「(幼馴染を恋愛的に見るのは)いやーきついでしょ」と言ったオリ主が幼馴染達に娶られるまで後…   作:ネマ

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ifの後編を書くより先に純愛に手が伸びちまったよ…後編はしばらくお待ちください。咲希ちゃんが引けたので今回は咲希ちゃん編です。一旦消した理由はなんかこれじゃねぇなという作者の「こんなん書きたかったけどまだここまで進んでね〜!解釈違いっ!」という作者の意思です。お騒がせしました。

いつも通り、設定崩壊・過去改変・キャラ崩壊・独自設定注意です。


(親友に膝枕をしてみたらどうかと言われたので)幼馴染に膝枕をしてみた。その時、幼馴染はなんと思うか。三十文字で答えよ。

 

 

 

とある休日。レオニも個人の予定が重なり、そして願のバイトも休養日である。

月に一度有るか無いかのこの日、願はいつものように起きて後回しにしていた家の事をしていた。……具体的には不足している洗剤類や、水回りの整備などである。

前世からと言えどその手つきは非常に慣れたモノであり昼前には終わらせて、後はゆっくり睡眠を取ろうと動き始めた時だった。

 

『………電話?』

 

願のスマホから電話が掛かってきた通知音が鳴り響く。

手に取り誰からかと見てみたら、咲希からだった。特別珍しい相手からでは無いがこのまま放置しておくわけにもいかない。願は一巡する間もなく、スマホを耳に当てた。

 

『咲希?』

 

『あっ!げんくん?』

 

咲希の声はいつも溌剌として非常に元気になれる。

それを口に出して言えば、後は家まで連れられハッピーエンドだというのにこのクソボケは心の中でしか言わない。……そして何より、その感情にあるのが色恋なのではなく単純にアイドルを応援するファンの様な、好意以上にはならない。そんなクソボケであった。控えめに言って恋する乙女に対しての冒涜である。

 

『病院の付き添い?』

 

『うん。出来れば一緒に来てほしいなって』

 

ハッキリ言って相変わらずこのクソボケの深刻さは追従を許さない。腹を空かせ切った肉食動物の前で“食われるはずが無い”と安心している間抜けな草食動物並みだ。話になんねーよ。

 

(確かに。咲希の付き添いはいた方がいいかもしれないな)

 

いくら高校生になったからって言って、悪くならない保証はない。

それを重々知っている願は今回の咲希の付き添いは無視して一人で行ってらっしゃいとは言えるだろうか?いや。言えない。

 

『いいよ。何時集合にする?』

 

『……えーっと……30分後!駅前で!』

 

瞬間的に時計を見る。確かにそれぐらいだったら昼には病院が終わるぐらいだろうか。そこから昼ごはん食べて帰ってもいいかもしれないな。

 

『了解。じゃあまた後ででね』

 

『……………うん!またね!!』

 

冷静に電話を切った願は椅子から立ち上がり、脳内で30分の内に並行作業で出来そうな在庫確認をするために忙しなく動き始める。自分の立てた予定、その全てが覆されたというのに願の顔には不満一つもない。……それはつまり願にとって幼馴染達の一人である咲希との用事は“何よりも”優先する事なのだと決めているのだろう。

 

 

 

「…………!!!やった!!」

 

視点は変わって咲希。

デートというにはあまりにも味気ない様な気もするが勝負所はそこじゃない。

必ず願をモノに出来る。そんな自信と自負を込めて、咲希は電話を掛けたのだ。

いっちゃんやほなちゃんには予定があるのは確認済みだ。しほちゃんには本日急遽予定が入ったらしい。……これはつまり実質、神様がアタシに勝利への道に導いているのだと過言ではない。

 

「でも……ちょっと無防備過ぎない……?」

 

このままだとまた別の日にホイホイいっちゃん達に着いて行きかねない。

まるで雛鳥だ。疑う事もしないげんくんはとっても、とっても可愛いけど、このままだとげんくんは怖い目に遭うかもしれない。

……だから今日、分からせてあげるんだよね。

 

(……うん。いい感じ)

 

髪の毛も少しいつもよりストレート気味に揃えて…

服は……少しボーイッシュ気味に整えて、あなた以外の何色にも染まりませんって意味を込めて黒色を主軸にして……よし。(参照:サブカルボーイスタイル(レディース)の咲希)

 

「……じゃあ。今日、いっちゃうか……」

 

その時のアタシの顔なんて……きっと悪い笑みを浮かべていたんだろう。

まあでもこの時、アタシは考えも付かなかった。アタシの企みは想像してもいなかった形でげんくんと一進一退の攻防を繰り広げる事になるなんて……

 

 

 

 

「お待たせー!待った?」

 

「大丈夫。今きたとこ」

 

アタシが駅前に着いたのは約束の十分前。

だというのにげんくんはもう着いている。

 

「……似合ってんじゃん。」

 

「げんくんもね!」

 

げんくんの今日の服装はカジュアルに黒色のジーパンで、上はアウターといういつもの休日のげんくんの格好だ。やっぱり黒色にしてきて正解。これでペアコーデみたいになってる………!

 

「あっ!一枚写真とろ!」

 

「?……いいけど」

 

げんくんとは身長差は15cmぐらいだ。…つまりこれは理想的なカップルの差というので有名だ。まあ残念ながらしほちゃんだったりほなちゃんだったりアタシと大差無いせいで身長でどうこう言えるわけないけど。

 

「はい。チーズ」

 

「いえーい!」

 

げんくんの腕に包まれて写真を撮った。側から見ると本当にカップルと思われて間違いないだろう。それでいい…それでいいのだ。

やっぱりこう写真で見直すと、げんくんとアタシって本当にお似合いだと思う。

げんくんの黒髪とアタシの金髪と言い、瞳の色の赤とライムグリーン。全部が面白い感じに対称的でもはや運命の差金以上の何物でもないだろう。

 

(じゃああとはこれを貼って…)

 

勿論、レオニ(願を除く)の共有メッセージにだ。

ここではいつもげんくんと自分の自慢ばかりのメッセージだけど、こうよくツーショットが貼られる。この前もいっちゃんとげんくんのプリクラが貼られたばっかりなのだ。今回、アタシだっただけの話で。

 

穂波『は?』

 

志歩『咲希??』

 

一歌『これ審議案件じゃない??』

 

相変わらずげんくんの話題となるとすぐ飛びついてくる辺り、我が愛しの幼馴染達は健在だ。情緒が乱されて、自分の脳内の存在しない記憶で補完してる。

いっちゃんだけはそれ言っちゃダメでしょ。いや。誰であっても嫌だけどさ。

 

「?」

 

「ううん。なんでもない。行こ!」

 

まあいっちゃん達は今はいいや。凄いスマホが震えて何度も何度もメールが来ている事を訴えているが、今はそれは放置だ。そんなことより今からの方が大事だ。

 

大丈夫。この戦い……私の勝利だ……!!

 

 

 

 

「……………………」

 

病院まではバスが通っている。片道50分以上のこのバスに人気はだんだん減っていき、今や俺と咲希と、前に座っている老婦一人と運転手だけだ。

 

「咲希?………ねてるのか」

 

俺と咲希は後ろの方の二人席に座って揺られていた。

最初はスマホの写真を見せ合ったり、思うがままに時間を過ごしていたのに気がつけば咲希の意識はうつらうつらと船を漕ぐ様になり終いには俺の肩を枕に寝入ってしまった。

別に、寝落ちすることに関しては問題はない。病院は終着点だ。まだ30分ぐらいはある。十分に寝てくれて構わない。

 

音楽を聴いて自分も少し微睡もうかどうか考え出した時、右手に持っていたスマホが震えてきた。…基本的にメールや電話の通知以外は切っている自分のスマホだからこそ、今何かのメールを受け取った事がわかった。

 

彰人『願?今日暇か?』

 

彰人からのメールだ。来た内容もありふれた誘いのメール。

いつもなら暇していたかもしれないが、今日は咲希が先着だ。

 

願『今日は用事あり。すまん』

 

彰人『いや。大丈夫だ。』

 

ここまではいつもの会話。いつもの出来事だった。

この後、彰人から自分が考えもしなかった内容が来るとは思っていなかっただろう。

 

彰人『デートか?』

 

デート。か。デートとは親しい男女が日時を決めて会うこと。その約束。…の事を指す。そして今の現状はどうだろうか?親しい……咲希とは親しくありたい。それは一歌、穂波、志歩…全員とも変わらず。ずっと親しく有って欲しい…この絆だけは一生忘れられないモノであって欲しい。そう俺はあの日から思っている事。

時間を決めて、“二人”で会っているこれは紛れもない事実だ。

行き先が病院という所だが、それでも二人で会っている事には違いない。

これもまた広範的にはデートなんだろうか?

 

願『女子と二人でバスに揺られてる』

 

彰人『紛れもなくデートだ。のろけんな』

 

瞬間、返ってきた返答にやっぱりそうなのかと苦笑する。

……確かにそうなのかもしれないと心の中の声が言う。咲希は贔屓目に見ても見なくても綺麗だ。肌はきめ細かく、髪もサラサラで肩に乗っているという事もあってか良い匂いがするのは事実だ。今、誰も見ていない、ほんの少しでも触れて、自分という存在を刻み込めたら────

 

(……………“それ”、はダメだろ)

 

俺が今、この場に居られるのは単にこの子達の献身があってこそ。

だからこそ、この子達を傷つけることなど許さない。赦されない。

ドロっと湧き出る独占欲とその他諸々の薄暗くてロクでも無い感情を飲み干し、小さく深呼吸で空気の入れ替えをする。

 

(アテられてんのかね……咲希に。)

 

そういえば、“彼”も愛した人は身体が弱かった。そういう繋がりだからだろうか咲希には目を離してはいけないという使命感にも似た何かが身体を擽るのだ。

捨てた生き方。映画を観るようにどこか第三者目線で生き、誰かを尊ぶ事も愛する事も、怒る事も、憎悪する事もしない。まるで植物のような生き方。それは愛する事を悉く死なせてしまった誰かの記憶の恐怖と絶望。それがこんな諦観と懈怠を産んだ。

 

それは一歌率いる咲希、志歩、穂波の手で覚まさせられた。

それが良い事なのか、悪い事なのかは未だ分からない。けど、少なくともこの幼馴染の繋がりを求める自分はいい方向なのだと思いたい。

 

(追加のメール…?彰人か)

 

そんな過去への思いを振り払うかのように願は自らのスマホを引っ張り出す。

彰人からのメールの直後、もう一つメールが入っていた事を思い出す。それが今日の願を大胆に変える一言だった。

 

彰人『膝枕とかしてもらったか?』

 

願『それは、俺がしても良いやつか?』

 

彰人『してみろ…いやしろ』

 

身体を横にした方が確かに寝やすい事は間違いない。

正直にいうと自分も今の咲希と距離が近い状態より、膝の上の方がありがたい。

咲希も俺の肩に頭を置いているけど、何度かずり落ちそうに体を震わす場面が無かったかと言われれば嘘になる。

 

「………男の、膝枕で悪いけど……っと」

 

抜き手の要領で咲希の頭を膝にずらす。そうする事で体勢はほぼそのままで膝枕になる。膝枕をするとなったのなら仕様美ということで咲希の眠りを妨げない程度に髪の毛を撫でる。……髪フェチ、というものは持っていないはずだが確かにこのフワフワとサラサラを兼ね揃える髪は撫でていて気持ちが良いものがある。

 

「…………かわい……」

 

い。とまで言いかけた所で口を噤む。

咲希の肌はまるで赤子の様にモチモチとしており、指で軽く触れたらハリがあるのが分かるように指が水面に触れた様に反射する。少し触れたせいかん…と小さな声を上げて頭の位置と体勢を変えようとしているのがこれまた愛くるしい。

確かに、司先輩が咲希を溺愛する理由がよく分かる。

 

 

 

 

(ええええええええええええ!!?)

 

突然ですが天馬咲希です…げんくんの手を引いてバスに乗ったのまでは良いのですがいつの間にか意識を失っており、げんくんに…膝枕をされてます。

 

(そんな、そんな積極的なの初めてだよ!?)

 

咲希のいつもの姿やその言動などによりチャラチャラしている…ギャルっぽいと思われがちだが、実は誰よりもピュアなのが咲希なのだ。幼馴染の中で一番最後までキスだけで子供が出来ると考えていたと言えば分かるだろうか?

願への愛を拗らせて以来そういう事を知り策謀(笑)を張り巡らせ、他の3人より先に進んでいる自負を持っている。尚、自負しているだけである。

 

(と、とりあえず落ち着いて素数を数えて…っ!1357…)

 

自負しているだけなのだから、逆に一転攻勢されるとクコザコ…激チョロになってしまう。“膝枕”という願の特に咲希の思っている様な意味も含まない行動であっても積極的と言う辺り、今まで願がどれだけ恋愛的に一線を引いていたのかよく分かるだろう。……まあ今の咲希がそんな事考えられるほど悠長では無いが。

 

(…………うん。でも今はこのままで良いかな…)

 

人間というのは情報が自分の脳の処理能力を超える情報がもたらされた場合思考が空白になるらしい。…今の咲希はまさにそんな状態だ。意識が覚醒したのだから起き上がれば良いのに、珍しい願のデレが膝枕という形で現在進行形でもたらされているのだから咲希も引くに引けなくなってしまった。

 

うっすらと片目を開いて、げんくんが今何をしているのかと興味が湧いた。

アタシが今日、着いてきてほしいって言ったのは本当に急な話だ。大分無理をさせてしまったのだろう。げんくんは寝息は小さいけど、確かに寝入っていた。

 

(………げんくん)

 

昔っからげんくんにはずっと支えてもらってばかりだ。

アタシ達はそれを忘れちゃいけない。アタシ達はげんくんを…外夜願という存在を歪めた事を忘れちゃいけない。

なんとなく、なんとなくだけどげんくんが消えたかった理由が分からない訳じゃない。壊れていく幼馴染を、その関係を眺めることしか出来なかったのは一番アタシが理解しているから。自分の身体さえ、この恨めしいほどの病弱さが無ければげんくんの献身に理解できなかったかもしれないけど、それでもアタシにもできることが有ったはずなのだ。

 

げんくんの首筋に手を伸ばす。そのままその手はげんくんの頬を撫でる。

げんくんの寝顔は何度か見たことがある。…とは言っても“あの一件”からという条件が付くが。その寝顔自体にもアタシは惹かれていたのは本当にどうしようもないほど末期だ。

 

(……………………)

 

げんくんの寝顔はまるで年齢以上の年月の重みが無意識に眠りという中で現れているみたい。簡単に言うなら…退廃的な美。と言うのだろうか?

私だって歌を作る人だ。いっちゃんみたいに歌にする事は出来なくても旋律を作る事は出来る。もしげんくんをテーマに、作るとしたら……?

 

(…………今は、いいや。)

 

げんくんには未だに分かりきっていない事の方が多い。

ゲームで言うなら好感度は足りている筈なのに、イベントをこなしていないせいでげんくんの詳細が分かっていない。みたいな事。

今までのげんくんで何となく分かることは多いけど、それでも肝心なところはまだげんくんが意図的に情報を遮断していそうな気がする。

 

「………起きた?」

 

おっと。そんな事考えていたら、げんくんも目を覚ましてしまった。

今からは前哨戦。必ず、必ず、げんくんの全てを手に入れて見せる───!!

 

 

 

 

「……終わった?」

 

咲希の病院は案外早く終わった。流石に待合室で爺さん婆さん相手に世間話をしながら、時間を過ごしていると病室から足取り軽やかに咲希が出てくる。

 

「うん!待たせちゃってごめんね」

 

「………確か薬もいるんだっけ?」

 

うんそう。と言わんばかりに咲希が首を縦に振る。薬は飲み薬だが、中学の時とは違い症状が出た時に飲むぐらいだ。とは言っても最近は全然症状が出てなくて、なんの問題もないらしいが定期検診と、ついでに薬も取りに来たのが今日らしい。

 

「もうちょっとだけ付き合ってくれる?」

 

「どこまでも」

 

ギザっぽい言葉は慣れないなと思いながらこう言うところでやっぱりカッコつけたい男心が勝る。それがそう見せたくなる相手なら余程だ。

ちなみに我ながら似合わないとふと振り返ると羞恥心で醜態になるからひたすら抑える。

 

「………うんっ!」

 

そんな俺の内心など知ってか、知らずか咲希は今まででたまにしか見たことながないほど嬉しそうに駆けていく。

元気になってお転婆になったのは嬉しいが、自分が小走りして同等の速度って中々…!

 

時間はまた過ぎ、咲希が薬を受け取った後。

 

「ありがとうございました〜」

 

時間はもう昼過ぎ。いい感じに腹も空き、近くのファミレスでお昼にしようかと話していた所だった。店はそこまで人が多いわけではなく入ったと同時に席に座れたのだった。特にこれが食べたい!とか無かった二人は、とりあえずとしてシェア出来そうな数品を頼んで待っていた所だった。

 

「今日はアタシが出すね!」

 

「いや。それはダメだ」

 

俺が払うよ。願にとって別に昼食ぐらい出すなんてなんて事ない。何も言わない親からの生活費とバイトの総額を合わせたのなら、一食分丸々出すことなんて難しい話ではない。…男料理であるが料理も問題なく出来る願にとってお金は現在貯まっていく一方だ。

 

「やーだ。今日はアタシに着いてきてもらったんだから」

 

咲希にとってこれは恩返しの範疇どころかこれだけでは足りないと、何がなんでも払う方向に持って行こうとする。そう。そこまで咲希がムキになる理由などいっぱいあるがやはり上げるならば中学の一件だろう。片方が持つだけの関係はそれは愛とは言わない。ただの依存だ。そう咲希は思っている。だからこそ自分で少しずつ返して行かないといけない。…………まあそれはそれとして願に貢ぎたいだけと言うのもあるが。

 

「………じゃあ。割り勘。」

 

「………………むー……わかった」

 

ここが双方の丁度納得できるボーダーだ。それを特に口に出す事なく願も咲希も考える。だからこそ、ここからが勝負だと無言にも思う。……出来るだけ咲希が、願が得するようにする。その側から見たら惚気の戦が始まったのだった…!

 

 

「お腹いっぱーい……」

 

「食べすぎた……」

 

およそ長針が一周したぐらいだろうか。食べ終わった咲希と願は満腹だと椅子の背もたれに体を傾ける。尚、その惚気の戦はほぼほぼ引き分け。どちらも損をしていない様にしているのは見事と言うのだろうか。

 

「あっ!そうだ!」

 

「?」

 

咲希は何か一つ思い出したかの様に願の手を取る。

その咲希の眼差しはまるで良い事を思いついたと言わんばかりにキラキラしているのを願は真正面から受けることになった。

 

「願の買い物に付き合っても良いかな!?」

 

「買い物…?」

 

そう。買い物!そう咲希は声を上げる。本日は咲希の用事で願が本来したかった買い物などが出来ない状態である。だからこそこの空いた午後の時間を使って咲希が願の買い物などに付き合うと言う事なのだ。

 

「……特に何の面白味も無いよ?」

 

「いーの!……どう?」

 

別に願は特に損があるわけじゃ無い。どちらかといえば手伝ってくれた方が何かと役に立つところの方が多い。だけどそれは別に楽しいと言うわけじゃ無い。咲希が何かそう楽しめそうなことは無いのだけどと願は消極的に反対している。

 

「大丈夫だって!終わった後、願の家でお茶させてくれたら良いからさ!」

 

「…………まあそれで良いなら良いよ。」

 

お茶菓子など色々買って、咲希がそれで良いなら別に今更願がとやかく言うことなど無いに等しい。そして咲希がこれで楽しめるのなら俺が何か言う事もない。特に咲希が居ても不都合な事は何も無いのだから─────

 

だが、願はまだ気が付かない。既に自分は、咲希の罠に嵌っていた事を

 

(やったぁ!一緒に買い物するって事はつまり夫婦みたいな事だよね!)

 

──────────さも、ありなん。

 

 

 

 

「お疲れ様。咲希。重かったでしょ?」

 

「ううん。げんくんのほうが重たいんだから」

 

数時間後。夕陽が落ち始める時間に咲希と願は願の家の帰路を歩んでいた。

日用品から特売品までと、色々と買い込んだ袋は、咲希も願も両腕に持つほどだ。

 

「そこまで重いわけじゃ無いよ。」

 

「そう?……おじゃましまーす!」

 

さりげなく重たいものは基本、願が持っていることに咲希は気がついている。

本当にそう言う所なんだから…と咲希は心の中で思う。色々と店を回っていったとは言え、その合間合間に色々と買い食いをしているのだから願も晩御飯はまだまだあとだろうな。と咲希は考える。

 

「これ、ここでいいー?」

 

「うん。ありがとうー」

 

願は向こうの方で今日買った洗剤類を片付けている。咲希はその間、食材を片付ける事にした。二人とも互いのことは壁が隔てて見えていないが特に何かあるわけないだろうと油断した。油断したのだった。

 

(……………ほなちゃん)

 

咲希が憎悪の視線で、冷蔵庫の中身を見ていただなんて─────

 

 

 

「ありがとう。今日一日。」

 

「ううん。アタシこそありがとうだよ!」

 

片付けが終わり願は駄賃がわりにと紅茶でティータイムと洒落込む様にソファーに腰を下ろした。

 

「紅茶、ありがとう」

 

「えへへ……これぐらいは、ね?」

 

ちなみに紅茶を淹れたのは咲希がしてみた。簡単なパックの紅茶だが今日ばかりは咲希がしてみたいって言うことで任せてみた。まあお湯沸かして、丁度いい濃さでパックを引き出すだけだが、丁度いい濃さで引き出された味は願にとって一つの贅沢だ。……コーヒー?ぶっちゃけ願一人の時は濃さがバラバラである。

 

「あ。そういえば願に一つお願いがあったんだ」

 

「?どうしたの?」

 

いつものように他愛無い会話に花を咲かせていた咲希と願だったが、ある瞬間。咲希は思い出したかのように手を叩いて、願の横に座った。

 

「アタシを選んでよ。げんくん」

 

「……どう言うこと?」

 

訳がわからないよ。願の脳内に困惑とハテナが浮かび上がる。

どう言う意図かわからない。どう言う意味かわからない。あまりに脈絡の無さすぎる咲希の言葉に願は困惑混じりに聞き返す。

 

「げんくん。知ってるでしょ?」

 

アタシ達がげんくんの事、大好きだって事。

勿論、げんくんもアタシ達の事大好きだという事。よく知ってるけど。

そう咲希は忙しなさそうに両手を目の前で指と指を合わせたり離したりして、言葉を紡ぐ。

 

「でも、きっとげんくんはlike…なんだよね。」

 

アタシ達はloveなのに。とても、とても残念そうに咲希は口ずさむ。

そう。願と咲希達ひいては幼馴染との間には多くの認識の差がある。願は幼馴染をあくまで、親愛・友愛とまでしか見ていないと言う。……けど咲希達にとってはさらにその先を思っている。

 

「…………………」

 

願は何も言えないまさしくその通りだから。というより冷静に考えて欲しい。

精神年齢そろそろ三桁行きそうな身体は高校生中身はお爺ちゃんが、まだ生まれて二十も経っていない女の子をそういう目で見る…という事を。ロリコンの謗りを受けてもおかしく無いどころかここの願なら自害しかねない。身体が至って正常な男子高校生だからこそ悶々とする事があると言うのに。

 

「だからここでアピールしとこうかな〜って!」

 

咲希は気恥ずかしさを紛らわせる様に語尾を不自然に高く言い、願に視線を向ける。その眼差しには決して逃さないと言わんばかりに強く熱い視線となって願を絡めとる。

 

「…………本気にしちゃうかもよ?」

 

そんな咲希に願は怪しげな笑みを浮かべて対抗する。……勿論、願にそんな意図はなくただフリをして咲希をテンパらせて怯ませようとしたのだ。

作戦としては悪くない。願の膝枕でキャパオーバーになりかけていた咲希にいつもなら効いていた筈だ。だが、事今にとっては最悪の愚行と言わざるおえなかった。

 

「…………ふーん。へー……」

 

「さ、咲希……?」

 

願はその瞬間。咲希から黒い黒いオーラが滲み出てくるのを感じてしまった。

冷たい汗と背筋が凍り…願は咲希から目を背ける事はできない。その肝心の咲希はと言うとその黒いオーラと頬だけやけに釣り上がっている歪な笑み……願が今までに見た事が無い、咲希の激怒と言うものをその身で味わっていた。

 

「アタシは本気だよ?」

 

「………………………はぁ」

 

その瞬間。咲希は願の膝の上に乗り上げて目の前から覗き込む様に目と目が合う。

顔と顔の距離は殆ど存在する事なく、超至近距離で咲希と願は見つめ合う。

そんな咲希の姿に願は頭が痛いと言わんばかりに額に手を当て考える。

 

「ホントに………男の趣味悪いよ。咲希も、みんなも」

 

小さく、小さな声で願は呟く。苦し紛れの一言。

“あの件”で多少願の歪みは解消されたが、それでも抱え込んだ物は未だ重い。

 

「?…逆だよ。げんくん」

 

アタシ達は最高の人を見つけたんだよ?

真っ直ぐな眼差し。あの日の様なLeo/needという一つの音楽が出来上がった咲希の燃えるようでそれでいて尚、真っ直ぐな眼差しに願は何も言えなくなる。

 

「……………………ホント、趣味の悪い」

 

咲希の純粋無垢なまでの想いに願は遂に小さく我が身に悪態を付くことしか出来なくなった。咲希の言葉を否定する事は、つまり自分達の出会いさえ無碍にする事になってしまう。…それを自覚できているだけ進歩と見るだろうか。

 

だけど少し待って欲しい。ここまで願の主観が混ざっていたが、客観的に今までを見るとどうだろうか?……遊び盛りだった時の時間と金を削り、幼馴染の看病と精神的な意味での支柱であった。そしてそこには見返りは求めておらず、ただ幼馴染が元気になることが自分の幸せだと言わんばかりだった。

……………なんだこいつ。スパダリか。

 

「げんくんがどう思っていようとね?」

 

咲希は両腕を願の首に巻きつく。身体も完全に願の上に乗り、体から密着させる。

そのまま咲希は完全に抱きついて願の耳元で小さく口ずさむ。

 

「アタシ達はげんくんが思っている以上にげんくんが大大大大好き…なんだよ?」

 

その瞬間。咲希は願の首筋を甘噛みする。決して歯は立てる事なくされど自分の跡が残る様に咲希は願に自分を刷り込んでいく。甘く蕩けるようなそんな中、願はその腕を振り払う事など出来ようもなかった。

 

 

 

 

アタシは別に最初からこうしたかったとかああしたかったとかは、無い。

まあ無防備なげんくんを少し怖がらせて自分の魅力がわかってくれたら良いなと思ってただけで…まあそんな想いも全部げんくんの膝枕のせいで全部狂っちゃった。本当にアタシってバカ……

まあでも、夫婦みたいな1日を過ごしてそしてそれを楽しめたら、よかっただけだった。

別に特別な事をしようとだとか考えてはいなかった。…あの時までは。

 

『………紙?』

 

冷蔵庫の中。アタシは初めて“憤怒”、“激情”そして“憎悪”を知る事になる。

その中に入っているのは一つのお皿。何かの炒め物だろうか。それだけならよかった。それだけなら良かったのだ。げんくんの残りかなと気にしなかった。

そう。そのお皿の上に一枚の紙が乗っていなければ。

 

 

願へ

作り過ぎちゃったから晩御飯にでも食べてね。

p.s 一人だからってご飯抜かない事!

 

 

『………ほな、ちゃん?』

 

筆跡は間違いなく、ほなちゃんの字に間違いない。

間違いないのだ。間違いない筈なのに。なんだろうかこのアタシの胸の中を満たすような感情の渦は。綺麗なモノに突然、黒いインクをぶち撒けられた様な不快感は。ズレた旋律を聴かされているような苛立ちと苦々しい想いは…

 

『………ああ。そっか』

 

折角の願とアタシの新婚生活だったと言うのに、たった一枚の紙風情にその夢が壊される怒り。卑しい賤しい侵略者風情が。アタシ達の想いを壊すと言うのか。

その瞬間。アタシでさえ驚くほどの力が紙をぐちゃぐちゃに丸めて捨てた

 

『アタシを選んでよ』

 

アタシならげんくんの好きなようにしてくれて良いよ?なんなら今から抱いてくれてもアタシは喜んで奉仕するよ?……そう言いたいのを喉の奥で噛み殺してげんくんに問いかける。そんなアタシを知っているのか、誘っているのかわざわざアタシに聞いてくる。

 

『でも、きっとげんくんはlike…なんだよね。』

 

勿論、ここからloveに変えてみせるけど。ここら辺で一回げんくんにはわかっていて貰いたい。アタシがどれだけ、どれほど狂おしいほどげんくんを求めて止まないかと言う事を。この愛を今すぐにでも行動に移して良いなら、今ここでげんくんを縛り付けて、ずっとずっと愛を囁き続けてるだろう。勿論、愛し合う事も忘れずに。きっと最後は一匹の獣になって貪り合い続ける未来が見える。

子どもはどんな子が産まれるだろうか。金髪かな?それともげんくんみたいな黒髪かな。男の子でも女の子でもどっちでも可愛い子が産まれると思うんだよ?勿論、きっとげんくん似かな?すけこましだけど優しい子に育つと思─────

 

『だからここでアピールしとこうかな〜って!』

 

危ない。危ない。また飛んでた。

このままだと本当に現実とアタシの妄想がごっちゃになって妄想が現実になりかねない。それはそれでアタシは幸せだけど、今のように少しずつ少しずつげんくんを溶かして落として自分色に染めていく方が正直興奮する。

 

げんくんは謎に自己肯定感が異様に低い。自分なんか、どうでもいい替えがあると本気で思っていたのがタチ悪い。しかもそれを全く悟されないのはげんくんの凄みであり直して欲しい所だ。…アタシ達はげんくんとは空気と一緒なのだ。げんくんが居なければこの世界に生きていく理由を失ってしまう。そう本気で考えていそうなのがアタシだけじゃ無いのだろう。……いっちゃんもしほちゃんもほなちゃんもアタシも、全員がげんくんを宿り木にしている。げんくんだけだ。げんくんの素晴らしさに気がついていないのは。

 

『アタシ達はげんくんが思っている以上にげんくんが大大大大好き…なんだよ?』

 

ずっと、ずっと、ずっーっとね。大好きだよ。げんくん?

 

 

 






天馬 咲希

ヒロインやん。一片の迷いなくヒロインやん。
金髪ギャル系元病弱、超超一途系ヒロインは大好物ですか?
尚、この後チャットの中で凄い追及された事は想像に難しくない。ちなみに願の首には薄らと歯形が付いている。



外夜 願

作者、最近願がくっ殺即堕ち女騎士♂に見えてきたよ……
やったね!願くん!君の未来はお婿さんだよ!


感想、よろしくお願いします。

次回何書きましょう(最終的に全部書きます)

  • 異聞:魔法少女パロ
  • 異聞:夜の娘続き
  • もしも冬弥と兄弟だったら…
  • もしも奏と双子だったら…
  • もしもまふゆと双子だったら…
  • TS願
  • 配信者願
  • 幕間1 続きリメイク
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