言語系チート授かったのでvtuber始めました   作:gnovel

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閲覧ありがとうございます!
いつも感想、高評価、誤字報告ありがとうございます!
これにて第五部は終了です! ですがまだ続きますで悪しからず

それではどうぞ!


別れ時々……フォックス!

 目覚ましの音が鳴り響き、意識が浮上すると共に目が覚める。もう朝のようだ。布団と自分の尻尾から伝わるぬくぬくした心地よい感触からの誘惑に抗いつつ、身体を起こす。すっかり人外になってから低血圧に悩まされることが無くなったことを実感しつつ、ぐいっと背伸びをする。

 眠っている時くらいには尻尾を出したまま眠ってやろうと思っていたことを思い出しながらいざ、立ち上がろうとすると――なんか、重い。

 

 具体的には昨日初めて尻尾の重さを実感したような、そんな感覚。そして薄々感じていたが、明らかに一本の尾だけのモフモフではないことに気づく。

 俺はため息を付きつつ、自分の後ろを振り返る。

 

「……なるほど?」

 

 俺の後ろには、三本の尾が見えていた。どうやら狐子に事実上の許可を出してしまったその一晩で、一気に三本まで行ったようだ。うかつに許可を出すことは人付き合いにおいても、人外との付き合いにおいても危険だという教訓と引き換えに得られた物が、明らかに釣り合って無さすぎると思った。

 

「はぁ……」

「おっはようなのじゃ!」

「来たな元凶。取り敢えず■■(伏せ)

「ヴォルペッ!?」

 

 有無を言わさず地面に伏せさせた元凶(狐子)に申し分を聞いてみることにした。

 

「それで? 一気に尾を一晩で三つまで増やした理由は?」

「許可(若干の諦め含む)を貰ったから、即行動に移したかったから――」

■■(伏せ)

「ルナルドッ!?」

 

 全言語と共に、今度は拳骨をお見舞いした。

 確かに今回は俺の不手際によるものだが、だからと言って行動に移すまでが早すぎる。俺は狐子の行動力の高さに頭を抱えながら尻尾を消してもらい、さっさと洗面台に向かった。

 

「……瞳孔が、縦長に、なってる……」

 

 この後狐子の耳元でASMR風に■■(伏せ)と呟き、目も戻してもらった。

 

 

 

□■□■

 

 

「――それで、俺に頼みたいことって何かな?」

 

 久し振りに祖母の食事を堪能した源野は、最後に源吾にあることを頼んでいた。

 

 自分が滞在してから人間を辞めることになった己の祖父のにっこりした笑顔を見据えて、源野はあるゲーム機を指さす。

 

「源吾さん。最後に一回、俺とゲームをしてくれませんか?」

「うん、いいよ。やるゲームは……」

 

 源野の脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。

 

 暇を持て余していると何処からともなく現れては、自分と一緒にゲームをしてくれた祖父。髪も白く、そして九つの尾を持った己の祖父の姿を。

 そういう時は決まって、祖父の尾をクッション代わりにしてもたれ掛かり、よく対戦用のゲームをしていた時の記憶が鮮明に蘇ってくる。そして祖父は毎回勝ち続けることはなく、自分が拗ねないようにと手加減をしていたことまで、印象に残っているのだ。

 

 そんな祖父の気遣いも去ることながら源野は、祖父の本気を出させたことが無かったことに歯痒い気持ちを抱いていたのだ。

 

 一度でも良いから、祖父に本気を出してもらいたい。その願望もあってか、未来での源野は空き時間を活用してゲームの腕を磨き、世界大会で優勝するレベルにまで至った。

 しかし、大学生であることとその勉強に明け暮れることになってからずっと、ゲームに触れることが少なくなっていったのだ。当然、祖父とのゲームもここ数年はしていない。

 

 

 ――だからこそ、源野はこの機会を待ち望んでいた。

 

 己の祖父が身近にいること、そして自分にその時間が訪れたこと、そして今、己の祖父は自分を孫ではなく、ただの「源野」としてこの挑戦を受けて立ってくれることを待ち望んでいた。

 

「じゃあ、このスマブラでもやろうか」

「えぇ、手加減は無しですよ」

「うん、じゃあ……やろうか」

 

 源野はコントローラーを握りしめ、集中力を極限まで高めるために、()()()()()

 

■■■■■■(集中)

 

 

 

(クソ……さっきから全く勝てない……ッ!)

 

 三十分が経過した頃、源野は三回中三回とも負け越していた。

 集中力を極限まで高め、源吾の使用するキャラの一挙手一投足を見逃さないように、そして対応できるようにしている筈の自分が完全に押されていることに驚愕していた。

 

(ただ強いだけじゃない……常に最適解を出し続け、それを失敗しないようにしているから……ここまで強いんだ!)

 

 源野は知る由もないが、現在の源吾のゲームスキルは数年前と比べて著しく向上している。それこそ狐子と関わるようになってから肉体的にも精神的にも強化された源吾は、まさに隆盛を極めている最中であった。源野が苦戦している横で、一切の無駄なく、手元を動かしている姿からは恐怖の感情すら湧いてくるだろう。

 まるで機械やソフトが操作しているかのようなその動きは、源野の極限の集中を以てしても追いつけていなかった。

 

 そして自分のキャラが撃墜されたタイミングで、源野はちらりと隣にいる源吾を、具体的には目を見た。

 

(あれが爺ちゃんの本気……!)

 

 血のように真っ赤で、獲物を狙い定めるようなその目を前にして源野は、改めて祖父の本気を目の当たりにしているのだと認識し、再びゲームに意識を向ける。既にストック差は三つ付いており、源吾は未だに一度も撃墜されていないことからもかなり追い込まれた状況にあることは容易に想像できる。

 加えて源野の額に汗が浮き出ているのに対して、源吾は汗一つ見せず、また一向に消耗したような印象さえも無い。

 

(まだだ……ここで、挽回して見せる……ッ!)

 

 これまで自分が戦ってきた対戦相手は確かに強敵だった。自分と違って生活の全てを掛けて挑んでくる彼らを倒せたのは奇跡にも近しかったことだった。だからこそ源野は確信する。

 

 源吾は今まで戦ってきた者たちよりも遥かに強いことを。

 

(ほんとに……ッ! 未来でもT●Sの擬人化とか言われるだけのことはあるよ……!)

 

 画面では相変わらず、源野の操作するキャラが攻撃を繰り出しては、寸分の狂いも無いジャストガードによる最適な防御と回避で反撃を受けている。かといって近寄ってガードを貫通する掴み攻撃をしようとしても掴み動作自体を弱攻撃で潰されたり、逆に掴み返してくるので一向に攻撃できずにいた。

 

 そして何よりも、源野の使用するキャラは源吾の使用するキャラに対して攻撃範囲、耐久性、一撃の重さなどの優位を取れるようなキャラであるのに対して源吾の使用するキャラはというと、攻撃範囲もそこまでで、耐久性もあまりないキャラであるが、唯一持っている特性の『ランダムで出た、数値の値によって攻撃能力が変化する』という仕様のキャラであった。

 

 そもそも源吾も、源野も運に関しては人類の中でも類を見ない程に悪い。それこそ源吾が使用するキャラも運任せの筈――だった。

 

 源吾の使用するキャラの攻撃には唯一の当たりの出目がある。そしてその値が出る時には殆どの人間が気付かないある特徴を持っていた。

 それは――当たりの出る瞬間だけ、キャラの動きがほんの僅かに遅くなるということだった。

 

 そう、源吾は相手にその技を繰り出す寸前まであらかじめ自らの出目の確率を少しでも高めるために、攻撃が当たらない場所で素振りをして次に来る出目を絞り込み、そして相手が気絶などの無防備な状態になった際に確実にその一撃を叩きこむために、技を出したその瞬間に当たりかどうか(その間わずか1秒足らず)を判断して、攻撃を確実に当ててくるのだ。

 そしてそれを叩きこむために最適な立ち回りを行い、相手の気絶や無防備状態を誘発してくるという立ち回りが、あまりにも完成され過ぎていた。

 

 さらにそれだけではない、源吾の使用するキャラ全てにそれぞれ完成された戦術が確立されており、それを攻略したとしても源吾が相手の弱点を判別し、即座に相手の弱点を突く戦術を開発する為、キャラがどうこうの問題ではなくなっていたのだ。それこそ持てるスペックを総動員してゲームをしているのだ。

 

 

 だが、一方で源吾も

 

(マジか……葵さんとかちょっと前に対戦した世界ランク一位の人よりも強いかも……)

 

 今まで戦ってきた人物よりも強いことを実感していた源吾。今まで制限時間まで行かずに決着が着いていた源吾からしてみれば、制限時間まで決着が着かなかった際のサドンデスに持ち込まれたこと自体に内心、かなり焦っていた。

 自分が人外に近づく過程で肉体的にも一番活力があったころに巻き戻り、精神的にもある程度成長していた源吾のスペックは常軌を逸していた。だが、そんな自分に追いつける存在がいたことに源吾は『何となく上位者の気持ちがわかるわー。めっちゃワクワクするわこれ』と歓喜していた。

 

 そして四回戦目が始まってしばらくして――遂に源吾は、初めて撃墜された。

 

「ッ!?」

「良し……ッ!」

(マジか……!)

 

 源吾が常に相手側に完全に対応するように、源野も源吾の動きに慣れ始め、対応した先のことを考えていた。

 

 要するに“相手が自分の行動を先読みするならそれすら先読みし、それを実行する”という半ば未来予知に似た所業をやってのけたのだ。

 相手が自分の行動から迫りくる攻撃を予測し、避ける――なら、そこを敢えて攻撃せずに相手に一歩踏み入り、攻撃を与えるということを繰り返した。

 

 

 そうしたこともあってか、四戦目にして遂に――源吾は初めての敗北を喫した。

 

「や……やった……勝った……勝ったんだ……!」

「……凄い」

 

 幼少期からずっと出させることが出来なかった祖父の本気を、真っ向から打ち破ることに成功した源野は、息を整えながらリザルト画面を見つめ、放心していた。

 源吾も、自分を真っ向から打ち破った源野に対して、心の底から賞賛していた。

 

「おめでとう……源野君」

 

 

 

「本当に、ありがとうございました!」

「こっちも、一か月楽しかったよ。また来てね」

「ばいばーい、源野お兄さん」

 

 ゲームを終えた後、いよいよ源野が帰る時間になった。源野を見送る為に玄関先に全員が集まり、源吾も星奈も別れを惜しみながらも声を掛けていた。

 それに対して源野は、この先会えるはずも無いという事実に寂しさともの悲しさを覚えつつも、笑顔を見せそれに答えた。

 

「……ありがとうございました! ()()()、会いましょう!」

「おっと、ついでにこれも持っていくのじゃ。無病息災を願った儂特製の御守りに……星奈と源吾からの贈り物を」

 

 狐子がそう言って手渡したのは、幾つかの護符とマフラー、そして源吾からの贈り物は――オリーブの葉の模様が刻まれたブレスレットだった。

 源野はそれらを受け取ると、涙が出るのを必死にこらえた。

 

「ど、どうかな? 少し変だったかな……?」

『源野、誕生日おめでとう! おじいちゃんから源野にこれをプレゼントするよ!』

 

 僅かに源吾の姿がぶれ、昔の記憶が再び過った源野は涙腺が脆くなるのを必死に堪えて、堪えて……涙がこぼれてしまった。

 

「い……いえ……! とても、とても嬉しいです……!」

「あ、それと……」

 

 涙目ながらに感謝を伝える源野の耳元に狐子が近寄り、

 

『未来の儂に、よろしく……のじゃ』

『……はいッ……!』

『それじゃあ、元気での』

 

 

「皆さん、本当にありがとうございました! ()()()()()、お会いしましょう!」

 

 そう言いながら源野はどこかへ走り去っていった。未来へと帰る為に、予め定められた目的地に向かって行ったのだ。

 

 

 去り行く背中を寂し気に見つめる源吾。なぜか心にぽっかりと穴が空いたような感覚を味わいつつもそれが何なのかはわからなかった。

 

「行っちゃった……」

「寂しいかの?」

「……うん、やっぱり……別れは、寂しいや。なんで、だろうね……源野君と別れるのが、本当は見知らぬ学生だった筈なのに、ね」

 

 湧きあがる哀しみの感情に源吾が戸惑っていると、狐子がそっと寄り添って源吾をその大きな尾で包みながら抱きかかえた。

 

「……別れは寂しい物、確かに其方は人間を辞めたが為に、常に見送ることになってしまった。じゃが――その度に出会うであろう、新たな縁が」

「……うん」

 

 

 しみじみとした雰囲気が流れる中、唐突に狐子の抱擁する力が増した。

 

「さて――今夜は激しくするぞ」

「 な ん で ! ? 」

 

 雰囲気を完全にぶち壊した狐子の発言に、戦慄を覚え逃げようとするも――既に尻尾で包まれた状態の為、逃げようがなかった。

 

「さぁ、なんであろうな? ほら、今日は精力を付ける料理を振舞うからのう」

「ちょ、えっ待って?! せめてこういう話は星奈抜きにして――」

 

「……弟でも妹でも良い」

「星奈!? ちょ、流石に■■(伏せ)!」

 

 しかし

 

「あーあー、聞こえんのう」

「耳栓!? 何時の間につけたの!?」

「まぁ、何を言っているか分からんが……これは決定事項じゃ」

「おぁああああああああああ!?」

 

 この日人外になってもなお、死にかける男がいたそうな。




主人公
人外スペックを以てしても負けたことに歓喜した。源野との別れが一番辛かった。この後文字通り死ぬほど絞られた。

狐子
あーあー、耳栓付けておるから聞こえんのう。さぁ、やろうか。

星奈
成長期に入ってごはんを沢山食べるようになった。スタイルは同年代にしては中々の物。

源野
全力の祖父を打ち倒せて大満足。この後教授と海外でとある仕事をしていた父にこってり怒られた。父はネグレクトしていた訳でなく、土日に仕事が被ることがあったり、緊急の用事(国家機密レベル)で召集されることがあっただけ。

Vtuber要素と異種族要素の比率はどちらが読みやすいですかね?

  • 1:9
  • 2:8
  • 5:5
  • 8:2
  • 9:1

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