「(幼馴染を恋愛的に見るのは)いやーきついでしょ」と言ったオリ主が幼馴染達に娶られるまで後… 作:ネマ
幕間2に行く前に一旦書きたかったifルート。
最近はレオニ大勝利ルートばかり書いている気がする。
私たちの世界は酷く曖昧だ。
昼も夜もない家の中だけが私たちの世界。たった5人だけを内包したこの世界は全てを置き去りにして、時計の針は錆びて動かなくなった。…でもきっと、それで良い。
「……………………」
俺は、外夜願は目を覚ます。両腕が拘束されている様な感覚、少なくとも両腕合わせて4つの重さを感じる腕にふと自分の頬にかかっていた銀色と金色の長髪を払い、両腕に眠る4人の少女の眠りを妨げない様におそるおそる腕を抜き取り静かに、布団を動かさない様に起き上がる。
あまりにもこじんまりとした部屋いっぱいに敷かれた布団の中から自分のスマホを探し出す。頭側の布団とカーペットの隙間に入り込んでいた充電が二十もないスマホの電源を付けて、今日の日付と時間を一通り確認する。
「……………ゴミの日か」
ツインのマットレスを固定して繋いだ上に掛け布団を三枚重ねた5人で寝ること前提の布団の中から願は這い出て、寝室の扉を音が鳴らない様に開け閉めする。リビング、ダイニングからゴミを回収して願は大きくなったゴミ袋を持って扉を開けた。
「大体一週間ぶりぐらいか……」
昇る朝日を眩しそうに見上げて願はカラカラの喉から声を絞り出す。それはまるで太陽を見たのが一週間ぶりと言いたげな声に、周りとのコミュニケーションを完全に拒絶したかの様な数ヶ月単位で開いていないカーテンが締め切った今の我が家を振り返り願はこうまた呟いた。
「………どうか、起きないでくれよ」
ゴミ捨て場はそこまで遠くはない。だけど家を出て少し歩くとなるとただ寝起きに水を飲みに行った、とか誤魔化せない距離でもある。
この前朝近くまで飲んでいたから皆起きなかったが今回は違う。
まるで願の言い方では、幼馴染に起きてほしくないと言いたげな声。
そして今の願は高校時代より幾分か成長している以上に目立つその浮世離れした雰囲気。乱雑に後ろに纏められた黒髪はまるで願が不摂生を極めたかの様な行動。
………そう。これは未来の話。
それもどうしようもない程救われないお話で、それでいてどうしようも無いほど生暖かい“いつか”に生きるかつての少年少女が“終わる”までの変奏曲
「………ただいま」
願がゴミ捨てから帰ってきて、小さく玄関前で呟いたと同時に聞こえる2つのペタペタという足音。……ああ、起きてしまっていたんだなというこの後の展開を既に覚悟した願に飛び込んでくる2つの影。
「どこに行ってたの…どこも行かないで、アタシたちを置いてかないで……」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……見捨てないで、見捨てないで……」
長く、それでいて無造作な銀髪と金髪の少女の姿。明らかに願に抱きついて啜り泣いている金髪の少女と、身体を細かく震わせながら決して願を離すまいと抱きつく銀髪の少女の2人。とりあえず落ち着かせようと2人の髪を撫でながら、リビングにまで戻る。
多少明るいところまで戻った所でその2人の姿が明らかになる。
まるで着潰されてそのままのキャミソールに、下着だけを身につけたあまりにも軽装な2人は願に抱きついたまま離れない。……これは長くなりそうだと願は、いつも通り2人を引き離そうと声を駆ける。
「大丈夫。俺はどこにも行かないし、みんなを見捨てないから。泣き止んで咲希、志歩」
少し屈み、願は2人と顔を合わせる。今も泣き続ける咲希の赤い瞳は、まるで充血しているウサギの様な真っ赤な目になっているし、志歩の緑色の瞳は少し赤くなっていたり目尻に泣き痕があった辺り、大分無茶させてしまったなと抱きしめる。
「うん……うんっ!!」
「約束だよ…約束だからね………」
間違いなく高校時代…reo/need結成時よりも伸びたであろう身長に、風貌。だと言うのに今の2人はまるで親と逸れた幼子が泣きながら親を必死に探してようやく見つけ出したかの様な、あまりに歪な精神性。
もはや幼年期と言えない年齢だと言うのにその風貌も雰囲気も、まるで“長いこと外には触れていないかの様な色白さ”の少女たちに願はまるで安心させるかの様な笑顔を貼り付ける。
(…………………まだマシになってきているのか……?)
ひとしきり安心させる様に2人の髪を撫でて、願は2人に残りの今も寝ているであろう2人を起こしてきて欲しいと声を掛ける。その隙を見計らって願はまるで手慣れた様に冷蔵庫からハムや卵、野菜を取り出して調理していく。
いつの間にか張り付いていた笑みは消えて、いつも1人の時に浮かぶ鬱蒼な顔。料理場の鉄に反射した自分の顔を見ていると今も昔も対して変わっていないなとウインナーが香ばしく焼ける匂いの横で、また静かに笑みに変わっていく。
「「………………」」
「っ!……一歌も穂波も。今は台所に立ってるから少し退いていて」
後ろから聞こえるこちらに近づく急足の2つの足音。おそらく、いつも通りだろうなと分かっている願は即座にコンロの火を止めた瞬間だった、願の背中にピタリと張り付く2人の姿があったのは。
咲希たちと同じ様に無造作に伸ばした黒髪と茶髪に覆い隠されて分かりにくいが、願に張り付いたまま嫌々と言いたげに首を横に振る2人は願の退いてくれと言う言葉には従わないとばかりに抱きつき始める。……ここから長くなることが分かっている願は朝食の準備を咲希と志歩に任せて2人を連れて寝室に戻って行った。
「はぁ……2人とも、また悪い夢でも見たの?」
「ひっ………ひっ…ひっ………」
「 」
青い瞳に大粒の涙を溜めながら息を荒げる一歌と、まるで溺れているかの様に願に抱きついて口をハグハグ…と動かす穂波。そんな2人に手慣れた動作で願は一歌の背中を摩り、穂波は前に抱き寄せて自分の心臓の音を聞かせる。
(今日の過呼吸は一歌で、吸えなくなったのは穂波か)
少しずつ正常な呼吸を戻していく一歌と穂波の呼吸音を聴きながら、願は冷静に脳内に記録する。…少し昔に比べてまだマシにはなって来ているが、こうしておそらく“悪夢”を見てしまえば簡単に取り乱すほど、脆い。
今日の原因はおそらく朝起きた時にはもう2人以外居ない伽藍堂の寝室だったからだろうと願は密かに原因に当たりを付ける。いつからか一歌たちは幼馴染(自分を含む)の内の誰か消える(短時間でも、何処にいるか分かればまだマシだがそれでも長時間は無理)と寝ていても起きていても、まるでトラウマがぶり返すかの様に過呼吸や先ほどの咲希たちの様な幼児退行にも似た“発作”が起きる。
「大丈夫…大丈夫。離れないから、ずっとここに居るから……」
今更、言う事でも無いが願は別に精神科医という訳でも、カウンセラーという訳でもない。故に幼馴染たちへの対応も本当に合っているのかさえ定かじゃない…だからこそ、幼馴染たちを早くそれ相応の病院に担ぎ込みたい。だが、邪魔をするのだ。一度は“バンド界の頂点に立ったバンド”というLeo/needの知名度が。
(無理矢理にでも…と思ったけれど……)
生憎とこんな調子では、難しい所では無い。
1人でも欠けてしまえば起きてしまう発作もそうだし、引っ張って行くのも4:1ではどれほど男手というアドバンテージが有ったとしても難しい。それに荒療治として無理矢理引き剥がして、願自身が姿を消す事もしたが数時間も経たぬ内に言葉には表せないぐらいに酷いことが起きてしまったし、その日から“発作”が毎日続き悪化したとなれば下手に動く事も出来ない。
まあ言うなら本当に詰みなのだ。願に出来ることは幼馴染たちに寄り添い、もう一度立ち上がるまでを待つことしか出来ない。歯痒い時間…現状維持かそれとも退化か不鮮明な中、願はその両腕に幼馴染たちを抱えてもがくしか道は無い。
「……じゃあご飯にしよっか」
リビングから聞こえる音で朝食の準備が終わったのだろう。咲希たちを待ちぼうけさせるつもりは無いから先に食べといてと落ち着いた二人を部屋から追い出し、願は空になった寝室のクローゼットの中から布団乾燥機を取り出す。外も明るい晴れの日ぐらい外に掛け布団だけ干す事も普通なら考えるが、願は敢えて布団乾燥機を掛ける。それもこれも幼馴染たちが“発作”を引き起こさない様にする為と言ったら笑うだろうか。
(日光……いや。自分を映す光がダメなのか)
家の照明程度ならまだマシだが、酷い時にはスマホのライトを当てるだけでも十分“発作”が起きていたと願の記憶の中からは新しい。…今では多少マシにはなったがそれでも誰もいない家のベランダが精一杯な所を鑑みると幼馴染たちにとって本当に心の底から“自分に焦点が当たる光”が深い、深いトラウマになっているのだろうと想像するのは容易い。
一通りやるべきことを終えて願は朝食にありつく。パンと、サラダとソーセージとハムエッグと言ったまず願1人なら用意しないであろうモーニングセットも今となっては簡単に作れる(今日は後を任せたが)。
「ご馳走様でした」
「「「「………ご馳走様でした」」」」
昔から変わらない会話を続けているといつの間にか食事は終わる。今日の皿洗いは志歩と穂波の2人の仕事だ。その間に洗濯を回して掃除をする。基本的にこのリズムを崩す事は無いから本当に手慣れた様にものの一時間ぐらいで家事は終わる。
「………………」
「「「「…………………」」」」
それが終われば願は自分の膝にパソコンを置いて仕事を始める。わざわざ机を使わずにカーペットに座りながら働くのは周囲に群がる一歌たちの姿があるからだ。今日は両隣に穂波と咲希が座り、膝の空いている所を志歩が枕にし、一歌が背中合わせで座っていた。
殆ど専業主夫となっている願であろうともいざという時に自立出来なくては困ると、家で出来る筋トレと仕事は欠かさない。……そう。例え、幼馴染たちが人生を8回やり直しても事足りそうな程の金を稼いで貯めていたとしてもだ。
(本当に見ようによっては……俺、ただのヒモだからなぁ……)
動かしていた指先を止め、最近仕事の時だけ付け始めたブルーライトカットのメガネの縁を押さえて顔を上げる。確かに家政夫の代わりに生活費諸々、幼馴染たちのかつての稼ぎに面倒見てもらっているのは願の精神的にクるものがある。
「…………げんくん?」「願?どうしたの?」
「………ん?特に何もないよ」
それが例え、幼馴染たちの両親全員の公認だとしても。……そうして考えて込んでいると願の異変を感じ取ったのか咲希と志歩が心細そうに、まるで親の不機嫌を感じ取った幼児の様にオロオロと願のジャージの袖を小さく引く。そんな2人に優しく微笑み、願はさっきから雰囲気がない一歌と穂波の方をチラ見する。どうやら悪夢を塗り替えようとばかりに寄り掛かって微睡んでいるみたいだ。
(…………そろそろあれが無くなるな………)
基本的に昼飯を取らないのがリズムのこの家では願の仕事が一通り終われば、家計などの家のことに関する事を片付け始める。買い物にも出ようにも出にくいから宅配などを利用して日用品や食品なんかを買い込む。そうしている内に、一歌たちも場所を入れ替えたり、ネットサーフィンなんかをして互いに思い思いの時間を過ごす。
(──────どうして、こうなってしまったのだろうか)
自己への問い、眠る幼馴染たちの髪を一撫でし願は思考の海の中を潜って行く。思い出すのは過去の出来事。それもLeo/needがプロになった”それから"の話。
(色々とぶつかり合いながら、それでもLeo/needはプロとして発展していった)
プロとなった幼馴染たちに対して、願が出来ることと言えばいつかのバーチャルシンガーと同じように見守ることだけ。そして願自身もそれでいいと思っていた。
Leo/needと同じように、音楽だけで食べていこうとは願は考えもしなかった。歌うことやギターを弾く事はあくまで趣味であり、趣味を仕事にまでしようとは思わなかった。……それに何よりかつての誰かの記憶にも有るようにいつか出会うかもしれない”運命の人”との結婚願望もあったからこそ、幼馴染たちと道を離れることに願は忌避感なぞは無かった。
(話が変わってきたのは…その数年後ぐらいだろうか)
幼馴染たちの強いゴネと懇願によって地方には行けなかったが進学は出来たし、幼馴染たち…Leo/needも順調に人気と知名度が上がってきたのを祝福しながら、自分のこれからの人生に想いを馳せていた所だった。
ある日突然、自分の家に幼馴染たちが上がり込んできたのは。
その日は珍しい季節外れの大雨。願は課題のレポートを早々に終え自身の趣味である読書に時間を費やしていたその時だった。チャイムさえ使わずにドアを叩く音に、流石の願でも扉を開かないわけにはいかなかった。
『────────ぁ。げ、願』
『…………一歌、咲希、志歩、穂波?』
そこに立っていたのは、幼馴染たちの姿。
傘もささず全身ずぶ濡れの姿で立っていたのだ。自身に掛かる雨粒を振り払う事もせず、まるで幽鬼の様に立ち尽くすその姿はずっと一緒にいた筈の願でさえ一瞬、考えてしまう程の変わり様。
あまりの変わり様に絶句している願の前で志歩が代表してヘニョリ…と願に笑いかける。勿論、その笑みもいつもの華が綻ぶかの様な笑みではなくまるで媚びへづらい、懇願するかの様な歪な笑み。映る瞳の中には光が宿っておらず、正しくそれは“絶望”の二文字がこの幼馴染たちの間に立ち込めていた。
『…寒いから、家に入って……風呂沸かしてくるから、タオルで身体を拭いて』
『………あぅ………ごめんなさい、ありがとう……』
流石の願もこのまま放置するのは気が引ける。というより、どうしてこんな姿になるまで放っておいたの?と言う疑問と自責の念が芽生えてくる。とりあえず、家に押し込んでまだ正気そうな志歩と穂波にタオルを手渡して互いに拭いて行ってもらう。
俯いて顔を上げようとしない一歌に咲希と、涙ぐみながら無言でタオルを拭って行く志歩と穂波。どう考えても何かあったとしか言えない現状に流石の願も只事では無いと険しく瞳を釣り上げる。
『………どうしたい?2人ずつお風呂に……』
『………うん。そうしたい……それで良いよね?一歌、咲希?』
『………ぁ………ぅん……』
ずぶ濡れのまま動かない一歌と咲希に願も手を貸しながら、沸いた風呂へ入ってくる様に誘導する。流石のこうなった幼馴染たちであれど雨に濡れたままは嫌だろうと先に志歩から風呂に入って行った。
どうしてこうなったのか。間違いなく知っているであろう咲希の兄や志歩の姉に話を聞こうと立ち上がった時、ふと袖を引かれた感覚がしたと願は振り返った。
『………一歌?』
相変わらず俯いているけど、確かに一歌が願の袖を掴んで俯いていた。呆気にとられたのもつかの間、願はその一歌の行動からどうしてほしいかを即座に見いだし、ハグするかのように抱き締めた。
『……落ち着くまでここに居て良いから』
『……………うん……ありが、とう』
確かに水滴は拭き取ったがそれでもまだ一歌から水気は取れていない。だと言うのに願は一瞬も躊躇うことなく一歌に抱き着いたのだ。……それがどれほど一歌の壊れ掛けていた心の助けになったのか。願は知るよしもないが一歌だけはその温もりを忘れることは無かった。
最終的に俯きながら、独りぼっちになっている咲希もその両腕に抱え込んで落ち着くまで願は二人をなにも言わず抱き締めることにした。これは同情なのかも知れないし、憐憫なのかもしれない。だけど願はこの行いを後悔しない。それはだって……
『『 』』
『………………………』
二人はサラサラと泣いていたからだ。声にもならないような泣き声を上げて、二人は願にしがみつくように泣き叫んでいた。そうそれはまるで、今まで泣けなかった強がりが”本当の温もり”の中でようやく泣けたかのようなそんな姿。
『………お風呂ありがとう……って、ズルい………』
『……あはは。一歌ちゃんも咲希ちゃんもお風呂空いたよ?』
『『………………いや』』
不満げに顔をしかめる風呂上がりの志歩に、暗にそこをどけと言っている風呂上がりの穂波。そんな二人に囲まれても一歌と咲希は小さく横に首を振り、もっと強く抱きついてくる。昔のような懐かしい緩い戯れる様な険悪さを前に、願の頬も緩む。………脳内で鳴り止まない悪寒を置いておいて、願は願にできる事をする。
『それで………話を、聞いて良い?』
………脳内で鳴り止まない悪寒を置いておいて、願は願にできる事をする。
『………それで、何が有ったの』
嫌々と一緒に風呂に引き摺り込もうとする一歌と咲希をどうにか宥め、渋々風呂に入って行った2人をおいて、ようやく落ち着いてきた穂波と志歩を椅子に座らせ淹れたてのココアを差し出しながら問う。
『………………どうしたの、か』
『うん………言わないと、ダメだよね』
今さっきまでの穏やかな顔とは打って変わって2人とも俯いて沈黙する。その姿に願も心が痛まない訳では無いが、それでも問わない訳にはいかないと心を鬼にして沈黙の回答を待つ。
『…………あ、あのね。何も、言わないで聞いて欲しいんだ』
穂波から語られた“願と道を別たれた後のLeo/need”の話。
順風満帆とは言わなくとも特に大きな問題もなく順調に人気や知名度が上がり、プロとして一角のバンドになった。
『………ああ。そこまでは知っている』
『そう、だもんね………』
飾ってある今までのレオニのCDやらグッズの欄をチラ見して穂波はか細く微笑む。
本題はそれからの話だ。レオニがプロとして成長して、それからの話。けどその裏では間違いないなくLeo/needの少女たちの心に暗雲が立ち込め始めていた。
『……本当に、少しずつおかしくなって行った』
プロになったという達成感。日に日に増えて行く期待と盲信。その裏での嫉妬や謂れのない誹謗。……そして少女たちの心の主柱である願との連絡が簡単には出来なくなった事。その全てが栄華を誇るLeo/needの裏側で起こっていた壊れるまでの一幕。
『最初に眠れなくなった』
不安でどうにかなりそうだったと、その時初めて志歩が言葉を零す。
Leo/needという知名度を理解している以上、下手な行動は出来ない。…それも只の一般人として全く別の道を選んだ願に泣きつこうなんて出来ない。
本当は、本当は孤独が怖くて、恐ろしくて。ただ一度でも良いから願の声を聞きたかったと志歩は嗚咽混じりに語る。
『………不眠症か』
『……うん。過度のストレスだろうって』
買った睡眠薬を飲んで、みんなで集まって寝ようとした事もあった。
けどその結果はLeo/needに空いた一つの穴を、自分たちが今まで背中を任せてきた何よりも大切な幼馴染の喪失感を明確に少女たちの心を抉る結果になった。
皮肉なことに眠れないという今までにない重度の疲労。そして不安という極度のストレスによって少女たちの音楽は、更にキレを増して、まるで抜き身の刀の様に鋭く進化して行った。
……だけど症状と言うのは心の、身体の声の代行だ。
そして遂に、少女たちの心を無視して身体が先に根を上げた。
それはまるで“もう限界だ”と言葉にならない悲鳴を上げるように。
『そして……食べれなくなっちゃった』
『咲希…………っ!!』
風呂から上がってタオルで巻いたままの姿に、願が駆け寄る。
その時ようやく気がついた。咲希のあまりに病的なまでの細さに。健康的な痩せ方ではない。まるで筋肉から削ぎ落ちていくかのような、まだ中学の時のように身体が弱かった時代の方が健康的に見える病的な白さと共に。
『ね。げんくん、何を食べても味がしないの』
『…………………』
『………でも何を食べても、何をしても気持ち悪いだけなの』
落ちた化粧のその先。無茶に無茶を積み重ねたのだと誰がどう見ても悲壮感しかない少女の姿を見て願は絶句を隠せない。咲希の語る言葉その全てから感情が抜け落ちていて、もはや只事では済まないと言うレベルで形容できるかも怪しくなっていった。
『………分かった。何なら食べられる?』
『………………ぇ?』
『早く着替えて。“昔のように”一緒にご飯しよう?』
ここまで少女たちの嘆きを聞いて、流石の願も理解している。
これが少女たちの最後の助けを乞う声なのだと。どうしようもなくなって、その最期の一歩手前で命辛々逃げ出してきたのだろう。
『…………ぅ、ぃぃの……?』
『勿論………今まで、よく頑張ったね。』
いつだってそう。願が出来るのは少女たちが一時、休める場所になる事だけだ。夢に真剣で愚直なまでに真っ直ぐな愛おしい幼馴染たちは外では誰かに頼って弱みを見せる事が出来なかったのだろう。
だから願は昔をなぞることにした。思い出の中に回帰する様に、願は過去のおままごとを始める。……きっと今の現実に疲れたこの幼馴染たちにとってはこれが1番の薬になるだろうと直感的に分かっていた。
『……一歌も、お湯沸かしてよ。』
『…………ぁ、う、うん!!』
いつかのあの日の様に願はキッチンに立ち上がる。そうしてようやく願の意図が分かったのか、一歌と咲希はさっきよりも大分マシな顔をして服を着にバタバタと脱衣所に戻る。
『………………いい、の?』
『…………さぁね。でも、』
驚き、眼を広げる志歩の呟きに願は小さく答える。答えなんて最初から決まっていた。少しは希望が灯ってきた穂波に微笑み、願は冷蔵庫の中を覗き込む。……どうやら胃に優しい食べ物は幾つかありそうだ。
『折角の再会なんだ。今はただそれを喜ぼう』
願のそれは”全てに目を背けること”にするという選択。幼馴染たちから語るその全てが全てでは無いと思っているが、それでも願が出来ることは昔と同じ様に飛び立つその日まで大切な幼馴染を支え続けると言うことだった。
「………………………」
そう言えばそんな話。年単位で昔のことだから願自身も記憶の中から引っ張ってこないと行けなくなったと少し首を横に振った。本当に、これで良かったのか。そして今からもこれで合っているのか。願は分からない。
(けど………)
安らかな顔で寝る幼馴染たちの姿を眺める。“あの日”家に転がり込んできた姿とは変わって、随分とマシになったと願は思う。……それでも願自身が離れられない現状が続いているのは変わりないが。
(いつか来る、別れの時が、今度こそ………)
願は分からない。願はその誠実さ故に分からない。
孤独にならぬよう。そう慈しんできた願は最後まで分からない。
独りになる孤独を知ってしまった少女たちは
────────もう二度と、夜の陽だまりから抜け出せる事はない。
満たされた温もりの中で夢を見る。
………それはとても幸せな夢。願がいて、一歌
がいて、咲希がいて、志歩がいて、穂波がいる夢。その夢の中で私たちは幸せに、幸せに毎日を暮らす夢。
外の世界は辛くて、苦しいけど。この世界の中だけではみんなが揃っているから怖くないし苦しくもない。……だけどそんな私たちはたまに“悪い夢”を見る。この優しい世界から追放される様に、外の世界で生きていく、夢。
とても辛くて、苦しくて、空っぽになってしまった全てに涙を流して。
けど、辛さを安らげてくれるヒトは居なくて、苦しみを埋めてくれるヒトは居なくて、空っぽを満たしてくれるヒトはどこにも居なかった。……そんな。耐えられない悪夢が私たちを弄ぶ。
轟々と鳴り響く私たちの音。きっと壊れる前の今際の音によく似ている。
救いの手は無かった。赦しの声は無かった。……分かっていた。だってあの日あのヒトと道が別れると分かっておきながら私たちはその手を引けなかった。…いや。それよりももっと前から。私たちは“何か”を間違えた。
命の代わりに鳴り響く旋律。悲鳴の代わりに盛り上がる音色。
壊れるのなら、このまま誰にも知られないまま塵になって消えるのなら。私たちはその末路をこのステージの上で迎える事にした。……私たちが選び取った道だ。その道に後悔だけは、したく無かったから。
⦅……ああ。でも⦆
もしも、もしも私たちに一抹の赦しが与えられるのなら。
散った私たちの夢の跡にあのヒトが、あのヒトが訪れて私たちの事を少しでも、いずれ消え去る夢だとしてもその一瞬だけ、その刹那だけ。私たちに愛を。
⦅……そんなの、嫌だ⦆
そんな事、嫌だ。一瞬だけ?刹那だけ?……嫌だ。ずっと、ずっと想っていて欲しい。今も、これからも、そして十年先までも……いや、一生私たちを想っていて欲しい。
こんなところで、
そんな絶望で終われるか────!!
⦅………帰ろう。あの楽園に⦆
考えれば早かった。むしろ遅いぐらい。
なんでも良いモノ、どうでも良いモノ全部、全て、投げ捨てて最も軽くなった先で私たちの楽園の扉は開かれた。……ようやく私たちは帰路の先に帰ってこれたのだ。
(………ああ。私)
(………うん。アタシ)
(…………私は)
(……………わたしは)
そんな悪夢の終わりはハッピーエンドで終わる。けどそれでも辛い夢だ。
だから私たちは祈る。醒めない温もりの揺籃の中で永遠に、永遠に続く夢を
((((この幸せがずっと続きますように))))
それだけが、今の私たちの心からの願いだ。
外夜願
この世界線では2回目の架空イベント、“未だ果てなきバルカンに手を伸ばして”が発生しなかった場合、高確率で分岐し着地するルート。(確率としてはポケモン技の“いあいぎり”が命中するぐらいの確率)
そうなると、この世界では願は音楽に目を向けることが無くなるから音楽方面での成長は皆無。レオニがプロになった時点で色々と言って願から少しずつ離れて行く。……つまりただの一般人としてレオニのファンとして適当に生きる道でもある。
適当な大学に行って、適当な職に付き、誰かと結婚する将来を夢見ていた。
それは願が夢見ていた正しい意味で、幸せで平穏な日常になる予定だった。
だけどそうはならなかった。そうはならなかったんだよ、願。
だから──この未来はここでお終いなんだ。
Leo/need
あり得るかもしれない未来の中で生まれた何かあった世界線。
語ることはもう無い。何も無い。全ては夜に沈んで、消えていった。
みんな幸せだな!ヨシ!!
感想、評価お待ちしております。
次回何書きましょう(最終的に全部書きます)
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