
あの鏡合わせみたいなレオニの演出には痺れました。これだからプロセカはやめられねぇんだ……
一歌の守ろうとした姿、咲希の抱きしめる姿、穂波の目を隠す姿、そして志歩の顔をあげる姿に合わせてうちの願ならどんな感じになるか想像したらどう考えても鏡合わせに自分の首を互いに締めている絵しか浮かばなかったです…最後の互いに抱きしめ合ってる感じも、うちの願だと背中合わせに座ってそうです

とまあそんな妄想は置いといて、志歩の誕生日記念ですよ
あ。まふゆのアナザールートはもう少し待ってね。誠意執筆中です
それではいつも通り、設定崩壊・過去改変・キャラ崩壊・独自設定注意です。




《志歩誕生日記念》微睡む夢、貴方の名前を叫ぶ 

 

 

「……起きて」

 

願の耳元で、誰かの声がする。

その声は聞き馴染みのある幼馴染の声。志歩の声だとまだ眠っていて、半覚醒の意識でも十分に理解できるほど長い付き合いであった。

 

「起きてよ。ねぇ、」

 

毎朝、願がかけたアラームをわざわざ切って起こしにくるのだから物好きなモノだ。幾ら願が一度寝ればアラームが無ければ中々起きることのない質だと言えど毎朝とはご苦労なことだとありがたくも思っている

 

まあ、もうそろそろそれも終わりかとも思うが

 

あなた、朝よ」

 

「!?」

 

だがその瞬間、志歩からかけられたある言葉によって願は急激に意識を覚醒させる。…あなた、とはなんだ。その呼び方は今まで誰も…いやまあ“前”を除いたら初めての呼び方だ。そんな破廉恥なこと許しませんよと願が飛び起きたその時だった

 

「……は?」

 

「ぁ、起きた。おはよう、朝ごはん何にしよっか」

 

目の前にいる女性の姿に、願の全ての思考が止まる。

肩にはつかない程度に短くしていた志歩の髪が肩に流れるぐらいには長く伸ばして、あどけなかったあの顔には少しばかり大人びた微笑みを浮かべて願の膝の上に座っていた。

 

服装も願が知る志歩が持っていないはずのラインのゆったりとした寝巻きに身を包んでいる。下世話な話だが胸元も幾分か膨らんでおり体付きに磨きがかかっている反面、身長は…うん。なんというか咲希にギリギリ負けそうだなーって気がするのは気のせいだろうか

 

「……あ、ああ。朝ごはん…?」

 

「まだ寝ぼけてるの?……ご飯かパンか」

 

そんな願の現状を受け入れきれない頭に浮かぶハテナに志歩は寝ぼけているのだろうと考えた。相変わらず朝が弱い旦那さまだとそういうところも可愛いよねと指折り数えて選択を迫る

 

「……パン」

 

「おっけー。準備してるね」

 

そんな志歩の選択に願はなんとなくで選ぶ。…だが朝食など大体気分によるモノなのだろう。そんな願の様子にも気がつくこともなく部屋を出ていく。どうやらここの自分ではそれが当たり前だったらしい

 

(……それで、俺はどうしちまったんだ)

 

今頃気がついたことだが、この部屋のベッドはダブルになっている。枕が2つに、大きい2人が同時に寝ても問題ない様な布団や毛布に願はさらに周囲を見渡す。

ベッドの横には両側に小さなサイドテーブルが置かれ、片方には5つ並んだフェニーくんと写真が一枚飾られている。

 

(ん゛…!?)

 

そのフェニーくんのぬいぐるみには見覚えがある。おそらく志歩のものだろうとそちら側のサイドテーブルに近づいたその時だった。願の目の前で一枚の写真がさらに願の脳内を停止させてしまうとは……

 

その写真とは、花嫁姿の志歩とタキシードを着た願の姿。

間違いなくその写真は結婚式の写真だ。一体いつ願は志歩と籍を入れたのだろうか。…いやしかしそれにしては違和感だらけだと、願はもう片方のサイドテーブルに置かれた自分のスマホの電源を入れたその時だった

 

(…………6、年後?)

 

真っ先に映る今日の日付に今までの願の違和感に対する答えが結びついた。

大人びた志歩、見知らぬ部屋、そして写真に映る幸せそうな笑みを浮かべる自分。それら全ては未来で起きる事だと分かるのなら、この現状にも察しが付く

 

(顔、顔……っと)

 

うん。やはり少し彫りが深くなった自分の顔がそこにはあると、願はスマホの内カメラを覗きながら自分の顔をマジマジと見つめる。……だけどなんとまあ

 

自分はこの時まで生きることを決められたのか

 

趣深いような、感慨深いような自分全てを根底からひっくり返す様な何かが起きたのだろう。その選択に過去の願が触れる事はできないし、するべきではないだろうとぼんやり考えていたその時だった

 

「願ー?スマホ見てないで早く起きてきてよ」

 

「ん、ああ」

 

不思議な世界だと思った。手慣れた様に薬指に指輪をはめ、願は部屋を出る。似ているというかおそらく元あった俺の家をそのまま利用しているのだろう。まあ一人暮らしには過ぎた一軒家だ。

 

ふと、願の中に疑問が浮かんだ

 

「なあ」

 

「どうしたの?」

 

「一歌たちって今何してるかな」

 

真っ先に思い浮かんだ幼馴染たちの顔。一歌や咲希、そして穂波。いくら俺が志歩を選んだとて他3人との縁が完全に切れ落ちるとは考えにくい

 

なんなら何かと言ってやってきそうなものだと願はおかしそうに苦笑する。まさかここまで幼馴染の存在が大きくなって、あの自分の世界の幼馴染の顔を見たいだなんて思うとは思わなかった

 

「……一歌?」

 

だがそんな願の期待を裏切るように、振り返った志歩の顔には一切の熱が無くて──────

 

()()()()

 

 

 

 

「…………」

 

「……………」

 

食事中。食べながら何かを話す気にはあまりにならない2人が集まれば沈黙だけが満ちる冷たい空気だと思われるかもしれないが、その間にはアイコンタクトや表情だけの会話を取って仲睦まじそうに見えるだろう

 

表面上だけの性格を見るのなら願と最もウマが合うのは志歩だ。

互いに最低限の必要な会話だけをして、近くにいて別々のことをしている事に不満がないタイプでもある。だがあくまで表面上似ているだけの話だ

 

「……ん、今日は一緒に録るから終わり一緒」

 

「はいな。じゃあ今晩は食べて帰る?」

 

食事を終えて一服。どうやらタバコはやってないらしく口寂しいのを志歩が淹れてくれたコーヒーで我慢しながら今日の仕事を確認する。どうやら互いにプロのバンドマンとして仕事をしている様で、願は時折ギターの先生として働いている事もあるようだ

 

そんな2人の今日は、とあるアイドルグループの音源作成の仕事が入っている。

リビングに立て掛けられたギターとベース。いつかのあの日のモノが綺麗なまま置かれているのを見るに、きっとこの世界ではとふと願が考えたその時だった

 

『─────げんくん、アタシたちをおいていかないで……っ!』

 

『願くん、せめて私を連れて行ってくれない…かな?』

 

誰かの、コエが、きこえた

 

その声を願は知っているはずだ。その想いを願は覚えているはずだ。

だが痛む頭をどれほど振ったとて出てくるのは鮮明とはほど遠い朧げな顔。金色の髪と、薄い茶色の髪。その声色は何かを懇願するほど力強いのに表情ひとつ出てこない

 

「っく…お前の。お前の名前、は……」

 

咲希、穂波

どれほど名前を叫んだとて、言葉にはならない大切な誰かの名前の残骸だけが願の脳内に虚しく横たわる。まさか、ずっと願が見上げていたはずの星の輝きを忘れてしまったのか。

 

……いや、違う。

本当は最初から忘れてなんかいなくて、目を逸らし続けていただけ

お前の存在意味は踏み台で…お前の結末は灰だ。ただ、灰は灰に還るようにそれが自然の摂理のはず

 

『願、こっち見て』

 

「……ぁ、志歩…?」

 

机の上で肘をついて頭を抱え苦悶の声を上げる願に、志歩は恐ろしいまでにいつも通りの笑みを浮かべて願の両頬をその手で掬い上げる。恐ろしいぐらいに怪しく煌めく志歩のそのエメラルドの如き瞳は願の考えを切り裂く。

 

『落ち着いて。願のお嫁さんは誰?』

 

「……ぅ……志歩」

 

『そう、正解』

 

ひとつひとつまるで刷り込むように、志歩は願を決して離さないまま話し続ける

 

『じゃあ願が好きな人は?』

 

「………し、ほ」

 

『流石願だね。じゃあ最後の問い』

 

温もりを共有するように抱きしめる間には確かな人肌の温もりと、微かな心臓の音が響く。何度も何度も繰り返す志歩の問いにどこか遠くの光を見ていた願の瞳が少しずつ志歩の眼差しと混じり合う

 

『さっきの言葉は誰のものだった?』

 

「………志歩の、ものだった」

 

そうだった。確か…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()互いに中学を卒業してその時点でもうプロとして活動を始めていたから進学を選ばず、同棲を始めて仕事に手をつけ始めた

 

願が実はとてもプロデュースに向いていると言う事で互いにプロとしての仕事は尽きる事もなく今日この日まで生きてきた。…だがその反面、プライベートでは仕事の付き合い以外には互いに遊びに行ったりする事もなく2人で生きてきたのだ

 

「…懐かしいね。ちょっとだけ思い出し泣きしそう」

 

「………そうだな。俺もだよ」

 

だから、全ては願の幻聴なのだ

誰かの泣き声が聞こえたとしても、誰かの縋り付くような声が聞こえたとしても今の願は知る由もないし聞こえてきたそれはきっと…風のざわめきだろう

 

 

 

 

時間は進む。

仕事の時間が近づいてきたということで2人は手早く家事を終わらせて車に乗り込む。互いに免許は取っているため今日は願が運転するということで今日の仕事場である事務所に足を踏み入れた。

 

合わせの仕事や、音響の調整。基本的な編曲の技術を学んでいる2人にとってなんら難しくはない仕事だ。とはいえそれで手を抜くほど自分の音楽にプライドを持っていないわけでは断じてない。

 

そうして昼まで調整と何度も弾き直し程よいところでスタジオから外に出る。幾らスタジオが慣れた場所とはいえ、家でもない以上肩が凝るものだと願は1人、年齢的な制限も無くなったのだからタバコでも吸おうかと足を踏み出したその時だった

 

「やぁ、お疲れ様。外夜くん」

 

「!お疲れ様です。真堂さん」

 

目の前から現れる1人の男性に願は頭を下げる。

黒髪黒目の微かに無精髭があるこの方は真堂良樹と言い、とあるレーベルの音楽ディレクター…つまりは事実上の上司に当たる。

それでなくても真堂さんには願も志歩も恩があり、頭が上がらない恩人でもあるというわけだ

 

「どうだい?最近仕事の方は」

 

「ぼちぼちといったところですかね…ああ、そういえば真堂さんがプロデュースしているバンド、ワンマンライブおめでとうございます」

 

とは言え、話しかけにくい人間ではない。

願は特に会えばこうして軽い挨拶と雑談を交わすぐらいには親交があり、真堂さんのプロデュースしている音楽バンドだからと他の入っている仕事よりも優先的に手伝いをするなど、親密な関係を築いていると見えるだろう

 

そんな真堂さんのプロデュースしているバンドは…ああ、そうだった。若さを売りにした学生ガールズバンドグループだったか。と願は脳内で忘れていた記憶をほじくり返す。何度かお誘いはあったが、あいにくと願は世帯者である

 

「いやいや。君たちの協力もあったからね。あの子たちからも是非君たちに感謝の言葉を告げたいって言われていたんだ」

 

「有り難く、お言葉だけいただいておきますね」

 

あくまで社交辞令のやり取り。

だろうね、と頷く真堂に願は相変わらず、この場で“挨拶をし、感謝を伝え、そしてその感謝を受け取った事”に意味があるのだと微笑みを浮かべる

 

願も、歴が長い真堂も業界は縁で繋がっているものだと知っている

失言ひとつで干されて消えるように、何かひとつ不徳を犯せばその噂は徐々に広まり気がつけば孤立しているなどこの業界では日常茶飯事だからこそ気をつけなければならない。

……まあ、あとは妻がいるのにプライベートで会おうなんて言うようなバンドを好きになれるか、という話である。

 

「……そういえば今から昼かい?」

 

「ええ。真堂さんも…ですかね」

 

時間もいい時間だ。昼の最も人が集まる時間は過ぎているとはいえ、まだまだ昼の騒がしい時間帯の中である。ふと真堂は腕時計を確認したらまだ店は空いているかと目の前の昔から面倒見ている弟分に近い願に声をかける

 

「…そうだね。いい店を見つけたんだ。どうだい?」

 

「おお!ならご一緒させていただきますね」

 

ぱぁ!と顔を明るくするその人懐っこい姿を見れば、そりゃ好かれるものだと真堂は願の人誑かし力に苦笑する。その1人…いや、この業界で最初に誑かされた俺が言うものだ。つくづくこの子は、こちら側が向いている

 

そう、ふと過去の出来事が真堂の脳裏によぎる

 

『初めまして。外夜願、と申します』

 

『……初めまして。日野森…志歩、です』

 

真堂がその2人に目をかけたのはある意味必然だった。

噂話になっていた“中学生2人組のバンドグループ”。最低限のギターとベースだけどそのバンドは確かに年齢にはそぐわない厚みと、熱があった

 

打ち込まれたドラムに正確無慈悲なベースのキレ。そしてそのベースを彩るように音に世界を魅せるギターの音色。互いに互いを完全に信頼し合い、そして相剋し合う理想の関係。

 

誰が見てもこう言うだろう。これは売れる。と

この2人は2人で出来上がってる完成だ。まだ中学生という事で将来性も保証されている……だがそれ故に問題は中学生だという事だ。まだ幼すぎる、というその一点が足踏みをさせていた

 

⦅年齢は、関係ないだろう⦆

 

だが、真堂は関係ないと踏み出した。

もしも問題があるのならその時は仕方がないが、初めて見ないことには話にもならない。……そう今思えば真堂はこの時から魅せらせていたのだろう。

 

『初めまして。私はソリス・レコードの─────』

 

話は真堂が思ったよりも手応えよく進んだ。

少女の方。ベースの日野森さん、これは真堂から見ても確かに早熟だ。ベースにかける熱量と言い十年に一度の天才だと売り出しても問題なくいけるだろう。だがそれでもあくまで早熟の域を出ない。まだ幼い故に仕方がないが

 

だが問題は、鬼門はこちらの少年の方だった。

 

『しかし真堂さん。その売り方ですと────』

 

ギター。外夜くん、彼を形容する言葉を10年来の付き合いがある真堂でさえも思いつかない。1を聞いて10ではなく100も1000も理解できる天才がいる事は知っている。0を1にするような鬼才がいる事も知っている。だが、1を1のまま100にも1000にも考えが及ぶような、狡猾を真堂はその日まで会ったことがなかった

 

おそらく外夜くんは、最初から己のプロデュースの方針を固めていた。しかもそれは幼さ故の夢想でも未来への淡い期待故の羨望とはかけ離れた本職である俺でさえ圧倒される精度で彼はこの業界を調べ上げて生き方を考えていた。

 

『……なるほど。失礼しました。では外夜さん、ここから本格的な話にしましょうか』

 

『ええ、よろしくお願いしますね。真堂さん』

 

だが1番の問題はこれが齢わずか14から15の子どもが考えていた、という事だ。

大人でさえも見通すのが難しいこの業界の先を彼は数多の情報から取捨選択を行い取れる手段を取った。つまりは彼はこの時点で俺たちと肩を並べるに値するほどの先見がある事…

 

真堂の背筋に冷や汗が流れる。

ここから先は中坊の子供を相手にすると思わない方がいい。目の前にいるのは狡猾でそれでいてチャンスを逃さない冷静で、無慈悲な同業者なのだと真堂はこの時から願への対応を決めていた

 

 

「おお〜!中華ですか!久しぶりなので嬉しいです!」

 

「ここは麻婆豆腐が美味くてね」

 

さてそんな真堂の回想を一旦置いて願は真堂の案内の元、とある街中にある中華の店へと足を踏み入れた。熱気漂う街中華の中には多くの労働者が飯を平らげている。華やかさとは無縁の場所だがこういう空気は嫌いじゃない

 

「誘った俺の奢りだ。好きなものを頼みたまえ」

 

「いいんですか!?…じゃあ麻婆豆腐で!」

 

今度は俺が出しますね、という願に真堂はガキは大人しく奢られとけばいいんだよと鼻を鳴らす。誑かされる以上に十年も同じように仕事をしていれば情も湧くと真堂は実の子どもに向けるのと同じぐらいの父性を願に向けていた

 

思えば思春期に入る前ぐらいから願を見てきたのだと真堂は珍しく煙草を吹かす。

いつの間にか中学を卒業して、この業界で生きていくと決めて気がついた時にはもう籍を入れて今だ。まさか俺が親族の父親として出てくることになるとは…と思いながらも昔から見ていた2人の慶事に一番泣いていたのは真堂であったことは内緒だ

 

⦅そうか…日野森、いや。今は外夜夫人か…⦆

 

誕生日が遅いのは願だ。

だが、まさか願が誕生日を迎えたその日に結婚届を提出しに役所に駆け込むとはと、今思い出してもおかしくて笑ってしまう一幕

 

2人とも普通に仕事がある日だというのに“仕事前に結婚届を提出したので今日から私は外夜です。よろしくお願いします”……だなんて、真面目な顔で頭を下げるものだからこちらもポカーンだポカーン

 

⦅しかしまあ外夜くんは⦆

 

まあ珍事は置いて願はもしも第一線を引いたら、そのまま真堂のプロデュース畑の方に移動してもらう事まで確定している。うちの会社でも本来願くんはそちらの方が適正なんじゃ無いかと噂されるぐらいには有名な話で…

 

上役とも他の同業者とも仲の良い現場を熟知した中間管理というのはぶっちゃけどこでも即戦力になるほどで…その希少性は当時の中学生天才バンドマンを遥かに超えるのである

 

⦅まあしばらくは先、か⦆

 

もし、願くんが今の場所を息苦しいと思うのなら。真堂の独断でこちら側に引き抜くことも考えていた。だが今の願の様子を見るに、おおよそ満足しているようだ。

 

ならまだいいかと真堂はそっと袖にしまうのだった

 

 

「ご馳走になります!!」

 

「ああ。また食べに行こう」

 

「誘ってくださいね!」

 

 

 

仕事終わり。日が落ち初めて、互いの顔が見えなくなりつつあるこの時間。街は帰る学生や草臥れた顔の社会人でごった返す。ひと足先に夜を照らすようにライトがつけられ、街は一気に不夜城になる

 

そんな街中をビルの屋外階段に座り込み、ふと願は買ったタバコに火をつける。吸える年齢になったのだ。こうして楽しんでもいいだろうと、手慣れたように一本を取り出し、口に咥えながら火を近づける

 

「………だーれだ」

 

吸って吐くその中に混じる煙とニコチンの味を舌で味わっているその瞬間だった。願の背後、上から階段を降りてくる1人の女性…志歩の姿に願は驚くこともなく、残りのタバコを吸い続ける

 

「お疲れ」

 

「ん。珍しいね願が吸うなんて」

 

都会の黒と光に白い煙が細く登る。クラリと少し脳を緩やかに揺らすニコチン酔いに、懐かしいこの不健康と退廃を煮詰めたような快楽に酔いしれるような気がする

 

そんな遠くを見つめる願に隣に座った志歩が手を伸ばす

 

「久々にな、吸いたくなった」

 

「ふーん……一本ちょうだい」

 

吸えるのか?と言いながらも願は紙箱から一本を少し浮かせて志歩の方に向ける。おぼつかない手つきで志歩は指に持ち、そして口に咥える。ライターで火をつけるのなら簡単だ。だが、と願は珍しく遊び心を込めるかのように近づく。

 

「……近づけ」

 

「ふぁい」

 

火のついた願のタバコと新品の志歩の咥えたタバコが優しく触れ合い、火が志歩のタバコに付く。いわゆるシガーキスと呼ばれるそれに頬を赤らめる志歩と少し気恥ずかしそうに願が目をつぶってタバコを吸い始める

 

「……ん、まず」

 

「そりゃそうだろうな」

 

苦虫を噛み潰したような志歩の表情に願が苦笑する。美味いと思って願も…いや“前”も吸い始めたわけじゃない。ただいつの間にか気がつけばタバコは染み付くように手にあるようなそういうものなのだ

心底こんなの吸ってるのマジィ?って顔で見つめてくる志歩に流石の願もどうしようもないように肩をすくめる。

 

 

『願?…そっか…いってらっしゃい。また、ね。絶対、追いかけるから…っ!』

 

 

そう、どうしようもないのだ。

本来なら混じり合わぬはずのセカイ。あるいはそれさえも想いとして形になってしまうのかと相変わらずクソほど不味いタバコの火を消して志歩に向かい合う

 

「なあ志歩」

 

「どうしたの?願」

 

明晰夢とは少し違う、だがそれでも夢の中で夢だと気がつき目覚める方法はひとつ。

 

自分でその夢を手放すことだ

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「……………………」

 

志歩の世界で、幼馴染たちがどうなったか、或いはなることさえなかったか。それは願にもわからないがわかることはただひとつ……それは己の結末のみ

 

愛しき人も、夢も、想いも何もかもから背を向けて独りでに朽ち果て逝く。死者は死体に、灰は灰に、そして塵は塵に。それこそが願の願望にして根源。歪みない、異物としての自覚だった

 

「なんで?」

 

「さぁ、どうしてだろうな」

 

全ての虚飾が取り払われる。街並みも、喧騒も、夜空も、風さえも全て止まったセカイで願はようやく志歩の顔を見る

 

怒るような、悲しむような、苦しむような。負の感情でぐちゃぐちゃになった顔。酷い顔だなと思った、だけどそれ以上に志歩もそういう顔できるんだという納得

 

「奪ったはず………っ!私以外の名前を!!」

 

「いや、覚えてるぜ。一歌、だろ」

 

名前を隠して記憶を奪う。

名前とは最もその人を表す記号だ。だからこそ、名前を忘れ去れた願は微かな声と朧げに浮かぶ容姿だけが歪に残っていた

 

だがそれも完全じゃない。

そもそも願との始まりは個別では無くて4人揃ったところから始まっているのだ。あの日の公園にいたのは志歩だけではない。

 

願の手は一歌に引かれていた

 

「な、んで………?」

 

「黒い髪に、青い目。レオニのギターで、焼きそばパンが好きな、笑顔が綺麗な星のような……ああ星乃 一歌か。」

 

あいつみたいな奴をきっと“主人公”っていうんだろうと、願は少しずつ思い出す。ミクのCDを買いに遠方まで付き合わされたこと。1日数食限定の焼きそばパンを買いに行ったこともあったっけ

 

欠けていたパズルが急速に埋まっていく感覚。

不思議だが嫌な思いはしない。どちらかと言えば胸が暖かくなるようなそんな気持ちに願はふと目を細める。空に浮かんでいる青い星が瞬いた気がした

 

「……咲希も、穂波も消したはずなのに……っ!」

 

「なるほど。咲希と穂波、か」

 

「………っ!?」

 

天馬咲希、望月穂波

記憶に絡まった雁字搦めの糸が解ける感覚。脳裏から溢れて、そして願を満たすその過去の温もりに志歩が顔を歪める。まさかこの機に及んでブラフを掛けられるとは思いもよらなかったと

 

そんな志歩の様子に願が苦笑する。そもそも、甘いのだ。記憶を奪ったというくせにわざわざ“5つ並べて置いてあるフェニーくんのぬいぐるみ”だとか何かあった未来だとしても志歩は自分の優しさから逃れられない

 

「志歩。お前は、優しすぎたんだ」

 

「……だから、なに。思い出したとしてもここからは逃げられないよ」

 

哀れむ願の瞳に志歩は吐き捨てる。

例え記憶を取り戻したとしても願はこのセカイから逃れる事はできない。思い出したとしてもなんだ。今度は絶対に思い出せないように強固にその記憶を奪うだけだと志歩は吠える

 

「そうか?想いの数だけセカイがあるのなら……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

現実とは異なるセカイ。想いで造られるそれは、想いの数ほどあると聞く。

なら今のこの想いが線路になり道が作られるのではないか。そんな予感が、音が聞こえるのだ

 

星が煌めく、星が輝く

青い星が、赤い星が、黄の星が緑の星が。降り注ぐように輝く

 

「……一歌、咲希、穂波、志歩──────!!!」

 

「「「「願(げんくん)!!」」」」

 

想いによってセカイは、開かれる

 

 

「……ははは。なに、それ」

 

目の前で起きた奇跡としか言えないような事象に志歩は乾いた声を上げる。

私たちが必死に縋って、追いかけたそれをたった一言で叶えてしまうなんて…ああなんて

 

「……しほ、ちゃん?」

 

「え、私?」

 

「そうだけど違う。…あれは大人になった志歩だ」

 

セカイにやってきていた願が突然目の前で消えて探し回っていた一歌たちの前に想いの欠片が降ってきてその中から願の声が聞こえたと触れた瞬間、この何もない空白の空間にやってきたのだ。

 

少し大人びた願の前に何故かこちらを睨んでいる志歩?らしき女性に一歌たちは驚きながら願の話を聞く。とは言っても願も現状把握している事以外には何もわからないからなんとも言えないけど

 

「へ、へぇ〜……」

 

「しほちゃん……」

 

「なに?いやまあ言いたい事は分かるけど……」

 

大人になったと思ったら志歩と結婚して、幼馴染の記憶を忘れた状態で生活をしていた。ちなみに記憶を失った理由は志歩が奪ったから。なんて話を聞かされたら流石の穂波も咲希もこちらの志歩を見て沈黙するほかない

 

そんな“やりやがったなコイツ…”みたいな幼馴染の視線にこちらの志歩はやるかやらないかで言ったらできるのならやるだろうしおんなじ事するでしょ。と、視線で返した。幼馴染だからできることである

 

「……話は、もういい?」

 

「志歩……」

 

「過去の一歌、咲希、穂波……そして私。」

 

そんな空気を塗り替えるように目の前の大人の志歩が敵意をむき出しにする。

その気持ちはすごく分かる。どれほどいけない事だとしても蜜月を壊されたその怒りは同情できるから

 

「ひどい黒歴史を見てる気分」

 

「………どうして、今の願を奪おうとしたの?」

 

そんな志歩の怒りに真正面から向き合えるのはやはり同じ自分である志歩だけなのだろう。大人になって少し背が伸びて女性らしい魅力が増えた志歩に、自分はこれからこうなるのかと少し感慨深くなりながらも志歩は冷静に問う

 

「まだ、わからないんだ。私…ねぇ、咲希?」

 

「…………まさ、か」

 

鼻で笑うような大人の志歩の声。そんな答えはひとつしかないと、明らかにこの時点で分かっているであろう咲希に顔を向ける。だがそんな咲希は唇を噛んでただ沈黙するばかり

 

「答えなんてひとつしかないでしょ?……居なくなるからだよ。願は」

 

「………願」

 

そんな咲希の姿に大人の志歩は一瞥した後で願だけを見つめる。

決して、逃がさないと言わんばかりの志歩の姿に願も息を呑む

 

「……間違いないよ。願くんは、きっとそうする」

 

「穂波……」

 

咲希の予感。志歩の私だから嘘をついていないという自覚。そして穂波の証言に、それが本当かどうかを問い詰めるように一歌が願の顔を見る。…それが嘘だと、大人の志歩が吐いた誤魔化しだと言ってくれればよかったのに

 

「……あり得ない可能性。だとは言えないだろうな」

 

願はただ綽々と認める。

消えなくてはならない。それが例え、死出の旅になるとしても

そして志歩の世界では自分は“そう”なってしまったのだろう。それはなんとも幸福で、それでいて碌でもないと知っておきながらも願は否定できないから

 

「……ね。分かったでしょ?私、願を止めるにはこうするしかないって」

 

「……………」

 

「咲希、あなたは確実に置いていかれるよ。穂波、ひとりぼっちになってもいいの?一歌、みんなバラバラになっちゃうよ。今度は誰も手を取ろうとはしない」

 

願の同意。そして畳み掛けるような志歩の未来の暗喩に全員の足が止まる

これはそう遠くない未来で志歩が味わった絶望だ。誰のどの言葉も、どんな願いも懇願も、情けない媚びでさえも願を絡め取るにはたりなかった。

 

これはお前たちの未来だと決して目を逸らさせないと志歩が志歩の肩を掴み前を向かせる

 

「ねぇ私。それが未来だ。私は大切なものを取りこぼすんだ…これが、結末だよ」

 

「……それは、あなたの未来で……私の未来とは違う……っ!」

 

吐き捨てる志歩の声に、震えながらも志歩は反論する。

だけどどうしようもなく志歩もわかっていた。その未来が遠い未来ではなく、近い未来、確実に訪れるのだとこの絶望に呑まれてしまった。

 

運命は尽きた。終は定まった

誰も彼も立てない………本当に?

 

「けどそれでも、私たちは進むよ。手を取ってどこまでも」

 

青い星が、夜空を照らした。

いつものように貴方は立ち上がった

 

「……一歌ちゃん」

 

「いっちゃん……っ!」

 

その名前にあるように星が導きの星が、照らす

それだけで私たちは立って歩いていけるのだ

 

「一歌…やっぱり貴方なんだね」

 

そんな一歌でひっくり返された志歩は羨みながらも、どこか納得していた

願の記憶が消せきれなかったのも今思えば、最後の最後に一歌だけが涙を流しながらも願の行く末を案じた上で送り出した。

 

「うん。志歩ちゃん、ごめんね」

 

「いいよ。わかってた」

 

なんとなくそんな気はしていたんだ。と志歩は諦めたように微笑む

本当なら願に思い出された時点で負けていた。それでもここまで引っ張ったのは…多分きっと、私のような未来を少しでも減らしたかったから

 

「………さようなら。最愛の人、良い夢をありがとう」

 

「じゃあな()()()()。在るべき世界へと帰るが良い」

 

想いの欠片が砕けたらそこには何も残らないように、きっと今日の出来事も夢になって風化していく。何も残せないのは少し残念だけど、と志歩は揺れてぼやける視界でそれでも満面の笑みを浮かべる

 

 

「……ああ、ずるいなぁ」

 

 

 

 

 

 

「志歩ちゃん誕生日おめでとー!!」

 

時は経ち今日は志歩の誕生日だと全員がセカイに集まる。今日この日のために準備してきたのだとケーキや飾り付けの中心で照れくさそうな志歩から一歩後ろで願が壁にもたれながら、あの日のことを思い出した

 

あの日のことは誰ももう、覚えていない。

微かに願の中に残っているのが全てだ。その後すぐにセカイは砕け、願たちはいつものように教室のセカイに戻ってきていた。大きくなっていた願の姿も元に戻って…これなら一杯でも飲んでおけばよかったとふと後悔したのは内緒だ

 

「……happy birthday。志歩」

 

未来の君にも届くようにと、願は一本シガレットを空に掲げて────

そんな願に黄緑色の蝶がひらりと舞い、そして消えていったのだった

 

 

 

 






外夜願

もしも“志歩と楽器を続けて共にプロになったら”という願
プロのギタリストとしてレコードの仕事や音楽講師として日々を過ごしている。
誕生日を迎えたその日に妻と入籍し、幸せな日々を送っている

中学生の時に志歩と共に2人組バンドを組み、活動していたところを真堂さんに気に入られそのまま事務所入りしてプロとして生きていく。


まあ全部夢なんだけど




日野森外夜志歩

──────目が覚めた。なんか変な夢を見ていた気がする
あの日私が願を止めることができて、一緒に2人でプロになって幸せになるっていう幸せな夢を

「………願」

久々に、彼の名前を呼んだ。
どうしてだろう、あの日枯れたはずの涙が頬を伝う。壺に収まるほど小さくなった貴方を胸に抱いた日から涙は枯れたはずだったのに

「      」

5文字の言葉。あの日伝えきれなかったそれを抱いて
まだ私はここにいるのだと。ここで歌歌っているのだと、貴方に届けたい



感想、評価お待ちしてます
お前最近終章終わったあるゲームに汚染されてるだろって?それは内緒

次回何書きましょう(最終的に全部書きます)

  • 異聞:魔法少女パロ
  • 異聞:夜の娘続き
  • もしも冬弥と兄弟だったら…
  • もしも奏と双子だったら…
  • もしもまふゆと双子だったら…
  • TS願
  • 配信者願
  • 幕間1 続きリメイク
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