真の実力はギリギリまで隠しているべきだったかもしれない   作:ちぇんそー娘

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生存競争(マカブルパーティ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど。リンさんとハハキさんは偶然この山で迷子になってたところをネブさんに助けられたと」

「そういうことです。ね、リン?」

「え、あ、じゃあそういうことなんじゃないんですかね?」

 

 演技力ゼロの女に肘を入れつつ、シャルロッティの方に目を向ける。よし、気がついてる訳では無い、と思いたい。

 

「ハハキ……あぁ、()2つ無くなりましたもんね。へへっ」

 

 失礼だな。追加で棒も無くなってるからそれならハハニだろうが。

 

 そんなグダグダな俺の嘘ではあったが、シャルロッティは疑いもせず、というかそもそも疑うという選択肢が彼女には無いのだろう。

 ネブという知り合いがいて、リンは実際に自分が助けて、助けなければ降魔に食われていた存在。シャルロッティから見れば庇護の対象であれど警戒対象にはならない。

 そして、その2人が身元を保証する俺も自動的に警戒の対象から外れる。

 

 何も考えてないリンや、考えてることが全部靴に吸い取られてるネブと違い考えた上で判断が早いのだ。なんで俺はこの子と一緒に行動せずこんな馬鹿共と行動することを選んじゃったんだろ。

 

「それじゃあ私はハバキくんやハツネさん、そして他に巻き込まれた方がいないか探してくるので。ネブさんはそのお2人に保護をお願いします」

「へへっ、了解です。それじゃあ頑張ってね〜」

 

 去り際にシャルロッティはこちらに振り向いて、ウィンクをしながら微笑んだ。

 シャルロッティから見たら巻き込まれた一般人である俺とリンを安心させるための仕草なのだろう。それからすぐに駆け出した彼女の姿が見えなくなったのを確認してから、俺とリンは顔を合わせる。

 

「え……なんですかあの王子様。やば、年下ですよね? ガチ恋するかと思った」

「そればかりは同意だわ。えー……シャルってあんな美少年系美少女だったんだ」

 

 よく考えたらアイツ、王女様だし男としても通じるけれど少女としても整った容姿とかいう最強の容姿を持つ生き物なの忘れてたわ。

 体に染み込んでる高貴な振る舞いって言うんだろうか。何をしても絵になる。

 

「いやいいな〜。私、あんな王子様みたいな人に助けられるの密かに夢だったんですよ」

「でもリンは『聖人』と勘違いされてたんだろ? なら身を犠牲にしても助けようとしてくる人とか居なかったのか?」

「自分で言うのもなんですが私運が死ぬほど悪いので。基本勝手に勘違いされて厄介払いとか聖教会が誘拐しに来るかのどっちかだったので」

「まぁまぁお前も境遇重いよな……」

 

 ネブもリンももうちょっとひねくれた人格になってもおかくしくない境遇をサラッと語ってくるものだから感覚が壊れる。

 ネブの方はひねくれてないかと言われると捻れちゃダメな方に捻れてる気はするけれど。

 

「まぁ……シャルロッティが適当に暴れて俺も暴れてれば降魔だけならその内全滅させられるだろう」

「え、じゃあ思ったより早く帰れるんですかね? 良かった〜。早くシャワー浴びたかったんですよ」

「急に呑気になるなお前」

「プラスに考えてないと私の人生やってけないこと多いんで」

 

 とはいえリンの言う通り、受肉も出来てないような降魔達だけならば、シャルロッティと俺がもうしばらく暴れてれば全滅させることは出来るだろう。

 

 問題はやはり、俺やシャルロッティでも破れる気のしない山の周囲に作られた結界と、それの生成者。

 最初に浮かんだのはあの聖教会のシスター、ガブリエラだろう。アイツらなら対降魔用の特大結界とか用意していてもおかしくない。

 それか上級降魔の受肉体がまた現れたとかだろう。ほんと、受肉降魔って存在のでかさを思い出して欲しい。

 

 ……おもしれーくんやアラシ先輩みたいなのがいる時点でインフレしてるとしかいいようがないけれど。

 

 色々考えて、今の状況は全て理解出来てないが、やはり優先すべきはおもしれーくんとの合流だろう。

 俺の性別も、結界の犯人もその気になれば降魔七階であるおもしれーくんにかかればどうにかなる可能性がある。契約対価である『面白さ』は女になってる状況でお釣りが来るし、ダメって言うならビンタする。

 

「よし、さっさとおもしれーくんを探すか」

「さっきから話題に出てるおもしれーくんってなんなんですか?」

「ハバキさんの……まぁセフレなんじゃないんですか?」

「友人です。そういう言葉年頃な女の子が使うのやめようね」

 

 とりあえず魑魅魍魎塗れの山を、魑魅魍魎の擬人化みたいな男を探すために再出発しようとした時、ふと尻に違和感を覚えた。

 

 正直体が女になってからずっと違和感しかないのだが、そういうのとは違う。

 何かの視線が、殺意や怒りにも満ちた感情が、俺そのものではなく俺の尻に集まっている。そういう感覚。

 

「どうしたんですか? 尿意?」

「割とピンチだけどまだセーフ。いや、それじゃなくてなんか……」

 

 振り返ると、縄に括り付けられたカブトムシが俺の尻目掛けて飛んできていた。

 

 

「うわっ!? 危なっ!」

「ちっ、外したわね」

 

 

 縄で縛られたカブトムシをまるでヨーヨーのように扱う、俺の尻を狙う不届き者の正体。それは性格の悪そうなツインテ女、端的に言うならばハツネだった。

 

「ハバキ、一応聞くけどなんでそんなことになってるのよ?」

「俺の方がなんでお前が俺の尻にカブトムシ投げようとしてきたか聞きたいんだけど?」

「質問してるのはこっちよ」

「物理的に疑問の塊を投げてきたのはそっちが先だろ」

 

 しかしここで意固地になってもハツネが性格上先に語り出すことは無いだろうし、さっさと話してしまうことにした。

 

「なんか股間が爆発して女になった」

「頭沸いたの?」

「ほんとだもん! 股間爆発したんだもん!」

 

 俺だって訳わかんないし、なんでこんなことになったのかを一刻も早く聞きたいんだよ! 

 というかそもそも……。

 

「お前、俺がハバキだってなんでわかったんだ?」

「まぁ色々あってね。それより、アンタはつまり望んで女になったわけじゃないのよね? 実は女の子になりたいとか願望があった訳じゃなくて?」

「…………うーん、まぁ、望んでた訳では無いよな」

 

 ぶっちゃけ美少女になりたくないかと言われたらめちゃくちゃなりたかったけど、いざなってみるとあんまり興奮しない。アラシ先輩の言う魂の肉体への適合が始まってるのか、正直だんだん女体へのドキドキが薄れてきてる感じはあるし。

 

「なんか歯切れが悪いけど、それならちょうど良かったわ。私、アンタが元に戻る方法知ってるわよ」

「は!? マジで!? どうすればいいんだ!」

「このカブトムシをケツにぶち込む」

 

 どうやらハツネは熱中症にやられてしまったらしい。

 

「何よその顔。私が嘘なんてつくわけないでしょ。騙されたと思ってやってみなさい」

「騙されてたら取り返しが付かなさすぎるんだよ。もしもそれで怪我するだけだったら俺なんて言って病院に行けばいいんだよ」

「戻らなかったら戸籍ないから病院とか行く以前の問題でしょ」

 

 コイツ、頭のおかしいこと言ってるくせになんでそういう目を逸らしてた現実的な問題を口にしてくるんだよ。

 ある日目が覚めたら女の子になっちゃった! な妄想で1番考えたくないラインの話を。

 

「とにかく安心なさい。このカブトムシをケツにぶち込めば、アンタの前の棒はなんやかんやで生えるわ」

「そんな押し出し式な感じで生えるわけねぇだろ!」

「股間爆発して女になる面白体質が何言ってるのよ」

 

 クソッ、その点に関しては100%俺の体に非があるせいで何も言えない。

 かと言ってこのまま大人しくカブトムシをケツにぶち込まれるわけにもいかない。何をどう考えてもケツにカブトムシは戻る手段が一切ない時の最終手段だ。

 

 この場は逃げよう。ハツネにケツを向けるのはかなり怖いが。

 なんで俺はこんなにケツで被害に遭わなければならないんだ。俺はケツの神様に呪われるようなことをしたのか? 

 

「あっ、ハバキくんハバキくん、アレ」

「もうなんなんだよ〜!」

 

 リンに服を引っ張られて、ハツネにケツを向けないように首だけ動かして言われた方向に目を向ける。

 

「…………ッ」

 

 そこにはシスター服に身を包んだ、全身泥まみれの狂信者。聖教会のガブリエラがものすごい形相で幽鬼のように佇んでいた。

 

「前門のシスター、コウモンのカブトムシですね」

「なんかコウモンの意味が違う気がするし、さっきからお前上手いこと言ったみたいな顔してるのめちゃくちゃ腹立つんだが?」

「へへっ、腹立ったなら靴とか舐めましょうか?」

 

 もちろん、今の俺でも2人を倒すだけならば問題は無い。だが、ケツを守りながらあの狂人を相手にするのは正直かなり怖い。ワンチャンケツにぶち込まれたらアウトなのだから。

 

 とりあえずどっちから殴る? 危険度的にはハツネを止めたいのだが、何をしてくるか分からないという点ではガブリエラも怖い。というかもう2人とも俺の知らないところで戦ってくれねぇかなぁ。

 

「…………三位」

「あ?」

「なんでこんなところに降魔七階、三位がいるのよ! どうなってんの!?」

 

 ガブリエラが素としか思えない驚愕の声をあげるので一応周囲を見てみるが、それっぽい魔力の主はどこにもいない。

 

 そもそも、おもしれーくんやアラシ先輩が例外なだけで、降魔七階ってのは存在が大災害のバケモノなのだ。この世界に七体しか存在しない最強の降魔。

 そんなホイホイと通りすがられても困る。マジで困る。多分ガブリエラは土石流に巻き込まれて頭を打ったのだろう。

 

「え、アンタ本当に降魔七階なの?」

『お前信じてなかったの?』

「いやカブトムシが降魔七階だって言われて信じるやついないでしょ」

『そんな……』

 

 よく耳を傾けるとハツネが手に掴んでるカブトムシと会話をしていた。

 普通のカブトムシは確か喋らないはずだし、ガブリエラの視線は完全にあのカブトムシに向けられている。

 

「…………え。あれ? あれが降魔七階?」

「アレが降魔七階第三位、万象を滅ぼす『絶滅』の王、ギガノ・ザッハーク!」

「アレが? アレが!? 逆に聖教会(オマエら)はアレでいいの!?」

 

 これで俺は降魔七階のうち三体と出会ってるのだが、内訳が二位(先輩)五位(ホモ)三位(昆虫)ってなんだ? コイツら最強の降魔じゃなくて出オチ一発ギャグ芸人か何かなの? 

 

「なんで? お前そのカブトムシ、受肉降魔どこで拾ってきたの?」

「アニキスだっけ? アイツが持ってた虫かごに入ってた」

 

 あのお姫様とその従者は受肉降魔を引き寄せる体質なの? 

 いやこれに関してはそもそも、なんで降魔の王がカブトムシになって普通に捕まってるんだよというのが先に来る疑問なのだが。

 

 もう本当に訳が分からない。

 俺は女になるし、降魔七階は生えるし、ケツは狙われるし。誰でもいいから、この状況を収められる人来てくれ。

 

 

「うわっ、何この状況おもしれー」

 

 

 そんな俺の願いとは裏腹に、よく知る魔力とよく知る口癖と共に現れたのはどこか知ってる男の面影を持つ、知らない女。

 

 

「…………え、あの尻のデカい美少女誰?」

 

 

 そして、俺がよく知る人物。

 毎朝鏡で見ることになる、惟神(かむながら)ハバキの姿。

 

 俺達は数秒見つめ合い、お互いにお互いの魔力を確認して、脳内で情報を整理して。

 それから叫んだ。

 

 

「魔力返せケツデカ偽物女ァー!」

「チ〇コ返せ拗らせ本物童貞がァー!」

「黙ってろ童貞卒業試験受験資格剥奪野郎がァー!」

「んだと毎年試験落ちてるエリート童貞がァ!」

 

 

 

 お互いに全力で突き刺さるブーメランを投げながら全くの同威力、同質の光芒が激突する。

 魔力の乱れ方、纏め方、放出のくせ何もかもが俺であり唯一の違いはお互いに威力が半減していること。

 

「…………ねぇ、これどういうことよ。あの女がハバキじゃないの?」

『あれ……おっかしいな。2人とも()()()()()()()()()()

 

 ハツネとカブトムシの視線が俺に向けられる。

 それは俺も思ったことだ。目の前の俺の偽物らしきあの男は、俺から見ても完全に『惟神ハバキ()』なのだ。

 

「靴も、全く同じですよ……え、じゃあこれって……」

 

 ネブが言う通り、靴も全く同じ。アレは義姉さんが入学祝いにプレゼントしてくれた特注の靴だからこの世に同じものは無いし、第一靴舐めのスペシャリストのネブですら『全く同じ』と表現するような代物。

 

 

 ここで一つの問いが生まれる。

 

 もしも同じ人物が二人に増えて、片方が偽物とする。

 その二人はほぼ全てが同一人物であり、どちらかが偽物だとしても特定は困難を極める。

 

 唯一の違いは、片方は性別が本物と同じで、もう片方は違っていたとする。

 

 

「アレ、これ偽物って……俺!?」

「どう考えても女の時点でお前が偽物だろ」

 

 

 アイデンティティが崩壊する音がした。

 残ったのは、男性の象徴に続いて惟神ハバキ()という存在すら奪われた、ただのケツのデカい女一人だった。

 

 

 

 








・ハバキくん
ケツが引き締まってる男の子。

・ハハキちゃん
ケツのデカい女の子。


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