過去にpixivで公開したものです。

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艦これ短文集

地獄耳五十鈴

 

 

「おかえり阿武隈」

「わっ、五十鈴姉」

 

 軽巡寮の廊下を歩いていると、五十鈴姉が一足先にドアを開けて出迎えてくれる。

 

「帰って来てるの何で分かったの?」

「足音がしたから」

「……そんなに音立てて歩いてた?」

「いや、立ててないわよ」

「でも足音したって……」

 

 五十鈴姉が椅子に座ると読みかけていたであろう本を開く。

 

「立てて無くても聴こえるわよそれくらい。あっ、鬼怒ももうすぐ帰ってくるわね」

「えっ……?」

 

五十鈴姉の言葉に思わずドアの前で耳を立てる。が、何も聞こえてこない。少しそのまま待っているとトタトタと足音が聴こえてきた。

 

「ただいまー! あれ? 阿武隈何してるの?」

 「…………!」

 

 勢いよく開かれたドアの先には鬼怒姉がいた。

 

 「五十鈴姉凄い……」

 「大したことないわよ」

 「え? なになに? 何の話?」

 「五十鈴姉が足音だけで鬼怒姉が帰ってくるの分かったみたい」

 「えー何それ! 五十鈴姉マジパナイ!」

 

 鬼怒姉が目を輝かせる。

 

 「じゃあさ五十鈴姉! 由良姉達がいつ帰ってくるか分かる?」

 「んー……」

 

 鬼怒姉の質問に五十鈴姉は耳を澄ます姿勢を取る。え、まさか分かるの。いくら対潜が得意で耳がいいからって流石にそこまでは……。

 

 「……最初に由良、少し後に名取、それから一分くらいして長良」

 「ほんとー!? 阿武隈は聴こえた?」

 「全然……」

 

 本に視線を落としたままの五十鈴姉が何でも無いように言い放つ。信じられないけど本当に五十鈴姉は足音を聴いてその順番に帰ってくるって分かったってことになる。だって五十鈴姉こういうは冗談言わない人だから。

 

 「五十鈴姉さんただいま。あっ、2人も戻ってたの」

 「おかえり由良」

 

 そんなことを考えていたら由良姉が帰ってくる。

 

 「すごーい!!」

 「わぁ……」

 

 五十鈴姉の予測に、待ってましたと言わんばかりに現れた由良姉に鬼怒姉がまたも目を輝かせている。

 

 「五十鈴姉さんただいま……、ふえ? 鬼怒ちゃんも阿武隈ちゃんも何でそんな目で私を見てるの〜……」

 「おかえり名取」

 

 名取姉が帰ってくるとあたしは反射的にスマホを取り出す。五十鈴姉の予測だとこの一分後に長良姉が帰ってくることになる。

 

 「すご……」

 「…………」

 

 さっきの興奮とは打って変わって鬼怒姉は今度は静かに感心している。感心してるだけじゃない気がする。

 

 「ただいまー!! いやー! 今日はいつもより熱が入って遅くなっちゃった!!」

 「長良、汗流してから来なさいよ」

 

 長良姉が帰ってくる。スマホは名取姉が帰ってきてから一分後をちょうど指していた。

 

 「まぁ、こんな感じよ」

 「…………」

 「…………」

 

 ちょっとだけ得意げになってるように見える五十鈴姉とは裏腹に、鬼怒姉とあたしの間に沈黙が流れる。少しして鬼怒姉があたしに囁いてきた。

 

 「ねぇ阿武隈……五十鈴姉何か……怖くない?」

 「うん……ちょっと……」

 「聞こえてるわよ」

 

 

名取パース

 

 

 「あ、あの〜……パースさんちょっと良いですか?」

 「……何?」

 

 声をかけられ振り返るとそこにかつてバタビア沖で戦った軽巡洋艦の名取がいた。

 

「あの……えと……その……」

「…………?」

 

 普段よそよそしい名取が珍しく声をかけてきたにもかかわらず、意味の無い歯切れの悪い言葉を繰り返しモジモジモダモダしている彼女の真意が分からず首を傾げる。

 

「こ、これ! 受け取って下さい!」

「……コ◯ラの……マーチ……?」

「本当はパースさんが着任したときに言わなきゃいけないことなんですが……ご、ごめんなさい! 昔のこと気にしてると思ってなかなか言い出せなく……」

 「言わなきゃいけないこと?」

「は、はい! あの……昔は……お互い敵同士でしたけど……今は仲間ですから! だから……お詫び……じゃなくて……お近づきの印……とも違くて……す、すいません! 上手く言えないんですけど……あの〜……その〜……」

 「……大丈夫。名取の言いたいこと。しっかり伝わったわ」

 「ふえ!? ほ、本当ですか……?」

 「ええ、昔は敵同士だったけど今は仲間。過去の遺恨に囚われず一緒に頑張って行きましょう。これで良いのよね?」

 

 名取に握手を求め、手を差し出す。

 

 「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 

 名取は私が差し出した手を両手でぎこちなく握る。そんなに緊張しなくても良いのに。

 

 「でもなんでこれを?」

 「パースさんオーストラリア育ちだって言うから……」

「あぁ、なるほど……だから……」

「…………」

「…………」

 

「姉貴ーーー!! ピクリとも笑ってないよ! やっぱりあんなんじゃ駄目だって……!」

「なーによ松風! オーストラリアっていったらコアラでしょうが!」

 

姿は見えないが名取の後ろの角から彼女の部下の松風と朝風の声が聞こえてくる。

 

 「あの……ごめんなさい……気に入りません……でした?」

 

 今にも泣き出しそうな顔で名取がおずおずと私にそう問いかけてくる。

 

 「……ふふ」

 

 上手くやってけそう。そんな気がした。

 

 

逃走失敗

 

 

 「よし……誰もいない……」

 「…………」

 

 まるで忍び込んだ不審者のように周囲を警戒して阿賀野は〝一人〟、軽巡寮の中を進んでいく。

 

 「長良さんにバレないように戻らないと……」

 「…………」

 

 そう、阿賀野がこんなにコソコソしているのは長良さんの走り込みから逃げ出したからだ。恐らく、いや確実に長良さんは阿賀野のことを探しているだろう。絶対に見つかる訳にはいかないもし見つかったら何をされるのか。想像するのはやめよう。怖い。

 

 「…………」

 「…………」

 

 音で気づかれないようゆっくりと歩き、外から見えないように窓があるところは窓から見えないように姿勢を低く保ち進んでいく。この方法で今のところ目立って危ないところもなくここまでこれてる。順調過ぎて怖いくらい。このままいけば部屋までたどり着くことが──。

 

 「!!!?」

 

 瞬間、背後に長良さんの気配を感じ振り返る。が、振り返った先には何も無い。

 

 「……気のせい」

 「…………」

 

ほっと胸を撫で下ろすがこれは予想以上に心臓に悪い。波打つ心音と同時に一刻も早く部屋に戻ってこの緊張から解放されたいという気持ちが一層高まってくる。

 

 「早く戻らないと……」

 「…………」

 

 再び向き直り、阿賀野はまた部屋への道のりを一歩一歩ゆっくりとだが確実に進めていった

 

 「よし……!」

 「…………」

 

 そうして十数分後、とうとう部屋が目に見える位置までたどり着いた。もう少しだ。もう少しで部屋に戻れる。

 

 「着いた……!」

 「…………」

 

自分の部屋の前まで戻って来た。いつもの道のりな筈なのに清々しい達成感に包まれている。後は部屋に入って鍵かけて籠城しよう。ここまでくれば仮に今見つかったとしても阿賀野が部屋に入る方が早い、もう勝利は目の前だ。

 

 「いやー長い道のりだった──」

 

 そう言ってなにげなく後ろを確認した瞬間、阿賀野の命運は尽きた。

 

 「うわ長良さ──ムグゥ!?」

 

 叫ぶ間もなく、長良さんが阿賀野の口を塞ぐとそのまま流れるようにヘッドロックして拘束する。

 

 「んーーー!! んーーー!! んーーー!!!」

 「…………」

 

 声を出すことも、ヘッドロックから抜け出すことも出来ない。そんな絶望的な状況の中で阿賀野は長良さんに引きずられていった。

 

 

地味に時報で絡みがある2人

 

 

 「鹿島さ〜ん。ちょっと良いですか〜?」

 「嫌です」

 「まだ何も言ってないじゃないですか!?」

 「また広報誌の写真のことでしょう? 何回も断ってるじゃないですか」

 「そんなこと言わないで鹿島さんこれ見てください!」

 「……何ですかこれ?」

 

 青葉さんから一つだけ不自然に突出したグラフを渡される。

 

 「これはですねー。一般向けに販売してる鎮守府広報誌の売り上げです」

 「はい……」

 「ここまでが今までのやつです。艦載機とか主砲とか魚雷とかを表紙にしてました」

 

青葉さんがグラフを一つ一つ指差して説明しくる。

 

 「そしてこれが鹿島さんを表紙にしたやつの売り上げです」

 「はあ……」

 

 青葉さんが不自然に突出したグラフを指差す。

 

 「そんでもって今までのやり方に戻した売り上げがこれです」

 

 そういって青葉さんが一番低いグラフを指差す。

 

 「鹿島さんが表紙になるだけでこれだけの売り上げがでたんです! つまり鹿島さんが水着になれば更なる売り上げが! お願いします!」

 「嫌です! 広報誌はグラビア雑誌じゃないでしょう!?」

 「そんなこと言わずにお願いしますよ! 人助けだと思って!」

 「……そんなに言うなら青葉さんが表紙になれば良いんじゃないんですか? だって皆さん表紙が目当てで買ってるんでしょう?」

 「えー……いや……ほら……青葉はその……いいんですよ……」

 

 そう言って俯いた青葉さんは照れているのか、ほんの少し頬が朱に染まっていた。

 

 「……じゃあ青葉さんが一緒に写ってくれるなら鹿島も撮ります」

 「あ! ずるいずるい! ずるいですよ鹿島さん!」

 「うふふ」

 

 

こういうオチのネタなら少しくらい言わせても良いかなって

 

 

 『2人ともいい加減にして下さい!』

 『…………』

 『…………』

 

 明石の声が部屋に響き渡る。彼女の目の前には身体中に痣と切り傷をつくった長良とアトランタがいた。

 

 『喧嘩するなとは言いませんが怪我されると私の仕事も増えるんですよ!』

 『違う、喧嘩じゃない。珍獣に襲われたから自分の身を守っただけ。こいつが居る場所は鎮守府じゃなくて動物園でしょ』

 『へー、あんたの目には長良が珍獣に見えるの? とんだ節穴だね。そんなんで防空艦を名乗るなんて冗談キツイよ』

 『……チッ、スカスカの頭でよく喋る……。その減らず口一生きけなくしてやっても良いんだぞ汗臭いボス猿女』

 『さっきも似たようなこと言ってたね〜。で、その汗臭いボス猿女に手を潰されて、自信満々で取り出したナイフをポロッと落として悶絶してたのは誰だっけ? 鳥頭だから忘れちゃった?』

 『……そうやって煽ったことを死ぬ程後悔させた後ぶっ殺してやるよ』

 『強気だね〜。どこから来るのその自信?あんな無様な姿晒してさ。あ、でもあんな間抜けなところ2回も見たら長良笑い死んじゃうかもね〜』

『Die!!!!! fuc◯ing die!!!!!!!』

 『かかってこいよクソガキ、どっちが上か分からせてやる!』

 『やめてください!!!!!』

 

 

 

 「みたいなのから──」

 

 

 

 『2人ともいい加減にしてください……』

 『…………』

 『…………』

 

 明石が心底うんざりしているように呟く。彼女の目の前には負傷しているというのにベッタリ抱き合って離れようとしない長良とアトランタがいた。

 

 『こんなときまでベタベタ抱き合わないてわください。やりづらくて仕方ないんですよ……』

 『違う、ベタベタしてるんじゃない。こうやって1日に必要な栄養を補給してるの、これがないと動けないの』

 『これ冗談じゃないですよ明石さん。長良もこうやって匂いと体温を感じるのを毎日最低3回はやらないと調子悪くて』

 『……あたしは5回はしないと調子でない』

 『……うん。そんな感じなので長良もあんまり離れたくないんですよね』

 『じゃあ……ずっとこのままでいれば良いだろ……、修理だってこのまま出来ないこと無いんだし……』

 『……でもあんまり明石さんを困らせる訳にはいかないし……、長良も嫌だけど少しだけ……ほんの少しの間だけ離れてよう?』

 『……Kissしてからなら……』

 『……良いよ』

 『ちょっとほんとやめてくれませんか? 鬱陶しいんですけど』

 

 

 「みたいな風になったり──」

 「いや全然。どっちも無いから」

 「何だ残念……」

 「何で秋雲は残念がってるの……」

 「あ〜良かった……。後半が本当だったらどうしようかと……」

 「何で阿賀野はホッとしてるの……」

 

 

浴衣長良はいつもより幼い

 

 

 「えへへ〜、長良さん浴衣〜」

 「……阿賀野、来てたんだ……」

 「長良さんその浴衣好きですよね〜」

 「……うん。気に入ってるから……」

 

 毎年恒例になっているお祭りで浜風と浦風を待っていたら妙にニヤニヤしてる阿賀野と会った。

 

 「長良さんお待たせしました……、あれ? 阿賀野さん来てたんですか」

 「まーね。2人は何してたの?」

 「イカ焼き買ってました。長良さんの分も」

 「うちは付き添い」

 「なるほど〜」

 

 二人と会話している阿賀野はずっとニヤニヤしてる。

 

 「……何なの阿賀野。さっきからずっとニヤニヤしてさ」

 「いや、浴衣着てる長良さん可愛いな〜って」

 「え? 急になんなの……」

 「だって浴衣着てる長良さんって同じ浴衣着てる軽巡どころか駆逐艦の子達より幼いんですもん! ちっちゃい子供みたいで可愛いな〜って!」

 

 

 

 

 

 「長良さ〜ん……そんな落ち込まないでくださいよ〜……」

 「…………」

 

 うずくまった長良に阿賀野が申し訳無さそうに声をかける。

 

 「阿賀野良いと思いますよ! 日焼け後とか、長良さんだと元気な子供みたいな感じが一層際立ってるじゃないですか!」

 「阿賀野さん。それフォローじゃのうて追い討ちじゃ……」

 「阿賀野は長良さんのそういうとこ可愛いと思ってますよ! 自信持ってください!」

 「阿賀野さん。全然フォローになってません……」

 

 

 

 「──ということがさっきあって」

 「はぁ……」

 

 うずくまってる長良とその周りで何やら騒いでいる3人を見て、何やってるんだと興味本位で声をかけてみたらそういうことがあったと長良から説明を受ける。

 

 「ていうか長良はそういう風に見られるの嫌なのか?」

 「まぁ多少は……」

 「そういうこと気にするんだな……」

 

 意外にも長良は自分がどう見られているかということを多少は意識しているらしい。そんなこと一切気にしていないと思っていた。

 

 「何でですか〜……阿賀野は純粋に浴衣の長良さんが可愛いって思って言っただけなのに……」

 

 阿賀野がふてくされた様子で言う。

 

 「阿賀野! 言っとくけど身長は変わってないから!」

 「あ、そういえばそうですね。まぁそう見えちゃうくらい幼いんですよ長良さんって」

 「嬉しくない……」

 

 長良の抗議に阿賀野が朗らかに笑うが長良は阿賀野のその態度に不満そうな表情をする。

 

 「でも阿賀野以外でも似たようなこと思ってる人いっぱいいると思いますよ? 浦風ちゃんと浜風ちゃんだってそうでしょ?」

 「まぁ……少しは……」

 「うちも……」

 「え!?」

 

 阿賀野の言葉に曖昧であるが同調するような浜風と浦風の発言が予想外だったのか、不意打ちを食らったように長良が驚嘆する。

 

 「……なんか大人っぽく見えることってあるかな?」

 「その発言が既に子供っぽくないですか?」

 「…………」

 

 阿賀野にバッサリと切り捨てられ、長良はそれ以上何も言うことなく俯いてしまう。

 

 「別に良いじゃないですか長良さ〜ん。そんなこと気にしなくたって〜」

 「でも変なイメージついて舐められたりするのはな〜……」

 「え、長良さんそんなこと気にしてるんですか? 大丈夫ですよ誰もそんなこと思ってませんって」

 「そうなの? 長波ちゃんはどう思う?」

 「え?」

 

 長良があたしに話を振ってくる。

 

 「……別にどうでもいい。大人っぽいとか子供っぽいとか、あたしはそんなことで長良を測ったりなんてしないし、長良のやってきたことはそんなことで揺らいだりしないだろ」

 あたしはそれに包み隠さず本音を言葉にする。見た目のイメージなんかであたしのことを命がけで助けてくれた長良に対して態度をどうこうするなんて絶対にあり得ないと思っているから。

 

 「……そう?」

 「そーですよ長良さん! 阿賀野はそういうことが言いたかったんです!」

 「確かにそれとこれとは話が別じゃけぇ。うちは長良さんを舐めるなんていっぺんも思うたこと無い。それに長良さんのこと舐めとる奴なんて聞いたこと無いけぇ」

 「私もです。少なくとも十戦隊に所属したことのある駆逐艦で長良さんのこと舐めてるのなんていないかと……」

 「そっか……」

 

 あたしの言葉に阿賀野が同調し、浦風と浜風が続く、三人の言葉を聞いた長良の表情が少しだけ綻んだように見えた。

 

 「だから言ったろ? 気にすんなよそんなこと」

 「……ありがとう長波ちゃん」

 「ん……」

 「ところで長波ちゃんには今の長良どう見える? 子供っぽく見える?」

 「……見える」

 

 

 

 「長良ー! 何でだよ!? 気にすんなってあたし言っただろ!?」

 

 うずくまってる長良にあたしがそう言って声を掛ける。

 

 「そーですよ長良さん! 何であの流れでこうなるんですか!?」

 

 まるであたしの気持ちを代弁するような阿賀野の言葉に心の中で首を縦に振る。ほんと何であれからこうなるんだよ。

 

 

 「それとこれとは話が別……。なんじゃろうな」

 「ですね……」

 

 

同い年らしいのでちょっと砕けた口調で会話してるみたいな設定

 

 

 「みたいなことがあってさ……」

 「ふふふ、なるほど。だから珍しく1人で来てるの」

 

 深夜の居酒屋鳳翔で長良は一人くだを巻いていた。

 

 「そこまで言って貰ったのなら気にしなくたっていいのに」

 「それとこれとは話が別なの! も〜何で長良はこうなの? 鳳翔は長良と進水年一緒なのに全然そんなこと無いじゃん」

 「艦種が違いますし」

 「でも五十鈴は同じ軽巡なのにそんなこと言われないし……やっぱり胸?」

 「それは関係ないと思いますよ。長良は普段の言動の方が大きいんじゃないですか?」

 「長良の何がいけないの……」

 「言葉遣いとか、後行動も一つ一つエネルギーを出しすぎないようにするとか……」

 「それやったら長良のアイデンティティが……」

 「じゃあ服装を変えてみるのは? 私みたいに和服を着てみるとか……」

 「……浴衣は?」

 「あっ……」

 

 二人の間に一瞬の間が生まれると鳳翔が笑い出す。

 

 「アッハッハ! そういえばそうでした! 浴衣を着てそれ言われたんでしたね!」

 「笑いすぎ! はぁ、どうしたらいいんだろ……」

 「いいじゃないですかそんな変えなくたって。みんな今の長良を慕ってくれてるんだから、いつもの長良が一番ってことだと思いますよ?」

 「……そうだね。鳳翔の言う通りだと思う」

 「分かってくれました?」

 「うん。あまり大きく変えるんじゃなくてちょっとしたことからやっていこうと思う」

 「そういう方向にいっちゃいましたか……」

 

 

阿賀野進水日

 

 

 

 「阿賀野はいこれ! 進水日のプレゼント!」

 

 進水日。長良さんが作ったケーキを食べ終わると今度は色鮮やかな花束を渡してきた。

 

 「……花?」

 「そーそー! この花はねー……」

 「待ってください当てます」

 

 長良さんの話を遮り思考を巡らせる。

 

 「……夕雲ちゃんのアイディア! そうですよね!?」

 「まさか! 長良が考えたんだよ」

 「うっそー!!」

 「嘘」

 「…………」

 「冗談冗談! そうそう! 阿賀野の言う通り夕雲のアイディアだよ!」

 「もー……」

 

 唐突な長良さんの冗談に笑いではなく呆れのほうが先に来てしまう。

 

 「……綺麗ですねこの花」

 「ガーベラだって。花言葉は『希望』と『常に前進』だってさ」

 「へー」

 「『常に前進』だって『常に前進』。長良気に入ったよ。『常に前進』だよ? 良い言葉だよねー『常に前進』」

 「多分長良さんが想像してる奴とは意味が違うんじゃないかなーって……」

 

 目を輝かせ、花言葉を連呼して阿賀野に近づいてくる長良さんに思わず顔を背けるとある疑問が頭をよぎる。

 

 「花言葉も夕雲ちゃんに教えてもらったんですか?」

 「それは長良が調べたんだよ」

 「え!? 長良さんが自分で調べたんですか!? 誰かに言われたとかじゃなくて!?」

 「そうだけど?」

 「そーなんですかー……」

 「ちなみに花を選んだのも長良だよ」

 「え、でも夕雲ちゃんのアイディアだって……」

 「花束を渡すのはね。花の種類は長良が選んだんだよ」

 「……ほんとですか?」

 「ほんとだよ。嘘ついてどうすんのさ」

 「はぁ……まぁ……確かに……」

 

 『長良さんが自発的に花言葉を調べた』と『長良さんが自分で花を選んだ』この二つの光景を頭の中で再生されると、ある言葉が思い浮かぶ。

 

 「似合わなーい」

 「似合わないって……」

 

 思い浮かんだ言葉をそのまま口に出すと長良さんが少しムッとしたような声と表情をするが阿賀野はそれを脇目に長良さんから渡された、花の種類は一つだけだけど、赤、ピンク、黄色、白、色とりどりに飾られた花束を改めて見つめると、何故だろう、不思議と愛おしく思えて来た。

 

 「でも……ありがとうございます長良さん。大事にします」

 「……気に入ってくれたみたいで何よりだよ」

 「はい」

 

 そう言って微笑んだ長良さんに阿賀野もまた、少しだけ笑って返事をした。

 

 「じゃあ阿賀野は花瓶買ってくるので明日の走り込みはお休みしまーす」

 「ちょっと待て」

 


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