呪われた世界と優しい王国   作:スピナー

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話の流れがちょうどいい所で区切るようにしているので、一話の長さがまばらになります。
ご了承ください。


『少女A』が呼んでいる

 夢をみた。

 どこか遠い日の夢。

 

 僕は見知らぬ丘に立っていた。

 そこには僕を含めて五人が揃っていた。

 全く見ず知らずの人たち。共通点などあろうはずもない人たち。

 そして、僕らは────

 

 ◯

 

「……つさま……和久津さま」

 

 呼ぶ声が聞こえる。

 夢の残響を引きずりながら目を開けると。

 

「和久津さま」

「うわっ!?」

 

 宮和の顔がドアップで映った。思わず勢いよく離れようとして僕が座っていた椅子が揺れる。

 目の前の机でなんとか耐えて一呼吸起き、ようやく僕は周りの状況を得る。

 学校だ。僕は何時の間にやら寝ていたらしい。

 宮和はそんな僕の反応を見て上品に微笑む。

 

「いたずら大成功です」

「もう……宮。びっくりさせないでよ」

 

 時間を見ると6限が終了したところだった。

 少し思い返すと、数学の途中でうつらうつらしてきたような覚えがある。

 

「それにしても、優等生の和久津さまが寝ていらっしゃるとは珍しいことですね」

「ああ……うん……最近ちょっと」

 

 言いながらも思わずあくびが漏れ出てしまう。

 寝不足気味……と言うよりは。

 

「どうかされましたか?」

「うん……唄が、ね」

「歌?」

「ううん、なんでもないよ」

 

 呪われている上に幽霊にとりつかれた、だなんて。笑い話にもならない。

 

「和久津さまはお布団と寝台と、どちらがお好みですか?」

「急に何の話?」

転寝(うたたね)が多いのかと」

「いらないよ!?」

 

 放っておいたら本当に家に送りつけてきそうなのが怖いところ。

 

「では最近どうなされたのですか? また哀れなお犬様をお拾いになられたのですか?」

「るい……いや、拾ってないよ」

「そうですか。なら今度宮が拾って和久津さまの元へもってゆくことにします」

「引き取らないよ!?」

「そうですか。しかしツンデレさまの和久津さまなら引きとってくださると宮は信じております」

「信じられても引き取らないからね!」

 

 色々思考がズレているのが冬篠宮和だ。

 『天才』さんならぬ『天災』さん……同時に、『最強の和久津さまストーカー』……最大の危険因子。

 でも頭の回転も早く色々とフォローもしてくれるから邪険にできない。

 身体測定の日なんて、何度助けられたか。

 

「……お疲れのようですのにズルズルなさらない和久津さまは流石でございます」

「何そのズルズルって。ずる休みのこと?」

「はい。こう、ずるずると」

 

 奇妙な動きをする。

 のんびりとした動きで、足を引きずり左右に動く。

 ……なんだか前にも同じようなやりとりをした覚えがある。

 

「意外にこれが心地良く。和久津さまもいかがでしょう?」

「遠慮しとく」

「そうですか……ズルズル」

 

 再ブーム化したらしい、宮和は帰りのHRが始まるまでずっとズルズルしていた。

 というかHR中もズルズルしていた。周りの人は宮和のやることだからか誰も突っ込まない。

 ……本当、誰が教えたんだろう。

 

 ◯

 

「せかせか……」

 

 心持ち早く、下駄箱へと向かう。

 それでも、気品は忘れず。スカートが翻るのははしたない、というのがこの学校だ。

 

「和久津先輩、さようならー」

「さようならー」

「ごきげんよう」

 

 営業スマイルで挨拶。きゃあきゃあという黄色い声が後ろに去る。

 学園内でも僕や宮和は深窓の令嬢、憧れの君だ。鍍金の僕と違って宮和はホンモノだけれど。

 そんな感じで挨拶をされることは多い。これも有名税か……

 

 そう思いながら下駄箱をあける。

 見慣れた手紙が今日は……

 

「五通、でございますね」

「わっ!?」

 

 影もなく後ろから宮和が現れて、僕を驚かせる。

 本日二度目。しかもこんな短期間に。

 というか気配消すのがうまくなってる気がする。

 いつか着替えてる途中に僕の背後に現れたりするんじゃないだろうか……

 

「今日は急いでらっしゃるようで、追うのが大変でした」

「そ、そう……そんなつもりはなかったんだけどね」

 

 そう言って、僕らは(僕は下駄箱の手紙をゴミ箱に捨ててから)昇降口を出る。

 すっかり長くなった日が燦々と僕らを照らした。

 思わず手で影を作る。宮和をみると太陽に負けることなどなく全く平然とした様子で隣を歩いていた。

 これが本物と偽者の差か……

 

「和久津さま、途中までご一緒してもよろしいでしょうか?」

「あ、うん。別にい……」

 

 

『──────』

 

 

 いいけど、と言おうとしたところで。

 地面に影が落ちる。僕は空を見上げる。

 学校の屋上、その(ヘリ)。また、そこに『彼女』はいる。

 僕を見下ろしている。

 

「和久津さま?」

 

 黙り立ち止まった僕を宮和は怪訝に思い、名を呼ぶ。 

 しかし、それも遠い。

 

 少女は今日も唄ってる。

 少女は今日も答えない。

 

 けれど。

 今日の唄は、少し違った。

 呼んでいるような気がした。僕を。僕らを。

 

『────どこへ、行きたい?』

 

「わく……」

「ごめん宮。用事を思い出しちゃった」

 

 申し訳なさそうにいう。

 それでも宮和はいつもの微笑を湛えたままに答えた。

 

「構いません。どうぞ和久津さまの用事を済ませてくださいませ」

「本当にごめんね」

「いえいえ。今度デートに付き合ってもらえさえすれば」

「それは……機会が合えば、ね」

「承知いたしました」

 

 ゆっくりと、優雅に頭を下げる宮和は本当にお嬢様だ。

 そんな彼女に本当に申し訳なく思いつつも、僕は玄関で宮和と別れて繁華街方面へ足を向ける。

 いつもなら駅の方の溜まり場へ向かう僕だけど、今日はそんな気にはなれなかった。

 少女Aは僕を──僕らを呼んでいるんだ。

 僕は伊代に今日は用事で行けないとメールして、高倉市へ向かった。

 そこに、呼ばれている気がしたから。

 

 ◯

 

 電車で4駅、改札を抜けるとなるほど、そこは別世界。

 『新都心』とも呼ばれる、付近でも最も栄えた街だった。

 色んな制服の人がごった返す。勿論制服だけではなく、スーツの人の姿も多い。

 こんな夕方の初めからキャッチに励む人達もいる。

 

 とりあえずいく前に適当にぶらつこう。

 なんとなく、今行っても誰もいないような気がしたから。

 

 人混みをすり抜け、歩道橋を渡る。

 崖下を車が走り過ぎていく中、

 

『結奈、セカンドシングル発売!』

 

 足を止めて上を見ると、巨大なスクリーンにミニマムな美少女がマイクを握って踊っていた。

 どうやら今いったセカンドシングルとやらのPV映像らしい。

 

「あ、結奈ちゃんだー、かわいいよねー」

「ジモッピーの期待の星だっけ? でも確かに可愛いよね。お春さん抱きしめたくなっちゃう」

「……そうでしょうか」

「そうだよ、まゆまゆ~まゆまゆもああいう格好すれば凄くかわいいのに、どうしてそんな恰好なの?」

「……ほっといてください。それと、まゆまゆではなく────」

 

 三人の女の人の声が後ろを通り過ぎる。

 女三人揃えば姦しいとはよくいうけれど、喧騒の中でも拾えてしまうのは相当だと思う。

 ……もしかして僕らもそうであるのかもしれない、少しは気をつけないと。

 三人組が去った後もぼうっとモニタ。を見上げていると、どん、とぶつかった。

 

「おい、どこみて──」

「ごめんなさい、よそ見してました」

 

 難癖をつけられる前に手を前で交差し、お嬢様らしくお辞儀する。

 相手は毒気を抜かれたような顔をしてお、おう、とどもった。

 こういう見た目に生まれて何かを思わなかったことはないけれど、こんな時には便利だと思う。

 

「き、気をつけろよな」

「はい、申し訳ございません。ありがとうございます」

 

 注意をされたら礼を、感謝を。そう書いてあるのは我らが南聡の校則、第十二条。

 今の僕、正しく南聡の模範生だ。

 最も、模範生は学園帰りにこんなところに寄ったりはしないけれど。

 

 男はそれでいいのか、何やらちゃんとしていた自分がバツが悪そうに去っていく。

 ごめんね名も知らぬ人。そしてさようなら名も知らぬ人。

 

 僕はよそ見をするのをやめて、歩道橋を渡りきる。

 暫く道沿いにあるいて行くと見えたのは自然公園だ。

 多分人工樹林だろうけれど、自然があるのは素晴らしいことだろ思う。

 そんな公園の真ん中に、一つの像が立っていた。

 形は、人が祈りを手を胸の前で握り、祈っているようなモノ。それに羽が生えていた。

 ──まるで、何かに黙祷するような形。

 

「……『鎮魂と祈りのモニュメント』か」

 

 レリーフをよみ、つぶやく。

 

 五年前、高倉市では大規模なテロがあったらしい。

 七日七晩続いたテロは、爆心地と呼ばれる付近では生き残りが殆どないまま終わった。

 思い出してみると、そういえばそんなこともあった気がする。

 

 気がする、というのはなぜだろう。

 

 何で見たのだろう、何で知ったのだろう。

 何せ五年前だ。記憶は記憶に押しつぶされ、思い出さなければ消えて無くなるのみ。

 しかし例え五年前だとしても、そんな大規模なテロをはっきりと覚えてないのはなぜだろう。

 

 五年前、五年前、五年前。

 考えても答えは出ない。唱えてみても思い当たるフシはない。

 

「……ま、いいか」

 

 その銅像のレリーフから眼を放して、後ろを振り向く。

 そこには、知らない制服を着た女の子が立っていた。

 

「……………………」

 

 まるで病人そうな白い肌。

 あまり生気が宿っていない茶色に似た瞳。

 眼をこするとパッと消え失せてしまいそうな程の薄い気配。

 

 そんな彼女が僕の真後ろで立って、像をジッと見詰めていた。

 願うでもなく、祈るでもなく。

 ただ、懇願するかのように。

 

「…………」

 

 僕は不思議に、また不気味に思いつつも彼女から離れる。

 似ても似つかない筈なのに、どうしてだろう。僕は彼女に、あやめ先生に似た雰囲気を感じた。

 

 ようやく、空が朱く染まり始める。

 夕焼けをバックに少女Aはまだ唄っている。

 その唄に導かれるようにして僕は足をこの街の外側へと向け、迷わず足を早めた。

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