真の実力はギリギリまで隠しているべきだったかもしれない   作:ちぇんそー娘

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あと義姉つっよ。






同級生はかしましい

 

 

 

 

 食堂での食事は実は結構好きだ。

 最近気がついたのだが、俺の噂というか悪名は同級生には近づいたら気絶されるレベルであるが、上級生からしたらそこまで恐れるものでもないのか、それともカサネ先輩とかアラシ先輩とかみたいなのがいるから慣れてるのか、常に混んでる学食では俺の周囲に1年女子が座らないのを利用して先輩とかが座ってくれるのだ。

 

「いつも場所取りありがとなハバキ。お前のこの領域便利だよな」

「おかげでオイラたちいつも座れるっす! いやー、ありがたやありがたや」

「お前達が嬉しいなら、俺も嬉しいよ……うん」

 

 昔カサネ先輩が言っていた。どんな力も使い方次第なんだと。たとえどれだけ邪悪で恐ろしい力も、振るう人間が健全な意志と全てを破壊する握力があればそんなものに頼らずとも全てを破壊できると。何言ってんだあの人。

 とにかく、多分カサネ先輩はこういう時のことを想定していたのだろう。多分。

 

「あれ、おもしれーくんは今日居ないのか?」

「おもしれーくんは今日は弁当っすね。今朝荷物が少し多かったっすから」

「シャッティすげぇよな。マジでよく見てるわ」

「へへっ、オイラ記憶力がいいんすよね」

「シャッティは昔から記憶力が凄くてな。ここの入試も前日に全部詰め込んだんだ」

「それは褒められることじゃないよな?」

 

 なんて他愛ない会話をしつつ、俺達3人はどっ、と一斉に笑った。

 初めは男3人に囲まれても嬉しくないぜって感じだったけれど、ここ最近は舎弟と兄貴コンビことシャッティとアニキス、ここに加えていつもおもしれー何とかだけで会話を成立させるせいで、未だに名前が分からないおもしれー君で過ごすことが多くなっていた。

 

 話してみるとシャッティもアニキスもめちゃくちゃ良い奴だし、なんかいつも後方で解説してただけあってアニキスはめちゃくちゃ賢いし、シャッティは記憶力が良くて、更に可愛いんだよな。

 男にしては長めで黄土色と言うには輝きがあり、金色と言うには少々くすんだ髪の毛、丸々としたつぶらな金の瞳。そして人懐っこく、どんなことにも一生懸命。

 あんな舎弟舎弟した喋り方なのにアニキスがめちゃくちゃ可愛がってるのもわかる。コイツは誰からでもかわいがられるタイプの人間だ。今もカレーライスを口いっぱいにほおばってる姿が同性ながらリスのように愛らしいと思ってしまう。

 

 いかんいかん、女の子に避けられ過ぎて遂に同性に走りかけたかもしれん。

 いやぁ楽しいなぁ友達と過ごす時間は。この時間が永遠に続けばいいのに。

 

 

「はぁ!? ショッケン!? ショッケンってなによ!? なんで食事するのに剣が必要なの!? ……券? もっと意味がわからないわよ!」

 

 

 なんだか聞いたことがあるワガママで桃色な感じの叫び声が聞こえたが、多分気のせいだろ。アイツが食堂にわざわざ来るわけないし。

 

「あ、こっちに来てるでやんすね」

「バカ! 目を合わせるな、他人のフリをしろ!」

「さすがにもう遅いようだ。見ろ、一直線にこっちに来てるぞ」

 

 ご飯と味噌汁に焼き魚、漬物付きのセットメニューを机に叩き付けるように置き、わざととしか思えないくらいの音を立てて俺の隣にその桃色の髪のツインテール少女は座った。

 

「……ここの漬物美味しいよね!」

「食ったことないわよそんなの。あと話しかけないでくれる」

 

 じゃあなんで俺の隣に座るんだよ。

 よりによって、つい先日俺がボコボコにした道祖ハツネさんご本人がさぁ。

 

「あ、道祖さん昨日までお勤めご苦労様っす!」

 

 そしてシャッティが秒で煽りにいったのでカレーを吹き出しそうになった。恐る恐る横を向くと、ハツネはそれはそれは嫌そうな、新品の靴でデカめの虫を踏みつけてしまったかのような顔をしていた。

 

「……道祖って呼ぶのはやめて。ハツネでいいわよ」

「え、でも以前は苗字で呼べって言ってたっすよね?」

「私、勘当されたから。もう道祖の名前を名乗ることも許されないのよ」

「えふっ!? げふっ、ごほっ! は!?」

「何よ生意気金髪。食事中に汚いわよ」

 

 ハツネはキレながらもさっきのヤンキーみたいな席の座り方はなんだったのかというレベルで、焼き魚を綺麗に箸で骨と身を分けて食べているが今の情報で噎せないわけがないだろう。

 

 道祖家は魔導九家。この学院の、ひいては現在の魔導社会に大きな影響力を持つ家だ。その一角の家の一人娘が勘当だなんて大事件すぎるし、第一自らが道祖家の人間であることを誇りに思っていたはずの彼女が、こんなあっさりとそのことを? 

 

「何か嫌なこととかあったのか……?」

「強いて言えば、貴方のせいかしらね? 貴方に無様に負けたせいで今こうなってるのよ?」

「いやそれに関してはお前が100%悪いだろ」

 

 あの授業での一件は何をどう考えても、勝手にキレて魔導錬成使ったハツネが悪いので、その点に関しては俺は一切の罪悪感なくコイツに対処できる。

 悪い奴に対して罪悪感を抱くのは疲れるし。

 

「別にそんなことわかってるわよ。アレは全て私が悪い。その上で、アンタがムカつくってだけだけど?」

「つまり八つ当たりってことか?」

「正論言わないでよ。私、自分に非があるってわかる正論が1番嫌いなの」

 

 スラム育ちのギャングでももうちょっとまともな発言しそうなレベルの発言に対して、相も変わらず食い方があまりにも上品で脳がバグりそうになる。

 こんなのが名家の令嬢で、こんなのでも名家の令嬢なのかよ。

 

 それにしても本当に綺麗に食うな。魚がまるで始めからその姿であったかのように身を丸裸にされて骨にされている。

 

「……何よそんなじろじろと」

「いや綺麗に食うなーって」

「当たり前でしょ。いつどんな時も誰に見られているか分からない。魔導九家の人間は常に自分がその家の人間であることを自覚し、栄光ある人生を保証される代わりにその人生のほぼ全てを家の為に捧げる。どんな小さなミスも許されない」

 

 そういう割にはアラシ先輩も含めてかなり自由に振舞ってた気がするけれど、そこら辺の感覚も俺達とは違うのだろう。惟神家はもう200年以上前に魔導十家としての立場を捨てているから、こればかりは俺がいくらチートでも理解のできない感覚だ。

 

「でも、今は勘当されてるんすよね? じゃあ家なんて関係ないから好きに過ごせばいいんじゃないすか?」

 

 口の周りを少しカレーで汚し、アニキスに拭かれているシャッティがとんでもないことを口にした。

 またこの子ったら、シャッティは聞いたのがシャッティじゃなかったらまたハツネが魔導錬成をしてもおかしくない発言を気軽にぶち込んでくる。

 ハツネはため息を吐いてから俺の方を見て舌打ちをしただけで済ませてくれたが、俺が口にしてたら3回くらい魔導錬成してたよ間違いなく。

 

「確かに以前は家の為にやってたわよ。でも今は違うのよ。家柄にだけ飛びついてきた寄生虫(とりまき)もみーんな私を捨てて消え去った。だけど、それで私が私を変える理由になる?」

 

 ハツネは米を一粒残さず器用に口に運び、黙ってよく噛んで飲み込んで可食部位を何一つとして残さずに食事を終了させ、小さくご馳走様と呟いてから再び俺に目を向けた。

 

「私は強くて自由でやりたいことをやってる私が好きなの。責任がないから遊び呆けるなんてダサいマネ、金を積まれたってやってやらないわよ。私は私が好きなようにやる。もう二度と、誰かに邪魔なんてさせはしないのよ」

 

 そう言いきった彼女には、確かに芯の強さのようなものを感じた。

 うん、そうだよな。腐っても魔導九家の次期当主予定だった人間。この年齢で魔導錬成を使いこなす本物の天才。

 どのような人格であれ、彼女の芯に宿る強さは本物であるのだから。

 俺達は思わず拍手をし、ハツネが今日一番の舌打ちをしたのを聞いて3人揃ってすぐに手を引っ込めた。

 

「さて、食事も済んだことだし……早速だけど再戦いいかしら?」

 

 ハツネは滑らかに手袋を外し、そのままそれを天井すれすれまで投げてから俺に向かって指を銃の形で向けていた。

 それを見て俺はまたかぁと思いながらカレーを一匙口に運んで、それから大慌てで地面に落ちる前に手袋をキャッチした。

 

 シーカ魔導学院の決闘の流儀として、手袋が地面に落ちるのを見届けたらそれは決闘の承諾だが逆に言えば落ちるのを防いだりすればそれは決闘を受け入れないということだ。

 

「何よ、ノリが悪いわね」

「ノリも何もねぇよ。ここ食堂、俺食事中」

「喋りながら食べてるからよ。さっさと食べて私にリベンジさせなさい。負けっぱなしって一番嫌いなの」

「えー、ヤダ。お前すぐ魔導錬成使うじゃん」

 

 さすがに魔導錬成に打ち勝ったとなると噂とか人の目とかが煩くなるから、正直あんまりやりたくはないんだよなそういうの。

 そして、もう一度やったらあの春雷連打で普通に競り負けるかもしれないので嫌だ。

 俺は一度勝った相手に負けたら普通にめちゃくちゃ悔しいし落ち込む。チート持ちだからこそ心は繊細なんだぞ。

 

「アンタの都合なんて知ったこっちゃないわよ。さっさと食べて準備しなさい」

「勝負しねぇよ。少なくともそんなわがまま言ってる間は……あ」

 

 と、会話をしていたら意識が緩んだのか指先からスプーンが滑り落ちてカレーのルーと共に俺の靴へと落ちてしまった。

 

「あーあ、なにやってんのよ。魔導学院の生徒が幼児みたいなミスしないでくれる?」

「お前が話しかけてくるからだろ。あー……カサネ先輩から貰った靴なのに」

「……ったく、しょうがないわね」

 

 ハツネはポケットから取り出した純白のシルクのハンカチを、なんとなんの躊躇いもなくカレー汚れを拭って見せたのだ。

 

「え!? お前、なにやってんの!?」

「さっさと拭わなきゃシミになるでしょ。いい品なんだから、プレゼントした方もしっかり長く使ってくれた方が喜ぶわよ」

「……ありがとな。ハンカチ、後で弁償するよ」

「綺麗なだけのハンカチに意味なんてないわよ。こういうのは使ってこそ意味があるんだから気にしないで」

 

 なんというか、コイツって意外とまともなところもあるんだなと感心してしまっていた。

 特に俺は情けない話なのだが、義姉さんがいた分こういう面倒見の良い女性に反射的に憧れに近い感情を抱いてしまう節がある。

 

 そうだよな、当然だけど人は悪い所ばかりのはずがない。

 初対面は悪いところばかり見えたけれど、ハツネだって根っからのクズとかではないんだ。

 

 何となく分かり合えた気になって嬉しくなりハツネに視線を向ける。彼女は少し屈んだ姿勢のまま、何故か俺の靴を凝視したまま固まってしまった。

 

「あれ、ハツネ?」

「ハツネさーん? どうしたんすか?」

「…………めろ、って言って」

 

 小さな声で、ボソリと。

 だが急に変なことをハツネが呟いたものだから思わず俺は復唱する形で聞き返した。

 

 

「舐めろ?」

 

 

 なんの事か問返す前に、ハツネの頭が下がる。

 地面に頭を擦り付けるほど姿勢を低くして、丁寧に、汚れがどこについているかを把握し、一流の職人技のように。

 俺の靴に、その小さく、されど長くて髪の毛よりもなお鮮やかな桃色の舌を這わせ、一舐めした。

 

「え」

「わぁ」

「うおっ」

「………………え?」

 

 4人揃って素っ頓狂な声を、その原因たるハツネが一番驚愕したような声を漏らした。

 なんで? なんで今俺の靴を舐めた? 何かの間違い、と思いたいが靴には確かに彼女の唾液で濡れた後が薄く刻まれている。

 

 何かの間違い、そう、きっとこれは何者かによる幻覚攻撃だ。そうじゃなきゃ今の流れからハツネが俺の靴を舐める理由がないだろ! だから俺はこの場にいる者たちを追いつける為に一声。

 

「待てっ!」

「わ、わんっ! …………あ」

 

 今度こそ時間が止まった。

 不慣れで、それでも懸命に主人の声に応えようとするような可愛らしい犬の鳴き真似が、食堂中に轟いた。

 

「…………その、ハツネさん?」

「ちがっ、別に靴を舐めたいとか、犬みたいに首輪を付けられて、お預けさせられて、しっかり待てたら、そんな簡単なことをやるだけでそれが出来ないみたいに褒められて、バカにされてるみたいなのに興奮とか、そんな想像! 一切合切、これっぽっちも私はしてないわよ! してないんだから!」

 

 聞いてもいないやたらと詳細な言い訳をしながら、ハツネは顔を真っ赤にして、されど走ったりせずに早歩きで食器を返却してからその場から立ち去ってしまった。

 残されたのは、唖然としている俺と周囲からの視線。

 

「え、なに? あれって道祖さんじゃ……」

「惟神家の1年、やっぱり負かした相手を監禁して調教してるって本当だったんだ……やべぇよ……」

 

 うん……。

 もう、なんだか慣れてきたな。

 

「とりあえずオイラ達は誤解を解いてくるっすね……」

「お前が今行動するよりは、俺達の方がいいだろうからな」

「ありがとう。そしてゴメンなシャッティ、アニキス」

 

 周りの2人ももう慣れっこと言った感じで対処しに行ってくれる。

 そして、いつの間にか俺の隣にはロン毛のマスク男ことおもしれーくんが立っており、彼はただ一言。

 

 

「明日は、いい事あるよ」

「お前、おもしれー何とか以外も喋れるんだな」

 

 

 おもしれーくんの名前、バルゼ・プロキアスって言うんだって。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「いやぁなんというか……不憫というか豪運というか。凄まじい人っすよね彼」

「あぁ、幸運にしろ不運にしろ持っている、というのは間違いない」

 

 校舎の影の一角。

 あまりにも哀れすぎる誤解……でもない誤解を受けたハバキとハツネの名誉回復の為に奔走し、一仕事終えて一息つくアニキスは、周囲に誰もいないことを確認し、遮音の術式を張り巡らせた。

 

「……我らも休憩するとしましょう」

「そうっすねぇ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それと同時に、シャッティの声色がほんの少しだけ変化する。

 元々男性にしては高めで声変わりもまだ、と言った様子だった故にそこまで変化はないように聞こえる。だが、聞くものが聞けばその違いは確かであった。

 

「あの者、惟神ハバキの様子はどうでしたか? ()()()()()()()()?」

「そうね……魔力量は最低でも()()()()あるわ。これだけ巻き込まれるなら運命力も十分」

 

 シャルロッティ、私。

 本来ならシャッティ、オイラという言葉が入るはずの場所に入ったその単語こそが()()達の真実。

 

 

 4年前まで確かに地図上に存在し、そして今や完全なる廃墟となり国民全てと共に消えた亡国、ニーベルア王国。

 

 

「ハツネさんも、初めは驚いたけれどいい人だったものね。うん、この国の人はなんだかんだで素敵な人ばかりだったよ。()()()ハバキくん……彼のような子に出会えて良かった」

「……シャルロッティ様、ではやはり」

「うん。我が国を滅ぼし、そして今この国も滅ぼそうとしている()()()()。たとえ相討ちになろうとも、奴を倒してみせる」

「このアニキス・ディフェクス。シャルロッティ様の選択に最後までお供させていただきます」

「……ええ、お願いしますアニキス。必ずや、あの受肉降魔は私が」

 

 シャッティと名乗っていた、そして今はシャルロッティと呼ばれた少女は手の内に一振の剣を出現させる。

 それは明らかに魔導錬成を用いたものであり、だが彼女はなんの詠唱も無しに現したそれを当然のように軽く振り、具合を確かめて満足そうに微笑んだ。

 

 

 

「元ニーベルア王国第二王女、シャルロッティ・ニベルライトが必ずや討伐してみせます」

 

 

 

 かつて故郷を滅ぼされた憎しみ、そして新しく出来た友人たちの国をそうはさせまいとする使命感。

 シャルロッティとアニキスは決意を飲み込むようにして校舎の影に溶けるように消え、それから寮に戻ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 









・シャルロッティ・ニベルライト
シャッティという名前で密かに生き延びていた王女様。13歳でサバを読んで入学した。実は舎弟RPは本で学んで、かなり楽しんでいた。

・アニキス・ディフェクス
19歳。14歳でゴリ押したスキンヘッドで顔に傷がある筋肉モリモリのマッチョメン。兄貴RPは実はかなり心労がやばかった。


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