真の実力はギリギリまで隠しているべきだったかもしれない 作:ちぇんそー娘
読者様から『キャラクターの苗字が難読すぎて覚えられない』『アラシ先輩が市川雛菜を連想させる』等の声がありました。
そのようなご意見を受けて、市川雛菜のSSRを当てられないPの自覚のない投稿者も反省して名前を変更することにしました。得用20個入ではなくなりましたが心機一転、美味しくなってリニューアルしてチートハーレム杯期間中に書き終えます。
降魔とは神に近しい存在である。
人がこの世界の法則に従い生きるのに対し、降魔は己の法則で生きる。だから降魔は強い。肉体を持たず、この世界に対して干渉力が低い状態でも都市を滅ぼせると言われているほどだ。
では、受肉降魔は?
人と同じように肉体を持ち、されど人の法則に縛られないモノ。それは最早神すらをも越えた存在である。
「ッ!? ここは……?」
「俺と君だけの空間だよ。話は君とだけしたいからね」
いつの間にか俺は、さっきまでのカサネ先輩のセーフルームではなく、真っ白な空間に椅子二つと机一つが置かれた不思議な場所にいた。そして、その内の椅子の一つに腰をかけ、俺に座るように促しているのは俺のクラスメイトである……えっと、おもしれーくんだ。
「お前、何者だ?」
「それもおいおい話していこうと思う」
「まどろっこしいのは嫌いだ。……お前、受肉降魔か?」
俺の質問に対しておもしれーくんは笑顔で、普段の何気ない会話のように答える。
「大正解。改めて自己紹介しようか」
おもしれーくん、いや。
受肉降魔はマスクを外し、その口元を顕にした。
裂けたような紋様が施された頬と、舌の上には何らかの魔術的記号が彫られた異様な容姿。たとえ赤子であろうとも、その異様さと存在感に目を惹かれ、恐怖するだろうという確信がある。
「我が名はバルゼ・プロキアス。降魔の内最上位に属する七階、第五位に座する『悦楽』の王、バルゼ・プロキアス!」
七階、というのは降魔のランクのことだ。
降魔である時点で驚異であることには変わりないのだが、その中でも降魔には下級、中級、上級とランクがある。
じゃあコイツは? となるがそんなランクなど意味の無い存在だ。
七階は降魔の王。7体しか存在しない、神話の中でのみ語られるこの世を削るために生まれた悪逆の刃。
存在そのものが世界を歪める絶対悪。そのうちの一体が自分だと、はっきりと、
さすがにこれはやばい。
カサネ先輩と二人がかりでならともかく、今の状態だと俺でも勝てるかは分からない。相対して改めて、シャルロッティがあれだけ恐れていた理由がわかる。
コイツらはダメだ、この世界にコイツらが在ることを許してはいけないのだ。
ただそこにいるだけで法を腐らせ、原理をねじ曲げ、道徳を膿のように吐き出させる。まさに悪という概念そのもの。
「というか名前、降魔の真名って大事に管理するものじゃねぇのかよ?」
「…………既に教えたよね?」
「マジ?」
これは本当に申し訳ないんだけど、全然覚えてなかったわ。
「ふふっ、恐れているように見えて普段と変わらない。そもそもこの俺の名前を忘れるなんて、おもしれー極点……ますます好きになる」
「生憎、俺はお前のことが嫌いになったよ」
「それは残念。なら、どうする?」
かかってこいと言わんばかりに受肉降魔、バルゼ……えっと、バル…………おもしれーくんは両手を大きく広げる。
勝てる可能性は、おそらくは半々だろう。だがそれで十分。
「悪いが、シャルロッティと約束をしたんだ。だから負けられないぜ、受肉降魔様よ」
「………………ふっ、シャルロッティって誰?」
何を言ってるんだコイツ、と言わんばかりの顔で。受肉降魔おもしれーくんは威厳のへったくれもない間抜け面を晒しながらそう答えた。
何言ってんだコイツ。
「忘れたとは言わせねぇぞ。お前が滅ぼした国の王女様の名前だよ!」
「滅ぼした国? そんなもの覚えてないよ」
コイツ……!
人間の命なんて数えるに値しないと、そう言いたいのか。やはり降魔の王。コイツは絶対に生かしておけない。
「アニキスは何処にいる。どうせ人質として活かしているんだろう!」
「いやそれ俺も聞きに来たんだよ。何処にいるの彼?」
「…………」
なんか、おかしいな。会話が噛み合ってない。名乗りまではめちゃくちゃ威厳があったのに、もう完全におもしれーくんの雰囲気に戻っちゃってるし。
「その、一応確認するけどさ。お前ってシャッティが女の子って知ってた?」
「マジ? おもしれー真実……」
「それで実は亡国のお姫様って知ってた?」
「マジ? おもしれー真実……」
こんなことがあっていいのか正直分からない。
降魔が受肉するというのは、それだけで歴史書に刻まれる大事件。歴史上それが起きた時代は重大なターニングポイントとして、様々な厄災が巻き起こり時には人類滅亡の危機にまで発展している。
だから、そんなことあるはずがないけれど、一応聞いておかなければならない。
「お前、何しに来たの?」
「サプライズで、ハバキくんを驚かせようと思って探したんだよ。驚いた?」
コイツ、特に事件と関係の無い通りすがりの受肉降魔だわ。
「へぇ〜俺以外にも受肉降魔が。おもしれー状況」
「何が面白いんだよ。人類からしたら台風が上下から突っ込んできてるんだよ」
真っ白空間で適当に茶をしばきつつ、お互いの認識を擦り合わせていく。
おもしれーくんこと……ダメだ、全く真名が覚えられない。受肉降魔としてのおもしれーくんは、何となくつい最近受肉したらしい。何となくで受肉されるのめちゃくちゃ困るんだが?
そして受肉したので人間の営みを見ようと思いこうしてシーカ魔導学院に転がり込んで、あの入学式というわけだ。
「俺は君に『極点』を見た。こう、肉体で言う足の間のところがうずうずしたのさ」
「きっしょ」
「ふっ、受肉降魔に対してその態度……おもしれー」
ダメだこいつ無敵だ。箸が転がっても面白い期の赤ちゃんみたいな情緒している。
実際受肉1年生らしいから赤ちゃんでも間違いではないらしい。肉体を持つというのに慣れてないのか、さっきからやたらズボンの下でアレの位置調整してるし。
「ともかく俺は君が好きだ。だから君を観察し、友人となり、今日はより親交を深めるために己の正体を明かしに来ただけだ」
つまりタイミングが死ぬほどややこしいだけの一般通過受肉降魔おもしれーくんということだ。
嘘だろ死ぬほど迷惑。なんでわざわざこのタイミングで突っ込んでこれるんだこいつ? お前の方が俺よりよっぽどおもしれー存在だろ。
「しかし俺以外にも受肉降魔がいるとは……ふむ……それは、面白くない」
「やっぱり降魔同士でも仲とか政治みたいなのあるのか?」
「いやそれは無いけれど、今度アニキスに料理を教わる予定だったのだが、彼が囚われてるとなると教えて貰えない。面白くない。しかし、受肉した降魔同士は不干渉がこっちの決まり事、故に俺は手を出さない」
面倒くさそうな顔をして頬をかいている。おもしれーくんは俺のことは贔屓にしてくれているようだが、それ以外は多分、この世界を含めて全てが割とどうでも良いのだろう。
でも、おもしれーくんは俺には興味がある。
カサネ先輩に今だけは感謝しなければならない。あの頭のおかしい入学式のモテモテ大作戦のおかげで、今こうして一つのチャンスを手に入れた。
「なぁおもしれーくん? 俺と契約しないか?」
「いいよー」
「軽っ」
「さっきも言ったけど俺君のこと好きだし。断る理由ないよ」
そりゃあこっちもその弱みにつけ込むつもりだったけれど、ここまで軽いとは思わなかったんだよ。
「んじゃあ、もう一体の受肉降魔討伐を手伝ってくれ」
「よし。それじゃあ何を差し出す? 一応言っておくけれど、七階、第五位の降魔。『悦楽』を司る俺に対して、何をさしだすのかな?」
先程までと話の雰囲気は何も変わらず緩いまま。
されど、この質問は決して答えを誤ってはいけない質問だ。契約とは、降魔にとって最も重要なモノであり、俺が何を差し出すかによっておもしれーくんもどれだけ力を貸すかが決まる。
そして、差し出したモノの価値は降魔側が決める。
つまり、俺は己の願いの価値を自分で考え、口にして、おもしれーくんに認めさせなければならない。
「これからも友達でいてやる。一番近くで、お前におもしれー俺の姿を見せてやるよ」
「…………ふっ、おもしれー男」
心臓が鎖で縛られるかのような苦しさ。
降魔との契約が完了し、俺とおもしれーくんの魂が繋がったことを表す。
「改めて、我が名は……まぁなんでもいっか。おもしれーくんでいいよ。とにかく、俺は君の契約者だ。君が払う対価に応じ、その願いを叶えよう!」
心底楽しそうなおもしれーくんに対して、俺はちょっと冷静になってきた。
そういえば降魔との契約って死罪じゃなかったっけ? まぁ今は状況が状況だし、多分情状酌量が働くだろう。深く考えないでおこう。
「だが、この契約は君が俺にとってのおもしれー男である前提で成り立っている。もしも俺が君を面白くないと、興味が無くなったその時は」
「あぁ……わかってるよ」
さすがにそこまで上手い話ではなかったようだ。
当然ではあるが、もしも俺がおもしれーくんを楽しませられなくなったら。
契約違反となった場合、俺の魂を奪う。そう言いたいのだろう。
「ケツを出せ」
「あぁ…………あ?」
「よし契約成立」
待って今のなし。
とんでもない事を言わなかったコイツ?
「ケツって、ケツ? 臀部?」
「うん。面白くなかったら、娶るね」
「は?」
「君が面白くなくなっても、君の子供なら面白いかもしれないし」
「俺男だよ?」
「俺降魔だよ? 男でも孕ませられる」
魂とかの方がよっぽどマシな契約させられたんだが?
というか俺が孕ませられる側なのかよ。そこはせめて性別可変とかにしてくれないか?
「というわけで、これからもずっとおもしれー姿を見せてくれよな。俺の見つけた、唯一の『極点』……」
ものすごく、なんだか湿ってるような声で。その視線は明らかに俺の下半身に向けられていて。俺はとりあえず怖くて尻を抑えた。
せめて見た目だけでも女の子になってくれねぇかなコイツ。
どれだけ優秀かつ悪辣かつ、性癖がどうしようもないくらい終わっていたとしても彼女は14歳の女の子なのだ。
普通に少女らしい夢だって見るし、人並みに自分の親の事は大好きなのである。
「どういうことですかお父様」
「どうもこうもない。近日、私の方から惟神家に公式試合の申し込みをする」
自分が気に入らないものならばたとえ神であろうと噛み付く自信があるハツネであるが、そんな彼女が唯一口答えができない存在。それが父親であり現道祖家当主である道祖クナドである。
「元を辿ればお前が原因だハツネ。あの家は魔導十家に名を連ねながら、その誇りと責務を捨てた家。そんな家のものに無様に負け、魔導錬成までみせてしまっては、我が家だけではなく魔導九家の恥だ」
「ならば私に再戦の機会を用意してください! 次は……」
「魔導錬成を破られたお前に、それ以上の切り札があると?」
「…………」
黙るしか無かった。
自分ではあの惟神ハバキに勝つ方法は現状存在せず、現在はなんの肩書きもない惟神家に、魔導九家の人間が圧敗したとなればメンツが潰れる。
全ては自分の責任であり、仕方の無いこと。
「それを伝えるためだけに、わざわざ勘当した私を呼び戻したんですか?」
「その通りだ」
「……え? 本当にそれだけですか?」
「その通りだが? 悔しいだろ? 別に勘当したはいいが本心では心配で顔を見る機会を作ったとかではないからな?」
「そう、でしたね。お父様は、他人の悔しがる顔が大好きでしたもんね。もう既に私と貴方は他人ということですか?」
「…………………………ふん。好きに捉えろ。お前の好きに、できるだけいい感じの方にな。好意的に捉えていいぞ。ポジティブな方が生きやすいからな」
娘が娘なら父も父である。
ハツネは相手が父親でなければ本気の舌打ちを披露していただろう。
「それに今回は我が家だけの問題では無い。
「協力……? 公式試合は1対1の真剣勝負では無いのですか?」
「そうも言っていられない。万一にも、魔導九家があの家にメンツを潰されたままなど、あってはならない」
ハツネは勘当された身であれど、道祖の人間として生きてきた自分に誇りがあった。
誇りとは、己の行動に対して湧くもの。決して曲げてはならないものを曲げないからこそ、誇りは保たれる。
幾ら惟神の家が頭のおかしいイノシシみたいなことしかしないイカレポンチの集まりだからといって、魔導九家が複数で潰しにかかるなんて、彼女がこの家で育くんだ誇りに反することだった。
「道祖がそこまでして、誇りすら投げ捨ててまで潰さなければならないほどのことを、あの家はしたのですか?」
「した。具体的に言うか? 入学式で3年前には惟神カサネが、そして今年では惟神ハバキが暴れまくって、特に後者のせいで保食の家の娘は酷いトラウマを植え付けられたらしく、最近では部屋に籠って如何に舌だけで靴を綺麗に磨けるかの研究に没頭しているらしい」
「それはさすがに全力で潰したくなりますね」
思ったより具体的かつ凄惨な結果を言われハツネも冷静になってしまった。
自分の娘がそんな風にされたらそりゃあ相手の家を潰したくもなるだろう。基本他人のことはどうでもいいハツネですら保食家の人達が少し可哀想に思えてくるほどだった。
そりゃあ可愛い娘がいきなり靴を舐めることに生き甲斐を見出すド変態になってたら親としては相手が憎いだろう。ハツネは他人事のようにそう思った。
「ともかく、無事に惟神家を潰せれば私もお前をなんの気兼ねもなく家に戻せる。お前としても喜ばしいことだろう?」
そんなことを思い出して、ハツネは非常に不機嫌であった。
自分が弱くて思い通りにいかないという現実がとにかく腹立たしくて仕方がない。ストレス発散のため昨日の夜は亀甲縛りを自分にしてみたが1人だとあまり楽しくもなかった。
「おい……ほんとに大丈夫なのか? 俺何もかも不安なんだけど……」
「緊張してるのか? ふっ、かわいいじゃねぇか……おもしれー男」
「あっ、やめろ! ケツを揉むなケツを!」
「今更何を言ってるんだよ。あんなに深く繋がった俺とお前の仲だろ?」
「くそっ……これ本当に必要なことなのか?」
そんなハツネの耳に、聞き覚えのある声で聞き覚えがあったらダメなタイプの会話が聞こえてきた。
間違いなく1人は惟神ハバキのもので、もう1人は……確証はないがいつもハバキと一緒にいるロン毛でおもしれーって口癖のように言っている男だろう。
隠れるなんてそんな自分らしくないこと、普段のハツネなら絶対しない。だが、これはなんというか、さすがに隠れなきゃいけない気がしたのだ。
物陰から、人気のない校舎の影でお互いの身体を触りあっている2人を見る。
「……っぅ、おい、やっぱりこんなのおかしいだろ」
「何がおかしいんだ?」
「だって……やっぱり、これは……」
「今更怖気付いたのか? ふっ、そういうところもおもしれー」
「くっ……殺せ!」
脳が壊れた。
ハツネの中で確実に何かいけない扉が開いた。あれだけ自分を一方的に打ちのめした惟神ハバキが、臀を撫でられて顔を真っ赤にしている。まるであのおもしれーが口癖の男のモノであるかのように弄ばれている。
許せない。ハバキは自分が倒す。そうやって挑んで負けて、めちゃくちゃにされるはずなのになんで誰かの手で、私以外の手で……。
悔しくて悲しくて、腹立たしい。
そのはずなのにハツネは興奮していた。
自分のモノが誰かに奪われてしまうのも、男と男が意味の無いはずの愛を育んでいる様子も。今までどうでもいいと思っていたそんなものがこの世で最も尊いもののように感じる。
しっかりと目に収めつつ、薔薇の花園を決して汚さぬように立ち去りながら、部屋に戻って大人しくその光景を絵に描き写しておくことにした。
道祖ハツネの性癖はめちゃくちゃになった。
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