「(幼馴染を恋愛的に見るのは)いやーきついでしょ」と言ったオリ主が幼馴染達に娶られるまで後… 作:ネマ
はい。少し前からやってみたかった架空イベントですね。
今ちょうどレオニのイベントもやってると言う事でこれもまた運命だなと思いながら急ぎ書き終えました。
まあ残念ながら結構、書きたいことが多過ぎて前後に分けることになっちゃいましたが。(公式のイベントの流れ通りに8話分4話区切り)
もしこのイベントにバナーを付けるんだったら、願の手に持ったスマホが顔を隠し、尚且つバナー全体がひび割れている感じでしょうか。
それと投票の結果。“流し程度に書いてくれ”が多かったです。
500票以上も投票いただきありがとうございます。とりあえず流し程度に書いてはいますが、地雷だと思われた際にはスクロールバーを早く動かして、下の第4話までおろしていただけると幸いです。
ちなみに2番目に多かったのが更新を早くしろでした。ワ…ワァ……はい。頑張ります。
いつも通り、設定崩壊・過去改変・キャラ崩壊・独自設定注意です。
こう、どデカい感情を隠してた主人公がその感情を剥き出しにする所とか良いよね…
第一話 此方より彼方へ
(疲れた……)
夜。深夜と夜の境目となった時間。願は一人、街中を通り抜ける。
人気は少なくなり、どの大人を見ても千鳥足で酔っ払っているようなそんな夜の街を一人去っていく。
(久々にハードだった………)
いい感じに全身の筋肉に疲労が走っている。お風呂に入りさえすれば疲れは取れるだろうが、今お風呂に入ったのならば確実に寝落ちる自信しかない。それだけは避けたい。
鞄から携帯とイヤホンを取り出す。イヤホンも少しお高めの青紫色のワイヤレスイヤホン。幼馴染達が誕生日にといつの時かカンパでくれた物である。
家で使うのならば100均の白い有線イヤホンで十分だが、外ではこれを愛用している。…値段がものであれ、貰ったものは嬉しい。
(……………あれ?)
接続を終えてスマホを開いた願は音楽を入れていたファイルを開き、適当に選んだ音楽を再生させようと指を動かしていた時だった。
(……untitled?)
見慣れない音楽ほどの大きさの容量を持つファイル。
表示されている名前は“untitled”。言うなれば、名前が無いファイル。
そしてこれは願は一度目にしている。そうそれは高校生になってすぐのこと。
咲希が退院したその数日後の話。音楽ファイルの中に“untitled”という見慣れないファイルが混入していた。何処かで文字化けした音楽かと再生すると、視界全てに虹色の光が満ちて、気がつけば異空間の教室に立っていた。
そしてそこで会ったバーチャルシンガーの初音ミク。その異空間は、幼馴染達と願が作り出した本当の想いを写し出した不思議なセカイ。そしてそのセカイに入る鍵がこの“untitled”を再生する事。
先日この幼馴染達と願は仲直りをし、“untitled”は一つの音楽のカタチとなったはずだった。
(………だがここにはLeo/needの音楽だって……うん。ある)
本人にしか気がつかない様な無数のファイルの中から“Leo/need”のセカイの鍵となるファイルが存在している。だと言うのに、ここには2個目のセカイの鍵が有る。
これはどう言う事なのだろうか。確かにセカイの中に存在しているバーチャルシンガー達が言うには想いの数だけセカイは存在すると言うが、俺にもセカイが有ったと言うのか。少し不思議に思いながらも、願は家に向かう。
家に着く頃にはもう、人気も周囲の声さえもしない静寂が有った。
夜の匂いというのだろうか、独特の雰囲気を持っている夜の空気は願も好きで有るが、今はそんな事を考えるほど暇では無い。
戸を開け、靴を脱ぐ。鞄を下ろしていつもなら楽な格好に着替えるというのに、今日は先にスマホを取り出した。
「…………試してみる…か」
もう一度スマホの音楽ファイルを覗くと、そこには見間違いでもなく2個目の“untitled”が存在していた。この“untitled”を再生すればそのセカイに送られる。
どういうセカイか行かなくては分からないが、もし自分の心が生み出したセカイなら碌なものでは無いだろうと願の指は一瞬迷うように逡巡する。
でもそんな事していても時間の無駄だと、二回目は迷う事なくセカイの再生を開始した。
すぐさま願のスマホから虹色の光が出てセカイに送られるかの様に願の姿は家から消えてた。
(……慣れん)
このセカイに飛ばされる時間は慣れない。その言葉を願は飲み込んで瞳を閉じた。
第二話 真打登場!!
⦅数時間前・教室のセカイ⦆
「ねーねーいっちゃん」
「どうしたの?咲希?」
放課後。私たちはいつものようにセカイ、教室のセカイと名付けられたセカイでバンドの練習をしていた。咲希の青春らしい事として始まったこのバンドは、願の協力も有ってか幼馴染全員が揃ったバンド“Leo/need”として活動している。
今ではやるからには本気でって事で志歩の元で楽しくとも厳しく扱かれている
そして今日も、私たちはバンド練習の休憩時間の話だった。
あ。ちなみに願は本日はバイト日として居ない。とは言ってもいつも色々と忙しい願自体、放課後の練習にはなかなか来れなくていつもは週末に時折差し入れに来るぐらいで有る。勿論来た時、見て欲しさに音楽を演奏するが、その時だけ謎にみんなの技量が上がることは気がついているが何も言わない暗黙の了解になっているのは蛇足だ。
「ここって…みんな以外のバーチャルシンガーって居ないのかなぁ?」
「あら?私たちの話題かしら?」
そう。ここ教室のセカイには住人が居る。その人達がバーチャルシンガーという世界中のクリエイター達が創り上げた歌を表現する存在。誰でも彼女達の歌を聞けて、誰からも親しまれ愛されている電子の歌姫達。その存在がセカイにはバンドをしているとしてLeo/needの良き先輩として親交を深めている。
「MEIKOさん!」
「ええ。…それで他のバーチャルシンガーが居ないのかって?」
はい。そう頷く一歌と咲希の前で大らかに笑っているその人はバーチャルシンガーの一人であるMEIKO。親しみを込めてMEIKO姉さんと呼ばれることもあるが割愛。バンドのドラム担当であり、良き先輩である。
「そうねぇ…私も途中から来たけど……」
そう今となっては6人全員が揃っているこのバーチャルシンガーのバンドだが、最初Leo/needのメンバーが来た時はまだ“初音ミク”と“巡音ルカ”しか居なかった。
それが少しずつ、彼女達に合流して今の6人のバントとなった。
「もしかしたらきっとまだ居るかも知れないわねぇ……」
「あら。MEIKO。まだお寝坊さんは居るかも知れないね。」
「あ!ルカさん!」
そしてMEIKO達の多愛ない話に割り込んできたのは巡音ルカ。このセカイに最初から居る一人で、Leo/needからも大きく信頼されてる。バンドではベース担当である。
「でも僕が来た時は、まだ誰か居たような気がするけど…」
「レン君もかい?」「あれ?KAITOも……?」
さらにゾクゾクと、バーチャルシンガーたちが集まる。
その横からさらにと割り込んできたのはバーチャルシンガーである鏡音レンとKAITOである。両方ともギター担当であり、実は願とは同性ということもあってかバーチャルシンガーの中で仲は一二と言える。
「何の話してるの〜!?」「こら!リンあんまりはしゃいじゃダメだよ〜?」
更に向こうから、走ってくるこの少女は鏡音リン。バンドではキーボード担当。
そしてリンを追いかけるかのようにミク。初音ミクが飛び込んでくる。バンドではボーカルとギターを担当している。
「どういう事……?」「あはは。どうなんだろうね」
その後ろから、困惑した表情と訝しげな表情をした少女が入ってくる。
「あ!しほちゃんとほなちゃん!!」
「どう?そっちはいい感じ?」
「結構いい感じに出来てきてるよ」
「そっか。なら良しかな」
ここ、Leo/needでは志歩が教官だ。一歌も咲希も穂波も基礎から教えてもらってるのは志歩である。だからこそ、結構厳しかったりするのだが。
まあそんなLeo/needと6人グループのバーチャルシンガー達がこの教室のセカイを彩る人達であった。
「それで…私たち以外って事?」
後から来たリン達に咲希が溢した謎を話す。曰く、このセカイには他のバーチャルシンガーは存在するのかという事。事実、後から来ている人が多いのだからもう一人ぐらい来るのかも知れないという事だった。
そして、それに一番最近に来たレンとKAITOがまだ誰か居たと発言したのだ。
勿論、そうなると興味の湧かないわけがない。
「う〜ん……どうなんだろうね?」
とは言っても、バーチャルシンガー達がこのセカイで見つけた場所も人もバラバラだ。そして時間とかも関係なかった。だからこそそれはバーチャルシンガーであってもわからない。
そう。今日この日までは。
『私が来たっ!!!』
世の中には、噂をすれば何とやらという言葉がある。
まあなんというかその言葉に間違いは無かったのだろう。
現に、6人以外のバーチャルシンガーは居ないのかという話題に盛り上がって居たところにそう。新しいバーチャルシンガーがまさか自分で向かってくるとは思って居なかったから。
「…………君は……??」
その背にベースを背負って、その少女はドアと教室の縁で仁王立ちしている。
髪の色は薄い黄緑色。髪と同じ瞳を輝かせて、ルカの色違いの黄色のネクタイの制服を着たそのバーチャルシンガー、いやその少女の名前は。
「GUMI??」
「そう!正解!!」
その少女の名前はGUMI。バーチャルシンガーの一人として愛され親しまれるその中の一人である。誰よりもボカロをよく聞く一歌が反射的にその名前を呟いた瞬間、心の底から嬉しそうに笑って、近くにいた一歌に抱きつく。
「これからよろしくね!!みんな!!」
その後、すぐにみんなに向き合い、GUMIは自己紹介をする。
GUMIはまたリンとは違った明るさも兼ね揃えていたので輪の中に入るのに十分も要らなかった。
「………妹が出来た気分ね。」
「えー?じゃあルカお姉ちゃん??」
少しGUMIの登場に落ち着いてきた頃。肝心のGUMIはルカに背を預けて、ルカに髪の毛を梳かされたり、髪型を変えてみたりと、まさに姉妹と言っても過度ではない距離でルカはGUMIを構い倒している。
「……ミク?」「………リン?」
そしてそんなGUMIとルカの姿をみて、一歌と咲希はなんか様子がおかしそうなミクとリンの名前を呼ぶ。
「「……私が最初にGUMIの髪形弄りたかった……」」
そう。様子がおかしい理由は誰よりも先に、今ルカがやっているような髪型を弄ってみたりを最初にしたかったのである。
不思議なことに、バーチャルシンガー達は新しく来たGUMIをまるで妹が出来たように猫可愛がりしているのだ。
「妹が出来た気分だね」「うん。……嬉しい」
そうしてそれはレンもKAITOも同じ意見だ。そうルカのように直接猫可愛がりは出来ないが、少なくとも愛しむ対象で有ることは間違いないようだ。
「あっ!!ほなちゃん!!」
そうこうしていると、咲希は穂波にスマホを見せる。
すると、穂波も思い出したかのように目を見開いて、近くにいた志歩に耳打ちする。すると志歩も思い出したかのように微かにヤバっ…と呟く。
「え?もうそんな時間!?」
一歌も気が付いたのか、スマホの電源を付ける。そうGUMIの登場に意識が持っていかれたのかもう夕方というより夜に近くなってきている。
いつもなら願がバイト終わりに来て、セカイで雑談してから解散するのだが今日はどうやらバイトが忙しく、セカイに寄る時間が取れないと共有されていた。
まあそんな伝言も一歌達は、今見たが。
「……そうね。今日は解散としましょうか。」
そんな様子を見ていたMEIKOは一つ手を叩いて視線を集める。
勿論、そのつもりかバーチャルシンガーも一歌達も鞄を持ってuntitledの再生を止める。その直後、四人光の渦に巻き込まれてセカイから消失する。
「じゃあ私は準備してくるね。」
完全に光の渦が消えた瞬間、今まで笑ってミク達に猫可愛がりされていたGUMIはその表情を消して、まるで本当に無機質になったかのように教室のセカイの戸を開けて去っていく。
「………やっぱりそう上手くはいかない……か。」
「GUMIだって辛いわよ。だってこのセカイでの役割は……」
可愛いがられた手をいとも容易く振り払われた6人はGUMIが去っていった戸をみる。そもそもこのセカイに置いて、バーチャルシンガー達は本当の想いを、自分の音楽を見つけるための謂わば良き理解者としてサポートをするために存在している。勿論、ミク達もそれに異例はない。そう。GUMIを除いて。
「想いを糾弾する事だもの」
酷く残酷な真実をMEIKOは呟く。そう。GUMIのセカイでの役割は想いを糾弾する事。その想いを貶め、蔑み、破壊する事。そのバーチャルシンガーよりも“人間らしさ”を追求したGUMIにとって、そんな事したくもないはずだ。でも、しなければいけない理由が有る。その想いは有ってはならない物だとGUMI自身が一番気が付いているから。
(願わくば…GUMIもあの子も傷つかないように終われば良いんだけど。)
バーチャルシンガー達の願いとは裏腹に、セカイは夜に包まれる。
そう。それはまるでこの先には……光がないと伝えるかのように。
第三話 絶望せよ。その魂
ある愚かな男の話をしよう。
どうしようもなく、馬鹿で取りこぼし続けた…そんな男の話。
その男は…いや少年はいい意味でも悪い意味でも無垢だった。
何者にも染め上げられるようなそんな何処にでも居るような少年だった。
子供の時には子供らしい遊びにハマって、友人もほどほどに多く、クラスの中心というわけでもないが、まあその周囲に何処でも居るような少年だった。
初恋は…保育園のお姉さんだったり、クラスのマドンナだったりほどよく興味を持って生きてきた。そう、そんな幼少期だった。
そう全ての歯車が狂ったのは、中学の頃。
中学生になるとできることが大きくなっていく。そうそれは良くも悪くもだ。
多くの人に多くの物に触れて、そしてその全てが自身に害をもたらさない物だとは言えないだろう。その面では少年は非常に運が悪かったと言えるのだろう。
彼は間違いなく“悪い”方面に染められてしまった。理由は今となっては分からない。そう“悪い”方面の人間が周囲に多かったからなのか、そもそもその少年にそういう適正が有ったからなのか。考えなしの憧れから来たものなのかそれは定かではない。
気が付いた時にはもう。戻れない所まで落ちていた。
善性に至るには、愛するような“普通”にはもう戻れないと。その少年が気がつくのは遅かった。日々を無駄に、無作為に、浪費して腐り落ちてく。そんな未来を恐怖しようともその道に進んだのは自分だと、もう少年は笑うしか無かった。
転機が現れたのは、高校生…ぐらいだったか。
腐った自分はどうしようもないクズで親を泣かせるような最低な奴に成り果てていたのだろう。だが、そんな時間も長くは続かなかった。
親が死んだ。早い、早い終わりだった。少年が少し親と向き合い始めた頃の話だった。どういう原因かは覚えていない。ただ冷たくなった無機質な肉の塊だけが有ったことを覚えてる。それが親の顔をしていて、それが親の姿をしていて……酷く吐きそうになった事は覚えている。
そこからは金だけ渡されて、荒海に少年は投げ捨てられた。
勿論、少年だってこのままだとダメだとようやく分かったのだろう。家事を少しずつ覚え、悪い遊びを時間と労力の無駄だと、いくつものバイトを掛け持ちし、忙しさという逃避に逃げ、逃げ続けた。
全てが変わったのは、もう成人してからだった。
仕事も良いところに拾ってもらえて、忙しいながらも暇をしない職場だった。
そんなある日。そう彼は運命に出会う。一目惚れだった。揺れながら、踊っているようなそんな髪が、病的なまでに真っ白な肌が、それでも力強く輝く瞳が、彼の心を貫いて、離さなくなった。
そんな恋が、止まっていた少年の…いや青年の時間を動かしたのだ。
多くのアプローチを掛けた。いつでも彼女に寄り添った。その彼女は身体が弱く、運動することさえままならない様な貧弱さでそれでも青年はそうだ、陳腐な言葉でも好きなのだろう。
幸せというのは、案外素朴な味をしていたの、だろう。
そんな恋は実り、一人の赤子ができた。身体が弱いからか産めるかどうか非常に難しかったらしいが、それでも彼女は産みたいと強い意志で産み出した。
産後、特に彼女にも赤子にも悪影響はなく、何の問題もないままそうこの平穏が続くはずだった。
そう。あの時までは━━
『御臨終です』
まだ、赤子は一歳だったのだろうか。青年はまた取りこぼしたのだ。
今回は愛した彼女と、赤子という二人を。そう青年はまた失ったのだ。
心神喪失状態だったのだろう。気が付いた時には、もう灰だった。
いや最後の姿さえ見ることは叶わなかったのだろう。
廃人になりかけというところで、青年は運が良かった。
そう偶然にも理性を取り戻したのだから。だが、それも長くは続かなかった。
まず、何もかもどうでもよかった。一人だけの家で、自分を自分と認識したく無かったから。酒にも煙草にも入った。だが虚しさだけが募る時間だった。無駄な浪費を始めた。もう貯める必要がなくなった金だ。秒で無に帰っていく。それだけが心を騙してくれた。
結局、青年の一生は取りこぼしただけなのだ。
親には早くに先立たれ、愛した女も、愛しんだ赤子もその手から零れ落ちた。
身体に害の有る、まるで死にたいというのように酷使したというのにその青年、いやもう老爺となった青年は一人過去を思い出す。
ああ。目を逸らしていた真実だったが、そういうことなのだろう。
親が死んだあの時も、愛した女とガキが死んだのも。
結局はオレが愛したからじゃないか。慈しんだからじゃないか。
二回目はもう望まない。だけど、こんな喜劇がもし過去の自分に伝わるのならばその時はお前は愛することが苦しめるのだと。同じ道だけは来ない様に…と。
何ともまあ 愚かで 愚劣で 救いようのない話だ
第四話 彼岸花の糾弾者
だれかの、過去を見た気がする。
だれかの、悲劇を見た気がする。
だれかの、悲願を見た気がする。
何度も、何度も、何度も気が付いた時には壊れた映画の様に見ていた。
愛したが故に、それ以上の厄災が振り撒かれた馬鹿な男の一生が。
「…………いやな夢だ。」
でも、ここまでハッキリと繋がって見せられるのは久々だ。
いつもならば、細切れの様に文脈も繋がりもないパラパラ漫画の一コマを見せられているというのに。俺のセカイに入ったからだろうか。前世が、過去が溢れてきたという認識でいいのだろうか。
「とは言っても……」
光の渦が消え、そこはセカイと呼ばれる不思議なセカイにいた。
そのセカイは夜に空が見える。星の輝きは見事で、流星が流れているのが見える。
「教室のセカイの屋上……?」
そう。願は一度だけここに来た覚えが有る。
それはいつかの時、仲直りをしたその場所が、教室のセカイの屋上だった。
今日以上に星々は輝いていて流星群といっても過言ではない昼の空に引けを取らないほど美しかったことを覚えている。
(何か…有るはず………)
セカイにはミクとルカがいた。もしこのセカイが教室のセカイで無くても、どちらか二人はセカイに存在するはずだ。その人影を探して、願は足を動かす。
(意外と明るい...)
手持ちで有るスマホのライトを付けなくても足元と周囲程度なら見渡せるほど明るい。月と星の光はバカにならないなと、少し感心しながら歩を進める。
とは言っても、セカイに何もないみたいだ。地面もコンクリート染みていて、端っこには鉄柵でも有るのか横向きにした梯子の様な形状が見える。
周囲を見渡しながら、数分ほどだろうか。願は人影を見えた。
(ミク……じゃなくルカ??)
影の大きさ、そして人影の大きさからミクにしては大きいなと微かに思う。
人影の服の形状から見て下半身あたりが足に向けて膨らんでいる。スカートであることは間違い無いだろうから、ミク・ルカ・MEIKO・リンの誰かだろうか。
なら…その人影の大きさはルカやMEIKO辺りだろうと願は辺りをつけて近付く。
「………来たね。」
「!その声は……」
殆ど無警戒で近付いて行った願に相手が気がつき、声を掛ける。
そう。願はその声を聞いたことがないのだ。上であげた四人の声でもない。そして残りのレンやKAITOという声でもない。…そうそれは願は会ったことのないバーチャルシンガーということ。
「はじめまして。外夜願。」
「………GUMI」
ついにそのバーチャルシンガーは月光が当たる所に出てくる。
願はその姿を見る。薄い黄緑色の髪の毛が光で反射でする。美しいまでの造形とは裏腹に、凍りつくまでの無表情と、無感動を現したかのようなまさに無機質の人形を想像させた。
「さっそくどうだったかしら?悪夢は」
「…………お前が原因か」
願はその姿を見て驚いた様に目を見開いた直後、GUMIのその発言からセカイに入るまでの誰かの過去のリフレインの原因はGUMIが引き起こしたのだと願は臨戦体勢に移る。
「面白いわよね。まるで映画の様なありきたりの悲劇。観客は貴方だけ。上映時間はずっと。」
「どこまで知っているんだ」
憐れむかの様に、嘲笑うかの様に、GUMIはその過去を口に出す。
だというのに肝心のGUMIの表情は凍りついたかの様に全く感情を出すことなく願を見る。…願は視線が鋭くGUMIを牽制する。
「どこまでも」
「!?」
その直後、動いていなかったGUMIの表情が微笑むかのように口角が上がる。
その言葉とは裏腹な態度に、願も警戒心を強める。
だが、そんな願を無視するかの様に、GUMIは言葉を紡ぐ。
「そもそもおかしいと思わなかった?わざわざuntitledを作り出し、ここに呼び出した理由が本当にないと…思うの?」
「……どういうことだ」
たしかに、おかしな話だ。ここは教室のセカイに間違いはないのだろう。
となれば、わざわざuntitledを作って興味を煽り、セカイに呼び出す理由がない。
バーチャルシンガーはスマホを媒介にこっちに姿を見せ会話が出来るというのに。
「それはね………」
GUMIは願の近くに寄る。目の前に来て、下から願の顔を見る。
GUMIの表情は笑っているというのに、その瞳は一切揺らぐことがない。
そのアンバランスさがまた願の警戒心を煽り続ける。
「願の想いを破壊するからだよ。」
「……………は?」
原則としてバーチャルシンガーは想いを見つけるサポーターで有る事は今まであった六人の経験則上間違いない事実で有る。だというのに、このGUMIはバーチャルシンガーはあろう事か想いを破壊することが役割だと何でもない様に言う。
「……俺の想いをか?」
「うん。そうだよ」
「戯言を。GUMI。俺の想いはLeo/need全員で……」
「嘘だね」
だが願の想いはLeo/needが幼馴染たちが輝ける様に、そして志歩の夢であったプロになりたいという物を追いかける彼女たちの為に有った。
それに間違いはないはずなのに、何故GUMIは願の想いをまやかしだと否定したのか。
「………ッ……本当だ。」
「いいえ。嘘でしかない。貴方の言葉に信用さえあれど信頼はなく、また貴方の言葉に慈しみさえあれど共感はない。」
「…………………」
「端的に言うと空っぽの声と空っぽの温もりで貴方は貴方は空虚な声を掛けているだけ」
「……………………ろ……」
「幼馴染を心配してきたのも、幼馴染の仲を繋いできたことも全て自分の描く最高の結末のためだけに利用していた」
「………………めろ…………」
「そろそろ自覚したらどう??」
「………やめろっっ!!!」
「貴方は幼馴染を見ていないって」
GUMIの鋭く糾弾する声に、願はただ停止の懇願をすることしか出来ない。
そう。それはどうであれ願の中心を的確に突いたもの。
願は幼馴染を愛している事は間違い無いのだろう。一人一人を根気よく向き合い、自分の身を削ってまで幼馴染に捧げたその意思は誰が見ても愛だと言えるだろう。
だがその愛は、まるで施しを与える様にペットに餌を与える様な感覚だろう。
謂わば……見返りさえも期待しない一方的な、独善的な愛に過ぎない。
だが、願の見返りの期待は最悪な形で夢想していた。
「全部、全部自分が否定されるためだけに貴方は利用した」
GUMIの糾弾は終わらない。そう。それはさながら輪廻の花の…彼岸花の糾弾者。
願の想いはただ一つ。自己否定の究極系。自滅願望。
誰よりも、どの闇よりも深いドス黒い願の本当が映し出される。
「黙れぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!」
膝を折り顔を伏せ、願は絶叫する。
もう一度現状を確認しよう。ここはセカイ、想いが形を成すセカイ。
そして、そのセカイでどの感情よりも強い感情の抑えが効かないとなるならば、どうなるだろうか。
願の居る所から、黒い彼岸花が咲き誇る。その黒い彼岸花はまるで侵食するかの様に教室のセカイの屋上を染め上げる。それはまさに純黒の絨毯。
更に空では綺麗に星が瞬いていたと言うのに、今は星が見えなくなるほど真っ暗になり、その直後、燃え盛るかの様な流星群が地上に墜ちるかのように近付いているのが遠くに見える。
「…………………っ!!!」
絶叫。絶唱。願のおよそ50年を優に超える絶望と憤怒と遺恨と鬼哭と悲壮と慟哭が
ありとあらゆる今まで溜め込んでいた負の感情全てが暴走するかの様に嵐を巻き起こす。
それはセカイの基盤さえも揺らしかねない願が隠していた、闇。
もし願に親という子を愛しむ存在が居たのならば、もし幼馴染達が願の心の底に踏み込もうとする勇気あるものが居たのならば。間違いなく発生しなかったであろうそんなイフでさえ無に返す様な嵐。
「……………………………」
願の感情の暴走で引き起こされた黒い嵐が過ぎ去った後。
前が見えないからと、腕で顔を覆っていたGUMIが見たのは不自然に抉れている黒い彼岸花の花園だった。
「………どうにかしないと……」
そこには人形的に糾弾したGUMIの姿は居なかった。
それはまるで泣き出しそうな、親とはぐれた幼児の様なそんな心の底から不安そうな顔をしていたのだった。
外夜 願
バイトでお疲れな所(ワンアウト)、前世の苦しい記憶を見せられ(ツーアウト)、精神的に痛い所をクリティカルで殴られて(スリーアウト)暴走。
抑えていたはずの深い深い絶望は、今この時をもって決壊した。
というかそもそもメンタル回復役が誰も居ない状態でよくここまで耐えたなと言うのがある。
いくら聖人だろうと、救いの手を差し伸べる救世主だろうとも、元はただの一般人である事を忘れてはならない。
“老爺”
ありきたりな悲劇を起こした誰か。愛したが、慈しんだが故に失った可哀想な誰か。もはや語るに及ばず。もはや知るに能わず。
この世全てに絶望した彼でも、自分でその命を手折る事はできなかった。病弱な彼女が生きようとして居たのだから。でもせめてその命が尽きるのが早くなる様にと尽力したと言うのに皮肉なことに大往生だった。
GUMI
この教室のセカイにおいて彼女に与えられた役割は、願の想いを壊すこと。
だからこそ、執拗に願の事を責め立てたと言うのだが……
他のバーチャルシンガー達に甘える姿と言い、願を責め立てる姿と言い、その後の不安そうな顔といい、何故かその全容が見えてこないという状態である。
でも忘れないでほしい。彼女もまた、バーチャルシンガーなのだと言う事を。
ちなみにバンド内の役割は、ボーカル兼ベース。
さらなる妄想・配布キャラバージョン
星2:【仕舞った願い】MEIKO
窓越しに手を手を合わせて空に祈りを捧げている制服姿のMEIKO
だけど、その窓には暗い夜が映し出されてMEIKOがどう言う表情で手を合わせているか見る事はできない。
星3:【いつか見た流星】望月穂波
特訓前:困惑げに教室を覗くいつもの穂波。その横には訝しげにしている志歩も居る。
特訓後:黒い司祭服を着た穂波。その両手には黒い彼岸花が添えられ、その彼岸花を愛おしそうに胸に抱き締める穂波。足元にはタツナミソウが咲き誇っている。
ヒント:花言葉
予告
セカイや、シンガー達の想いとは裏腹に、黒い嵐は鳴り止まない。
一歌が、Leo/need達が気がついた時にはもう遅く願の姿だけが何処にもない。
彼方の空。始まりの流星。夜は一人で泣いている。
だから絶対に━━救って見せる。
次回、架空イベント:拝啓、曼珠沙華の君へ【後編】
その…感想とかいただけたら嬉しいです
次回何書きましょう(最終的に全部書きます)
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異聞:魔法少女パロ
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異聞:夜の娘続き
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もしも冬弥と兄弟だったら…
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もしも奏と双子だったら…
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もしもまふゆと双子だったら…
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TS願
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配信者願
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幕間1 続きリメイク