真の実力はギリギリまで隠しているべきだったかもしれない 作:ちぇんそー娘
ハーレムタグの力をようやく発揮すると思います。
「それで……ハバキはただ相手の危険性を省みて制圧しただけで、何もやましいことはしていない。ただ魔導錬成を一節詠唱で打ち破って
「さっきからそう言ってるじゃないですか」
「お前が嘘言ってないのは義姉としてよーく知っている。じゃあこれ誰が信じるんだバカ」
シーカ魔導学院生徒会会計である惟神カサネ先輩、俺の義姉である彼女は苛立たしそうに何やら長ったらしい文章の書かれた報告書をくしゃくしゃに丸めた。
「と言うかあのハツネのバカもバカだよ。負けたのが悔しいからって試合でもないのに魔導錬成使うなっての。おかげで私達の仕事が増えた」
「こういうのってマジで生徒会が仕事に駆り出されることとかあるんだ……」
「いいや、社会勉強のおままごとだよ。……これ、内申に関わるからお前も協力してくれよ?」
貴重な昼休みをこうしてカサネ先輩と過ごすことになるとは。
それ自体が嫌というより、あのハツネの野郎のせいで俺の自由な時間がなくなってるってのがちょっと嫌だった。
「お前ならできるとは思っていたが、まさか魔導錬成をそんな簡単に撃ち破るなんてな」
「先輩の教え方が良かったからですよ」
「私だって未熟な魔導錬成ですら三節詠唱は必要だバカ。お前がおかしいんだよ」
俺はチート級の魔力がある、っていう前提だからわかるんだがこれに関してはカサネ先輩の言ってる事の方がおかしい。
魔導錬成は魔術の最奥の一つであり、切り札、奥義の類の技術。
対して三節詠唱は一般的には高速戦闘下で最低限の速度を維持しながら威力を最大まで維持する手法だ。それで人生をかけて生み出すような奥義を、特に多い訳でもない魔力量で実現するカサネ先輩は間違いなく今のシーカ魔導学院において最強の一角だろう。
「ま、こんな書類さっき言った通りおままごとだ。適当に処理しておくから、戻っていいぞ」
「え、こんな早く?」
「なんだ、私ともっと一緒にいたいのか?」
「てっきりもっと怒られるのかと……」
冗談っぽく笑っていたもんだから俺も少し軽口を叩いてみたが、瞬間カサネ先輩は一気に不機嫌そうになりじっと俺の目を見つめたあと、大きなため息を吐いた。
「別に、お前が悪いことしてなければ怒らない。今回は結果的にクラスメイトを助けてるんだ。褒めて褒めて褒め殺してやることはあっても怒ることなんてないのになー」
「その手の動き、明らかに殺す動きじゃないですか?」
「これで死ぬ軟弱な鍛え方してる方が悪いんじゃないかー?」
そう言いながら鉄材を拳でかき氷みたいに削り砕かんとするような手の動きに、どう対応すればいいのか分からずとりあえずハハハと笑う。
カサネ先輩、一応義姉さんだからそれなりに気心は知ってるつもりなんだけれど、たまーにどうしても心の内がいまいち読めなくなる時があるんだよな。
なんかちょっと、本物の家族じゃないということを実感して寂しくなる。
そんな感傷に耽けっていたら、俺とカサネ先輩の二人きりの空き教室の扉が突然と開かれた。
「おい、今は私のリフレ……うわっ」
うわっ、て言った。
あの虫が出たら俺が悲鳴をあげた瞬間には部屋に駆けつけて害虫なら握りつぶし、そうでないなら手で掴んで外に放り投げるカサネ先輩が露骨に嫌そうな顔と声をするものだから一体どんな魑魅魍魎が入ってきたのかと俺も視線を向けると。
「よっすカサネちゃん。んでそっちが……噂の弟くんか」
おっぱいだった。
いや、女性に対してこれは失礼だ。しかしおっぱいだ。こればっかりはもう偽ることが出来ない。
それは巨乳だった。
制服の上からでもわかるほど大きく、服の生地が悲鳴をあげるほどの圧と張りにより美しい曲線を生み出し……いやもう言葉に表すのめんどくせぇや。
制服が可哀想なくらいデカい。以上。
「こんにちは〜。私は
「アッ、よろしくおねしゃす……」
動きにくいという理由で長い髪の毛は基本的に纏めたり編み込んだりしてる生徒が多い中で濡羽のような黒髪を腰に届く程に伸ばしているアラシ先輩はなんだかとても新鮮で、あとあっていきなりめちゃくちゃ距離を詰めて手まで握ってきた。
え、何この先輩?
なんかふわふわしてるし美人だし胸が大きいし距離が近いし、もしかして俺の事が好きなの?
「何しに来たんだアラシ」
「んん〜? 可愛い後輩に唾付けに来たんですよ先輩〜」
「え、唾つけて貰えるんですか!?」
「お前は何喜んでるんだよ」
「比喩だよ〜。唾は衛生的に良くないからね」
だって美少女の唾だし。いや、美少女でも唾は汚いな。でも付けられたいか付けられたくないかで言うと付けられたい。
それにしてもアラシ先輩、御狐家か。
御狐家と言えば魔導九家の1つであり、魔導の探求に全てを費やす変わり者にして、他者の家の魔導の秘密を暴くことを生業にしてる嫌われ者だ。
カサネ先輩は入学前に『絶対に近づいちゃいけない人間』にこの家の人間を挙げてたけど、自分は仲良くしてるんだな。こんな美少女を俺から遠ざけようなんて一体なんのつもりなんだ殺生な。
「ん〜、私回りくどいの嫌いだから、単刀直入に言うね〜」
「なんなんだよ……私とハバキの時間を邪魔するならさっさと……」
「ハバキくん。私と結婚を前提にお付き合いして貰いたいな〜って」
…………ふぅ。なるほどね。
来ちまったみたいだな、モテ期。
「よろしくお願いしますアラシ先輩。いや、アラシさんって呼んだ方がいいですか?」
「おい待てハバキ。御狐はやめとけ」
離してくださいカサネ先輩。もう俺にはこの人しかいないんです。俺のことを好きって言ってくれる人はこの人しかいないんです。
「お前、考え直せ! マジでコイツはやめとけ! と言うかそんな簡単に結婚を決めてるんじゃねぇよバカ!」
「じゃあどうしろっていうんですか! クラスの女子の間で俺の接近を感じ取れる探知術式がプチ流行していて感知した瞬間女子が逃げるか靴を舐めに来るかの二択になってるんですよ!?」
「……えっ、お前のクラスなんかの喜劇団なのか? 怖っ」
お前お前お前ー!
お前のせいーって叫びそうになったけどカサネ先輩は先輩として、義姉として俺の為にやってくれた事だし、ハツネぶちのめして更にビビられるようになったのは俺だし、一瞬でも全てをカサネ先輩のせいにしようとした己を恥じて自らの頬を殴ろうとして。
冷静に考えたらやっぱりまぁまぁこの人のせいだよな、と握りしめた拳は行き場を失って宙に解けた。
「俺の事を好きって言ってくれる女子。それだけでもういいんです。彼女5人とか高望みしないから、せめて会話ができてる女子を……」
「お願いだから考え直せ! なんだ? 好きって言えばいいのか!? 私もハバキのこと大好きだから!」
「あは〜? 私もハバキくんのこと大好きだよ〜? カサネ義姉さん顔真っ赤〜」
「テメェ次その呼び方したら私がここで魔導錬成するからな?」
基本的に言動は荒いけれど滅多に声を……多分荒らげないカサネ先輩がこんなに慌てふためくとは。
よっぽどカサネ先輩はアラシ先輩のことが嫌いなんだろうか。
でもなぁ……アラシ先輩、俺の事好きって言ってくれるし。会話が通じるし、靴とか舐めてこないし。
「それじゃぁハバキくん、婚約者としてお願いするんだけど〜」
「なんですか? 命以外ならなんでも差し出しますよ?」
「えっ!? じゃあ睾丸頂戴!」
姉さんが肩を叩いてきて、な? と言わんばかりに大きなため息を吐いた。
いや、まだ聞き間違いかなんかの冗談かもしれない。そうと言ってくれ。
「さすがにそれは……あの、死んじゃう……」
「じゃあ心臓」
「殺傷性能上がってるんですけど」
残念〜とまるで冗談でも言ったみたいに朗らかにニコニコと笑っているが、声色は欠片も冗談に聞こえない。え、なんで? 俺のこと好きじゃないの?
「……あの、アラシ先輩。俺のどこが好きですか?」
「魔力が多くてぇ〜、魔導錬成を一節詠唱でぶち壊したっていうところ!」
「他は? 顔とか人格とか?」
「顔で人が好きかどうか変わるの? 人格なんて今日はじめてあったからわかんな〜い。…………でも、私は多分この学院で一番君を愛してるよ?」
とても16の女子の口から飛び出すとは思えない言葉を、恋する乙女のように弾む口調で紡ぎながらアラシ先輩は間合いの掴めない不思議な歩調でいつの間にか俺の手首を掴んで壁際に追い詰めていた。
俺自身、動かされた感覚なんて全くないのに。気がつけば所謂壁ドンをされ、視線を決して彼女から外せないようにと言わんばかりに顔を近づけ、鼓膜を直接震わせるように呟いた。
「私、君の力がだーいすきでとっても気になるから〜。君がその力を全部私に見せてくれるなら私も全部をあげる〜。……だからさ、一緒に全部知悉、しよ♡」
判断力が鈍らされる。唇と脳が切り離されて、ただ肯定の意味の言葉を吐き出すだけの機械に、内側から改造されていくかのような甘い声。
「おい、私の
「あはぁ? もしかして嫉妬ですかぁ? 女の嫉妬ほど見苦しいものはないって、知ってますかぁ?」
「嫉妬じゃねぇよ。事実だ。ハバキは
威圧するようにぶつかり合う二人の魔力で部屋の何処かからミシリと構造が歪む音が聞こえ、それを聞いたアラシ先輩は狩人のような妖艶な笑みをやめ、先程までの朗らかな表情に戻る。
「ごめんなさい〜。カサネ先輩がこんなに弟くん思いとか知らなかったんです〜。先輩、嫌いにならないで〜」
「嫌いになるか。お前は頭が良くて数少ないちゃんと仕事する後輩なんだから」
「わ〜い! カサネ先輩、ブラコンでちょっとキモイけど好き〜」
「やっぱぶっ殺しておこうかな」
急に雰囲気が変わって、2人は俺そっちのけで抱き合ってなんだかイチャイチャし始めた。
なに? 俺は一体何を見せられてるの?
「じゃあね〜ハバキくん! 結婚の話は本気だから考えておいてね〜」
そう言い残して、ふわふわの暴風雨のようなアラシ先輩は部屋を去っていき後には今日何度目か分からないカサネ先輩の大きな大きなため息が残された。
「……カサネ先輩、あの人なんなんですか?」
「3年の御狐アラシ。好きなものは才能のある人間。それ以外には一切興味のないロクデナシ。喜べ我が弟、お前のことがだーいすきな美少女だよ」
ただし、お前の才能がな。と、カサネ先輩は残酷すぎる真実を付け足してきた。
……でもまぁ、俺のことが好きなのは事実なんだよね? 体目当てよりもタチが悪いけれど、一応俺に好意はあるんだよね?
「ようやく、この学院に来てまともな女子と話せました」
「その、辛くなったらいつでも私に相談しろな?」
「精神が追い詰められてるとかじゃなくて事実を言っただけなので安心してください」
「それならいいんだが、頼むぞ。前も言ったけど、もう一度言っておくが、万が一お互い結婚相手が見つからなかった時は私達二人で……惟神家を守っていくことになるんだからな?」
カサネ先輩はルーズサイドテールをもふもふと弄りながら、そっぽを向いて聞こえるか聞こえないかギリギリの声でそう口にした。
「俺はともかく、先輩……義姉さんは大丈夫でしょう」
「安心しろ。お前が相手が見つからなかったらいつでも貰ってやる。姉弟は助け合うものだからな」
「それって……でも俺がそんな余り物になる年齢の時義姉さんは……」
「いや私は顔も性格も良くて才知溢れる女性だからぶっちゃけいつからでもどうとでもなるから」
モテる女の余裕とばかりの笑顔で、カサネ義姉さんは思いっきり俺を突き放してきやがった。
「でも気持ちは感謝しておきます。もしも失敗しても大丈夫って気持ちになりますんで」
ハツネとかアラシ先輩とか、今のところ俺の周りにまともな女子がいないけれど、カサネ義姉さんがいると何となく大丈夫なんじゃないかって思えてくる。
この世界の両親を失って、惟神の家に引き取られて不安だったり分からないことばかりだった俺を助けてくれたのもこの人だ。なんだかんだで、この世界で一番信用してる人と言っても過言ではない。
「失敗した時のことを考えたら勝てるものも勝てないぞ。惟神の男なら当たって砕けろ」
「既に入学式で1回爆散してるんですよ」
やっぱダメかもしれないけれど、まぁやれるだけ頑張ってみよう。もうだいぶダメな気しかしないけれど。
「アラシのやつは近づけないようにしておくか……。いや、アレでも優秀なやつだ。しかし要監視だな」
惟神カサネは懐から取り出したメモ帳の、御狐アラシについて纏められた項目に幾つもチェックを入れ直し、最後に要警戒の文字を書き足した。
「どうしようもないやつだが、優しいやつだからな。悪い虫でも殺すことを選べないし、かと言ってそれはアイツの美点でもある」
だから、本当にどうしようもない害虫を殺すのは己の役目である。
元魔導
「安心しろハバキ。私が必ず、お前を幸せにしてやる。私の人生の全てを賭けて、お前をモテモテに……モテモテに……」
姉とは弟の人生の道標となり、助けとなるもの。
幼い頃、突然できた弟。武骨で男勝りで強さと凛々しさで惚れられるばかりのこの猪女を可愛いと言ってくれた、もっと可愛らしい弟。その幸せの為ならば、己の全てを──────。
「うぅ……やだー! 絶対お婿になんてくれてやらない! ハバキにはハーレムを楽しんでもらった上で私のお婿さんになってもらうんだー!」
惟神カサネは17歳の少女である。
完璧でありたいお年頃。それでも少女とはいつだって矛盾している。凛々しい姉の人格と極度のブラコンの人格はいつだってお互いを殴り合いながらも、惟神カサネは今日も総合的には良い人良い姉で収まっていた。
チーレム杯期間中に終わらせるつもりが終わる気がしなかったので更新頻度をばべべべします。