過去にpixivで公開したものです。

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夢夢・ゆめゆめ

 「はぁ……疲れた……」

 

 食堂で注文した料理を持ってそんなことを独りごちる。今日も今日とて長良さんの訓練に付き合ったせいで疲労困憊だ。

 

 「まったく……長良さんは阿賀野をいじめて楽しんでるんじゃない?」

 

 そんな愚痴を言いつつ空いてる席に座る。

 

 「いただきます」

 

 そう言ってうどんを箸で持ち上げた瞬間だった。

 

 「!?」

 

 目を弓なりに、口を半開きにして貼り付いた様に笑っている長良さんが目の前に座っていた。そしてその隣にもおんなじ表情をした長良さんが座っていた。阿賀野の隣にも座っていた。多分後ろに座っているのも長良さんだと思う。ていうか阿賀野以外食堂の席に座っているのが全員長良さんだ。

 

 (え……、え……?)

 

 どういうことなの、全然意味分からない。何で長良さん増えてんの、何で長良さん増えてんの。何でみんな同じ顔してんの。何で誰も動かないの。何で誰も喋らないの。

 

 「…………」

 

 怖い。怖いよ。身体中から嫌な汗が噴き出してくる。うどんを箸で掬ったままの姿勢で動くことが出来ない。

 

 「200回×3セット……」

 「ヒィ!」

 

 阿賀野の隣にいた長良さんがポツリと呟くとあまりの恐ろしさに情けない声をあげる。箸が手から滑り落ち、カランカランと音を立てて机の上に転がった。

 瞬間、その場にいた全ての長良さんの視線が阿賀野に集中した。それと同時に長良さん全員が決して視線を外さず、そして寸分の狂いなく同時に立ち上がった。

 

 「やだ……こないで……わっ!? やめて! 触らないで!!」

 

 立ち上がった両隣の長良さんが阿賀野の両腕を掴むとそのまま阿賀野を力任せに引っ張る。必死に抵抗するが他の長良さん達に身体を抑えられ、そのまま何処かへ引きずられていく。

 

 「嫌! 助けて! 誰か助けて!! こんなの嫌!! こんなのイヤーーーーー!!!」

 

 阿賀野のその叫びは誰に届くことも無く、長良さん達の中へと消えていった。

 

 

 「ハッ!?」

 

 気がつくと阿賀野は鎮守府のグラウンドの上でうつ伏せになって倒れていた。

 

 「阿賀野水飲む?」

 「長良……さん……」

 

 顔を上げるとさっきとはまるで違う、いつもの長良さんが一人だけ阿賀野を心配そうに見つめていた。

 周りを見渡してみると長良さんじゃない他の艦娘達の姿が見える。

 

 (あれは……夢……?)

 

記憶を呼び起こしてみる。そうだ、長良さんとの訓練、というかいつもの走り込みをして、疲れて思わずその場で倒れるように横になって、そのまま寝てたのか。

 

 「はぁ〜……良かった……」

 「どうしたの?」

 「すごく……怖い夢を見てました」

 「怖い夢? どんな?」

 「たくさんの長良さんが阿賀野を取り囲んでる夢です」

 「はぁ……それは怖い……怖いの?」

 「怖いに決まってるじゃないですか!! 長良さんに囲まれたとき阿賀野は死を覚悟しましたよ!!!」

 「えぇ〜……」

 

 阿賀野の叫びに長良さんが困惑しきった声を上げる。

 

 「あ〜〜〜〜……怖かった……」

 「…………」

 

 死の淵から生還したように安堵する阿賀野を長良さんは困惑した表情で見つめていた。

 

 

 そんなことがあった次の日の出来事だった。

 

 「お腹空いた〜……」

 「そうだね、ご飯にしよっか」

 

 走り込みを一時中断し、ベンチに座ると長良さんがたまごを取り出す。

 

 「長良さんいつもそれですよね。生卵そのままなんて飽きないんですか?」

 「これは生卵じゃないよ」

 「じゃあゆで卵ですか?」

 「ゆで卵でもないよ」

 「え? じゃあ何なんですか?」

 「それはねー……」

 

 長良さんが空を仰ぐように顔を上げると口を開けたまごを持った手を顔の上に持っていき、片手でパカッとたまごを割る。するとヒヨコが、まだヒヨコになり切っていないヒヨコが、長良さんの口へと落ちていった。

 

 「うん美味しい」

 「…………!」

 

 バリボリと音を立てて長良さんがヒヨコを噛み砕き飲み込むと、たまごをもう一つ取り出す。

 

 「阿賀野も食べる?」

 「イヤァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 快晴の空の下、阿賀野の絶叫が響き渡った。

 

 「ハッ!?」

 

 気がつくと阿賀野は鎮守府のグラウンドの上でうつ伏せになって倒れていた。

 

 「阿賀野大丈夫……? 絶叫してたけど……」

 「長良……さん……」

 

顔を上げるとさっきとはまるで違う、いつもの雰囲気の長良さんが阿賀野を心配そうに見つめていた。あれは夢だったのか。昨日と同じことしてる。

 

 「すごく……怖い夢を見てました」

 「みたいだね……、どんな夢?」

 「長良さんが……ヒヨコの踊り食いを……まだヒヨコになり切ってないヒヨコを……、バリボリ食べてました……」

 「……は?……はぁ?」

 「一応確認しますけど長良さんそんなことしてませんよね?」

 「しないよ!!」

 「ですよね。あ〜良かった……」

 「阿賀野の中で長良って何なの……」

 

 安堵する阿賀野を長良さんは昨日と同じく困惑した表情で見つめていた。

 

 

 「長良さん! 今日は阿賀野の必殺技を見せてあげます!」

 

 そんなことも昨日の出来事になった今、艤装を装備した演習が始まろうと言う時に、阿賀野は唐突に長良さんにそう宣言する。

 

 「必殺技……?」

 「ふっふーん!」

 

 怪訝な顔をしている長良さんの目の前で両手を使ってハートを形作る。

 

 「きらりんビーム! な〜んちゃって……」

 

 そう叫んだ瞬間、両手で形作ったハートの中心部分から一筋の閃光が放たれ、長良さんの頬を掠めた思うとドォンと鈍い音を立て遠方で水飛沫が上がる。

 

 「…………!」

 「なるほどね……」

 

 掠めた長良さんの頬からたらりと血が流れる。その光景に唖然として固まっている阿賀野とは対照的に長良さんは冷静に頬の血を拭う。

 

 「やるね阿賀野。頬を掠めさせたのは『そういうこと』でいいのかな?」

 「あ! 違います違います! 阿賀野そんなつもりは!! 決してそんなつもりは!!」

 

 

 

 「ハッ!?」

 

 気がつくと阿賀野は鎮守府のグラウンドの上でうつ伏せになって倒れていた。

 

 「阿賀野大丈夫? また変な夢見てたの?」

 「長良……さん……」

 

顔を上げると頬から血を流していない。いつもの長良さんが阿賀野を少し呆れた表情で見つめていた。あれは夢だったのか。またこれか。

 

 「変な夢見てました……」

 「……どんな夢?」

 

 立ち上がり両手でハートを形作る。

 

 「こうやって『きらりんビーム!』って言ったら本当にビームが出ちゃった夢を見て……」

 

 瞬間、両手で形作ったハートの中心部分から一筋の閃光が放たれ、長良さんの肩を貫いたと思うと、長良さんのすぐ後ろに着弾し地面を溶かして穴を開ける。

 

 「…………!?」

 

 あまりの衝撃に頭が真っ白になりその場で固まる。

 

 「痛い……」

 

 長良さんが貫かれた肩を抑えてうずくまる。そんな長良さんを見て、真っ白になっていた頭が思考を取り戻す。

 

 「な、長良さん大丈夫ですか!? 違うんです阿賀野そんなつもりじゃ……! あ、明石さん呼ばないと! いやそれよりもう入渠! 入渠しないと!!」

 「阿賀野……」

 「な、なんですか!?」

 「やるね……」

 「言ってる場合ですか!!」

 

 

 

 

 「ハッ!?」

 

 気がつくと阿賀野は鎮守府のグラウンドの上でうつ伏せになって倒れていた。

 

 「……阿賀野大丈夫?」

 「長良……さん……」

 

 顔を上げると肩を貫かれていない、頬から血を流していない、いつもの長良さんが倒れていた阿賀野を見つめていた。あれは夢だったのか。あれ、でもさっきも夢を見てて……夢の中で夢を見てたってこと……? 今は本当に現実なの……?

 

 「…………」

 

立ち上がり、身体に付いてた砂と埃を払う。

 

 「長良さんちょっとどいてもらっていいですか?」

 「え? うん……」

 

 長良さんが横に移動すると深呼吸して息を整え両手でハートを形作る。

 

 「……きらりんビーム!!! ……あ、良かった! 出なかった! あ〜良かった〜! ほんと良かったですよ〜!!」

 「阿賀野どうしたの……?」

 

 

 

 

 

 ひしゃげた艤装と焦げ臭い身体。流れ落ちる血と汗で視界が遮られる。間違い無く今の阿賀野は継戦が困難な状態だ。

 そして、それは阿賀野だけでは無く、艦隊全体が同じ状態に陥っている。そんな阿賀野達とは裏腹に敵艦隊の損害は軽微、未だ健在だ。

 

 「長良さん撤退しましょう!!」

 「駄目! このまま撤退しても敵に隙を晒すことになる! 今の状態で追撃を受ければどうなるか分かるでしょ!?」

 「じゃあどうしたら……!」

 「阿賀野が旗艦になって撤退の指揮を取って。長良はその間時間を稼ぐから」

 「長良……さん……」

 

 長良さんのその言葉はどんな罵声よりも残酷に阿賀野の心を抉った。

 

 「駄目ですよそんなの! 他の方法が……」

 「他の方法なんて無い。1番損傷が軽微な長良が1番時間を稼げる。グズグズしないで早くする!!」

 「出来ませんよぉ……、だって阿賀野まだ何も……」

 「阿賀野!!!」

 

 長良さんが阿賀野の胸ぐらを掴んでグイッと引き寄せる。

 

 「今はそんな泣き言誰も聞いてくれない! 阿賀野がやらなきゃこのまま全滅だって有り得る! やるしか無いの!」

 「でもぉ……」

 

 情け無い声を出す阿賀野を突き放すと長良さんが両手で阿賀野の顔を包み込むように触れる。

 

 「大丈夫。阿賀野は立派にやってきた。阿賀野なら出来るよ。信じてる」

 

 優しく微笑んだ長良さんが穏やかな声で、ハッキリと阿賀野にそう言った。

 

 「長良さん……」

 「だから後は任せたよ。これからの十戦隊の旗艦は阿賀野なんだから」

 

 長良さんが反転して敵艦隊へと加速する。

 

 「待って!! 長良さん待って下さい!!!」

 

 追い縋る阿賀野を長良さんはグングンと引き離していく。どれだけ足を動かしても、どれだけ手を伸ばしても、距離は開くばかりで少しも追いつくことが出来ない。もう二度と手の届かない場所に行ってしまう。嫌だ。やめて。阿賀野はまだ長良さんに教わりたいことがたくさんあるのに──。

 

 「ッ!!!」

 

 気がつくと、阿賀野は自分の部屋で、何も無い天井に向かって手を伸ばしたまま目が覚めた。

 

 「……夢。良かった……」

 

 周囲を見渡し、自分の部屋だということを確認するとそんな言葉がこぼれる。

 

 「……寝よ」

 

 変な夢を見たせいで疲れた。毛布を被り直して目を瞑り、再び眠ろうとする。

 

 『だから後は任せたよ。これからの十戦隊の旗艦は阿賀野なんだから』

 

 だが、目蓋を閉じるとさっきの夢が頭の中でぐちゃぐちゃと不規則に再生されていく。

 

 「…………!」

 

 あまりにも予想外の出来事に慌てて上体を起こして、浅くなった呼吸を整えようとする。

 

 「わー……すごい汗……」

 

 ある程度呼吸が整ってくると襟の部分がぐっしょりと汗で濡れていることに気づく。目を擦るといつもより多い涙が今度は手を濡らす。

 

 「……汗流してこよ」

 

 こんなんじゃもうしばらく眠れそうに無い。部屋を出て浴場へ向かう。

 

 (あれ……?)

 

浴場から光が漏れている。こんな時間に誰かが使ってるんだ。一体だれが? 川内さん?

 

 「あ、阿賀野」

 「長良さん……」

 

 漏れ出た光の中から長良さんが現れる。

 

 「こんな時間にどうしたんですか?」

 「長良は寝付けなかったから少し走ってた。で、今その汗を流してたとこ。阿賀野は?」

 「ちょっと……変な夢見ちゃって……」

 「……また長良が増えたりヒヨコ食べたりビーム出したり……」

 「あ、いえ……今回はそういう夢じゃないんです……」

 「じゃあ、どんな夢?」

 「それは……」

 

 

 

 「ふ〜ん、そんな夢を……」

 「はい……」

 

 夢の内容を話すと長良さんが腕を組んで考え込むような姿勢を取る。

 

 「その……そんな夢を見ちゃったせいで……少し……不安になっちゃって……」

 「そっか……」

 「…………」

 「……長良はそれに『大丈夫だよ』とは言ってあげられないかな……」

 「……え?」

 

 長良さんの言葉に心臓がドキリとする。

 

 「艦娘をやっている以上、そういう状況に絶対陥らないってことは無いと思う」

 「…………」

 「それでもし仮に、阿賀野の夢みたいなことになったら長良は阿賀野の夢と似たようなことをすると思う」

 「そう……ですか……」

 

 長良さんの口から言葉が淡々と吐き出される度に阿賀野は胸を締め付けられていく。

 

 「でもさ、それは『今の長良達がそうなったら』って話だよね?」

 「え?」

 

 長良さんのその一言で俯いてた顔を上げる。

 

 「ならさ、もっと鍛えて、もっと強くなろう! 長良も阿賀野も他のみんなも! そんなことになっても誰一人欠けずに切り抜けられるくらいにさ!」

 

 さっきまでの淡々とした長良さんが一転。いつもの笑顔でそう言うと、阿賀野に向かって拳を突き出してくる。

 

 「長良さんらしいですね〜……」

 

 そんな長良さんを見て、ほんの少しだけ顔が綻ぶ。

 

 「……でもその通りだと思います」

 「でしょ? よーし! 明日の走り込みはいつもよりみっちりやるよー!」

 

 長良さんが笑顔でシュッシュッとシャドーボクシングのように両手の拳を突き出す。見るからにやる気に満ち溢れてるって感じだ。

 普段の阿賀野ならこんなやる気マンマンの長良さんを見たらそれだけでうんざりした気分になっていたのだろう。でも今は、そんな長良さんの姿を見て、安心している阿賀野がいた。

 

 「…………」

 「あれ? どうしたんですか長良さん?」

 

そんなことを思うや否や、長良さんからフッと笑顔が消え、動きも止まる。

 

 「ごめん阿賀野。やっぱり明日からじゃなくて今からやろう」

 「え、今からですか!?」

 「そう今から!」

 「流石にそれはちょっと……」

 「よし行こう!」

 「話聞いてました!? 嫌ですよ今からなんて!!」

 

 阿賀野がそう言うと、長良さんの元気がみるみる内に消えていって、まるでしぼんだ風船のようにしゅんとなってしまった。

 

 「長良さん……?」

 「……ねぇ阿賀野、実は長良も嫌な夢見ちゃってさ……」

 「え? 夢? 長良さんが?」

 「うん……」

 「……どんな内容だったんですか?」

 「阿賀野が……沈む夢……」

 「…………」

 

長良さんはそのまま話を続ける。

 

 「……本当に嫌な夢だった。敵艦隊にジリジリと追い詰められて、最後は阿賀野がズタズタになって沈められるところをただ眺めることしか出来ない……。そんな夢だった……」

 「…………」

 「飛び起きた時には心臓バクバクで汗もびっしょり、頭の中ではさっきの夢がグルグルしてて、とても眠れないから落ち着くまで走ってたの」

 「……長良さん」

 「……だから阿賀野、もう少し一緒にいてくれる……?」

 

 そう言った長良さんの語気はまるで火が消えたように弱々しかった。

 

 「まぁ、そういうことなら……良いですよ……」

 「本当? ありがとう阿賀野」

 

 お礼を言う長良さんの声に少しだけ生気が宿る。けれどいつものエネルギーが有り余っているような長良さんとは比べ物にならない。

 

 「ごめんね。付き合わせちゃって」

 「良いですよ。阿賀野も長良さんがそばに居てくれた方が安心……しますから……」

 

 そこまで言って急に気恥ずかしくなってくる。だけどさっきの言葉は嘘なんかじゃない。それに今日は少しでも多く長良さんの姿を見ていたい。そんな気分なんだ。

 

 「……そっか。ありがとう阿賀野」

 「しかし、長良さんも嫌な夢見て不安になるみたいなことあるんですねー。いつもの長良さんからはそういところあんまり想像出来なくて……」

 「……今回は阿賀野のことだったから余計にね……」

 「そう……なんですか……?」

 「……だって阿賀野、前は長良より先に沈んだでしょ?」

 「あー……」

 

 確かに阿賀野は過去に長良さんの十戦隊を引き継いで、長良さんより先に沈んだ。長良さん、こんな風に気にしてたんだ。普段の長良さんはそのことに限らず、過去のあれこれのことを気にしているような素振りは欠片も見せたことが無いから。少なくとも阿賀野は今日初めて見た。

 そんなことを考えていると長良さんが阿賀野の右手を両手で包み込むように優しく握る。

 

 「長良さん……?」

 「阿賀野。長良はね、また阿賀野が長良より先に沈むなんてこと、万に一つだってあってほしくない。だって阿賀野は大切な後輩だから」

 

 阿賀野の目をしっかりと見据えてそう言った長良さんの声と表情には、さっきまでの弱々しさも、いつものような快活さも無い。その代わりただ真っ直ぐで、力強く、真剣な長良さんがそこにはいた。

 

 「お、大袈裟ですよ〜……長良さ〜ん……これくらいで……大袈裟ですよ……」

 

 そんな長良さんを直視出来なくなって、顔を逸らしておどけたように笑って誤魔化そうとする。けれど長良さんは相変わらず手を握ったまま真剣な表情を崩そうとしない。

 

 「……阿賀野も……沈んでほしく無いって思ってます……長良さんのこと……」

 「……うん」

 「……長良さんは……阿賀野にとって……その……大切な人……ですから……」

 「ありがとう阿賀野……」

 

 顔を逸らしたままそう言うと、長良さんが握っていた手をゆっくり離して微かに笑う。本当はちゃんと目を見て言うべき何だろうけど、今の阿賀野にはこれが精一杯なんだ。

 

 「……だけどこんな偶然ってあるんですねー……。同じ日に2人して似たような内容の夢を見るなんて……」

 「嫌な偶然だけどね……」

 「本当ですねー……。どうせならもっと良い偶然がいいですよねー……」

 「良い偶然って……例えば?」

 「んー……。例えば長良さんと阿賀野が同じお菓子を誰かからもらって、長良さんがそれを阿賀野にくれるとか?」

 「……阿賀野らしい」

 「えへへ〜……」

 

 阿賀野がそうやって笑うと長良さんの微かだった笑みがつられて大きくなっていく。

 皆が寝静まった深夜の鎮守府で阿賀野と長良さんの笑い声が小さく、でも確かに響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ〜疲れた〜……」

 

 翌日、昨日のことが嘘のように元気モリモリな長良さんの特訓に参加させられたせいで今日も疲労困憊だ。

 

 「長良さんって本当どういう体力してるんだろう。普通寝不足で辛いと思うんだけど……」

 

 食堂でそんな事をボヤきつつ注文した料理を机に置いて席に座る。

 

 「ひょっとして昨日のあれも夢だったりして……」

 

 ふとそんな考えが頭をよぎる。

 

 「阿賀野はいこれ」

 「え?」

 

 よぎった瞬間、いつの間にか向かいの席にいた長良さんが間宮券を阿賀野に差し出していた。

 

 「昨日付き合ってもらったから」

 「ありがとう……ございます……」

 

 長良さんから間宮券を受け取ると確かめるように指でなぞる。だって長良さんからこれを貰うってことは昨日のことが夢じゃなかった何よりの証拠だからだ。

 

 「……阿賀野今日寝不足の中頑張ったんでもう一枚欲しいって言ったら……」

 「もう無いよ」

 「えへへ〜……ごめんなさ〜い……」

 「まったく……」

 

 そんないつもの長良さんとの会話も今日は少しだけ、いつもより楽しく感じた。


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