真の実力はギリギリまで隠しているべきだったかもしれない   作:ちぇんそー娘

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聖人狩りに行こうよ ②

 

 

 

 

 

 ネブから逃げるうちに随分と山の奥まで潜り込んでしまった。

 

 さすがにこの俺の全速力にはついて来れなかったようだが、足跡が残ってしまってる以上必ずいつか追いつかれる。

 そこで頭のいい俺は木の上を跳びながら移動しているが、多分アイツ木に付いた傷とかから靴底特定してきそうなのが怖いんだよな。

 

「おもしれーくん。おーい、おもしれーくん?」

 

 呼びかけてみるがアイツから反応はない。多分、一瞬で変装がバレた後大笑いしてそのままバックれたのだろう。おもしれーくんが不真面目なのはいつもの事なのであまり気にしない。

 

 むしろ、邪魔しかしないやつらが居なくなってちょうどいいだろう。

 

 これでいよいよ真面目に『聖人』探しができる、と思っていると噂をすれば影と言わんばかりに人の気配がした。

 こんなにすぐに? とは思わなくもないが俺には今のところ聖人に繋がる手がかりはない。とにかくなんでも情報になりそうなら走り回るしかないのだ。

 そう思いながら草木を分けて気配の方へとゆっくりと近づいていくと。

 

 

「はいはい、安心してくださいね。私達は神の御使い、怪しいものじゃないですよ〜」

「んー、んー、んー!」

「何言ってるかわかんないので合意とみなしますね。いや〜、信者が増えてくれて嬉しいですよ。これからも私達と共に神の導きに従っていきましょうね」

 

 

 夕焼けのような鮮やかな金と赤の中間色の髪を三つ編みにし腰まで垂らし、太腿と脇腹を露出した存在そのものが神への冒涜みたいな修道服に身を包んだ女が、目隠しと猿轡を噛まされ手足を縛られた女の子を担いでいた。

 全力で好意的に解釈すればギリギリコスプレ趣味と被虐趣味の友人同士の馴れ合いに見えなくもない。見えなくもないからそういうことにして帰りたいんだけれどそんなやついるわけねぇだろ。

 

 コスプレ修道女の方の服に付けられている紋章。

 鷲と蛇と犬と蜘蛛とかモリモリ過ぎてなんかよくわかんないことになってるシンボル。

 あれはこの国の人間なら間違えるわけのない、頭のおかしい犯罪組織『聖教会』のモノだ。

 

 正直関わりたくないよ。目を合わせたら信者として連れてかれて洗脳されるか、降魔として連れてかれるかの二択のDeath or Death仕込んでくるような輩だし。

 

 でも、この山でそいつらが誘拐をはたらいてるとするならば、担がれてる方は俺たちも探している降魔七階殺しの『聖人』であるかもしれない。

 

 

 ……それに、よく見たら捕まってる推定聖人の子、可愛いかもしれない。

 目と口元が目隠しと猿轡で判断つかないけれど、多分可愛いな? 可愛いよな? うん。

 

 

「ちょっと待てそこの犯罪者!」

「誰が犯罪者ですか!? 入信希望ですか!?」

 

 

 キレながら入信希望を聞いてくるあまりに情緒不安定なその仕草だけで話しかけたことを後悔する。基本的に聖教会の奴らは頭がおかしいので話しかけてはいけない、話しかけるなら殺すつもりで話しかけろと教育されてきた。

 

「いや……その……誘拐とかよくないと思うよ? うん。親も泣いてるよきっと」

「誘拐じゃないですよ。ちゃんと神の下で合意ですよね?」

 

 担いでる女の子にそう話しかけるコスプレ修道女。そして担がれてる女の子は首を全力で横に振っている。

 コイツらの神様はどうやら目が節穴らしい。

 

「見ての通り合意の下です。ちゃんとこの拘束を合意の下で付けさせて頂きました」

「んー! んー!」

 

 またも全力で首を横に振られてる。

 神様だけじゃなくて本人達も目が節穴みたい。

 

「ん……あれ、貴方。もしかして惟神(かむながら)ハバキじゃないですか?」

「なになに? 俺って結構有名な感じ?」

 

 参ったな、女の子に有名になってるのは嬉しいけれど聖教会のヤツらに知られてるとなると全く嬉しくないぞ。

 でもどこか、ちょっとワクワクしてる俺がいることを否定できない。もしかしたら、いい感じに広まってるんじゃないかという期待がどうしてもね。

 

「もちろんです! 罪のない婦女を捕まえ自分好みに洗脳し無理やり働かせていると噂の邪悪の権化!」

 

 同級生とかからこう言われたら全力で否定するか、黙って泣いちゃってたけど今まさに罪のない婦女を捕まえ自分好みに洗脳し無理やり働かせようとしている邪悪の権化が居てくれると安心する。

 やっぱり人間って、自分より下に見れる奴がいるとすごく安心するんだよね。

 

 いやぁ、ありがとう。おかげで自分に自信を取り戻せた気がする。我ながら最低だとはちょっと思うけど。

 

 

「………………と言うか、貴方降魔と契約していません?」

 

 

 ギャーギャーとやかましかったコスプレ修道女の顔から、突如として一切の表情が消え、同時に俺は喉の水分が一気に蒸発したかのような激しい渇きに襲われた。

 え、なんでわかったんだ? 調べればわかることではあるけれど、さすがに一目で分かることでは無いはずだ。

 

「これでも降魔はたっくさん殺してるので。……予定変更ですね。聖教会所属、『神の刃』ガブリエラ・カルトカット。神の名の下に降魔なんかと契約したクソゴミ野郎を処刑させていただきます」

 

 コスプレ修道女……ガブリエラは抱えていた推定聖人ちゃんをそこら辺に、まるでゴミか何かのように投げ捨てる。

 どうでも良くなった、と言うよりは優先順位の変更だろう。降魔を殺すことに全てを捧げ、法すら破ってまで戦う本物の狂人の集まりだ。

 

 彼女達にとって最も優先すべきは、降魔とそれに与するものの排除。

 

 というか待て、『神の刃』って確か聖教会の中でも戦闘特化の最高戦力の呼び方じゃなかったか? 

 

 強固な信仰と激しい鍛錬(じんたいかいぞう)を重ねた最強の降魔殺し。だいたい話が通じないと聞いていたから、思ったより話が通じる相手だったせいで見誤ったなちくしょう。

 

「一応聞いておきますが、懺悔の言葉とかありますか?」

「冤罪です、って言ったら見逃してくれたりしない?」

「冤罪だったらまぁ、私が死んだ時謝りに行きますよ。なのでちゃんと天国に行けるくらい罪のない魂でいてくださいね」

 

 そう言うと共に、ガブリエラは懐から飴玉のようなものを取り出して口に含み、同時に彼女の水晶のような透き通った瞳が極彩色に濁り始める。

 それと同時に彼女の三つ編みが解け、まるでもう一対の手足のように地面を踏みして四足歩行、髪を含めれば六足の体勢になる。

 なんで今日だけで四足歩行以上で動く人間と2人もエンカウントするんだろうね? 

 

 そしてあの飴、どう見たって違法薬物です。

 聖教会の奴らはなんの躊躇いもなく違法薬物とか使うからね。 その寿命の前払いとも言える危険な行為が彼女達の強さの秘密だ。

 

 さすがに目の前で薬物をキメられたら少し、いやかなりビビったけれど事前に知っておいたおかげでかなり動揺は抑えることが出来た。

 確か、聖教会の奴らは本当に危ないから事前に対策を義姉さんから教えて貰ってたんだよね。

 

 

 

 

『いいか? 聖教会の奴らと戦うことになったら『逃げろ』。正面から戦うな。基本的に魔術を使うならあのバケモノ共とは相性が悪い。それか私を呼べ。一応人間だから殴って全身の骨を折れば死ぬ』

 

 

 

 

 

「役に立たねぇ〜!!!」

 

 

 俺の義姉への渾身の叫びと共に、飛び込んできたガブリエラの蹴りを膝から力を抜き、崩れ落ちて転がるようにして避ける。

 

 俺達魔術師や降魔は、基本的に魔術を使って戦闘を行う。

 そして魔術の最大の弱点は『詠唱』だ。強力な術はそれだけ長い詠唱が必要になるし、短くても最低一節の詠唱が必要になる。

 

 じゃあ降魔殺しのために聖教会のヤツらが何を考えたかと言うと、詠唱なんてさせずに先に速く動いてぶっ殺せばいいじゃない! という脳筋極まれりなことらしい。

 

 コイツらの戦闘は殆ど詠唱を使用しない。

 薬物による身体強化、極めた体術、そして人体改造。

 

「……あれぇ、今の避けますかァ? おっかしいな、まだ五割キメだから手足の震えは最小限のはずなのに」

「キメって言っちゃったよ。やっぱ薬物じゃねぇか」

「聖薬です〜、聖別された特別な薬が信仰を力に変えるんです〜!」

「聖ってつければなんでもいいと思ってないか?」

 

 話し方こそ軽いが、今の蹴りはマジでやばかった。人間の体そのものがハツネの『春雷』並の速度で飛んでくるのだ。まともに喰らえば中身が飛び散る。

 

 そして、ガブリエラ本人は重力なんて知らないと言わんばかりに片手だけで木に張り付いている。

 握力だけでならカサネ先輩が似たようなことをできるけれど、木にヒビが入ったり力んでる様子がないから多分そのまま張り付いてるんだろう。

 

「トカゲ……いや蜘蛛か? どっちみち山にはピッタリな異形だな」

「失礼ですね。私は都会の似合うシティレディですよ」

「まぁ都会でも部屋とかによく出るもんな、蜘蛛」

 

 修道女が都会が似合うのはそれはそれでどうなのかと思わなくもないが。

 

 聖教会の奴らは人間の力だけでは降魔に勝てないと、そのくらいのことを判断する知性はギリギリ残っているのでコイツらが選んだのはこういう人体改造だ。

 

 六足の動き、飛翔や浮遊が前提の体術、関節が一つ多い剣術。

 そう言う既存の人間の動きから完全に外れた動きによる不意打ち(サプライズ)

 時には人間の姿を捨てて、地面に擬態できるまで人間としての何もかもを捨てての待ち伏せ(アンブッシュ)

 

 そういう事を平気で行い、そんな姿に成れ果てても降魔殺しの信念だけは失わない。頭のおかしい犯罪者集団ではあるが、その強さだけは本物だ。

 

光芒(shine)

「詠唱してる時点で私達には勝てませんよ?」

 

 照準を付け、詠唱を行い、放つ。

 普通の魔術師相手なら俺の一節詠唱は対処が難しいはずなのだが、ガブリエラはケラケラと笑いながら身を翻していつの間にか別の木の上に移動している。

 

 ……薬物効果がキマってきたのか、額や頬に眼球に似た器官が生えてそれも俺を見つめている。やっぱりアイツ蜘蛛の特徴を引き継いでるみたいだ。

 幾ら顔が良くても眼球が幾つもあるのはビジュアル的にかなり怖い。そしてその恐ろしい外見通りにバケモノじみた素早さをしている。

 

「あーもう! 虫なら光に集まれよ! 光芒(shine)! 光芒(shine)! 

「走光性って知ってます? 虫はなんでも光に集まるわけじゃないんですよ?」

 

 知識マウントまで取られて一瞬頭が沸騰して全力でぶっぱなそうとしたが、さすがに抑えた。

 現状、ガブリエラは俺の攻撃を身のこなしと手首や髪の毛から出した糸による立体機動で避けている。

 

 そもそも、木がめちゃくちゃ多い山の中という環境がコイツと相性が良すぎる。

 

 うん、というわけでね。

 

 

光波(aura)

 

 

 溢れんばかりの俺の魔力を地面に叩き付ける。

 発生する爆風が周囲の木々をガブリエラ諸共吹き飛ばし、随分と見晴らしが良くなっていく。

 

「なっ、この邪悪の権化、環境破壊の化身! 命溢れる森になんてことを!」

「はっはっはっ! 知るかそんなこと、正当防衛だ! 元を辿れば俺を殺そうとしたお前のせいだからな! 光波(aura)! 光波(aura)!  ついでに光芒(shine)! 

 

 どさくさに紛れて撃ち込んだ光線は普通に避けられたが、光波を何発も撃ち込んでる間に俺の周囲は隠れる場所も凹凸もない荒野になっていく。

 もちろんそこら辺に転がされていた推定聖人ちゃんは身動きが取れなさそうなので、いい感じに潰れないように吹き飛ばしている。

 

 ともあれ、これだけ周囲が更地になれば先程のように逃げ回ることも出来ないだろう。

 

「……めちゃくちゃ。これだから降魔は嫌なんですよ。何でもかんでも、力さえあれば自分の思い通りになると思ってる」

「一応言っておくけど、俺は降魔じゃないし降魔と契約したのもまぁ、成行きなんだよ」

「でも犯罪ですよね?」

「目の前で違法薬物使ってるやつに言われたくはない」

 

 実際降魔との契約も犯罪だし、違法薬物も犯罪なので俺達はどっちも自分のことを棚上げしまくってることになる。

 自分が犯罪者だからって他の犯罪者を許せる理由にはならないよね。俺の方は絶賛目の前の女に命を狙われているわけだし。

 

「しかし、木々が無ければ避けられないというのは考えが甘いですね。あの木々という邪魔があったからこそ貴方は今も生きてたんですよ?」

 

 ガブリエラは地面に手を付け、髪の毛をさらに分割し4本の足に見立てる。これで八足、正真正銘の蜘蛛女になった彼女の犬歯は鋭く伸び、虫と言うよりは吸血鬼のような風貌へと変化していく。

 

「私としても、得意なのはなんの邪魔もなく駆け抜けられる障害物のない場所なんですよ」

「そっか。……じゃあ、今日はここまでにしておこうぜ。俺が死ぬぞ?」

「土壇場の命乞いにしては偉そうですね。……ん、なんですかこの音?」

 

 何処からか聞こえてくる謎の音にガブリエラが意識を向けた、ほんの一瞬。

 攻撃はほぼ避けられる。だから俺は自分の近くに吹き飛ばしておいた推定聖人ちゃん抱えて、その場から走り出した。

 

「はぁ? 身体能力で私から、『神の刃』から逃げられると思ってるんですか?」

「いや、逃げるのをおすすめしとくぞ。このままだと死ぬぜ。()()()()()

 

 やっぱり昨日雨が降ってたからか、走り出すと地面がぬかるんでいて少し足が取られる。

 

 そう、昨日は雨が降っていた。結構な豪雨だったのもあって多少地盤が緩んでいるだろう。

 そんなことがなくても、俺が何度も何度も地面を揺らしまくって、ガブリエラを狙っているように見せかけて何度も何度も山の斜面に魔術をぶち込めばいつかはこうなってだろう。

 

 

「全身の骨が折れたらお前たちでも死ぬんだろ? 土砂崩れに巻き込まれたらさすがにやばいぞ〜!」

「は、はぁ!? なんてことしてるんですかアンタ!? この山にどれだけの命が棲み、その環境をなんだと──────」

「今俺を殺そうとしてる口で命の大切さを説くな! まず俺に優しくしろ!」

 

 迫り来る土砂の轟音がガブリエラの声を掻き消し、さすがの彼女もここで命を捨てる気は無いのか俺達を追うのではなく別の方向へと走り出した。

 大規模破壊が可能な魔術師と違い、身体能力での先手必勝を心掛ける聖教会の連中は、大質量攻撃からは逃げることは出来ても対処することは難しい。

 対して魔術師の中でも魔力バカである俺ならば、この程度の土砂崩れならば余裕で対処出来る。

 

 悪いけれど義姉の教えでお前らみたいなのとは真正面から戦うなって言われてるんだ。

 

「じゃあなバーカ! この聖人様は俺達がちゃんと利用させてもらうからよォ! 生きてたらせいぜい悔しがってろ!」

んんんんんんんんーんんん(貴方も悪人なんですかやだ)ー!?」

 

 推定聖人ちゃんがなんか失礼なことを言ってる気がするけれど、俺はちょっと降魔七階のうち2体と契約してるだけで別に悪人じゃないからね? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………そう言えばこの山、普通に下にネブとかハツネとかシャルロッティ達がいるけれど、まぁアイツらは魔術師の中でもアレでも天才側だ。

 余裕で対処出来るだろうから心配する必要は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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