ーーーーあなたを知ってしまったからわたしの人生は狂ってしまった
あなたが必要だと求めてしまったからわたしも求めるようになってしまった
あなたが中身のない「好き」を言ってしまったからわたしも好きになってしまった
わたしがいなくても、あなたには変わりなんていっぱいいる
あなたに止めて欲しい、あなたがわたしを必要だと言って欲しい
でも立場がそれを邪魔をする
悔しくて情けなくて涙したってあなたはそれに気づかない
あなたは既にわたしはいつもこの場にいると誤認する
わたしはそれを誤認とさせないがためにここにいた
だけどもう辛くて苦しくて悲しいの
わたしは求めすぎてしまうから
手の届かないあなたを求めてしまうから
わたしはもうこの場から逃れられないから
わたしはこの人生に道を決めてしまったから
わたしは『笑顔』という仮面であなたと話そう
あなたの中身のない好きをわたしだけのものとして受け取ろう
暗くて悲しいわたしは絶対に見せない
あなたのわがままも全部聞いてあげる
だからどうか、わたしを見て
だからどうか……わたしを見捨てないで
音楽は人の生活の中でごく自然と共存している
朝の携帯のアラーム、電車のアナウンスの前に流れるメロディ、ゲームの後ろで流れるbgm……
それらは誰かが創り、歌い、流し続けている
わたしも含め、それが当たり前のものとして今生活している
高校を卒業し、大学へ進んだわたしは他人からしたら"ごく平凡"な生活をしていた
大学で学び、アルバイトをして、夜はネットの友達とゲームをしたり会話をしたりして寝る、そんな日々だった
だがそんな日々を覆す出来事があった
『お前、この地下アイドルのライブ一緒に行かね?』
それは最近話すようになった友達からの、一通のチャットだった
わたしは高校から通じて世間一般で言う『アニオタ』だった
アニメのグッズを買い漁り、交換や好きなキャラクターの話をして輪を広げてきた、そんなオタクだった
そんな広がり方から知り合った彼であったが、彼は同じ都道府県に住んでいて話も会うので話し出した
そしてアニオタと一緒に彼はドルオタでもあった
正直その頃のわたしはリアルのライブ等はあまり興味がなかった
アニオタでもわたしは声優などにはあまり興味がなかったし、アニメソングのリアルライブもいいなとは思ったことはあれど実際行ったことなどなかった
ましてやアイドルなど専門外な上に地下アイドル、ドラマなどでのイメージしかないがああいう可愛いのは好みじゃない
「誘ってくれて嬉しいけど、リアルのライブはあまり興味出ないんよね」
わたしはそうチャットに打ち込んだ
するとすぐ既読が着き、すぐに返信が帰ってきた
『そう言うと思ったけど、1度騙されたと思って曲だけ聞いてくれよ』
その言葉の後にすぐさま動画が送られてくる
『《MV》炎神の恋嵐/神雷巫女(シンライミコ)』
最近の地下アイドルはMVも作るのかと感心した
勧められて見ないわけも行かないので、見てみることにした
地下アイドルという可愛いイメージとは違ったカッコイイ系の曲だった
曲の雰囲気やMVもカッコよく、4人のメンバーが奏でる歌もとても上手かった
一応彼に「見たよ、かっこよかった」とだけチャットを送る
するとすぐに返信が来て
『チケ代は新規は無料だしD代も俺が支えるから一緒に行こう!』
と言った
費用がかからないなら……と思った私は彼の誘いを受け取ることにした
結論から言ってしまえば、その初めてのライブからわたしはその神雷巫女、略して「カミコ」(多分神と巫女でカミコになったんだろうがなぜそう略されたのかは不明)に熱中してしまった
狛(こま)、神凪(かんな)、玉藻(たまも)、鈴華(すずか)の4人のメンバーの中でわたしはメンバー内で唯一ボーイッシュな神凪が特に気に入り、誘ってくれた彼の奢りでチェキというものに言った
どうやら1枚写真を撮ってメンバーがそれにサインや落書きしながら1分間話すというものらしい
「1枚撮るのにいくらかかるの?」と彼に聞いたところ1枚2000円もするらしい
その時は「たっか…」と思ってしまったが彼に「アニメのグッズ買うのに少し高くても買うのとおなじ感覚」と言われると妙に納得してしまった
あまり女の子と話す経験がないので最初はガチガチに緊張したがいざ話してみると神凪はとても話しやすい女の子だった
彼とライブ終わりにご飯を食べに行った時にライブの感想を話す時にその神凪の情報を色々聞いたのだが、彼女は見た目こそボーイッシュだけどメンバー内でいちばん女子力が高く、料理や裁縫はお手の物、衣装もデザインから制作まであの子がやっているらしい
さらにはなかなかのゲーマーらしく、よくSNSにゲームの画像を流すらしい
その中にはわたしが今やっているゲームもあってその時私は次回のライブも行くと決めていたのでチェキに行く時その話をしようと決めていた
カミコは本来は都心でアイドル活動をやっているらしいのだが月に1度地方に遠征してライブをするらしく、わたしが住んでいる県にも毎月来ているようだった
そこからわたしのカミコのオタクの生活が始まった
そこからは全てが変わっていった
今まで聞いてきたアニソンだけのプレイリストの中にカミコの曲が入ってきた
アニメショップで買ったアニメのポスターやタペストリーで埋め尽くされていた壁は今や半分以上カミコのポスター(どうやら前方優先席特典というもので貰えるのだが、現場で仲良くなったオタク達に譲ってもらった)で埋め尽くされていた
神凪はSNSでたまにライブ配信をしたり動画配信サイトでゲーム実況などをたまにしているのだが、そこにも欠かさず行くようになった
今までアニメグッズに割いてきたバイトの給料は月に一度のカミコのライブで熔けいくようになった
回数を行くにつれて神凪からも顔や名前を覚えられ、あだ名で呼ばれるようになった
ついにはSNSでも自分の何気ない日常の投稿にもいいねが来るようになった
最初に誘ってくれた彼に聞いてみたところ地下アイドルは気に入った子のアカウントをよく監視するようになるらしい
最初はよく分からなかったが、彼に「お前気にいられてるで、よかったやん」と言われてとても嬉しかったのを覚えている
神凪にも「そうだよーキミのこと好きだからいつも見てるよー」と言われて心が満たされた感じがすごくした
初めて行ってからはや1年が過ぎつつある頃、わたしは神凪のオタクの中でも強いオタク(そもそもオタクに強いも弱いもないのだが、何故か周囲からそう言われるようになった)の部類に立っていた
そんな生活がしばらく続くんだろうなと、その時のわたしはずっと思っていた
カミコに通い始めてから1年と半年が過ぎつつある頃、カミコを運営する会社の方針の変更?か何かでカミコは少しずつ変わりはじめていた
曲も今まではかっこいい系の曲以外にも楽しい系、カワイイ系もチラホラあったのだが新曲は全てかっこいい系に、コールもアイドルと言うよりバンドに近しいものになりつつあった
その方針は新規層やバンドから流れてきた若者層にはウケがよく、今まで余裕があったライブ会場も徐々に人が増え埋まりつつあった
その反面、今までのカミコが好きだった熟練層や初期勢のオタク達が『方針が変わって面白くなくなった』『今まで通りの動きができない』と言う理由で最初に誘ってくれた彼も含めてライブに来なくなる「他界」というものをしてしまった
わたしは曲も好きなのだがそれより神凪が好きだったのでそう言う「曲よりメンバーが好き」というオタク達は生き残った(?)ものの、アイドル現場に必須なコールやMIXというものが完璧にできるオタク達が軒並み他界してしまったせいで過去にあったわたし達が経験した「楽しいカミコ現場」というものが徐々にできなくなってしまっていた
その時は「彼らがいなくなった分、おれらが新規焚き付けて盛り上げよう!」という気持ちでいたのだが、それも月が進むにつれて厳しくなってきているのを肌で実感することになった
わたしも昔のようなことが出来なくなるのはとても悲しかった
それでも神凪がいるから、神凪があそこで歌い続けるからという理由でずっとカミコを推し続けていた
カミコを推し続けて2年になる頃、カミコは地下アイドルの中でも名が響くレベルにまで来ていた
地上波で放送されたり少し大きなステージでライブパフォーマンスをしたりと活躍の場が増えていった
彼女らも仕事が忙しくなる頃ではあるが今まで通り監視やエゴサーチなどでいいねが来たり相変わらずやってくれる月に一度のライブでのチェキの時に「あれ見たよー」等雑談に近いような感じになっていた
しかし最近、違和感を感じるようになってきた
神凪からSNSにいいねが来ないのである
前まではタグ付けなどをすると確実にいいねが来たしなんでもない投稿にもいいねが来てた
しかし最近タグ付けしても自分にはいいねが来なかったり逆になんでもない投稿にたまにいいねが来たりと正直何を基準に見ているのか、見ていないのかがわからなくなってきたのだ
最近忙しいのは重々承知なのだが、それにしては自分より後に来た子にはいいねがいってるしと『忙しいから』が正直理由にならないのである
そんな不快な感情を持ちながら数ヶ月が過ぎだ頃、久しぶりに過去最初に誘ってくれた彼とご飯に行くことになった
この機会にわたしは彼にその手の相談をしてみようと思い、相談してみた
『お前、アイドルの「好き」に中身があると思うか?』
久しぶりに会って相談して、最初に帰ってきた言葉がそれだった
それに対してわたしはその時「えっと……」としか返せなかった
そして彼はわたしに頭を下げた
『俺ァアイドル現場結構いたから慣れてたけどお前はここしか行ってないし初めてだったもんな、だからアイドル現場の現実面を伝えそびれた、本当にごめん。まず大前提としてアイドルは"みんなのもの"でないと行けない。だからお前に対しての"好き"って言葉は他のオタクに対する"好き"と何ら変わりのない"中身のない好き"なんよ。神凪は少し独占欲が強いから他のところに行かないように『君がいないとダメ』『キミが必要』って言ってくれるけどあっちからしたら誰かひとりが居なくなってもやむ無し、他のオタク独占しようってなる訳よ、キツイ言い方をしてしまうが"お前の変わりはいくらでもいる"んだ…あそこは、カミコは今新規を集めるのに必死になってる。お前みたいな古参勢は少し目を離しても居てくれると過信してるからだろうけど俺はそれが嫌であそこのオタクやめたんよ。今お前がカミコを推すことに止めも否定もしないけどこういう現実だってのは頭に入れて欲しいんよ……』
彼の言葉をわたしは半分魂が抜けたような顔で聞いていた
彼の言葉を嘘だと思いたかった
多分本当は自分自身で気づいてしまっていたから
その現実を言葉にされるまで認めたくなかったから
でも認めるしか無かった
でも口から出たのは違う言葉だった
「それでも……それでも神凪が『キミが必要』って言っちゃったから……それ嘘にしちゃダメだよね……?嘘でも求めたら答えないと……神凪のわたしでい続けないと」
その日はそのままお開きになった
彼からは『お前の人生を狂わせてしまったかもしれない、ホント済まない』と言われた以来、会っていない
あなたには絶対手が届かないと言われた
あなたには代わりがいるかもしれない
そんなこと知っていてもわたしは今日もあなたに会いに行く
周りから『狂っている』と言われようとも
あなたにも『狂っている』と言われようとも
あなたを知ってしまったからわたしの人生は狂ってしまった
あなたが必要だと求めてしまったからわたしも求めるようになってしまった
あなたが中身のない「好き」を言ってしまったからわたしも好きになってしまった
わたしがいなくても、あなたには変わりなんていっぱいいる
あなたに止めて欲しい、あなたがわたしを必要だと言って欲しい
でも立場がそれを邪魔をする
悔しくて情けなくて涙したってあなたはそれに気づかない
あなたは既にわたしはいつもこの場にいると誤認する
わたしはそれを誤認とさせないがためにここにいた
だけどもう辛くて苦しくて悲しいの
わたしは求めすぎてしまうから
手の届かないあなたを求めてしまうから
わたしはもうこの場から逃れられないから
わたしはこの人生に道を決めてしまったから
わたしは『笑顔』という仮面であなたと話そう
あなたの中身のない好きをわたしだけのものとして受け取ろう
暗くて悲しいわたしは絶対に見せない
あなたのわがままも全部聞いてあげる
だからどうか、わたしを見て
だからどうか……わたしを見捨てないで
あとがき
物語はフィクションですが最初の文は作者の本音に近しいものです、地下ドル現場を経験しての心の変化等は割と自分に似たような感じかもしれません
まぁ病んでばっかもあれなんで「推しメン、好き!」の心持ちではいますがこういう心境もあるというのだけ