言語系チート授かったのでvtuber始めました   作:gnovel

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お待たせいたしました。
ひと段落ついたので、久しぶりにリハビリも兼ねて投稿していきたいと思います。

それではどうぞ!


言語系チートを授かったが後輩がうざすぎる 二話

「源司ーちょっといい?」

「親父か……どうした?」

「んー、別になんてことはないんだけど……ちょっと話しない?」

「はぁ」

 

 夕食を済ませて後は風呂に入るだけになった後、俺は唐突に親父に呼び出された。とは言っても特にピリついた雰囲気という訳でもなく、時間も余っていた為、和室に親父と向かうことにした。

 

 和室兼客室に着くなり俺は親父の向かいの座布団に腰を下ろした。親父は相変わらずにこにことストレスが一つもないような柔和な笑みを浮かべている。

 

「最近どう?」

「特に」

「どっちの意味で?」

「……悪くない方」

「素直じゃないね」

「ほっとけ」

 

 ……婆さんや爺さんに親父の若い頃の話を聞いたことがあったが、ここまで怪しげな色気すらも感じられるほどではなかった。というか、結婚してから何かを振り切ったように人が変わったらしい。思わずそのことを思い出す位に目の前で軽く笑っている親父から抗い難いオーラすら感じられるようだ。改めて親と一対一で向き合うと感じられる目に見えない何かがあるのだろうなって、今になって思う。

 

 そんな俺の意図を察してか知らずか、僅かに細めた眼の奥から縦に開かれた真っ赤な瞳を覗かせながら漸く本題に入るべく口を開いた。

 

「あの子は元気かな?」

「あの子……?」

 

 親父の口から出てくる“あの子”とはどの子だ、と思っていたらふと頭の中に一人の人物が浮かんだ。……とてもウザイアイツの顔が

 

「ほら、愛華ちゃん」

「……」

「おっと、そんなに苦虫を嚙み潰したような顔を露骨にするんじゃないよ。何だかんだ言って幼馴染じゃないか」

「……」

「隠そうともしない辺り母さんにも似たね。表情が凄いことになっているよ」

 

 やかましい、と口にしたかったがそれよりもなぜ親父の口から愛華の名前が出たのか気になって仕方なくなってしまった。俺は手を組みながら声を低くしながらその真意を尋ねた。

 

「うん、この前愛華ちゃんのお父さんが家に来てね」

「は?」

「うわ一気に無表情に」

 

――あの愛華の父親が!?

 

 俺は数年前に愛華に半強制的に愛華の実家に連行された時のことを思い出していた。

 

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

「やぁようこそ。伴野源司君(娘に近づく虫)

 

 言葉の裏に隠された不穏なルビを隠そうともしないで、俺と愛華を無数の黒服達と共に愛華の父が豪華な屋敷と共に出迎えた。部屋に案内されても愛華はいつもの様子で平然としているが、周りの黒服たちや愛華の父ご本人の圧が凄くて、俺はくつろげる気がしなかった。黒服たちの視線もそうだが、愛華の父の視線がヤのつく職業の人かってくらいに圧が凄い。なんなら胸元から拳銃を取り出して俺を撃ち殺さんと言わんばかりだ。……最悪、銃弾くらいは何とでもなるが、問題はその後。俺の家族が黙っていないことだろうな。

 

「これはこれは……お世話様です」

「センパイ硬いですよ! もっと気楽に、実家だと思ってくつろいでください!」

 

 ミシッ

 

「おっと……この椅子も古くなったか」

(おいこの親父、椅子のひじ掛けを握力だけでもぎ取ったぞ……)

 

 明らかに新品同然だった椅子のひじ掛けを握力だけでもぎ取ったことに愛華は気づかない様子だが、その様子に気付いた黒服たちは皆顔面蒼白だ。俺も少し驚いたが、よくよく考えたら家にはそれ以上の人外兼家族がいたことを思い出した。有機物無機物問わず何でも食べる姉、人一人簡単に消せる人外狐の母、そしてあの怪物親父。

 人と人とを比べるのは良くないが、どうにも脳裏にちらつく。

 

 それから椅子を交換して、暫く愛華と話していると唐突に愛華が

 

「あっ、ちょっと探し物してきますね! それじゃあセンパイ、少しだけ待っていてくださいねー!」

「えっ」

「少ーし、待ってくださいねー!」

 

 バタン

 

「……」

「……」

 

 愛華が忘れ物を取りに行った直後の部屋の空気が一気に氷点下まで下がったのを感じる。椅子に座り直す際に生じた僅かな音が静寂の中に響き渡り、黒服の内の誰かがつばを飲んだ音も聞こえてくるようだ。

 

「……」

「……」

 

 何も喋らないまま数分が経過したころ、この無言の空間に一滴を投じたのは愛華の父だった。

 

「君は――娘の事をどう思っているかね?」

「……はい?」

「娘の事をどう思っているんだ、と聞いている」

「……そうですね」

 

 まるで圧迫面接かのような雰囲気の中で出された質問に、思わず考え込む。

 俺はただ幼少期からの付き添いがある幼馴染程度にしか思っていないと思うが、そのままを伝えていいだろうかと。そして暫く考えた後

 

「――飽きない後輩、ですね」

「…………ほう?」

 

 思っていた答えと違っていた、とでも言わんばかりに怪訝そうな表情を浮かべて言葉の続きを促してきた。

 

「では君は娘の事は好きだと?」

「いいえ、好きではありません」

 

 うざいし、うっとうしいと思う所はある。向かい側から殺意に近しい感情の波が襲い掛かってくる。

 

「……ほう。では嫌いだと?」

 

 威圧と殺意を込めた視線をこちらに向けて来るが、それに対して俺は

 

「いいえ? 嫌いでもありません」

「……」

「どういうことだ、とでも言いたげなので……その訳をお話いたしましょうか?」

「……頼む」

 

 威圧はそのままに、しかし殺意が静まったような表情を浮かべて話の続きを促してくるので、引き続き自分の心の内をそのまま語ることにした。

 

「まず大前提として、初対面から最悪でした」

「……その件については後で叱っておいた」

「……とにかく初対面の印象は最悪の一言に尽きます。人を椅子扱いして、事実上の奴隷扱いをしようとしてきたので」

「むぅ……」

 

 居た堪れないという顔を浮かべる。

 

「それからでした。いつも私の後ろをついてきて、いつもどんな場面でも私の傍にいようとしてきた。私はそれを何度、鬱陶しいと思ったか」

「つまるところ君は……」

「――しかし、私はその行為を一度も拒絶したことはありません」

「!?」

 

 言葉には口に出したことはあっても、心の内では鬱陶しいと思ったことは何度もあっても、考えれば考えるだけ、俺は一度も愛華を拒絶したことが無いことに気付かされたのだ。自分でも相当重傷だなと自嘲する。それと同時にこのことは絶対愛華には聞かせられないな。

 

「君は……」

 

 と何かを言いかけたタイミングで

 

「お待たせしましたー! ……あれ? なんすかこの空気」

「……いや? 何でもないが。というかそれ……」

「はい! この前の雨で借りっぱなしになっていた傘です!」

 

 愛華の手には先日の大雨の際に渡したままにしていた傘が握られていた。そう言えば今朝に持ってくるのを忘れたといっていたことを思い出す。

 

「別に返さなくても良かったんだが」

「センパイが良くても、ボクが良くないんですよ!」

「何が?」

「センパイに借りなんか作ったら、法外な利息を付けられちゃうじゃないですか!」

「俺は闇金業者か何かか? お仕置きだお仕置き」

「あいたたたたたたたたたたたたたたたたぁあああああ!!」

 

 実の親の前でなんてことを言いふらしやがる。

 俺は何時もの癖で咄嗟にアイアンクロウをかましたが、ふとこの場面を愛華の父に見られていたことを思い出した。

 

「あっ、やべ」

「源司君」

 

 改まった表情を浮かべたまま、俺の事を真っ直ぐに見据えて

 

「娘を頼む」

 

 

「いやどうしてこうなった!?」

「あだだだだだだだだだだだだだァアアア!! ちょ、ちょ、頭割れる割れるゥウウウウウウウウ!!」

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

 

「……」

「あっ、既に面識があるみたいだね」

 

 あの後、隙あらば俺に何らかの形で接触を図ってきたのだ。例えば「娘の夫となるゲフン。個人的に君の英語の出来について知りたい」とか「将来この家にゲフンゲフン。……君のスキルについて確認したい」と多くの外国人と軽い話し合いをしたり、様々なテストをやらされたりしてきた。それが何の役に立つかは分からないが、俺の結果を見て愛華も愛華父もご満悦の様子だったのは印象深い。

 

「それで、その愛華父がどうした?」

「うん、家に来てね。愛華ちゃんと源司について色々と話し合ったんだ」

「……そうか。で、どんなことを……」

「うーん……」

 

 そういうと、何やら親父は腕を組んで唸り始めた。

 

「……ここまで話してまだ理解していないのかな……?」

「何の話……」

「その内分かるよ源司」

「は?」

「ただ一つ言うとしたら……君は既に“チェックメイト(詰み)”に入っているね」

「????」

「んー……ここで変な風にこじれてもアレだし……というか若干その兆候が見られる…………ふむ」

 

 腕を組んで何かを考える素振りを見せると

 

「んー、源司は愛華ちゃんが他の人と仲良くしているとどんな気分? ――■■■■■■■■■■■?(正直に言ってみて?)

()()()()()()()()

 

 ……ん?

 

 妙な感覚を覚えつつ、時間的にもそろそろ寝る時間になった。個人的にもあまり詮索されるのは例え家族であろうと好きではない。

 そして親父が最後らへんに言っていた言葉についてどういうことだと考えを巡らせている間に、何かを決心した親父が髪を掻きながら俺を真っ直ぐ見つめて来た。そして俺は用が済んだと言わんばかりに立ち上がり、襖を開けようとした時

 

「源司」

「ん?」

 

 すると親父は、

 

■■■■■■■■■■■?(愛華ちゃんは好きかい?)

「はっ、それは――」

 

 

()()だ。親父、俺はもう寝る」

 

 

 またしても違和感を覚えつつ、俺は和室を後にした。……なぜか心の内を暴かれたような気がするが、きっと気のせいだろう。そうに違いない。そうじゃなきゃ

 

 

「……こんなに顔が熱い訳がない」

 

 俺は顔に籠った熱を発散すべく、自室のベランダから顔を覗かせ夜風に当たった。冷たい風が肌を突き刺す中、ふと自分の頭の中で何かが入り込む、沁み込むような感じがしたが、眠気には抗えずしばらくしたらそのままベッドに入り込んだ。

 

 

 

 

「源司、やっぱあの子のことが好きじゃん。……いやー、でも『全言語』でしか本音が出せないとか相当こじれているなこれ。うん、まぁ愛華ちゃん、頑張れ」

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

 

『ハッピーバースデー! 源司センパイ!』

「お前今何時だと思ってんだ(半ギレ)」

 

 せっかく風呂から出て歯磨きもして、瞼を閉じてようやく眠れそうになったその瞬間、突然電話が掛かってきた。誰だと思いつつ電話に出てみると、案の定愛華だった。そして開口一番俺の誕生日を最速で祝って来やがった。

 

 嫌なら電話に出なければいいだけだが、それをすると後々面倒になるのは既に経験済みな為仕方なく出たら出たで、耳元で叫んでいるのかって位の声量と普段の三割増しのテンションと来たもんだ。思わずスマホを握る力が強くなる。電気を落としてすっかり暗くなった室内が僅かに赤く光っていることから、恐らく俺の目が赤く光っているのは想像できた。これも両親からの遺伝だ。眼鏡は目の光を抑えるために付けている。

 

 そして元凶こと愛華はというと

 

『んー…………12時!』

「人はそれを午前0時の深夜と呼ぶ。俺はもう寝る」

『えーもっと話しましょうよーセンパーイ。どうせこの後ただ寝るだけなんでしょー? ほら! ボクのような美少女に祝ってもらえたんですよ? 頭を垂れて蹲ってもいいんですよ?』

「やかましい」

 

 せっかく訪れそうになった眠気が遠ざかっていくのを感じる。

 しかも地に落ちる俺のテンションと反比例するかの如くテンションが高い愛華の相手を深夜にしなければいけないことを考えるとさらに眠気が遠ざかっていくのを感じる。

 

「はぁ……まぁ、その、何だ――ありがとう」

 

 TPOさえ合っていれば素直に喜べ……喜べた、かもしれない。……うん。

 俺はそんなことを思いながらも、恥ずかしさの感情が含まれた感謝の言葉を愛華に言った。正直、他人に向けて素直に「ありがとう」と伝えるのが苦手だ。親父たちにすらまともに言えたのは幼児期位だ。

 

『へぇ~』

「……なんだ」

 

 そんな俺の考えを察知しているのか、電話越しにでも愛華がニヤついているのを感じさせるようなその声に思わず声を低くする。こういう時の愛華は脳裏で俺を弄り倒すための考えを巡らせているか、俺を既に弄り倒すための素材を手に入れたと歓喜している場合が多いが、今回は後者のようだ。何かやらかしたんだろう。嫌な予感がする。

 

『もう~素直じゃないんですから~もっと素直にありがとうございます愛華様って喜んでくれてもいいんですよぉ?』

(うっぜぇええええええええええ!!)

 

 確信した。

 今、確実に愛華はニヤニヤしている。それも飛び切りの笑みを浮かべながら俺を弄り倒していることも。

 

 スマホを握る手が更に強くなり、ミシリ……と音を立て始めた。

 このままいくと今年に入って握りつぶしたスマホが三台目になるため、落ち着かせる意味も含めて天井を仰ぎ見る。

 

 語尾を上げながら俺にねっとりと話しかけてくる愛華にうざさを感じつつも一つ深呼吸をして自分を落ち着かせた。

 

『はははっ! そんなに苛ついていると頭の血管が切れちゃいますよ?』

「誰のせいだと思ってんだ……!」

『うーん……とても可愛らしい美少女ということしかわかりませんねぇ』

「明日震えて眠れ」

『ヒエッ』

 

 より一層声を低め、威圧を込めてこの馬鹿に向けて死刑宣告を告げる。愛華の情けない声が聞こえて少し俺の溜飲が下がるのを感じた。

 

「ともあれ俺はもう寝る。話は明日聞く」

『えー』

「えーじゃないが」

『ムー』

「大陸でもないが」

『Zoo』

「動物園でもないが。発音良いのがさらにムカつく」

『もっと褒めてくださいよ! じゃなきゃ力が出ませんよ!』

「自己承認欲求を素材にして作られたアン●ンマンかお前は」

『センパイ何言ってるんすか』

「急に素に戻るのやめろ。確かに自分でも何言っているのか分からなかったが」

 

 正直キレそう。

 

 このように愛華は毎年毎年、俺の誕生日になると親父たちよりも早くいの一番に俺を祝ってくる。しかも0時ピッタリにだ。恐らく学校で会った時はまた俺を弄り倒しながらどうやって把握したのか分からないが、とにかく俺がちょっと欲しいと思っていた物を渡してくるのだ。

 

「とにかく切るぞ。明日起きれなくなる」

『えー……仕方ないですねぇ~』

「仕方なくないが?」

『明日首を洗って待っててくださいね! それじゃあおやすみなさい!』

「待て!? ……切られた」

 

 不穏な台詞を残して通話を切った愛華。俺はというと声を荒げてしまい完全に目が覚めてしまった。眠気は既に遥か遠く彼方へと過ぎ去ってしまった。あの馬鹿絶対許さん。

 

「……明日殺されるのか?」

 

 アイツに限ってそれはないだろうと思いながら、いやまさかな、そんなことないよなという考えが巡りに巡って

 

 

――朝の七時を迎えた。遅刻確定まで、残り30分。

 

 

「……アイツシバくか」




源司
名誉クソボケの称号を引き継いだ究極のツンデレ。本人ですら気づかないレベルで割と独占欲がある(愛華が他の人と楽しそうに話している姿をみるとムカッとするレベル)
なお受けさせられたテストの結果について一切知らないが、この後採用通知を愛華に叩きつけられる。

愛華
実は一人っ子で母親がいない。源司の眼鏡の内に隠された真っ赤な目が好き。

愛華の父
源司のことを娘に纏わりつく虫だと思っていたら、想像以上の傑物だった。そして娘のことを何だかんだ好んでいることを悟る。
テストをしたのは色々と相応しいかどうか見極める為。
源司の父の源吾と話し合いをした時、初対面ながら「裏社会ですら見たこと無いレベルの怪物」という評価を下した。

源吾
愛華の父と協力体制を結ぶ。初対面で怯えられたのは割と久しぶり。
この度源司に全言語を使用。その意図はただ本音を聞き出す為でなく……

Vtuber要素と異種族要素の比率はどちらが読みやすいですかね?

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