真の実力はギリギリまで隠しているべきだったかもしれない   作:ちぇんそー娘

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生存競争(マカブルパーティ)

 

 

 

 降魔を倒す手段は幾つかある。

 だが、降魔を完全に殺す手段は限られている。

 

 基本的に魂だけの存在である彼らを完全に滅することが出来るのは、聖人と呼ばれる特別な魔力を持つ人間か、同じ降魔だけである。

 

 魂を常に知覚することのできる降魔は、当然同じ降魔の魂を滅ぼすことが出来る。

 

 

 

春雷(thunder)甲虫不覚(beetle)

『おま、ふざけんな! 我を誰だと──────』

 

 

 なので、とハツネは手に持っているカブトムシに縄を括りつけ、電気を纏わせながらぶん投げる。目の前から迫り来る下級降魔は雷撃を浴び動きが鈍り、同時に投げられたカブトムシに魂を貫かれ完全に消滅する。

 

「これで6体は倒したわね。案外カブトムシって役に立つじゃない」

『絶対に間違ってる! 普通に我と契約すればこんなことしなくとも降魔を殺すことが出来るぞ!?』

「別にいいでしょ。それともこの降魔だらけの場所に置いていってあげた方がいい?」

『…………回転かけてカーブとかはせめてやめてください! 酔う!』

 

 降魔まみれの地獄の様相を成す山中であるが、ハツネは腐っても魔導九家の一人娘。

 継承する前提で育てられた彼女にとって、受肉も果たしていない下級の降魔程度であればあくまで狩りの対象だ。

 

「それで、この原因作ったやつはアンタならわかるんでしょうね」

『あぁ。間違いなくこの回りくどい手口は六位、『禍津』の王、ドムズ・ギルファルベルだ』

「じゃあそいつ倒せば終わりなのね。わかった」

『相手降魔七階ぞ? この我と同格の敵ぞ?』

「それが余計に恐れる理由無くすんだけど」

 

 降魔七階という存在の恐ろしさは、歴史書で散々知らされてきたが、かと言って目の前のカブトムシと同格と言われる相手を見もしないで恐れる理由にはならない。

 

『お前さぁ……。我が寛大だから良いものを、そんな態度で生き続けてたらそのうちぽっと死ぬぞ? 特に我とかさ、『絶滅』の王と言えばその片鱗だけで数多の人間が狂わされ、力を求め殺しあったとすらされる強大な存在なんだよ?』

 

 もちろんそんなことハツネはよく知っている。むしろ勤勉な彼女は普通の人間よりもその存在の持つ意味を知っている。

 

「だからなんなのよ。アンタが強大な存在だからって、()()()()()()なんで私がアンタにビビらなきゃいけないのよ」

『いやでも……我は強くて恐ろしい……』

「アンタを私がどう思うかは私が決めることでしょ?」

 

 ハツネは傲慢で基本的に他者を見下している女だ。一番嫌いなのは、誰かの考えで自分の意見を曲げること。よく言えば確固たる我を持っていて、悪く言えば我儘。

 

 そんな人間性は、降魔七階第三位、『絶滅』の王から見た時。

 

 

『おもしれー女……』

「なんか言った? アンタ小さいからはっきり言ってくれないと聞こえないの」

『いや、何も』

 

 

 自分を縄で括って降魔を倒すための武器として扱い、更に別のやつを契約させるために使う人間なんて、ギガノ・ザッハークの長い生において今まで一人もいなかったしいたらさすがに引く。

 

 だからかは分からないが、こんな雑に扱われているというのに、ギガノの心には奇妙な高揚感があるような気がしなくもなかった。

 

「あ、また降魔いるわね。投げるわよ」

『やっぱ勘違いだわ。ちゃんとした肉体得たらまっさきにお前殺すわ』

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

清水(Aqua)流転(change)聖域(square)

 

 

 保食(かての)家の魔術特性は『清流』と『浄化』。

 穢れと言った対降魔の概念を多く取揃えた由緒正しきお家。この家が降魔に乗っ取られてたって言うんだから魔導九家も大騒ぎになったのだ。

 

 ネブの周囲に小さな川のような水の流れが走り、その上に居た降魔が彼女の周囲から弾き出され、見えない壁があるかのように近づけなくなる。

 

「それじゃあ私達は見学してるので」

「頑張れハバキくん! いや、ハバキちゃん!」

「どっちでもいいから離れてろ!」

 

 数多の降魔に囲まれながら、安全圏を作りそこで座って休んでいるネブとリンを尻目に、俺はとにかく走り回る。

 靴のサイズだけあってないのと、動く度に髪が鬱陶しくまとわりついてきて自分の体の肉に振動が伝わり体が肉付きや骨格から変わったのを意識させられて恥ずかしい。

 

光芒(shine)!」

 

 詠唱のための声ですら以前までとは違う高く澄んだ声。

 背がかなり縮んだ影響か、どんなに凄んでも14歳とは思えない、せいぜい10歳くらいの女の子の声にしかならないのでめちゃくちゃに違和感がある。

 

 他にも歩幅が変わって間合いの詰め方が分からなくなったりとか、無駄に太い太ももがスカートの下でダイレクトに擦りあってムズムズするとか文句は色々あるが、目下一番の問題は魔力のブレだ。

 

 魔力というのは魂に大きく影響を受ける。そして魂は肉体に影響を受ける。

 戦闘や事故で体の一部を失った魔術師が、今まで通り魔術を使えなくなり一から学び直すことになる、なんて言うのはよく聞く話だ。

 

 特に俺のような特異な魔力を無理やり扱うために自分専用にチューニングした魔術を使ってるやつはこの影響が大きい。

 

「魔力が纏まらん! ブレる! もう最悪なんだけど! あとケツ揺れる!」

 

 自分が思ってる方向と全然違う方向に光が飛んでったり、威力が集中せず霧散していまいちいつも通りの威力が出ない。そして肉厚になった尻の肉が揺れてる気がして本当に集中出来ない。

 

「いや言うて降魔消し飛んでません?」

「でもなんかモヤモヤする!」

 

 とは言え俺の魔力量なら、無理やり魔力流して威力底上げすれば、大抵のやつは当たれば一撃なので特に問題は無い。ただ俺が気持ち悪い。

 

 なんて言うんだろうこの感覚。

 動くから別にいいんだけど掃除機の音がめちゃくちゃうるさくなってるとか、エアコンがやたらうるさいとか、別に機能としては問題ないけど感覚として凄い気持ち悪いんだよ。

 

 しかもそもそもやっぱり出力も落ちている。いつもの半分くらいの魔力量になってるよこれ。

 

「いやわかんないですよ。私達から見たらハバキさんのバカ魔力の違いなんて。女の子になったからって急に前髪2ミリ切った変化聞いてくる彼女みたいな面倒くささ出さないでくださいよ」

「はい! そもそも魔力の量とかパッと見で分かりません」

「クソが! 魔力の簡易測定くらい入学前に学んでこい!」

 

 リンはともかく、ネブは魔導九家の自覚を持って欲しい。元だけど。

 

 しかし2人の言う通り、普段使いでは特に問題がないのは事実であり、だからこそ不可解だ。

 

 この世界に意味の無いことなんてない。だからこそ、どんなことにも注意をしろ。そして意味を見つけたら拳を握ればどうにかなる。

 

 カサネ先輩からの教えのひとつ。後半はともかく前半はかなりまともなことを言っている。とは言え、今はそんなことを考えている余裕があまりないのだが。

 

「尻が……尻が大きい!」

 

 ちゃんと確認してないけど、スカートの下の下着のフィット感からして……こう、Tの形の感じっぽくてそのせいでめちゃくちゃ尻が冷える。派手に動くと風がもろに当たるし、動きの振動で揺れるし、あと触ると柔らかい。

 何とかしたいけれど、弄るとなるとそれはそれでハードルが高過ぎる。

 

「はぁ……はぁ……しんどい。尻、くすぐったいし揺れるし柔らかいしもうやだぁ……」

「そんなに変わるもんなんですか、男と女って」

「うん……ほぼ別生物だよコレ」

「まぁ男も女も靴は一緒ですよ。サイズの違いです」

「お前は生き物を靴でしか認識できないのか?」

 

 なんで俺はこんな常に尻のことで悩まなくちゃいけないんだろう。

 前世で尻の神の恨みでも買ったのか? 転生する時はちゃんと神様の靴まで舐めたのに許せねぇよまったく。

 

「あ、顔汚れてますよ。地面がドロドロで跳ねますからね」

「えっ、舐めないでよ?」

「なんで汚れを舐めるんですか。ばっちいですよ」

「え?」

「え?」

 

 とりあえずネブに顔を拭いてもらうけれどなんか納得いかない。

 

「お前、本当にいつも通りって感じだよな。俺が女になってるのに」

「別に女だからとか男だからとか、そんなこと関係ないですよ。私にとってハバキさんは靴を履いてるかどうかです」

「じゃあ俺靴脱いだらもうお前に認識して貰えないの?」

「…………」

「黙るなや」

「冗談ですよ。脱げたら履かせてあげます。何度でもね」

 

 キメ顔で言ってるから多分決めゼリフのつもりなんだろうけど、頭がおかしすぎて何言ってるか全然分からない。

 この子だけは1度ちゃんと頭を病院で見てもらった方がいいと思う。

 

「そういや、さっきからリンのやつが静かだな」

「そういえばそうですね。そろそろ可愛さのアピールをしてくる頃かと…………」

 

 ネブが口を開けて言葉を失い、その視線の方向を追うとそこには鳥型の下級の降魔が羽ばたいていた。

 そして、その足にリンが捕らえられている。

 

 

「悲鳴くらいあげろバカー!」

「だっていい雰囲気だったから邪魔しない方がいいかなーって!」

「どこが!? 普通に頭のおかしい内容だったろ!」

 

 

 すぐに照準を降魔に合わせるが、思ったより距離が離れてる。普段ならこんな距離でも誤射の心配はないが、今は体が変わったせいで魔力がぶれている。

 かと言って、悩んでたらリンが攫われてしまう。いくらめんどくさいし厄介事招きそうだし煩いし変なやつだからって、目の前で死なれたら後味が悪い。

 

「一か八かだ、『(shi)──────」

雷火(shine)

 

 閃光が迸り、降魔の肉体が光に貫かれた。

 力を失い、降魔の体と共に自由落下を始めたリンの体は、しかし降魔とは違い地に叩きつけられることは無かった。

 

「え……あれ!?」

「もう大丈夫ですよ、安心してください」

 

 優しく頬を撫でる、真夏の夜風のような安心感のある声だった。

 リンをお姫様抱っこの形で抱え、重力を感じさせないような動きで俺達の前に着地したその少女は、リンよりもずっと小柄で幼い外見だった。

 

 けれど、結界で歪んだ陽光とも月光とも取れない光を受けてですら、そのくすんだ金の髪は、純金よりも眩く煌めいていた。

 

「……ネブさん! と、そちらの方ははじめ、ましてですね、巻き込まれた方でしょうか? 私はシャルロッティです」

「え、あ、へあっ……」

「? なんだか顔が赤いですけど、大丈夫ですか?」

 

 

 やっっっっっっっっっっば!? 

 

 え、なに? シャルってこんなえっちだったっけ!? 

 あまりに登場の仕方が王子様すぎて、普通にかっこいい……って声漏らしてたもん俺。

 やばいよ〜! 幾ら女になったからって男に惚れるなんてことないと思ってたけど、こんな伏兵が潜んでいたなんて思いもしなかった。

 

 女の視点から見たシャル、美少年で通る王子様過ぎるだろ。

 

 

「あ〜! 女の子になっちゃう〜!」

「ネブさん、そちらの女性大丈夫ですか?」

「可哀想な子なんですよ、頭が」

 

 自分でも信じられないくらい、可愛いのに気持ち悪い声が出た。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「……ねぇ、あの女本当にハバキでいいのよね?」

『え、まぁ少なくともあの女の肉体の名前は『惟神ハバキ』だぞ』

「あ"?」

『ぴぇ……』

 

 

 降魔七階第三位、ギガノ・ザッハークはその数万年の生の中で最も低い人間の声を聞いて、それが14歳の少女の喉から発せられたと言う事実に対して恐怖した。

 一体何があったら人間はここまで怒りの感情が籠った声を出すことが出来るのか。

 

『えっと……どしたん? 話聞こか?』

「何女の子相手にメス顔晒してるの??? というかなんで女になってんのよアイツ、誰の許可を得て……」

 

 己の性癖と性格以外極めてまともな人間であるハツネに取って、女の子相手に頬を染めて目を逸らし、それでも本能に抗いきれないと言わんばかりにシャルロッティの姿を追っている惟神ハバキ……だと思われる女を見て思ったことを一言で纏めるならば。

 

「……何よ、私の事はそんな目で見ないくせに。アンタがそんな顔をしていいのは、あのロン毛野郎か私の前だけでしょ! 私の前ではするな!」

『お、落ち着け人間……。よく分からない状況で混乱しているのはわかったから』

「大丈夫。私は冷静よ。冷静。冷静だから……」

 

 ガシッ、とハツネはカブトムシの胴体を引っ掴んでまるで狙撃手のように視線を惟神ハバキと同じ魔力を持つ少女の、やたら柔らかそうで大きな尻へと向ける。

 

「『殲滅』は蹂躙の象徴。司る概念の一つは男性性。その王座であるアンタなら、アレを生やすことは契約さえすれば簡単でしょ?」

『まぁ契約さえすれば……でも本人が望まないとどうだろう』

 

 人間性と獣性を混ぜてミキサーにかけたような、知識はあるが使い方を間違えたような言葉にカブトムシは困惑し、嫌な予感を感じて羽を広げて逃げようとするが完全に掴まれて開くことを許されない。

 

「つまり、アンタをあの無駄にデカいケツにぶち込んでやれば、万事解決でいいのよね?」

『そんな外付けパーツみたいにならないよ。絶対ならないけど……なるかもしれない! なったら面白いなと思ってる自分がいる!』

「よし、行くわよカブトムシ。あの私よりデカいケツに何としてもアンタをぶち込んでやるわ」

 

 もうここまで来るとカブトムシは、ギガノ・ザッハークは隠すつもりもなかった。

 この女はイカれている。常識を持ち、何が正しくて何が間違っているかの指標を持ち、その上で己の欲望を全てに優先させることが出来る。

 

 面白い。

 こんな人間始めてだ。『殲滅』の王である自分を、何一つとして恐れずただカブトムシとして扱い、あろうことか人間のケツにぶち込もうとするなんて。

 

 あぁ、楽しいな。

 生まれて初めて、殲滅の王の心に歓喜という感情が湧いていた。

 

 

 

 

『いや待て、なんでケツにぶち込むの?』

 

 

 

 そして冷静になって、自分が今から何故か少女のケツにぶち込まれそうなことと、その必要性が皆無なことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故……何故お前が、『第五位』がこんなところに出歩いている!」

「なんで俺が好きに歩き回るのをお前に驚かれなくちゃいけないんだよ。おもしろくねー遺言」

 

 上級降魔の魂を塵を蹴散らすかのように軽く消し飛ばし、おもしれーくん改めておもしれーちゃんは溜め息を吐いた。

 

 せっかくの面白そうなイベントだが、惟神ハバキ(しゅやく)が見つからないのでは話にならない。幾ら上級降魔とは言え、受肉降魔かつ七階の1柱である自分には勝てるわけないのだから、自分は無視して勝手に争って欲しい。

 

 加えて、降魔が多すぎる上に二体、()()()()()()()()()()()。一体は今回の首謀者である六位だろうが、もう一体は不明。

 彼らの放つ魔力の混濁で、魔力による位置把握が困難を極める。

 

「はぁ……こんなことならやっぱりケツにアレを仕込んで……おっと」

 

 日頃の善行のおかげか、なんてハバキが聞いたら卒倒しそうな事を考えながらおもしれーちゃんは少し小走りで駆け出した。

 

「おーい! ハバキくーん! 見てみて、女の子になっちゃった☆」

「うわっ、うわぁー! 可愛いー! ムカつく! 帰れ帰れ!」

 

 相変わらず童貞臭い反応をする()()()()()()、惟神ハバキを見ておもしれーちゃんは確かな満足を感じた。

 

「でも、これそっちのせいだよ? 俺というものがいながら多重契約(浮気)だなんて……責任取ってケツ出せ」

「いやそれが俺も覚えてないんだよ。なんか急に股間が爆発して、何とかなりはしたんだけど、なんでそうなったのか……。あとマジで女ぶるのやめろ、お前だってわかっててもドキドキしちゃうだろ」

「安心して。契約の為にケツにぶち込むモノはすぐ用意できるから」

「何を? 何をぶち込まれるの俺は?」

 

 匂い、喋り方、動きの癖、魔力。

 全ての情報が目の前の男を惟神ハバキだと告げている。

 

 もしかしたら、という一つの可能性がおもしれーちゃんの脳裏に過ぎっていた。

 

 しかし目の前の男のあまりにもあんまりな童貞丸出しな発言に対して、すっかりその疑念は消え失せてしまっていた。

 

 

 

 

 









・シャルロッティ
女にモテるフェロモンが出るタイプの女。

・ケツのでかい女
自分を男だと思い込んでいるケツのでかい女。

・惟神ハバキ
童貞。
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