「(幼馴染を恋愛的に見るのは)いやーきついでしょ」と言ったオリ主が幼馴染達に娶られるまで後… 作:ネマ
投稿“2度打ち”!!
丸1日の時間を捧げ、このYUMEYUMEJUMP!の世界線を書き上げたぁ!
ちなみにこれで今年は書き納めです。今年もみなさんお付き合いいただきありがとうございました。また来年もこの小説をよろしくお願いします。
この小説を書き始めておよそ2年と少し。
来年はプロセカの映画が公開されますし、マイセカイなどと言った今から楽しみなイベントが盛りだくさんですね。プロセカ内部でも新しいセカイの場所や進級などと言った今からも書くのが楽しみな展開がまだまだ待っています。
ではいつも通り設定崩壊・過去改変・キャラ崩壊・独自設定注意です
「じゃあ私が願を許すよ」
目の前で天使が手を伸ばす。病的に、神秘的に白く透き通り光を反射するその銀髪。青空が思い浮かぶ様なその澄んだ眼差しを前に告解者たる外夜願が目の前の少女に祈るかの様に膝を折る。まるでその姿は敬虔な神父のようにも見える。
「だから、願。私を──────」
場所が場所であるのなら名画になるだろう。だが、生憎とこの場は暗く閉ざされた一室の中で行われた洗礼の様だ。背後で機械的に光るモニターの前に立つ祈られた少女は穏やかな笑みで願に手を伸ばす。だが、その目にはもう願しか写っていないかの様な鮮烈なまでの女神の愛。
或いは、その出会いこそが運命の始まりだったのだろう。
YUMEYUMEJUMP!とは今の話題全てを掻っ攫う新進気鋭のアイドルグループである。メンバー数は4人と小規模ながらも全員の仲の良さは誰もが知る事で、ネットを拠点に活動を広げているグループでもある。特色するべき点はグループの半数が作詞・作曲が出来るある意味アイドルバンドじみたグループである事だ。
そんな4人は今、練習場であるアイドルのセカイの床に倒れ込んだり、座り込んだりと死屍累々の姿を晒していた。『untitled』と書かれたファイルの中の音楽を再生する事で入ることの出来る想いが集まったセカイ。そんなセカイに1人、現れる影があった。
「みんな、お疲れ様」
片手で持ったカゴの中に色々と詰め込んだ1人の少年…願は手慣れた様に少女たちに近付き、一人一人声を掛けながら冷やしたタオルとスポドリを手渡す。そんな願にされるがままに無防備でいる4人の少女たちと願の間には確かな信頼が築かれているのがよく見える。
「おーい!飲ませてくれてもいいんじゃないー?」
「ははっ、寝言は寝てから言いましょうねー」
座ったまま願に黒髪で先端を青色に染めている活発そうな印象を受ける少女…杏が笑いながら野次を飛ばした。確かに一度、願は本当に満身創痍で力尽きて脱水症状と熱中症の一歩手前だと危険な状態だったメンバーの1人に口移しで経口補水液を飲ませた事があったが、あくまであれは医療行為だと願は言い張っている。
「ん」
「ん…ありがとう」
そんなまるで男友達のような会話の杏とはうって変わって最低限の会話だけでスポドリとタオルを渡すのは願と一番古くからの幼馴染である志歩だった。いつもはお姉ちゃんを鬱陶しそうに言うがあくまでそれは好意の裏返しであるとみんなにバレている願の可愛い幼馴染である。
「いつもありがとうね。願くん」
「いえいえ…好きでやってる事ですから。休んでいてください。雫さん」
そうしてそんな志歩の隣で座り込む水色の髪のどこか浮世離れした美貌に汗を滴らせ、顔に熱が籠って暑くなっているのは先ほどの志歩の姉である雫だった。願との関係性をなんと言うべきだろうか。最も適切なのはきっと雇い主と雇われといったところだろうか。
「……………………」
「こりゃダメだ」
ようやくやってきたのは練習の舞台の上で四肢を投げ出して微動だにしないままばたんきゅ〜と倒れている志歩と同じされど長髪をだらんと伸ばした奏がそこに倒れていた。まあ最も、このアイドルたちの仲でぶっちぎり1番に体力がないのは満場一致で奏と言われるほどだが最近は体力もついてきたところでこれだ。どうやら大分追い込んだんだなと願は奏の身体を動かし回復体位へと整える。
「………み、水ぅ……」
「はいよ。どうぞ」
非常に情けない声で呻く奏に手慣れたように願は手を貸して奏の頭を軽く持ち上げて飲みやすいようにペットボトルの口を奏の口に近づける。もはやそれは介護とも呼べるレベルだが誰もなんとも言わない辺りこれが当たり前なのだろうか。
そうして熱心な願の介護の果てに奏が復活した。側から見れば何故か生気を取り戻したかのように練習前よりもツヤツヤとやる気に満ちている奏は本当に人類の神秘だと思わざるをえない。まあ実際は、願の丁寧な介護のおかげだが。
「では、みなさん。次の仕事です」
「おっ。待ってました〜」
少し落ち着いた後に願は手慣れたように次の仕事について纏めた書類を手渡す。まだこのアイドルグループは出来てそんなに長くは無い。知名度が今登り続けている今だからこそこの流行の波に乗らされるのではなく、乗りこなす必要があると願はこのグループの専属プロデューサーとして緒を引き締める勢いで行くと内心覚悟していた。
「基本はいつも通り。ですが共演者たちの名前はお忘れなきよう」
根から社交的で明るい杏と元人気アイドルである雫。基本的にMCなど会話がメインの場合はこの2人が主導権を握る。では逆に演奏や歌などと言った表現に関しては元バンドマン志望だった志歩や才知ある作曲家である奏が主導権が握ると良い感じに分類分けできている。まあ最も表面上そうなだけで掘り下げると可愛い面もあるわけだが今必要なのはそういう話ではない。
「はーい」
「ありがとう」
願の言葉に相槌を打つのは日野森姉妹。そんな2人を見る願の瞳にはほの暗い光…それはまるで狂信的なファンの姿。だがその瞬間、願の瞳からそんな色は消えていつもの様にこの『セカイ』を眺める。
「…………………」
ひとつのステージを囲む様に周囲には鉄骨や廃材アートの跡の様な柵がこのステージを守り、ステージの壁や柵には見事なスプレーアートが刻まれている。天井から降り注ぐライトの光が目立つ様に、このセカイは常に夕暮れの少し薄暗くなった空が変わることはない。
一番星が輝き、セカイの片隅には花が咲いている…それがこの『アイドルのセカイ』の全貌だ。どこか欠けていて、どこか満ち足りている。そんな不完全さがどうにもこうにも願の心に安らぎを与えて、そしてそれと同時に酷い吐き気に襲われる。
「…………やっぱり、ここが……」
いつの間にか願はどうやらセカイの外れ…廃材のその中でも一際大きな花と蔓に覆われたアーチの近くに座り込んでいた様だ。どうしてだろうか。何故か願にとってこの場所はとても心落ち着くのだと一息吐いた後、ただ空を見上げた。この夜空はきっと俺たちのセカイだったのだと、お前は諦めたのだと責め立てる。
「「大丈夫よ/だよ」」
そうしているところだった。前から現れたのは雫と奏。華やかなアイドルの服はライムグリーンと紫と言った色違い以外は似た様なその服装は願と雫が何度も何度も話し合って決めたモノ。
「………練習はもう良いので?」
いつも貴方たちは、本当に良いタイミングで現れるモノだと願は眩しいものを見るかの様に2人を見上げる。あの日も、あの時も、それが全て
「うん……ちょっと休憩……」
「あらあら。奏ちゃんも少しお眠みたい」
願の右肩に寄りかかってうつらうつらと船を漕ぎ始める奏に、合わせるかの様に左肩に寄りかかる雫。そんな平和な光景がここにはあった。この場にいる誰も彼もの心まで読み切る事は難しい。だが少なくともこの時間が続けば良いなと思っているのは3人とも同じの様だ。
「あー!2人ともいいなー!」
「お姉ちゃんだけ、ズルい」
そうしていると後から追いかけてきたのだろう。私服に着替えた志歩と杏が3人を見つけたのかこちらへと小走りで近づいてくる。いつものように願の股を潜って下から顔を出して願を背もたれみたいに甘える志歩と願の背に座って後ろから手を回すのは杏の姿。
そこからは何かをするわけではない。いつの間にか奏は願の肩を枕に完全に寝入ってしまうし、杏は願にもたれるように身体を投げ出しながら鼻歌を歌っている。雫は志歩と願を見たまま微笑んで2人の髪を弄ったりしているし、そんな雫に2人はされるがままになっている。
「───────────♪」
そうして夢は続いていく。夢と夢を重ねて、どこまでも。
「……………」
「いらっしゃいませー。って願か」
ある日の事だった。いつものようにバイトとバイトの合間の時間ができた時に家まで帰るのは面倒くさがった願はその脚でとある喫茶店へと向かった。そここそ願がよく知るアイドルの1人である杏の生家であった。昔ながらの古風な喫茶店と音楽系が程よく共存して互いに良い影響を与えるこの場所は願にとってお気に入りの場所である。
「いつもの。ブラックひとつ」
「はーい。ちょっとお待ちくださいね☆」
杏がこの店へ来店してきたのが願だと分かるといつものよく見える対面の中でも対面なカウンターの一席へと案内した。そんな中いつも通りと言わんばかりに席に座った願は鞄の中からノートパソコンと眼鏡を取り出して、流れている…聞こえてくる音楽を聞きながら作業を始めた。
「はい、コーヒーひとつ。どうなの?最近は」
「………おいおい。座ってて良いのかよ」
そうして作業を続ける事少し。願が何かの作業を一段落させたと見ると杏は隣から珈琲を置いて、自分もと願の隣に座った。横からパソコンを覗き込む様に近づいたがすぐに興味を失ったのか願へと話しかけた。
そんな杏の姿に呆れるかの様に願は嘆息した後、杏へと向き合う。あいにくともうこの時間はピークが過ぎていて、しばらくは暇なんだと脚を投げ出すここの看板娘でもある杏にもう一度願はため息を吐いた後、いくつかYUMEYUMEJUMP!への仕事が入っているのだと口にした。
「いやいやそうじゃなくてさ……願、アンタの事よ」
「………は、俺?」
いやいや。別に私たちの仕事に関してはみんながいるところで教えてくれたら良い。どうせ今日も練習で集まるのだからと手で軽く否定した後に、真剣な目で願の顔を見る。ただでさえアルバイトで日々忙しい日々を過ごしているというのに、その上で私たちのプロデューサーとして対外の対応や色々との雑務で日々を忙しなく過ごしていることを杏は知っている。
「別に……いつも通り、だが」
「本当に?…何か無茶してない?」
杏にとってその仕事がどう言ったモノかはよく分からない。けど少なくとも同い年の少年が1人で抱える仕事では無いのでは無いかと危惧していた。この中で唯一、願と同じ学校に通う杏にとって願の姿を学校で中々見ないのも合間ってその姿は何故か分からない危機感を煽る。…まるでそうなるまで気高くあった誰かを知っているかの様に
皮肉なことだ。好意とは拒んだ方も拒まれた方も等しく傷付ける武器になるだなんて、気がつくことも知ることもするべきじゃなかった。
「大丈夫。君たちが心配する様なことにはならないよ」
1人で抱える事は色々な意味で危険だと願はいつも言う。それはその抱えている1人に何かあってその他に知らぬことがあれば大変だからと……確かにそれは正しいのだろう。理に叶っているのは分かる。けど杏にとって、まるで願が
「ねえ…私が願を心配することがそんなに変?」
「別に、そう言うことじゃ……」
ああ、この顔だと杏は密かに歯噛みする。心の底からその質問に対する答えを持っていない。いや、そういう質問を受けることさえ欠落しているその姿はいつも冷静に私たちを支えてくれる姿とはかけ離れた年相応よりも幼なげに見える。
「………ま、でも…いつも頑張ってくれてるからさ。これは私から☆」
準備していたクッキーを置いて杏は一瞬願にウインクした後に踵を返す。その表情は願から見えないがとても険しく、それでいて何かを覚悟に決めた顔だ。勿論そんな顔など願が知る由もなく、ただありがとうとの声に杏はただ背から軽く手を振ってバックヤードに戻る。
(間違いなく知らないとは言わせない)
考えるはこのままの願を望んでいるのは誰かということ。願と関わって一番短い私が気がついたことに他の3人が気が付かないわけがない。…そうなれば考えられるのはわざと願をこのままの状態でいる様にしているのがいるということだ。
(……多分言いたくないけど一番怪しいのは志歩ちゃん、かな)
一体どうしてそういうことをしたのか。理由を聞く気も知るつもりもないが、少なからずいるはずである黒幕に杏は強い軽蔑の念を覚える。そうなるとやはり親友兼戦友を疑いたくはないがやはり一番に疑うべきは日頃から幼馴染と言って憚らない志歩だろう。
(そうなると雫さんも、あまり期待はできないのかな?)
そうして志歩が黒幕だと仮定するのなら1番の問題はこのグループのある意味リーダー的な存在である志歩の姉の雫さえもそっち側である可能性が高いということだ。姉妹の仲は悪くない。そうなると本格的に二分を割って争う必要性があるかもしれない。
(だとすれば……味方にするべきは、奏ちゃん)
勿論杏も1人で2人に太刀打ちできるとは考えていない。なら現状できることは1人でも気がついてしまったこの真実を共有して同じ様に考えて動いてくれる仲間を作るべきなのだ。……そうあの日、願が私を選んでこの道を示してくれた貴方だからこそ私は貴方に、本当の貴方と向き合いたい。
そう、杏はスマホから連絡先の一つである宵崎奏と書かれた欄をタップした。
「………あ、ごめん。今いい?────奏ちゃん」
「あ、お疲れ様!願くん」
「………雫さん」
喫茶店を出て願は仕事に戻り、終わった頃にはもう日が暮れて夜も遅くなってしまった。もう後は帰って飯を食って寝るだけという願のいつも通りに割り込む影があった。……その姿はサングラスをかけて、変装している様に見えるが願にとっては隠れていないも同然だった。
「さあ、帰りましょう?」
「雫さんは……ここでなにを?」
手を差し伸べる雫の姿に願は思考が真っ白になったのだろうか。もう既に夜も遅い。こんな時間まで雫さんが外にひとりでいるだなんて考えもしなかった願にとって驚いたかの様に呟く。
「最近、願くん簡単なモノしか食べてないんじゃないかって思って」
「まあそれは…そうですが……」
そんな願に雫は微笑んで答える。昔から願が遅い時は雫か志歩が料理を作ったりと通い妻みたいな事をしていたのだが、最近では願もそれも断っていたのだ。だが断ったからと言って願もわざわざ自分で料理する事も少なく、ただ簡単に栄養を取るだけの作業になっている。そんな事を雫は見通していたのか願の手を取って歩き出した。
「そうだわ!今晩は一緒に寝ましょうか。」
昔みたいにみんな一緒に川の字で!と1人ではしゃぎながら歩く雫に願はその昔は少なくともまだ十にもみたぬ年だから許された事ですよね?と口にした。願の家と日野森姉妹の家は本当に近くの近所で、昔からよく関わりがあった。
「流石に家で寝ますよ」
残念そうに口をへの字に曲げる雫に、流石の願もここだけは譲れないと絶対に覆さないと口を閉ざす。そんな願の強い意志が折れなさそうに雫は次第にむーとほっぺを可愛く膨らませて、その後に顔を覆ってぐすんぐすんと泣き始めた。
「ひどいわ…!私たちは願くんに癒されてほしいだけなのに……」
「え、えぇ……じゃ、じゃあお邪魔します?」
勿論それが願も泣き真似だと分かっている。だがそれでも願は騙されるのを良しとした上で、雫さんの悪ノリに乗ることしか出来ない。確かに最近では雫や志歩とのプライベートの付き合いが少なくなっていたのは事実だから願は2人の尻に敷かれるしか無いのだ。
「やったわ!じゃあ、今晩はよろしくね?」
「はは……お手柔らかに」
そうしてこれからの仕事についての話や雑談をしながら雫はその手を引く様に着いた先は願の家だった。そこには本来家の電気はついていないはずなのに、灯っていて中に入ると既にひとつ見知った靴が並べられていた。
「……おかえり2人とも」
「「ただいま。しぃちゃん/志歩」」
お玉片手に出てきたのは志歩の姿。エプロンを身につけた志歩が2人を迎え入れる様に微笑んでいる。これはあくまで余談だが本日、願を迎えに行こうとジャンケンして勝ったのが雫だったという話だ。ちなみに願の家の鍵は雫も志歩も持っている。
「……はい、今日もお疲れ様」
「ああ…ありがとう」
そうして願が色々と片付けてリビングの机に座る頃にはもうそこには料理が並んでいた。暖かい味噌汁の匂いに、主菜の和風ハンバーグの匂い。願が1人なら作る気もつもりもない温かい家庭の手料理がそこにはあった。
「「「いただきます」」」
全員席に座って手を合わせて料理に手を付ける。雫も志歩もやはり育ちの良さが垣間見えるのか食べ方が綺麗だと願はいつも思っていたことがふと思い浮かんでしまった。だがそれ以上に感じるこの違和感は……
「……あれ、2人とも食べてないの?」
「うん。」「もちろんよ」
そうやって食べているとふと願が違和感を口にした。もうこんな遅くの時間まで2人は食べずに待っていたのか。そんな質問に雫も志歩も当たり前だと首を縦にした。まっすぐなそれが当たり前だろうというその目。
「「だってみんな一緒に食べた方が美味しいでしょ?」」
「はは……そうだよね、うん。そうだ」
美味しいものは一緒に食べると更に美味しい。当たり前の話だが大人になるにつれて忘れる事を今、鮮明に確かに願は理解した。ふと滲む視界を遮る様に願は袖でこっそりと拭った。この夢が続きます様に、きっとそれだけを祈って。
「ここ座る」
「はいはい」
そうして食事を終えて片付けをみんなで肩を並べながらこなした後、願と志歩は椅子を並べてコーヒーとカフェオレを啜りながらイヤホンを片耳づつ掛けて聴く音楽は今日の練習風景。雫は先に風呂に入ってくると席を外していた。
「どうだった?」
「いいと思う。そういえばここは───」
そうして志歩と話すのは今日の練習について。やはり歌はストリートで歌っていた杏やアイドルとしての経歴がある雫が一足伸びている感じはあるが、全然志歩も奏も全然違う声色だというのに全員が調和し合ってひとつの世界を象っていると分かる。
この世界へ、このアイドルへの道のために志歩の夢を挫いたのは願だから。きっと願にはその罪悪感が薄れることはないのだろう。だからこそせめての罪滅ぼしではないが志歩が楽しく過ごしてくれる事を祈っているのだろう。
「だね。だとここは───」
「うん、こっちはそうした方が……」
だがそんな願の祈りが通じたのだろうか。志歩は確かに最初に見た輝きとは違う星でも進んでいる。今日だってほら、楽しそうに歌い踊る姿がよく見えると願はいつの間にか膝の上に乗っている志歩に自分から抱きつくかの様に近づく。
「………ん、願?」
「いや、なんでもないさ」
ただ少しだけ願はありえないと分かっておきながら、絶対に同じ様に重ねることなどしてはならない絶対最悪のタブーだと知っておきながら願は今この一瞬だけ、志歩を
「………ごめんな、志歩」
「……何に謝ってるか知らないけどさ」
小さく願が呟いた言葉を志歩は受け取れたのだろう。少し考え込んだ後に志歩は蕩けるかのような笑みで逆に願を抱きしめ返す。まるでもう2度と離さない、ずっとこのままだと独占欲さえも滲ませた笑みでこう嘯いた。
「私から目を逸らせないようにしてあげるから」
「……ああ、それは素敵だ」
まるで夢のように素敵だと願は志歩の腕に抵抗することなくされるがままの体勢で少しの時間がたった。まるで互いの心拍数、果てには呼吸さえも掛かりそうな距離感の中、その温かい沈黙を吹き飛ばしたのは風呂から上がった雫の姿だった。
「お風呂ありがと……あら、あらあらふふっ……」
「ひゃぁ!お姉ちゃん!?」
見ようによっては対面座位で座っているようにも見えることに気がついたのだろう。流石にそんな状態で見つかったのは志歩も恥ずかしかったのか、とても高い悲鳴をあげて恥ずかしそうに願の膝の上で丸くなってしまった。
「お風呂、空いたわよ」
「…………願、先に入ってきて」
顔真っ赤にしながら見上げる志歩の顔に苦笑しながら願は風呂へと向かった。変わらない家の風呂で髪と身体を洗い、風呂の中に入って一息つきながら明日からのことを静かに考えていたその時だった。後ろから物音が聞こえたのは
「…………だれ?」
「あ……おじゃま、します」
そこに立っていたのは裸一貫の志歩の姿だった。即座に願は目を閉じて顔を別方向に向けたがそれでも志歩の身体が強く願の脳裏に焼きついてしまった。小ぶりではあるが確かに出るところは出て、健康的に引き締まっているその身体に願は嫌でも反応してしまう。
「せ、せめて……タオルとかさ」
「べ、別にい、いいでしょ……!私たちの間なんだから…!」
というかそういうことするならバスタオルでも使ってくれたらいいのに…という願のぼやきに今頃になって恥ずかしくなってきたのか声は震えながらも、外に出ようとはしない志歩に願は一度深いため息を吐いた後に、背を向けた。
「……ちなみに、なんて言われたんだよ」
「お姉ちゃんが……一緒に入ると電気代無駄にしなくて済むわよって……」
間違いなくいいように誘導されたんだろうなという予想が簡単にできてしまう志歩の騙されやすさを嘆くべきか、いい年した男女2人が恋仲でもないに関わらずそう誘導する雫の迂闊さを叱るべきか。どうするか考えている間だった。ようやく願が絞り出して一言はまあ悪手なのかもしれない。
「…………そういうことはそういう仲になってからな。」
「私はそういう仲になっていいよ」
そう、願の身体を強引に動かして向き合うように両頬に手を当てて固定した志歩の姿。羞恥か風呂の熱さか分からないがそれでも志歩の頬は赤く染まり、それでも逃さないとこちらを強く見つめる。
「……分かってるでしょ。私は、願が好き。大好き」
「……………………」
風呂とシャワーの位置的に丁度目線を下げると見えてしまう下腹部よりも下の薄くそれでも生え揃った銀色の茂みから目を逸らしてもそこにあるのは火照った蕩ける志歩の顔と瞳。決して逃さない、決して騙させないというその視線を前に願も喉を鳴らすほかできない。
「でも、俺は」
「分かってる。奏ちゃんでしょ」
だがそれでも願はもう心に決めた人がいるのだと鋼の意志でねじ伏せる。そんな願を最初から察しているのだろう。その名前に対する願の反応に志歩は鼻を鳴らして笑う。全く、分かりやすいのだ。隠しているつもりか知らないが愛している人の異変も悟れずに恋は名乗れないと長年ずっと想いを抱き続けた少女は胸を張る。
だからこそ、志歩は願と奏に対する最も有効的な毒を流し込む。
「……でも願、それは本当に恋だと言えるの?」
「……………それ、は」
都合のいい言葉を互いに吐き続けるその関係は果たして恋と呼べるのだろうか。ただの共依存になっている関係は決して恋には、愛には発展することはないだろうと志歩は残酷なまでに断定する。…そしてそれを願が承知でいることさえも腹立たしいと志歩は願がその事実から目を逸らせぬように、強くその瞳を見る。
「教えて願。聞こえの良い言葉だけを並べた関係は恋と言えるの?」
そう。ここで願は選択にならない選択を迫られた。それはつまり幼馴染に致命的な嘘は吐けないということ。これまでずっと志歩に、幼馴染たちに、あの4人の寄るべだった願は本格的に間違った選択を示すことは出来ない。ここでその誓いを捻じ曲げる事は今までの全てを否定することになる。……それが決め手だった。
「……………いえ、ない」
「そうだよね。間違いなく願ならそういう」
分かっている。これだけの言葉を並べてもまた多分足りない事は。けどここまで強く願の心に打ち込んだのなら、きっと上手くいくだろうと満面の笑みで喜びながら横の風呂の中で深く考え込んでいる願の顔を密かに見て、また微かに笑った。
その夜。いつもなら既に眠っているであろう願は何故か意識が閉ざされない、寝れないと満点の夜空の下のベランダに脚を伸ばす形で空を見上げていた。ああ、あの日もこんな満点の星空の夜空だったとふと哀愁に駆られたその時だった。部屋に入る1人の影。
「寝れないの?」
「………雫さんこそ」
寝巻きの青いパジャマ姿のままそこに立つのは雫の姿。流石にもう寝ているのかと思った願はまた驚きを隠すかのように小さく呟く。いくら絶世の美少女といえど夜更かしはお肌の天敵だとも言うし、何よりもこんな夜更けに男の部屋に入り込むなんてそう言う事だと思われても仕方ないとその不用心さを雫に説いた。
「けどあなたはそんな事、しないでしょう?」
「……どうしてどいつも」
その絶対的な信頼はとても嬉しいものだ。だがそれと同時に苦しくもなると願は苦い顔をする。まるで願がこの少女を、少女たちを傷つけない、騙し陥れないと本気で疑う事なく信じているその顔が、ああ。とても嬉しい
「いいのよ?……貴方になら、全部あげるわ」
「それは………」
背中に抱きつく雫の姿。そうして耳元に囁く怪しげな呟きはまさに願に湧いた傷付ける、陥れる考えを肯定するかのような艶やかさ。事実、雫にとってもしも願がそういうことをすることも、肯定する気ではあった。ここまで二人三脚で本来なら有り得たかもしれない夢さえも捨てて走り抜けた比翼の鳥に殺されるのなら、きっと雫は喜んでその結末を受け入れるのだろう。
「でも、やっぱりダメだ」
だがそれでも願は強くその考えをねじ伏せる。それはどうしてだろうか。そこまでする情なんて持つつもりなんて無かったのに。いつの間にかその輝きが眩しくなって気がついた頃にはもう走り出していた。
「………そう。それが貴方の選択なら私は否定しないわ」
そんな願の傷だらけの姿に笑いながらも雫はその選択を肯定する。ボロボロで、今も尚朽ち果てそうになりながら貴方は見るべき光を見失おうともきっと今まで結んだ私たちとの絆は必ず導に、貴方を遮る風を遮断する壁になれるだろうとまだ行末を決めかねるこの愛しい人を雫は後ろから抱きしめたのに力を込める。
「あ、けどしぃちゃんを振ったのには一言言いたいけど」
「シスコンが……」
まあ確かに優柔不断な態度を続けている自分が百悪いのだと分かっているが、それでもそう呟かざるをえない。楽しげに志歩の話をするその姿に願はまた微笑みながら雫の話を聞くのだった。
『……じゃあ私が願を許すよ』
きっと、俺は差し伸べるべき手を間違えた。そう外夜願は悔やむだろう…何故ならこれこそが願が奏を明確に歪めてしまった象徴だからこそ。これは願の最大の罪過のカタチ。……まさか、前世の愛した人にどこか面影があるというだけで独善をしてしまった最悪の形の末路。
「あ、おつかれ願」
「奏、珍しいね。この時間に」
そんな願と奏が出会ったのは夕方のまだ人通りの多い時間帯。そんな中で奏は両手に大きな袋を抱えた状態で出会った。どうやら見るに食料品を買い込んでいるようだが、いつもならもう少し遅い時間だというのに珍しいと願は目を丸くする。
「うん……今の時間だったら会えるかなって」
「そっか……」
はにかむ笑みで笑う奏がもしかしたらと探していたのは願だった。奏にとって願は救世主で、いつか私が救わなくてはならない唯一の人であるのだ。あの日、奏の罪は願の手によって赦された。では次は私が救わなくてはならないと奏はまず自分を変える覚悟を決めた。
「最近は、体力も付いてきたしね」
「それは良いことだな」
まあまさか、願がアイドルのプロデューサーをしているだなんてその時は驚いたけどこれがまた意外とハマり物だった。魅せる力は雫さんから、歌う力は杏ちゃんから、演奏する力は志歩ちゃんから学ぶことは多いと最近では作っている曲にも色んな色が出始めてとても楽しいと奏は日々を楽しく過ごしている。……まあ、それはそれとして私の救世主を狙う不届き者たちについては許すつもりはないと目を光らせているのもまた事実だが。
「あ、新曲できたからまた送るね」
「……早いな。あい、分かった。」
そう、いわば今の奏は常時トランス状態に入っていると言っても過言ではない。恋を知り、満たされる愛を知り、そして奏の歌を待ってくれる仲間たちと出会い、自分も疲れながらも身体を動かす生活は常に奏を絶好調のままで最近は調子が良いと軽くステップを踏むぐらいだ。
「だけど、無茶しないように」
「ふふっ。それ、願が言っちゃうんだ」
そんな奏のある意味トリップ…深夜テンションを前に苦言を告げる。確かに調子が良さそうには見えるが意外と気が付かぬうちに落とし穴があるかもしれないとある意味体験上から告げた願に奏が目の前でにんまりと笑ってみせた。
「俺だから言えるんだよ」
「………そっか。無茶しないようにね」
互いにねと笑いながらまた各自の帰路に着く。何故なら今晩も作業のために奏から通話が届く。きっとその時に話したいことがあれば話すのだろうと願もいつも通りの帰り道を歩いていく。
奏の夢である“誰も救える曲”というのはとても素晴らしい夢だと願も思っている。だがそれを本気で、馬鹿正直にそんな荒唐無稽な絵空事を叶える気でいるのならまた話は違う。そんな英雄の、御伽話の英雄でさえ居ないような夢物語を本気でこの少女は成し遂げようとしているのだ。
『だから……!私は作り続けないと……!』
理想だけを抱いて今にも溺死しそうなこの少女を願は止めなくてはならないと思った。……いや、痛々しくて見てられないというべきか。自分さえ“救われていない”のに誰かを救うことなど土台無理な話だ。知らないモノは理解されない。理解されないものには共感されない。共感されないモノに幸福を感じる事はない。当然の話だ。
だからこそ願はこのどこか面影のある少女を少しでも幸福にしてあげなければと思った。思ってしまった。そして手を差し伸べた。行き過ぎた慚愧に今も囚われ続けるこの哀れな少女に
『だから、願。私を愛してね?』
それが正解なのか間違いなのか…もはや知る由もなくなった。
外夜 願
前話(レオニミステリー!)にて散々こき下ろしましたが作者としてはこの主人公を考えすぎだと裁定します。幸せになっちゃいけない、好きになちゃいけないなんて結局好意を持たれるのが怖いだけな話じゃんね。
というわけで今回は明確に好意を示し続けた結果がこれです。
本来救世主になるはずだった少女は堕ち、願の信者になりました。
ほら笑えよ。願
白石 杏
この中で一番カラッとしてそうな子。というわけでもなく割と湿度は普通に高め。
観察点は良かった。気がつくタイミングも絶妙だった……だけど敵味方を間違えたら世話がないのよね。まあ普段の様子を見て日野森姉妹の方が絶妙な仲加減だとはまあ誰も思えないからこの勘違いもある意味当然かも?
日野森 雫
卑しかお姉ちゃんは好きですか?はい、大好物です!
多分この世界線では雫の目指したいアイドルの形を願に慟哭したのが始まりなのでしょう。一人一人願と雫が見つけ出したアイドルたちは確かに今大空への翼を手に入れ飛び立てるようになりましたよ。
だからこそ、後はずっと共にいてくれた相棒の願だけなのだ
日野森 志歩
最近は負け越してるから今回はギリギリまで戦いに残ってる子。
ちなみにやはり最後まで互いに残った幼馴染として割と互いの湿度も高い。びっちょびちょになるぐらいには互いの湿度が高い。だからこそ幼馴染が変な女に嵌ってしまった事が気に食わない。割と病んでる。
宵崎 奏
救世主となり得たかもしれない少女。そして今は恋するアイドル。
願の心に強く棲みついたという時点でどこかの世界線の某朝比奈さんと同じ偉業を成し遂げている。やってる事は向こうのほうがエグいだろって?それはそう
やられた事はあの世界線と同じで救われたと同時に囚われた。ただまああの世界線と違うのはなんと言っても奏がラスボス枠。
「………どうしたの?」
「うん……そうだよね」
「だから協力してくれるよね??─────杏」
おや?
感想、評価お待ちしております。
次回何書きましょう(最終的に全部書きます)
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異聞:魔法少女パロ
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異聞:夜の娘続き
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もしも冬弥と兄弟だったら…
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もしも奏と双子だったら…
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もしもまふゆと双子だったら…
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TS願
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配信者願
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幕間1 続きリメイク