「(幼馴染を恋愛的に見るのは)いやーきついでしょ」と言ったオリ主が幼馴染達に娶られるまで後…   作:ネマ

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やぁ!私だ、お久しぶり!
この話はX君で見たとあるパロの改変モノさ!
つまりアンケ取ったのと全く関係ないから注意

いつも通り設定崩壊・過去改変・キャラ崩壊・独自設定注意です
それではどうぞ


異聞・天使のアナタにさよならを  

 

 

《天使の掟》

 

一、天使は《天界》に住まうべし

 

二、天使は人間を祝福し、護ること

 

三、守るべきもの、忌むべきものに恋をしてはならない

 

四、天輪と翼を失ってはならない

 

五、悪魔を警戒しろ

 

 

 

 

青い空、生命力で満ち溢れた花々や木々が澄んだ空気と共にある楽園。こここそが天使たちの住まう場所《天界》である。おおよそ人とはかけ離れた美貌を持ち、頭に光る輪っかと肩より生える穢れなき純白の翼は天使たちの象徴だ。

 

そんな中に、彼はいた。

黒い髪にスカイブルーの瞳。それだけだとただ人が見ればゾッとするような美貌の少年の頭に浮かぶのは光り輝く輪っか。とそして重力に従った肩甲骨あたりから左右に生える二対の純白の翼。

 

その姿はまさに天使そのもの。いや事実天使なのである

人の世界では《下界》で語られる【夜】と【運命】の大天使である彼は

その真名をゲンと言った。

 

「…………」

 

ゲンの仕事はその信仰にもあるように夜の時間の安息を守るためのものである。

忌むべきもの、即ち魔なるものと限りなく近しくなるこの時間を護る彼のことをあまりよく思わない同族も少なくはない。それはゲン自身も分かってはいるがそれが天使としてゲンは護るべきものである以上放棄することはできない。と今日もまた昼間はこうして《天界》で横になっているのだ。

 

小鳥たちの囀りにそよぐ風に混ざって木々や花々が揺れて言の葉を紡ぐ。確かに《天界》とはまるで人々の合間で伝わるような理想郷…天国が形を成したらこの様な世界になるのだろうか。ふとそんなことを考えていた矢先だった。

 

「ゲーン!!」

 

「やっぱりここにいた…」

 

後ろから伝わる衝撃。それに振り向くとそこにはゲンと同じような天輪と翼を持つ少女がゲンに抱きついてきていた。彼女たちもまた天使であるのだろう。

抱きついてきた少女は金髪の髪に赤色の眼差し。輝く天輪に3対の翼はゲンでは決して逆らうことのできない存在としての圧倒的な格差がある。

 

天使の翼の数は、絶対的な力の差だ。

1対の翼が2対の翼の天使に敵わぬようにどれほど努力を重ねたとしても2対の天使が3対、最上位の天使には敵わぬ事をゲンはよく知っていた。

 

「………お久しぶりでございます。ルシ────」

 

()()()()()()()()()()()()

 

尊き御方の前だと傅くように、ゲンは首を垂れてその少女の尊き名を口にしようとしたその時だった。抱きついたままのその少女は先ほどまでの満面の笑みから一転、強い威圧感と怒りが露わになる。

 

それに応えるように少女の周囲から光が漏れ出る。輝かしきその威光は、その名前に相応しい忌むべきものを焼き尽くす破邪の極光。誰よりも早く見習い天使から召し上げられた幼馴染のその真名を呼ぶ。

 

「……サキ」

 

「うん!せいかーい!」

 

人の間では夜明けを意味する名を持つ彼女だが私たち幼馴染の間では昔から変わらずサキだ。そう呼ばないと誰よりも拗ねるサキをゲンは嫌いになれなかった。

 

ゲンに抱きついたままのサキは光を抑えるとその3対の翼でゲンを閉じ込めてしまう。大きなその翼は身長差があるゲンの身体をすっぽりと覆い隠すほど大きく、その中は一言で言い尽くせないほど極楽だ。

 

ちなみにこれは余談だが、天使が対象を自分の翼で覆こむ事は最上位の求愛行動である。

 

「………」

 

「ごめんってウリ……いやシホ」

 

だがそんなサキの抱きしめから顔の部分の翼を拭うと、目の前にもう1人の少女が不機嫌そうにジト目でゲンを見ていた。

 

銀髪にエメラルド色の眼差し。

輝く天輪はまるで炎のように赤く渦巻いていて3対の翼と腰に吊るした騎士剣は彼女の気高さと荘厳さを表していた。

 

「別に、無視されたことなんて気にしないけど」

 

気にしてないけど。と何度も念押しする彼女もゲンでは決して逆らえぬ存在であり、本来なら言葉を交わすこともできぬ立場の差がある。故に本来なら首を垂れて〜様の敬わなければならないところを幼馴染だからの一点で許されている慈悲をゲンはよく知っている

 

「………お勤め一緒にするから」

 

「ん、なら許す」

 

そう、幼馴染だから真名であるシホと呼ぶ事を許されている。人の間では炎、光と名高い彼女の仕事は忌むべきものと天界の境界線を監視する役割を持つ。故に夜の時間を護るゲンとは肩を並べることが多く、こうして今日も一緒に仕事をするという約束を待っていたかのようにシホの機嫌もよくなる。

 

「むぅ……あたしだって一緒にお勤めしたーい!」

 

「サキは本当に会わないからなぁ」

 

そんな嬉しそうに翼を揺らすシホにむぅと頬を膨らませたサキがさっきよりも強い力でゲンを包む。昔から変わらないサキの姿にゲンは苦笑しながら考える。

 

天界で必ず会えるとはいえゲンは夜の合間は人間界でのお勤めだし、シホも何かあればすぐに飛んでいく。他の幼馴染たちも月やら星やらのお勤めだし、サキ1人だけがこうして上である主上の声を聞くお勤めである。どの仕事も貴賤はないがやはりサキのお勤めは他よりも“特別”なのだ

 

「むぅ……あたしと一緒になろーよー!」

 

「2対じゃ無理だって。」

 

唯一幼馴染の中で2対であるゲンがこうしてサキたちと話をすることを周囲があまりいい顔をしないことも知っているがそれでも幼い頃から一緒にいた幼馴染であるサキたちが素晴らしい存在であることには変わりない。

 

何故主上がゲンを夜と運命の天使の座を与えたのか。それを知る由もないがこれのおかげで職務上はサキを除いて幼馴染と同格である。そうでなければおそらくゲンは4人の幼馴染の誰かの配下にでもなっていた

 

「いいじゃん!あたしがねじ込むよ〜!」

 

「サキ?」

 

「………はぁい」

 

あるいはサキの中ではそうするつもりなのだろう。幼馴染として恋慕と憧れがあったゲンを配下にして自分のものにする痺れるほど甘い空想をシホが微笑む。

 

だがその微笑みからはこれまたゾッとするほど美しい笑みで、足下からは火花が舞っている。まさか乙女の誓いを裏切るつもりかというシホの暗黙の問いにサキが諦めたように返事をする

 

それでも翼にゲンを抱えたままではあるが

 

「けどシホちゃんもゲンくんと一緒になりたいよね」

 

「私は管轄が被ることあるから別に」

 

サキの怒りの頬モチーッ!がシホに炸裂したのだった

 

 

 

 

 

 

時間は夜。宵闇の帳がサキの光を遮る時、忌むべきもの…天使と対をなす悪魔たちが人間を誘惑し夜を侵食しようとする。そんな悪魔の誘いから人間を護り、夜天を守護する。それが願の仕事だった

 

「………異常なし」

 

「こっちも大丈夫」

 

宵闇の帳の上で決して光が消えぬようにと星々の座を動かす幼馴染のイチカや月から迷える霊魂を導く幼馴染のホナミに手を振ってゲンは今日も夜を駆け抜ける。

 

夜の危険は悪魔だけではない。

人の不安が、悪意が、雑念が形となって蠢く。そんな悪い思念体を浄化するのも大切なお勤めである

 

「さすが」

 

「(どや)」

 

いつもならホナミやイチカの一瞥に任せてはいるが、今日はこと浄化するという一点ならばサキをも凌ぎかねない浄化の炎を抱くシホがここにいる。

シホがそのいと気高き翼をはためかせると思念体は力を失い、シホがその剣を掲げ振り下ろせば思念体は全て夜の静寂に帰っていく。

 

(俺ではこうはできないからな)

 

文字通り格が違う。とゲンは目の前でドヤ顔してるシホに小さく拍手するとよりやる気になったのか、空に赤い閃光を残して次々に切り捨てていく。天使の姿を視認できない人間にとってこれは深夜に起きている流星にでも見えているのだろうか。

 

そんな飛星の後をゆっくりと追いかけながら人間を見守る。夜のこの時間、安息と夢に包まれている人間を見るのがやっぱりゲンは好きなのだろう。人間の営みを決して完全に善いモノであるとは言えないがそれでも良いモノだと思うぐらいには

 

「……祝福あれ」

 

小窓から降り立ち眠る赤子の鼻を軽く弾く。まだこうして産まれて間もない小さな赤子の魂は時に悪いモノに魅入られてしまいがちだ。そんな“運命”から切り離し健やかに成長する様に【加護】を与える。

 

ゲンのお勤めは夜の安息を守ること、である。

そうつまりはこうしてゲンが赤子の魂に【加護】を与えて見守るのは……なんなのだろうかとゲン自身も首を傾げる。好意か、或いは慈悲なのか。それともまた別の何かなのだろうか。という迷いがゲンにはあった。

 

(心の贅肉?……けどこれを切り捨てるのは、ダメな気がする)

 

そんな解にもならない堂々巡りをまたいつもの様に考えていた。

だからこそだろう。その窓に近づく忌むべき存在の接近を許したのは

 

「またやってるのね。ゲン」

 

1人の少女が窓際に座っている。水色のその髪は月明かりに照らされて揺れて、赤色に燻んだ水色の瞳がゲンを見ていた。だがその少女の腰からはまるで蝙蝠のような漆黒に翼が生えて、揺れている。

 

人間ではないものの美しさ。そして纏う服は胸当てとショートパンツのみという特徴的な薄着の姿。…即ち、人でなし。そしてそんな彼女たちのことをゲンは天使として忌むべきものである悪魔として知っていた。

 

「………なんの様だ。()()

 

「いえ、ただお話ししにきただけよ?」

 

天使とは決して相容れない存在。そして互いの力は相剋するため出会ってしまったが最後、滅ぼし合うまで争う他に道は残されていない。それは悪魔も一緒のようで寒々しい覇気が周囲を満ちる。

 

だが願は夜の安息を守るものとして、悪魔という存在をただ相容れないだけで済ましていいものかとずっと疑問に思っていた。天使らしくない、とはおそらく“こう”いう事なのだろう

 

「良い宵闇、あなたの息吹きが満るこの時間…ねぇ、一緒に踊らない?」

 

「……いいだろう」

 

そんなゲンのいつも通りの変わりなさに悪魔が微笑む。誰よりも天使らしくて天使らしくないアナタ。きっと悪魔にでも生まれていたら私たちが跪く様な素晴らしい悪魔になっていただろう。けどそうはならなかった、だから私はアナタを────

 

「…あら、騙されるとは思わないのね?」

 

「………お前からは悪い気配を感じない。それに…」

 

「に?」

 

「俺は悪魔ではなく、シズクお前を見て判断すると決めている」

 

覚えていてくれたんだ、と忘れて欲しい、とアナタが欲しい、と心の底から踊ってしまいそうなほど嬉しい、とごちゃごちゃになった内心で悪魔…いや、シズクは微笑む。

 

魔の象徴である紋様が、刻んだ下腹部が疼くのを隠す様にシズクがゲンに寄りかかる。シズクの仲間であるミノリも、アイリもハルカもみーんなゲンの事を待っている。今日だってなんとかシズクが勝ってこうして会いに来れたのだ。

 

「……本当に酷い人だわ。ゲン、やっぱりこっちに来ない?」

 

「堕天は、天使の重罪だと知っているだろう」

 

悪魔の力を流し込めば天使は“堕天”する。

それは《天界》の中でも伝わる悪魔の恐ろしさであり、そして天界の法において絶対に赦されぬ大罪である。天使としての己を抹消され、そして同族に血眼になって殺される、そういう話まで聞いたことのあるぐらいには。

 

「……堕天、ね。じゃあなんで天界において堕天は大罪になるのか、知ってる?」

 

「それは抹消されるからでは?」

 

「それは結果、よ。変な話、堕天してすぐに私たちの《地獄》まで来ればいい」

 

「……………」

 

言われてみれば、そうだ。

《天界》《下界》そして《地獄》。天使にとって悪魔とは下界まで現れればどちらかが斃れるまで殺し合うしかないが、どちらも互いの世界にまで侵攻してまで殺し合った事は有史史上、ない。

 

まるで天界と地獄を自陣として、下界を盤上にしているかの様な歪な違和感。天使も悪魔も互いを嫌い合っているはずなのに、地獄に近い夜の世界を生きるゲンは悪魔に敵意を抱く事ができないその理由が隠されているかの様な気がして

 

恐ろしい、聞きたくない。だけど聞かないとダメな気がする。

 

「それはね………」

 

「その汚い手を下げろ。悪魔」

 

「私の、私たちのゲンくんに何をしている」

 

そんなシズクの答えにゲンは固唾を飲んで待っていたその瞬間だった。

一瞬の静寂を切り裂く様に細剣と大鎌が2人の合間を遮るかの様にシズクに向けて刃を構えている。よほど急いで来たのだろう。舞い散る白い羽根が夜の光を反射してゲンとシズクの間を遮る。

 

「……あら、残念。せっかくの逢瀬なのに邪魔しないでほしいわ」

 

「黙れ。ゲンくんを誘惑する淫魔が」

 

「大丈夫?ゲンくん」

 

3対の翼を持つ天使が2人。流石に悪魔の中でも名の通ったシズクであっても明らかな劣勢を前にしても氷の様な微笑を浮かべて微笑ましそうに見ている。最も天使らしからぬ天使に、気高きと枕詞がつく様な天使が心底惚れ込んでいる姿は悪魔から見ても愉しい話だ。

 

この3対の天使たちも悪魔だからではなく()()()()()()()()()()()()に怒っているのだろう。天使が天使を愛することは珍しくないが、この愛は些か行き過ぎている。そう、それはまるで◼️◼️ 人間のように────

 

「……あ、ああ。すまないな、イチカ、ホナミ」

 

「うん。ゲンはそこにいて……っ!」

 

だがそんなお熱な視線もゲンにとっては幼馴染にして崇めるべき上司である以上、柳に風みたいなものだ。何も持たぬ無手のゲンに対して細健を構える黒髪青目の天使。3対の翼はゲンを隠すように、そしてその頭上で輝く天輪は星々が散りばめられている銀河のようだ。

 

そんな彼女こそ夜の世界において星の座を動かし、星の動きを観察し視続けるもの。その真名をイチカ、と言った。

 

「私たちであの悪魔を斃すから、ね?」

 

安心して、と黒い光を迸らせ大鎌を構える明るい茶髪に澄んだ青い目をした天使はゲンにだけ優しく微笑む。そんな天使の3対の翼は言動とは裏腹に激しく逆立たせ、敵意をむき出しにする。頭上で輝く天輪も湖に浮かぶ月のような美しさが今や、血の涙を流すかのような真っ赤な月に変貌していた。

 

そんな彼女は夜の世界だけではなく空に浮かぶ月にて坐するものであり、魂を視続けるもの。その真名をホナミ、と言った。

 

「ふふっ」

 

「何が」「おかしいの」

 

そんな天使の姿に、悪魔が微笑む。

何かがおかしいと言わんばかりの悪魔の嘲笑に天使が顔を顰める。

 

「ええ、とっても。だって……」

 

「あなたたち、とっても楽しそう」

 

悪魔を斃す事に悦を覚えるかの様に、天使にはあってならない感情。

敵を、◼️◼️ 恋敵を殺す事に悦を覚えるなんて、穢れとは無縁の天使とは程遠い感情。

 

「……バカな事を」

 

「口先に惑わされないで、ホナミ」

 

傑作だ。天使らしからぬ天使と、そんな天使に引き摺られて天使のあり方としてはあまりにも逸脱しすぎている天使。

 

きっと彼女たちが“堕ちれば”この世が覆すほど面白いことが起きるのだろうと悪魔がいや、元天使だったシズクが今や失って久しい天使の翼が生えていた跡が疼くと微笑む。

 

「ここから、やりあっても面白いのだけどねぇ…」

 

「シズクちゃんー?」「全く、シズク!どこ行ったのー!?」

 

けど時間切れだと、シズクは微笑む。

近づくあまりにも強大な悪魔の気配。格だけを言うのなら、決してイチカやホナミと引けを取らない存在の乱入に天使の足並みが乱れる。

 

「……止めよう。イチカ、ホナミ。これ以上は不毛な争いだ」

 

「「……でも……」」

 

「あら、見逃してくれるの?」

 

ここからは間違いなく殺し合いになる。

そしてその結末に待ち受けるものは何も無いこともゲンはよく分かっていた。

 

「……元は、ただの話し合いだからな」

 

「あら…けど、そうね。それもそう」

 

それにゲンとシズクはただ話に来ていただけだ。そしてここから先は剣と槍が交わる火事場になると言うのならゲンもシズクもこの場所にいる理由も必要もない。ゲンの言いたい事にシズクも納得したのだろう。

 

この場を離れようと飛び立ったその時だった

ゲンだけにしか聞こえない声で、こう囁いたのは

 

 

「また、お話しましょう?」

 

 

「………人間の様なアナタと、ね」

 

 

 

「………人間、ね」

 

「?どうかしたの?」

 

いや、なんでもない。とまた仕事に戻り始めるイチカたちを見送ってゲンは1人、荒野の上で立ち尽くした。ゲンにとって人間とはあくまで見守る対象でしかない。矮小な命、一瞬の煌めきを美しいとは思うがそうなりたいとは思わない。

 

どうしてか、いや。だからこそなのだろう。あの悪魔の、シズクの言葉が何度もゲンの脳内で反芻する。もしも、自分が人間であったのならば自分は一体どうなのだろうか?

その“あり得もしないもしも”を想像する事自体が、天使とはかけ離れた姿である事に、ついぞゲンは気づく事なかった。

 

「……天使、さま?」

 

「っ!誰だっ!?」

 

だからこそ、反応が遅れた。ゲンに近づく一つの影。か細い声が聞こえた方向に振り向くとそこには悪魔でも天使でもない、1人の人間の少女が立っていた。

 

「…あ、あぅ……えーっと……」

 

「人の子…?どうしてここに」

 

灰に濡れた紫色の髪。この辺りに住む人間にしては珍しい風貌をしたその子にゲンは近づく。そんなゲンに怯える姿を見ておそらく流浪の民か、そうならざるを得なかった民のどちらかだろうと当たりをつけた。

 

まだおそらく齢十五の年を超えていないであろうこの少女が、何故この様な人の営みがない場所に1人でいるのか。逸れた、や置いていかれたにしてはどこか様子がおかしい少女にゲンが近づく。

 

「祝福あれ。…人の子よ。貴方の名前は?」

 

「あ……マ、マフユ…です。」

 

汚れを禊払い、ゲンが少女に顔を合わせる。髪の色と同じ瞳に精一杯夜を宿したその姿はゲンにとってどこか胸に引っかかる様な、ずっと見ていたいと思う様なそんな初めての感覚。

 

そんな少女…マフユの名前を刻む様に何度も何度も心の中で反芻した後に、ゲンはできるだけ天使の無機質さを抑える様に、できるだけ人間の顔に近づく様に笑みを浮かべて聞いた。

 

「そうか…ならマフユはなぜこんなところに?」

 

「それは…」

 

元はマフユは流浪の民だったらしい。医を、薬を専門に取り扱う一族の生まれで流浪の民たちの良き医師だったのがいつの日か魔女とまで貶められて、そして孤児になったマフユをこの様な僻地へと置き去りにしたらしい。

 

「……すまない。」

 

「い、いえ…!気にしてませんから…!」

 

親から教えられた技術は確かにマフユの物になっている。流浪の民たちは医師を失った以上、どこかでその旅を終える事だろう。そんな予知にも似た予測がゲンの脳内で起きたがマフユ以外にはどうでも良いかとすぐに忘れた。

 

ではマフユはどうするべきか。人間である以上できる限り人間と近しい暮らしをするべきである。今のまふゆは無垢である事そしてゲンからの祝福によってゲンの姿を見ることができているが、それもできるだけ長くない方がいい。

 

本来なら混じり合わぬ存在ゆえに、遠くから見守る程度が良いのだと知っている。

 

「…近くの街まで送ろうか?」

 

「……近くの、街。ですか」

 

あまり歯切れの良い返事とは言えないマフユの復唱に無理もないとゲンは内心思う。ゲンの祝福によってマフユの傷は癒えて無かったことになっているが、心までは真の意味で癒すことができるとは到底思えない。

 

それはゲンの祝福の力が弱いと同時に、マフユが人間を超えて天使の領域に…人の世で語られる《聖者》と呼ばれる存在に成り果てる事を意味する。何人かその《聖者》をゲンは見てきたことがあるが、マフユを“それ”と同類にしたいとは到底思えなかったから

 

「あ、あの…天使様!」

 

「どうしたんだい?」

 

「……な、なら。どこか静かな森はありませんか?」

 

流浪の民といえど元はマフユは森に近い生き方をしていた。薬を扱う以上、森の恵みも危険性もその魂に刻まれているのだとマフユは人とは少し離れた場所で生きていく事を天使に、初めて見た美しいヒトに頼んだ。

 

「なら、連れて行こう。……手を」

 

「は、はい…!」

 

そんなマフユにゲンは手を伸ばす。普段なら道を教えるだけで道中に何があろうと平等であった天使にしては珍しく、己の手で運ぼうとその手を掴む。その瞬間、体がフワリと浮かび上がり空へと飛び立った。

 

「……わ、わぁ…!」

 

「舌を噛まない様に気をつけて」

 

夜の空を飛び立つ。冷たい風、そして夜の空気。全てが通り抜けて降り立った先は、とても静かでそれでいて生命の息吹きが良く満ちている森の一角に立つ…どこか古びた古屋だった。

 

「ここだよ。ここは昔…とある薬師が使ってた古屋でね」

 

「……つ、使っていいんですか?」

 

いいんだよ。とゲンは口にする。この古屋に住んでいた薬師は既に亡くなっている。人間の数えで200年近くも前の話だ。それほどの時間が経っていると古屋も廃れているがこの場所を気に入っていたゲンがわざわざ夜の力で守っていたのだ。

 

別にその薬師…カナデとの間に何かあったわけではない。生まれつき子を宿せぬその娘が不憫だからと薬師との間に運命を繋いで、生きていける様に知識を与え、そして恵みが比較的多く、危険が少ないこの平穏な森に家を立てる様に告げただけだ。

 

『…天使さま、いるんだろう?』

 

最後の最後までカナデはゲンの姿を見ることができなかった。

 

『今までありがとう。こんな婆になるまで見守っとくれて…』

 

“この家は天使様が良いと思った人にくれてやってくれ”

そう。あくまでゲンは約束を守っているだけなのだ。天使として、任された事をしているだけでそれ以外の意味なんてないのだから。

 

「また会いに来るよ。…じゃあ、ね」

 

「ありがとう、ございます…!絶対に、っ来てくださいね!」

 

 

 

そうして月日が過ぎた。

いつの日かマフユは、それはもうとても美しい女性へと育った。

 

 

 

「こんばんは、ゲン」

 

「やぁ、良い夜だねマフユ」

 

かつてカナデが使っていた道具も家具も今ではマフユの跡が写っている。少し古いかなと思っていた道具もどうやらマフユの教えてもらった調合のやり方と一緒らしく特に苦も無く使っている。

 

「そうね……まるで、あの日の夜みたいよ」

 

「ああ、そうか。もうそんなに経ったのか」

 

互いに名前で呼ぶ様になり、互いに言葉の角が取れて、そして過去の話をつまみにアルコールを飲む様になった。まだ幼い頃から見ているゲンにとってここまで賢く、美しく成長したマフユを自慢の娘の様に思っていた。

 

その熱の入れ込み具合は凄まじく、会いに来るよと言ってからほぼ毎日の様にマフユの元に降り立っては共に本を読んだり、昼間の間にマフユが摘んできた薬草を煎じるのを手伝ったりといつの間にか《天界》で過ごすよりもこの古屋で過ごすことのほうが多くなっていた。

 

『もー!最近ゲンくんどこ行ってるのさー!?』

 

『ゲン、最近お勤めが疎かになってる気がするけど?』

 

そんなゲンの姿に確かにサキやシホが声をかけてきた気がするが…まあ、いいだろうと知らず知らずのうちにゲンは自分の中で天使とマフユの間で比較した。そしてその上で、ゲンはマフユの方が大事なのだと選んでしまった。

 

『ゲンくん……最近変だよ?』

 

『ゲン。私たちも心配してるから……』

 

イチカやホナミにも何か言われた気がする。その顔を思い出そうとしても思い出せなくなっている今にゲンはふいに違和感に襲われる。……だがその違和感も形のならないものだとゲンは捨てた。捨ててしまった。

 

「ゲン。私、大人になりましたよ」

 

「ああ、そうだね」

 

本当に、自慢の愛おしいマフユ。

天使としてはうだつの上がらぬ身でも、マフユの前ではありのままの自分でいれた。

 

「んもう。ここまで言ってもわかりませんか?」

 

「………そう、いうことなのか?」

 

ぷくーと頬を膨らませるまふゆにゲンが瞳を大きく見開く。まさか、と思うだろう。だけどそのマフユの思いにどこかとても喜んでいる自分がいるのもゲンの中では事実だった

 

「はい。マフユは、ゲンを1人の人間としてお慕いしています」

 

「………それは」

 

とっても嬉しいし、マフユとなら一生を捧げても良いと思うぐらいにはゲンもいつの間にか天使よりも大事なものだと思っていた。

 

だからこそ今はまだダメなのだ。

 

「その答えには、はい。と答えよう」

 

「!……じゃあ!」

 

「けど、まだダメだ。ダメなんだ」

 

天使である自分は、まだ人間とは程遠い。

同じ時間を生きて死ぬためにも、自分はこの輪と翼を捨てなくてはならない。例えそれが掟に叛逆するものだとしても

 

「約束する。必ず人間になって君を、マフユの元に来る…と」

 

「っ、わかりました。絶対ですからね」

 

やりようはある。必ず、人間になるとゲンはマフユの頬にキスをして夜に誓ったのだった。

 

 

『………ええ、ええ。』

 

『天使でもなく、悪魔でもなく』

 

『人間を選ぶなんて………許さない。許さないわゲン』

 

そんな2人を、水色の瞳が見ていた────

 

 

 

 

数日後。ゲンは騒ぎが起きている《天界》から逃げて、地上を滑るように滑空するように飛んでいた。その騒ぎというのは、《地獄》との門が少し空いてしまったのだ。

 

もちろんその騒ぎを起こしたのはゲンである。

シホから聞いていた話の中でその門の動かし方とか、起きる騒動の対処だとか大体掴んでいたから。つまりゲンはシホの信頼を裏切って、天界を混乱に貶めたのだ

 

(急げ……!)

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ゲンは夜を行く。夜天の元、ゲンは満月の月明かりとよく見える星々の光に照らされてゲンは見習い天使よりも遅い速度で空を飛ぶ。

 

本来ならあり得ないほどの遅さ。そして空の運行上、あり得ない満月の月明かり。ゲンは忘れていた、ゲンは失念していたのだ。夜の間に浮かぶ幼馴染の事を

 

だからこそ、最後まで気が付かなかった。

目先のマフユとの幸せな未来と

 

背後から襲いかかる4本の刃に

 

「ぁ、え………?」

 

両手両足を貫く衝撃。

まるで昆虫標本にされる虫のようにゲンの身体が地に落ちていく。貫いたその剣や大鎌、槍はまるで熱を持っているかのように輝いてゲンでも触れられない神聖な雰囲気を醸し出している。

 

だがこの神聖はあまりにも荒々しく、触れてしまうものを等しく滅してしまうようなそんな怒りのような輝き。だがこの神聖を、この力をゲンはよく知っていた

 

「………ひどいよ」

 

「ゲン、なんで嘘ついちゃうの?」

 

底冷えするようなどこか毒々しい何かを含んだような涙声のサキと、怒りを滲ませたシホの声。あまりにも、あまりにも早すぎる幼馴染の登場にゲンは歯を食いしばる。

 

掟を破ることは気が付かれていないとは言え、まさか起きた《天界》の騒ぎを収めてもう俺が犯人だとわかって追いかけてきたのか。

 

「わたしたちの事、捨てようとしたんだ」

 

「それに人間“なんか”になろうとして」

 

咎めるように、それでいてどこか怒気を含めた冷たいホナミの声とまるで忌み嫌うかのような唾棄するかのような硬いイチカの声。

 

掟を破ることもバレている。と驚きを隠すように口をぎゅっと顰める。どうにか、どうにか幼馴染たちから逃げないと、いけない。

 

「なんで、そんなことしようとしちゃったの?」

 

「お、れは………にんげん、に」

 

そうだ。最初の目的を忘れるな。

幼馴染から逃げたいというのではなくマフユと幸せになるためにゲンは人間になるのだ何故か恐ろしいと竦む足を、体を自分の力でねじ伏せて見上げる。

 

そこには瞳を輝かせて、翼を逆立てた幼馴染の姿があった。天輪も今までに見たことがないほど恐ろしい気配を醸し出していて、その感情に呼応して空気まで歪んで見える。

 

「うん。うん、そうだね」

 

「サ、キ……」

 

その中でも唯一、いつも通りの笑みを浮かべて近づいてくるサキにゲンは好機を見出したつもりだった。

 

このままサキを説得して、見逃してもらおう。そう、ゲンが内心勝ったと笑ったその時だった……忘れていた。笑みというものは本来、

 

「ゲンくんは悪くないよ。あの女は悪魔なんだから、ね?」

 

「…………え?」

 

「ゲンくんは悪魔に誑かされたの。だから天輪が汚れて人間なんかになりたいって思っちゃった、ね?」

 

攻撃的なものだと。獣が牙を向くようにサキはなんの疑いもないように笑う。マフユは悪魔なのだと、ゲンは悪魔に魅了されたのだとそれが真実だと笑う。

 

「……ち、ちがっ!」

 

「違わないよ。だってほら……ゲンくんの天輪が燻んでる」

 

天使の天輪が燻むということは、己の存在が堕ちてしまう一歩目であるということ。本来なら《天界》で十分な時間を過ごせばその燻みも取れるはずが最近のゲンは地上にいた時間が長すぎたから間違えたのだと、サキは言った

 

「だからゲンくんは間違えて門を触っちゃった。そうだよね?」

 

「ま、私がいるから大きな問題にはならなかったしね」

 

つまりこう言いたいのだ。

“そういうことにしろ。それで今回はゆるしてやる”と。それで《天界》に帰ったら何も起きなかったのだと、悪魔に魅了されそうになった同族を助けただけ、で終わるのだろう。

 

………そんなことで、認められるかよ

そう、ゲンは人間のように吼えた

 

「違う……!俺は、俺は、人間に……!!」

 

「強情だね」

 

「うん……サキ」

 

どれほど優秀な人でも、それこそ最上位の天使4人から好意を向けられるような傑物の天使でも、自身の運命の転換期に最も愚かな選択を取る。

 

そういう意味ではゲンはもう人間だった

そんなゲンの姿にホナミが目を細め、イチカはもう待ちきれないとばかりにサキに頬を赤らめて聞く。

 

「そうだね……うん、ゲンくん?じゃあお話ししよっか」

 

「…………何を、だ」

 

ここから先は交渉でさえない。

脅しだ。今までゲンくんを好きにさせてきたから、こうなってしまった。私たちの元を離れたのだという。

 

愚かしい話だ。

そもそも天使の格としてあたしたちがゲンくんを好きにする権利しかないというのに

 

「ゲンくんにはあたしたちから堕天の容疑がかかってま〜す」

 

「それは悪いこと、わかってるよね?ゲン」

 

パチパチ〜と手を叩くサキにシホが指を鳴らす。たちまち、ゲンの身体はまるで炎でできた鎖に縛られて、イチカたちに囲まれる。

 

「だが……それでも……!」

 

「うんうん。だから?、ね。選ばせてあげる」

 

バサリと留め具が外れるような音。それは俺たちが天使の装いを外す音が4回連続して聞こえる。

 

つまり、目の前で幼馴染たちはそのあまりにも黄金比の美しい裸体をまるで見せびらかすようにこちらへと向けたままその装服を脱いだのだ。

 

「あたしたちのここにキスをして自分は天使だと認めるか」

 

サキが指さす先は、決して口をつけるような場所ではない裂け目。つまりゲンは全てを諦めて天使としてサキたちの従僕になるか

 

「あの人間が、悪魔として斃されるのを見ているか」

 

ホナミの月の大鎌が、死の力がマフユを見ているのだとゲンは直感的に察した。……つまりゲンが愛した人が悪魔として無情に殺されるのを見るのか、だ

 

「好きな方を選びなよゲン。」

 

「ああ、でも……うん。そうだね」

 

アタシたちはどっちでもいいと言わんばかりの声色でサキが真顔になりゲンに選択を迫る。だがそれだけでは生温いとイチカがこう呟く。

 

「もちろん悪魔として滅したらその魂ごと、焼き切るよ」

 

「………なっ!」

 

イチカがその手に恐ろしいまでの力を込めてゲンに迫る。ホナミが悪魔を誅した後、イチカがその肉体をバラバラのコナゴナにして、最後に魂をシホが焼き尽くすのだという。

 

つまりもうマフユは二度と生まれてこない。

転生の輪に載ることもなく、無へと還ってしまうことになる。それはこの世で最も無常な罰にゲンの心は恐怖に屈してしまいそうになる。

 

「ひどい?そうだね、ひどいね。私たちを置いて、私たちを捨てて、私たちを裏切って………っ!人間なんかになろうとしたゲンは」

 

「ね、ね。何が不満なの?今なら謝って戻ってきてくれたらわたしたちの事、好きにしていいよ?最上位天使のこのゲン専用の体を好きにしていいんだよ??」

 

「好き、好き。好き好き……大好き。だからゲン、私たちを受け入れてよ。私たちのこと、好きって言ってよ」

 

「なんで、あたしたちじゃダメ?あんな人間…すぐいなくなるような人間なんかよりずっと一緒のあたしたちの方が絶対にいいじゃん!!」

 

恨みに恋慕を募らせるようなイチカの声。

恋慕とこちらに縋り付くようなホナミの声。

ただ囁くように恋心を訴えるシホの声。

天使の方がいいのだと納得させるように手を握るサキの声。

 

だがそのどれも、ゲンには届かず。

そしてゲンは────────

 

己の翼と、天輪を破壊した

 

「………」

 

人に堕ちたゲンには天使の力は届かない。

何故なら人間には天使の姿は映らないから。そう、だから見えていなかった

 

後ろから、ゲンを掴んで恍惚とした顔で堕ちていく幼馴染の姿を

 

 

「「「「どこまでも」」」」

 

 

「「「「ずぅぅっと一緒だよ………!」」」」

 

 

 

ああ、お前は天から落ちた明けの明星、曙の子よ。

 

──────イザヤ書14章12節より抜粋

 

 






ゲン

天使パロでも相変わらずヤバいことやってる人
天使としての実力は二流もいいところだが、誰かを育てるだとかいう能力は一流かもしれない。
そういう意味では夜と、胎児を祝福する天使ではなく一概に守護天使をしていた方が幸せだった。


サキ、イチカ、ホナミ、シホ

光を抱いたまま一緒に沈んでいった天使
約束された将来と、確約された栄光があったはずなのにそれら全てを投げ捨てて共に沈んでいった堕天使。

罪深いその名前は、天使の恋慕として刻まれるだろう


悪魔

「あの……求めたものはそういうのだけどそうじゃないっていうか………」


マフユ

みんなご存知あの子。
戻ってこなくなったゲンを察して泣いた後、1人静かに朽ちるように生きた



感想、評価お待ちしてます
実は今回出てきた天使には元になった天使がいてぇ……

次回何書きましょう(最終的に全部書きます)

  • 異聞:魔法少女パロ
  • 異聞:夜の娘続き
  • もしも冬弥と兄弟だったら…
  • もしも奏と双子だったら…
  • もしもまふゆと双子だったら…
  • TS願
  • 配信者願
  • 幕間1 続きリメイク
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