真の実力はギリギリまで隠しているべきだったかもしれない 作:ちぇんそー娘
お久しぶりです。
たくさんの完結祝いを貰ってすぐにこんな風になるとは自分でも思っていませんでした。思った以上になんか書けました。
「
「現代の奴隷商だ! 逃げろ!」
学生につく渾名じゃねぇなと思いながら今日も現れた瞬間にガラガラになる食堂はもはや俺がこの学院で唯一落ち着けるスペースかもしれないと、俺はとりあえず席に着いた。
だって教室、席の配置的に俺から離れられない生徒が泡吹いて倒れたりするんだもん。
その点、食堂は俺が現れた瞬間みんな逃げるし、例の受肉降魔事件の事が知れたのか上級生すら逃げるようになってもう俺が現れたところに残るのはバカか捻くれ者かカサネ先輩クラスの『剛』の者しか居なくなってしまった。
「相変わらず凄い嫌われようね」
「ホントだよ。一体俺が前世で何をやらかしたらこんな酷い目にあうんだ。許せねぇ」
「やらかしたのは今世の業でしょ」
正論嫌いのくせに正論しかぶつけてこないから俺コイツ嫌い。
ピンク髪ツインテールことハツネは、相変わらずこんな状況になっても変わらずに、逆になんで少しも変わってないのか不安になるくらいにいつもの態度で俺に話しかけてくる。
「というかお前、俺の事嫌いなんじゃないの? なんで俺の近くに座るの?」
「アンタの周りは煩い雑魚がいなくて静かに食事できるからよ」
「つまり……それって俺のことが好きって解釈していい感じ?」
「…………いや、その、うん。まぁそれでいいわよ。さすがに、なんか可哀想だし」
あの他者への思いやりを川辺で水切りに使う感覚で投げ捨ててる女であるハツネにすら憐れみを向けられ、もうカレーの味がしょっぱくなってきた。
俺が何をしたって言うんだ。
ちょっと受肉降魔が現れたから真正面からぶっ飛ばして英雄として堂々帰還してみたらこれだ。
情報操作で俺が受肉降魔と契約してたり、魔力を制限して隠してたりすることを知っているのは、勘当されたとはいえ事件の当事者の一人である
蓋を開けてみればそういう特別な要素が無くなった結果、全裸でドラゴン倒したみたいに特別な力なしに受肉降魔倒したヤベー奴としてさらに腫れ物として扱われるようになった。
あとついでにネブが俺の家の使用人になったこと言いふらしたせいで渾名が『奴隷商』になった。訴えればギリギリ勝てるだろこれ。
「酷いですよね。ハバキくんは確かにちょっと変なところもあるけれど、優しい人なのに」
「言っておくけど三割くらいシャルのせいでもあるからな?」
行方不明になってたシャッティことシャルロッティは、俺の家が身元を保証することで再び学院に通うようになったが、こっちは女の子であることを隠さなくなったので俺が調教して女の子にしただのやべー噂が流れてる。俺をなんだと思ってるんだ? 性癖のモンスターか?
「というかアンタ、食事中に新聞読むのやめなさいよ。行儀が悪い」
「なんでムカつくからって理由で授業中に魔導錬成してきた女に行儀について説かれなきゃならんの?」
「私の隣で行儀悪いことされると私がイラつくから」
「反省できない生き物なのお前?」
コイツ本当に性格が終わってるな。そして性格が悪い以外何もかも優秀だから止められない。どういうメンタルで俺に話しかけてきてるのか未だに理解できないもん。
「そういえばハバキくん、最近やたら熱心に新聞読んでますよね」
「まぁ俺くらいになると新聞から常に新しい情報を仕入れて世界を広く見ようとな」
「新聞読んでるかっこいい自分が好きなだけで、四コマ漫画しか見てないわよどうせ」
だからなんで俺の周りの女子の口からは、こんなに思春期男子の心を抉る発言がポンポンと飛び出してくるんだ? 俺がもしも人生二周目じゃない普通の思春期男子なら既に14回は死んでるぞ。
というか、俺は結構真面目に情報を仕入れてるんだが?
おもしれーくんとアラシ先輩との二重契約の影響で、俺は今何故か恋人を作ると股間が爆散して死ぬという意味のわからない状況になってしまった。本当に意味がわからない。なんでそうなるんだよ。
とりあえず、この状況を覆すために必要なのが降魔の王である『降魔七階』、その全ての魂の完全消滅である以上、俺に残された道は一つしかない。
すっごく冷静に考えたらアラシ先輩とはそういうことしてもOKだし良くね? ともなったんだけど……やっぱり、ハーレムは作りたい。
あんまり良くないことだってわかってるけど、女の子に囲まれてモテモテハーレムしてぇよ……。
しかし、推定中級クラスの降魔ですら受肉降魔となると一気に能力が向上し、そう簡単に尻尾は出さない。隠れられてたら先にこっちの寿命が来てしまう。だからこそ、どんな小さな情報であろうと徹底的に調べあげてこっちから受肉降魔共をぶち殺さないといけない。
「ぜってぇに許さねぇ受肉降魔共……根絶やしにしてやる」
「あ、そういえば今朝の号外読んだシャルちゃん?」
「何かあったんですか? 今朝はちょっと寝坊しかけちゃって」
俺の悲壮なる決意に特に興味が無いと言わんばかりにハツネはシャルとガールズトークを始めてしまった。
まぁいいけどね? コイツが俺の話を興味津々に聞き出しても怖いし。
「受肉降魔の王、七階の降魔の第六位が完全消滅したらしいわよ」
「へぇ〜。これで平和になりますね」
「おいちょっと待て」
何お野菜の値段が上がるのよね〜不景気〜、みたいな感覚でとんでもないこと言ってんのコイツら?
「お前ら降魔七階がどういうものかわかってんの? 大事件じゃねぇかよ。アレ災害だって教科書にも書いてあるだろ」
「逆になんでアンタは新聞読み漁ってて知らないのよ」
「新聞なんて四コマとアニメの放映欄以外見るわけねぇだろ!!!」
改めて読み直してたらよく見たら2ページ目の小さい四角の中に『降魔七階、第六位『禍津』の王ドムズ・ギルファルベル完全消滅』と書かれている。
どう考えても見出しの魔導九家の当主様の結婚報道より重大事件だろ。この国の報道機関はどうなってんだよ。
「もっとみんな話題とかにしないの?」
「なってるわよ。アンタの周りで喋るヤツがいないだけで。そういう話してくれる友達いないの?」
いないから今食堂ガラガラになってるんだろ。
あれ、おかしいな。頬を水が伝うぞ。これが……涙?
いやまぁ、俺としては朗報なんだ。きっとアラシ先輩が受肉降魔を倒してくれたんだろう。このペースでいけば、きっと来月辺りには七階の受肉降魔も全滅させられてるはずだ。
とりあえず、どうやって受肉降魔を見つけたのかとかアラシ先輩に聞いて、今後の方針を立てればこのとんでもない呪いもさっさと解呪できるかもしれないし、未来は明るいはずだ!
「あは〜……なにそれ知らない、怖〜」
さすがに声が出た。
なんでアンタは知らないんだよ。せめて関係ないとしても知っとけよ。
「新聞なんて興味なくて読めないし……私四コマなら見るよ〜?」
「奇遇ですね。俺もですよ」
とりあえずこの人本当に国家転覆考えているのか気になってきたな。新聞程度の情報も仕入れてないの、国家転覆どころか表向きの魔導九家の当主という自覚すら足りてなくない?
「だって〜、私学校でまともに話しかけてくれる人カサネ先輩くらいしかいないし」
「なんでそうなったんですか」
「同級生の内臓を買い取れないか交渉しまくったら〜」
「なんで在学が許されてるんですか?」
俺よりも現代の奴隷商に相応しい人がいる中で俺がそんな呼ばれ方してるの納得がいかねぇな。
というか、アラシ先輩も知らないとなると問題は『誰が殺したか』な気がする。一応頑張って新聞を読んだが、その誰が殺したかといういちばん重要な部分は明らかになっていなかった。
「降魔七階クラスの魂となると存在してるかどうかは常に観測されてるからね〜。あくまでそれが途切れて消えた、っていう部分しかわかってないのかな〜?」
しかし降魔七階を消せるような存在なんてそうそう限られている。
まず一つは同じ降魔七階であるアラシ先輩とおもしれーくん。しかしアラシ先輩は見ての通りのクソボケだし、おもしれーくんはそんな面白そうなことがあったらまず俺を巻き込むだろう。
そして次に魔導九家の人間。だが、彼等は今欠けた
となると可能性は2つ。
まず一つはおもしれーくんみたいな通りすがりの受肉降魔がやらかした。これがあったら俺は台パンする。マジで通りすがるなボケども。
そしてもう一つは……
「多分『聖教会』ですかね……?」
「まぁアイツら関係なくとも聖人絡みではあるだろうね〜」
聖教会とは、なんか凄そうな名前をしているが一言で表すと非合法の武装集団である。
降魔を殺すことを生きがいとして、唯一降魔を人間の力だけで完全に殺すことの出来る特殊な魔力を持つ『聖人』と呼ばれる人間を、片っ端から攫い洗脳教育して降魔狩りに使ってるただのやばい宗教団体だ。
「でもアイツらなら自分達がやったなら聖人の力! って大々的に宣伝しますよね? 特に降魔七階が殺されるなんて、歴史上初ですよ?」
よく考えたらなんでそんな歴史上初の出来事の犯人が探さないと出てこない状況になってるんだろうね。
「つまり……可能性として大きいのは、聖教会に関わりのない、新しい聖人……?」
「そういうことだね〜あは〜どうしよう〜」
どうしようじゃないんだよ。
なんでそんなやばそうなものが気軽にリポップしてるのか本当に、もう! バグってるんじゃねぇのかこの世界。早く修正パッチあてろ。俺に気持ちよくチートを使わせろ。
「でもまぁ、降魔七階が倒されたのはいいことですよね?」
「いや良くないよ〜?」
「え?」
「私の話聞いてた〜? 私の計画はぁ、私やハバキくんみたいな『現在の法では存在が許されない存在』で降魔七階という最大の危機を殺して国家転覆! だからぁ〜。普通に合法な聖人が降魔七階を殺しちゃったら永遠に達成できなくなって〜」
「永遠に……股間爆発が治らないってこと!?」
「なにそれ知らない」
つまり、このまま降魔七階が別の人達に狩られたらとんでもないことになってしまう。
どういうことなんだよ。なんで国が総出で相手するような存在を、先に狩られないようにしなくちゃならねぇんだよ。
しかし俺たちのやることは決まった。アラシ先輩と目を合わせ、こくりと頷いて俺は虫取り網を手に駆け出した。
「うぉー! 聖人狩りだー! 何としても下手人を見つけてぶっ殺す!」
「あは〜! 醜い〜!」
いつか人類に共通の敵が現れた時、人類は手を取り合うとか言ってくれた人へ。
申し訳ないけれど、我々はとても醜い生き物でついでに割と強かなせいでそもそも共通の敵を見つけられないかもしれません。
続きは気が向いたら書きます。