真の実力はギリギリまで隠しているべきだったかもしれない 作:ちぇんそー娘
今回も完結しませんでした。
「というわけでハバキくん。遺言ある〜?」
「あ、弁解の余地ない感じです?」
胸がでかくて、髪の毛からいい匂いがして顔が良い先輩と、2人きりの密室。
お互いの心臓の音が聞こえてしまうくらいの距離。そんな夢のような空間に俺の胸は緊張でゲボ吐きそうなくらいに高鳴っていた。
「あは〜冗談冗談」
「めちゃくちゃタチ悪いからやめてください。脱獄して暴れますよ?」
魔導九家の一つである保食家の現当主が、受肉降魔に成り代わられていたことが発覚、という一大ニュースが世間を騒がせてる中、その騒動の中心であるはずの俺の情報は現在驚くべきほど出回っていない。
まぁ、扱いに困るのだろう。
「罪状は魔力保持法違反にぃ、受肉降魔との契約。そして功績は受肉降魔の単身での討伐。そしてあの有り得ない規模の魔導解放。……これ私達君をどう扱えばいいんだろうねぇ〜?」
「それについては大変申し訳ないのですが、とりあえず死刑は取消の方向で」
自分で言うのもなんだけど、こんなのが国に生えてきたらお願いだから死んで欲しい。
法律に恨みでもあるのかってくらい徹底的に違反して、力だけはあるから抑え込むこともできないし考えてることがわからなすぎて手綱を握ろうとも思えない。
こんなん普通に世に混沌しか産まないから死んでくれってなるよ。
頼むから死んでくれ。存在しているとこの世の理が狂うのだ。仕方ねぇだろチート持ちなんだからよ。
「うーん、一応聞くけど……死刑ってなったらどうする?」
「とりあえず国家に反逆します」
「だよねー。私もそうするもん」
そもそもこうして捕まってるのだって、一応俺が付いていってるという方式なのだ。その上で死刑とするなら、さすがに全力で抵抗させてもらう。
俺だって死ぬのは嫌だ。死んだらハーレム作れないし。ここで一回捕まっておかないと、義姉さんやシャルロッティの立場が危ういからそうしてるだけでそういうの無かったらうるせぇ〜!!! 知らねぇ〜!!! で逃げてるよ。
「そうなったら君とこの国で全面戦争。さすがに私達が勝つにしても、国土焼かれたら国としては滅んだも同然になっちゃうからねぇ〜」
さすがに魔導九家……今は当主1名が欠けてるので八家だがその全てが『切り札』を使ってきたらさすがの俺でも多分負けると思うけれど、逃げるだけなら十分勝ち目はある。
でも、それではお互いに失うものが多すぎる。こういう力での牽制はずるい気がするが、そもそも俺の能力は
「それで提案なんだけどね……ハバキくん」
だから、こうなるのも俺はわかっていた。
お互いにここは話し合い、妥協点を見つけるのが最善手なのだ。国家としても慎重に動かなければ法という社会を成立させる重要な柱に傷をつけることになり、俺もさすがにここは慎重にならないと今後の人生はハーレム作りてぇとか言ってられなくなる。
司法にも深く関わる御狐家の当主であるアラシ先輩が今から口にすることは、それは国と俺の未来を賭けた交渉ということになるのだ。
「……私と一緒にさ〜、この国をむちゃくちゃにしちゃわない?」
「…………うん?」
なんか司法の番人がとんでもないこと口にしなかった?
「魔力保持法、受肉降魔との契約の絶対禁止。合理的で確実だと思う。でも〜、それは可能性の閉塞。1000年単位でゆっくりと詰みに近づく畏れの具現。そんな分かりきった詰みの未来なんて面白くないし興味なんてぜんぜ〜ん湧かない!」
アラシ先輩は立ち上がり、制服に付いているベルトを緩めて服を捲り、突如としてお腹を俺に見せつけてきた。
野生動物なら俺への服従か? となるところだが、先輩は生憎文明人。俺はその行為に込められた意味を、先輩の腹をガン見してすぐに気が付き、めちゃくちゃすべすべしてて細くて綺麗だなと思った後に絶句した。
「この国はね、黄泉王によって未来を壊されてるの。彼の残した災禍は、魔力の可能性を恐怖で閉ざし、強大な敵を討つことではなく、如何に昨日と変わらぬ今日を産むかに集中してしまった」
先輩の腹に刻まれていたのは、瞳を3つ持つ巨大な目のような紋様だった。
それそのものは俺は初めて見たし、なんなのかも見当が付かない。だが、それと似たようなものを俺は知っている。
「例えばこれ。12年前、降魔七階第二位、『起源』の王、ラフー・シュバルディス。その受肉の危機に際し、この国が取った行動はね。当時4歳で、生まれつき体が弱く10まで生きられないであろうとある女の子の体に
おもしれーくんの口元と舌に刻まれていた紋様、あれと同じ雰囲気なんだ。
つまり、アラシ先輩が話したその女の子というのは……。
「そう、降魔の王の影響で元気いっぱい16歳。私こと
…………この人がこんな馬鹿げた交渉してきた理由がわかった。
多分、アラシ先輩今ここでやりあったら
というか何? なんで俺の周りにこんなに受肉降魔いるの?
しかも3体中2体が降魔の中でも特に危険で格の違う、神のごとき存在である『七階』に数えられるやつなんだけど。
「なんですか……先輩も通りすがりの受肉降魔なんですか」
「私はあくまで人格は御狐アラシのものだから正確には違うけどね〜。あと、さすがに受肉降魔の中でも『王』に数えられるものはそうそういないし通りすがるなんてないよ〜」
そうなんですよ、そんなことありえないんですよ。
聞いているかボケホモ野郎。二度と通りすがるなよ。
「とーにーかーく! 今の世界だとハバキくんとか、シャルちゃんみたいな天才が生きにくいし〜! 過去の事件への対策に熱心になり過ぎて、もし予想外のことが起きた時のことを考える余裕がなくなっちゃってるの〜」
「だから、国をひっくり返すと?」
「正確にはその手伝い。私の中の降魔がね〜、こう言ってるの。『他の降魔七階も全員受肉してる』って」
「え〜やだぁ〜」
もう頭痛すぎてオネエになっちゃったわね。
というかその内一体知ってるし。そりゃあ当然だけど、誰も俺が契約した相手がまさか七階の一角だとか思わないよね。そんなやつが男のケツ追ってるとか想像できないよね。
「簡単に言えば、世界は今滅亡の危機ってこと〜。だ、か、ら! それを全部まるっと私やハバキくん、シャルちゃんみたいな『存在することが許されないもの』で倒して世界を救っちゃうの〜!」
「それで俺達の価値を見せつけて、受け入れざるを得なくする的な? そんな上手く行きますかね?」
「根回しはしてある。この時のために、私は今までの人生の
先輩は本気だ。
本気でこの国を、世界を変えるつもりでこの交渉に来ているのだろう。そもそも断れば多分俺はこれ殺されるよな? 拒否権はないに等しいんだけど……あんまり気が進まないんだよなぁ。
「先輩のやり方は、強引だけど筋が通っていて正しくはあると思います。でも、俺は……」
「この計画はねぇ〜、重要な事として『私が生きてる』ってのと『降魔七階を全てその魂から消滅させる』ってのが大切なんだけど……」
「待って、今からかっこいいこと言うんで聞いて」
残念ながらアラシ先輩は俺の考えたかっこいい自論に耳を貸してくれず、ふわふわとした口調で計画とやらの概要を話進めていく。
「最終的にぃ、私の中の降魔も殺さなきゃいけなくて。つまり、私が死ぬ事で計画は完遂する。そしてぇ、協力してくれるなら私は死ぬまでハバキくんと協力者として一緒に歩んでくの〜」
「えっと、つまり……」
「私は死がふたりをわかつまで、君を好きでい続ける。君の力に期待し、君に興味を持ち続け、私のやり方で君を愛し続けるよ」
それって……結婚するってこと!?
「そんな……女の子がそういうの良くないと思います!」
「あは〜、急に顔真っ赤。面白い〜」
「あ、面白いとかの評価を俺にするのやめてください」
「え〜。面白いのに〜」
「それされるとケツが痛くなるんです」
「なんで?」
おもしれーくんのせいで、面白いとかって言われるとケツがヒュンッ、ってするようになっちゃったんだよ。あいつホント残した爪痕デカすぎるよ。
「とにかく、俺はそんな色仕掛けには騙されませんよ!」
「え〜私新しい世界の夜明けみたい〜! こんな閉じた可能性だけの世界なんて壊して新たなる地平をみたい〜」
子供が駄々をこねるみたいに過激な革命思想を口にするアラシ先輩。確かに彼女の言うことは俺にメリットが大きく、この国の未来としては一つの正しい選択かもしれないが、彼女程の人ならば他にやりようが思い付くはずだ。
「俺は絶対! 先輩の言いなりになんかなりません!」
「で、アラシに協力することにしたの?」
「はい……」
「ここまでの速度で発言を矛盾させるなんてお前すごいな」
一時的な拘留から解放され、迎えに来てくれたカサネ先輩は呆れていると言うより怒っている感じで死ぬほどでかい舌打ちをしていた。
だって……アラシ先輩が腕に抱きついてきて……めちゃくちゃデカいおっぱいが当たって、つい契約してしまったんですよ。
「まぁ、私はお前が無事ならそれでいいよ。アラシの言う計画にも私は賛成だ。そもそも惟神家は他の家の保守的な姿勢と反りが合わなくて十家から離反した一族だからな。その血が流れてる私がそう思うのはある意味当然なんだろう」
「はい。カサネ先輩はそう言うだろうからこのことは言っていいって、アラシ先輩に言われました」
「ムカつく〜」
とは言えこれにてハッピーエンド。
俺が捕まってる間にカサネ先輩は『交渉』をして、亡国とは言えお姫様であるシャルロッティと、見事無事に救助されたその従者であるアニキスの扱いを一任される権利を勝ち取ってきたらしい。
なんか拳の皮が剥けたらしくて包帯巻いてたけど『交渉』の内容は聞かないでおこう。うん。
「…………あの、ちょっといいですか?」
女の子の声だったので俺は即座に振り返り、カサネ先輩が手刀を脇腹に叩き込んできて変な声を出しちゃった。
呼吸を整え直して前を向くと、そこには空の青のような透き通った青いおさげ髪と、エメラルドのような瞳を持った美少女。
「あの、へへっ……この度は父……のフリをした降魔だけど、とにかく父が迷惑をおかけして申し訳ないなーって……あの、靴とか舐めます?」
その美しい顔立ちに似合わない下卑た笑みと挙動不審な声色の少女。
入学式で最初に俺に攻撃をぶち込んできて、返り討ちにしたら靴を舐めることに心血を注ぐようになってしまった女の子。
今回の事件の中心であった
あと一手遅れていたら死んでいた。そういう確信が受肉降魔、メセナ・セルバーンにはあった。
あの恒星の一撃により、受肉体は完全に消し飛ばされて蓄えた力も全て失ったが、何とか魂だけは逃げ出すことが出来た。
それでも存在を維持することが限界で、消滅する寸前だったが運良く
この国の中枢に潜り込むために使っていた保食家の男の体。
その娘であるネブという女の肉体は実によく馴染んだ。
今の実力こそ以前の体には劣るが、ポテンシャルで言えばかなりのもの。降魔である自分が今から鍛えれば、十分妥協点には届き得る。
そんなことを考えながら歩いていると、憎き仇敵である惟神ハバキを見つけてしまった。
この肉体の記憶によればクラスメイトらしいが、奴の現在の契約状況などは分からない。さっさと殺してしまいたいが、ひとまずは様子見のために今は合わないように距離を取ろうと……。
「…………あの、ちょっといいですか?」
(…………何? 勝手に、喋った?)
現在、この肉体の主導権は100%降魔側にあり、ネブ本人の意識は眠っているような状況で、それもあと数日続けば完全に消滅しこの肉体は改めて受肉降魔となるはずであった。
何かの間違いかと思ったが、おかしい。体が言うことを聞かない。
「あの、へへっ……この度は父……のフリをした降魔だけど、とにかく父が迷惑をおかけして申し訳ないなーって……あの、靴とか舐めます?」
(やめろ、私の体でなんてことを! こんな男に媚びへつらうなぞ、そんな真似を!)
ネブの意識はやはり完全に眠っている。しかし、降魔側も体を全く操作できない。
つまりこれは
「いや。本当にいいよ……うん、ごめんね?」
「謝らないでください! そもそもハバキさんに逆らったクズでゴミでダメダメな私が悪いんですから! あ、そうだ! 私寝ないで靴を綺麗に舐める術式作ったんですよ!」
肉体の反応だけでここまで自分を罵倒できるとか、この女の自意識はどうなっているんだ?
そんな当然過ぎる疑問を抱いた降魔だったが、彼女がどこからともなく、肉体を乗っ取っている彼ですら把握出来ない場所から泥などで汚れた靴を取り出したことでさすがにこれ以上はまずいと思い、必死に体を動かそうとする。
「ほら見てください! 頑固な土汚れ油汚れ! こうなってしまうとなかなか汚れは落ちませんよね!?」
「なになに、なんでセールス始めてるの?」
(こっちが聞きてぇんだよ!)
だが100%無意識でネブの体が勝手にセールスを行うだけで、降魔側は全くネブの体を動かすことはやはりできない。
「しかし私が開発したこの術式、名付けて『
魂にすら逆らい、肉体の反応だけで魔力を練り術式を発動させるネブの体。ここまで来ると恐ろしいまでのポテンシャルに感心すらし始めていた降魔だったが、術式が発動しネブの舌がほんのりと青い光に覆われ始めた時、
(なんだ、何だこの術式はァァァァァァ!!! 魂が、我が魂が直接、
降魔の魂に干渉できるのは、少なくともこの降魔の知識では同じ降魔やその契約者だけであったはずだ。
だが、この肉体の舌に宿ったこの術式はなんだ!?
「見てください! この術式が発動すれば私の舌は
「それ絶対靴舐めに使う術式じゃないよね? そもそも靴は舐めるものじゃねぇよ」
保食ネブは、それなりに優秀ではあるがそれまでであるだけの学生だった。
だが、惟神ハバキに心を折られ、なんやかんやで靴を舐めることに心血を注ぎ始めた彼女がこうして至った浄化の術式は本人すら気付いていないが、穢れであるならば
(こんな……こんな頭のおかしい最後が我の終わり……? こんなふざけた最後が?)
体が勝手に靴を舐めて、その結果として消える。
あまりに惨めで頭のおかしい最後。あらゆる後悔が降魔を襲うが、もはや浄化により弱りきった魂は、最後の疑問の答えを探すことしか出来なかった。
この女はある程度優秀であるが、所詮はその程度。
それが何故、こんな術式を生み出したかと言えば、その原因は──────
(惟神ハバキ、貴様は……貴様こそがまさか──────)
最後に、己の全てを否定され己の無力を思い知り。
とある降魔はその魂に至るまで完全消滅を果たした。
「というわけで靴舐めていいですか?」
「いや、いいです……」
「お前の同級生こんなのしかいないの?」
「……はぁ〜良かったぁ。ハバキくんが童貞で」
御狐アラシは緊張から解放され、大きく溜息をつきながら椅子をふたつ並べてその上に寝転んだ。たわわに実った胸の重さで少し息苦しかったが、それよりも今は自分の思い通りにことが運んだことの安堵が大きかった。
ぶっちゃけ何も考えてなかった。
今言ったことは半分は出任せ。アラシは確かにこの国の在り方に疑問があって、御狐家の当主として全てをひっくり返すことの出来る可能性を秘めていたことも本当。
でも、アラシ自体はむしろこのまま緩やかに滅ぶことを是としていた節すらあった。
余命1年。
それがアラシに告げられていた現実。
無理やり降魔七階の一角を肉体に入れられ、その拘束のための生贄となった彼女は今日までその力のおかげで生きてこれていたが、それは同時に降魔の溢れる力に彼女の肉体が犯されているという事実でもあった。
予想ではあと1年。それでこの肉体の主導権は完全に降魔へと渡る。そしてそうなる前にアラシは自分を『処分』することになる。
それは決まったことであり、覆せない現実。
かと言ってそれほど悲観していた訳でもない。そもそもそれが無ければ10歳になる前に死んでいたであろう肉体なのだからむしろ感謝すらしている。与えられたこの時間で、アラシは自分の知的好奇心を満たして満たして、そして死ねばいいと、そう思っていた。
だが、見てしまった。
恒星の魔導展開。可能性の獣、希望の象徴。そして、体の中に眠る降魔七階が告げたある概念。
この世界の理を超え、全てをひっくり返して新しい可能性を生み出すかもしれない魔導の収斂地。理論上の『ありえない』の全てを内包しうる概念。
──────『極点』。
周囲の人間すら巻き込み、世界の全てを革新へと導く星の嬰児はそう呼ばれていた。
人にはまだ可能性がある、魔導にはまだ極地がある、私の知ってる世界は、私の想像なんかよりもずっとずっと狭いんだ!
そう知った時、アラシはその場でこう決めた。
彼のような可能性の邪魔をするこの国の在り方は私は認められない。正解不正解ではなく、可能性が閉ざされるのは耐えられない。
星は空にあるべきなのだから、空に輝く彼の可能性を余すことなく目にしたい。あと1年で燃えつきるこの命で、最後まで私の予想のつかない可能性を目に収め続けたい。
御狐アラシの行動原理とは、興味を持つことである。
わからない、知りたい、解明したい。そう言ったものに抱く感情こそが御狐アラシの『愛』なのだから。
君を全部知りたいんだ。
ワカラナイだらけで、全然何考えてるか読めなくてやることなすことめちゃくちゃで面白い、そんな君の、その全てを。
そういう気持ちを御狐アラシは『好き』と定義したのだから。
人生をかけた大勝負。
これこそが御狐アラシ、一世一代の大恋愛。
「私の『極点』。君の可能性は無限大なんだから、何もかも壊して、その先を私に見せて、魅せて!」
・ハバキくん
先輩……己の志に人生を賭けてるんだ!協力しますおっぱいいっぱい
・アラシ先輩
今考えたけど頑張ってハバキくんが好き勝手やれる国にしてあわよくば王にもしちゃお。今考えたけど。
・ネブちゃん
とりあえず靴とか舐めましょうか?