真の実力はギリギリまで隠しているべきだったかもしれない 作:ちぇんそー娘
何とかチートハーレム杯中に完結間に合いました!
その知らせは突然舞い込んできた。
ハツネの実家、つまり
魔導九家らしい上品な文章で装飾されているが、その内容を抜き出して俺達庶民にも伝わるように言えば。
『よくもうちのメンツを潰してくれたな。衆人環視の中でボコって格の違いを教えてやるから逃げんじゃねぇぞボケ』
……ってことだ。
そもそも
「このタイミング、どう考えても罠だろうな」
「ですよねぇ……」
道祖家のご当主様は直接俺を指名しているし、立会人として同じく魔導九家の
つまり、この日は俺と義姉さんの2人はこのセーフルームでシャルロッティの警備には参加出来ないのだ。
「お前から何か言って止めさせられたりしないか、アラシ?」
「うーん、そもそもうちはあんまり発言力ないですしぃ。当主の方針としては他所の家と政で関わるのはいや〜って感じですねぇ」
「まぁそうだよな。最初からお前には期待してない」
「あは〜辛辣〜」
「ですが……逆に言えば『道祖』、『保食』、『風辺』。この三家のどれかに受肉降魔が潜んでいる確率が高い」
「アラシ、受肉降魔から1人でシャル守れるか?」
「先輩私に死んで欲しいの〜?」
さて困った困った。
シャルロッティを一緒に連れていくという手もあるが、そもそも外に出すことの方が危険は多い。そもそも俺もカサネ先輩も守ることより消し飛ばす方がずっと得意なタイプだし。
そもそも、わざわざ俺とカサネ先輩を呼びつけてるんだからそこで纏めて二人とも始末するって考えの可能性もあるなぁ。そっちだと嬉しいけれど、無差別攻撃とかされて人死にが出るのは俺としても喜ばしくない。
やはり先にみつけて先制でぶん殴るのが一番なんだけどなぁ。
「そもそも三家揃ってアウェイに誘き寄せるとか大人気ない〜。惟神家ってホント嫌われてるね〜。さすがって感じ」
「お前ん家のが嫌われてるよ。謙遜するな」
「あは〜?」
カサネ先輩とアラシ先輩が壮絶な肘での小突き合いを始めたのを横目に見つつ、俺は教室の入口に目を向ける。
まるで
さすがに受肉降魔が通りすがって契約しました、はみんなに言えないから黙っておいてって言ったら限定的に時間を巻き戻してくれたのだ。
改めておもしれーくん本当に受肉降魔なんだよな……。時間逆行なんていくら魔術でも起こせない奇跡のはずなのになんかサラッとやっちまってるし。
とは言え言うことを100%聞いてくれる訳でもないし、下手すると俺の命よりも失ってはいけないものが失われるので頼りきることも出来ない。
「あんまり良くないことだろうけれど、試合を受けない、って選択はダメなんですかね。もしかしたら、誘い込んでハバキくん達を殺すつもりなんじゃ」
「あ、それならOK。勝てる勝てる」
「そうだな。私とハバキが揃ってるなら受肉降魔くらいならまぁどうにかなる」
「どうにかなるんですか!? 私の国滅ぼした相手ですよ!?」
一つ確信を持って言えるのは、殴り合いでの勝負になれば100%俺が勝つ。
相手にもそれなりに手札があるだろうが、それはこちらの
そういう確信があるから俺も、義姉さんもいつもと同じように気楽に振る舞える点があるのだ。
アラシ先輩は知らないはずだけどまぁ……アラシ先輩だからなぁ。
けれど、俺は殴り合いが強いだけで隠れたり探したりが得意な訳じゃないからそっち方面で勝負されたらあっさりシャルロッティが攫われてゲームオーバーも有り得るんだよなぁ。
「シャッティ……じゃなくて、シャルロッティも切り札あるらしいけどそれって使えるのか?」
「使えますけど……私のも正直戦闘を始める前提で……」
これだから陰湿で狡猾な降魔は。
殴って終わりの単純な相手ならどれだけ簡単だったか。かくれんぼと鬼ごっこをしてようやく勝負してくれるとか、昔のポケモンのエンカウント式伝説みたいな面倒くささ。金銀リメイクのサンダーくらい堂々としろよまったく。
「まぁでも、都合がいいっちゃ都合がいいかな」
「ん〜? 現状私達にいいことなんてなんにもなくない〜?」
「いや、わかってることがある。相手は少なくとも私とハバキを罠にはめようとしている。これがどういうことがわかるか?」
惟神家の家訓、その三十二くらいにはこういう言葉がある。
「罠を仕掛けるということは相手はビビってる」
「ビビって腰の引けた相手は胸ぐら掴んで殴れば勝てる」
「ッ! 潜み隠れる受肉降魔の策に敢えて乗ることで、相手が姿を晒さざるを得ない状況を作るということですね」
多分そういうことだと思う。俺とカサネ先輩は爆弾仕掛けまくった野原を走らされたりしてただけだからよくわかんないけど。
改めてなんだか行ける気がしてきた。やっぱり日頃からカサネ先輩が言うように力こそ正義なんだな。
「……え? これ私が真面目にやらないといけないやつ?」
普段の惚けた口調すら忘れてアラシ先輩がそう呟いた。
さて。
やれることはもうあんまりないのであとは英気を養うだけなのだが。
「……あの。ハツネさん? どうしました?」
「あらこんなところで。偶然ね」
おもっくそ俺の通る道を通せんぼするように立っているのに偶然もクソもないだろ。
「そのー、俺明日から色々忙しくなる予定なんで。今日は早めに帰りたくて……」
「逃げた方がいいわよ。多分、明日行ったらアンタ大怪我することになるわよ」
勘当されたとはいえハツネは道祖家の人間。多分なんとなくの事情は知ってるのだろう。
でもね、多分実際は大怪我どころかワンチャン死ぬし、行かなかったら行かなかったでほぼ間違いなくケツを掘られるんだよ。
「悪いな。俺には絶対に退けない理由がある」
シャルロッティの為にも、あとモテたいしケツを掘られたくは無いし。
「せっかく人が親切で言ってやってるのに……負けたら許さないからね」
「相手お前の父親だぞ? そっち応援しなくていいのか?」
「あの人は私に応援なんてされたって嬉しくない。それに、アンタを倒すのは私なのよ。だから……」
ハツネは少しだけ目を伏せて、上擦りそうになる声を抑えるようにしぼりだした。
「私以外のやつに負けて絶対服従を強いられて体を思い通りに弄られてそれでも心だけは、と抵抗し続けるも虚しく……みたいなことになったら許さないわよ」
「ごめんなんて?」
「私以外のやつに負けて絶対服従を強いられて体を思い通りに弄られてそれでも心だけは、と抵抗し続けるも虚しく……みたいなことになったら許さないわよ、って言ったの。一度で聞き取りなさいよ」
一度で聞き取れちゃったから聞き直したんだろうが。
ハツネは俺にそんな風に負けて欲しいのか、それともそうなって欲しくないのかどっちなんだ?
想像内容が具体的すぎて前者としか思えないんだが?
「……おう、応援ありがとな!」
「応援なんてしてないわよ」
知ってるよ。世辞に決まってんだろ。
こんな地獄のような応援あってたまるか。
「……あと、一つ聞きたいんだけどさ」
「なに? 変な質問しないでくれよ?」
「しないわよ。アンタって、受けでいいのよね?」
何の話か分からないけれど、これにどう答えても最悪な未来になる気しかしなかったのでとりあえず俺は無視して走って帰ることにした。
「はじめまして、ハバキくん。ご両親は元気かな」
「ええ。息子の晴れ舞台にも駆け付けずに武者修行に明け暮れるくらいには」
闘技場の中心で、俺は髭を蓄えた初老の男性と向き合う。
彼こそがハツネの父親、現道祖家当主である道祖クナドさん。そして今日の俺の対戦相手でもある。
若い頃はうちの義父と殴り合いしてたらしいから、めちゃくちゃ怖いんだよな。正直うちの父親、受肉降魔とかより全然怖い。
「それで、勝負の前にひとつ聞きたいのだが。いいかね?」
「なんですか? 一応言っておくと、俺はおたくの娘さんとはなんの関係もないですよ?」
「……そうか。よかった……ではなく、向こうについてだ」
クナドさんが指を指した方向には、惟神家用に用意された専用の観客席がある。そこには美しい朱色のドレス身に纏い、不機嫌そうに足を組んで座っているカサネ先輩の姿がある。
「安心してください。今日は
「なるほど。大人の世界が汚れていることくらいは知っているようだな。だが、聞きたいのはそっちじゃなくてな」
クナドさんの指先は、カサネ先輩ではなくその隣に向けられていた。
「あは〜! この席すごく近い〜。頑張れハバキく〜ん」
うん、アラシ先輩がいるね。
「あの子、御狐家の子だよね? なんで君の家用に用意したところに堂々といるんだ?」
「妻です」
「え?」
「まだ籍は入れてませんが、将来を誓い合ったので実質惟神家の人間です」
できる限り大真面目に、何もおかしいことなどないと言わんばかりに胸を張って俺はそう応えた。
冷静になってきたが、これダメじゃないか? これが通じるのは逆にそっちの方がダメな気がする。
「…………そうか。まぁいい」
いけたわ。
いけちゃうんだこれ。いけていいの?
「ほら、シャルちゃんも応援してあげて〜。お嫁さんでしょ〜? 夫のことは応援してあげないと」
「え、えっと……がんばれ〜?」
惟神家用に用意されたその席には、当然のような顔をしてアラシ先輩とシャルロッティも座っていた。
正確には当然のような顔をしているのはアラシ先輩だけで、シャルロッティの方は顔を真っ赤にしてちょっと俯いてる。
「ではその隣の見慣れぬくすんだ金髪の子も……」
「妻です。未来の」
「二人か……ふん、豪快だな」
よし、ギリギリ通った。
まさかこんな方法でアラシ先輩とシャルロッティを近くに置いておけるなんて、さすがはカサネ先輩、頭が柔らかい。普通どう考えても無理過ぎてこんなの実行するわけないもん。これでいけるという発想には常人ではたどり着けない。
代償として観客席から聞こえてくるざわめきと目線が刃みたいに鋭くなって俺を攻撃してきてるが、既に学院で同級生から全く近づかれないせいでこういうのには慣れている。
「では、あの隣に座っている長髪の青年も」
「知らない人です。つまみ出してください」
「ふっ、おもしれー返答……おもしれー……」
ちょっと落ち込んでるおもしれーくんが連れていかれた。
契約で魂が繋がってるからその気になればすぐ呼べるからどこにでもいていいと言ったが、そこに座ると誤解を産むからやめろマジで。
「もしかしてあの長髪の男も……?」
「やべぇだろ惟神のやつ。女二人囲っておいて男も?」
「性癖終わってやがる……」
ほらね、すぐこう言う変な噂流れる。だがもういいよ、俺が全部終わらせてやるから。受肉降魔をぶっ倒せば多分今度こそ、モテモテになれるはず。だからあと少しの辛抱、今日ここから俺のチートハーレムが始まるんだ。
「では、準備は良いな?」
クナドさんはそう言って魔力を励起させ臨戦態勢に入る。俺も同じように準備をする。
指先に魔力を集め、ただ一言、極めに窮めたこの一撃を。
シャルロッティ・ニベルライトがこの場に来ることは彼にとって想定外だった。
てっきりどこかに隠すものだと思っていたから、邪魔者やこの国の要人達が集まっているこの闘技場を
1万年かけてようやく見つけた理想の魔力。『黄泉王』にも負けない魔力量を誇る、『極点』に至る可能性を持つあの肉体。
その為にわざわざここまで計画を練ったのだ。それがあと少しで、もう手を伸ばせば手に入るのに慎重に動かないと壊れてしまうのはあまりに歯痒い。
しかしこんな風にコソコソと潜んで行動するのも今日が最後。
あの肉体さえ手に入れれば、もう全ては自分の掌の中。彼はそんな本性をひた隠しにして、この場にいることが当然の1人として試合が始まるのを待っていた。
道祖クナドも惟神ハバキも、倒すこと自体は簡単だがそれなりに面倒な相手だ。勝手に削りあってくれるなら殺すのはその後で十分。
「…………」
そう思っていた時、会場の中心に立つ惟神ハバキと目が合った。
偶然だ。いくら奴が強くとも、本気で潜伏している受肉降魔である自分を見つけるのは人間では不可能。
だから、偶然だ。
目が合い、試合開始のその宣言の前に魔力を練り、指をこちらに向けているのは全て偶然。
何故ならば奴らは人間だ。
いくら強くとも存在が違う。奴らでは隠れ潜む降魔を捉えることは出来ない。だから、決して動揺せずに堂々としている。それだけでいい。
『あ、メセナ・セルバーンか。おひさ』
「は?」
知らない声、だが確実に知っている気配。
いつの間にか自分の隣に立っていた、先程連れていかれた長髪とマスクで人相を隠したその男は、はっきりと。
「
惟神ハバキの指から光が放たれた。
まっすぐと、試合で人に向けて撃つようなものではなく確実に人の肉体を穿ち殺す為の、殺意の籠った一撃。
人間では防ぐことは出来ない。
だから、こうするしか無かった。
「……おっとすいません、手が滑りました。怪我はありませんか?
「貴様、何故。何故我の正体が、何故!」
魔導九家の1つ、今回の公式試合の立役者の一家である
被害は……出てないな。
周囲の人間がパニックになって逃げたり、隣に座ってた娘さんが俺の方を見てなんか靴を見せてるけど問題ない。
いや問題あるか? なんであの子あの状況で靴舐めてるの?
どうですか? みたいな顔して俺に見せつけてるけど意味わからんから早く逃げて欲しい。
「そんなでかい翼生やしてたら一目で分かりますよ。保食さん……いや、受肉降魔メセナ・セルバーン!」
「我が真名を……人が容易く口にするものでは無い」
受肉降魔、という言葉が会場に轟き、すぐに会場の人間の動きが切り替わった。
さすがは腐っても魔導九家の人間達だ。避難誘導と速やかな退去が為されあっという間に改めて舞台が整った。
「惟神のせがれ、これはどういうことだ?」
「見ての通り受肉降魔ですよ。大災害。なので、周囲に被害が出ないようにお願いします」
「……これだから惟神の人間は嫌いなのだ。だが、我らは我らの役目を果たそう」
いや〜本当に話がわかる人達で助かる〜!
道祖クナドさんもここは退いて逃げた人達を守る事に集中してくれることだろう。
魔導九家の一角の当主が直々にみんなを守ってくれるとなれば、これで気兼ねなく戦える。
それにしてもマジでおもしれーくんすげぇな。全然分からなかったけれど一発で受肉降魔が誰か見抜いてくれるとは。さんざんケツを揉ませた甲斐があったというものだ。
俺のケツ一つで受肉降魔の姿を晒させられるなんて安い買い物だ。さすがに穴まで払うとなると高いけれど揉ませるだけなら……心が削れるだけだからな。
「その顔、上手くいったと思っているのか? 己の思い通りだと、人間が我らを前にそんな驕りを抱くか」
姿を晒されたというのに受肉降魔……メセ……なんだっけな。コイツら名前覚えにくいんだよな。
とにかくメセなんとかは余裕綽々の表情のままだった。そりゃあアイツらからしたら人間なんて簡単に殺せるゴミみたいなもの。例外はシャルロッティのような有り得ないほどの強大な魔力を持つ存在だけだろう。
「こうして姿が見えたなら、あとは殴るだけだからな。簡単でわかりやすい」
「それだ。何故、我が正体を人が見抜いた? 『影』の理を持つこの我、メセナ・セルバーンの隠形を!」
「あれで隠れたつもりだったのかよ。油断して隠れるのを忘れてるのかと思ったぜ」
「見つかるはずがない……貴様、なんだ、貴様は何者だ!」
まぁ……正直ちょっと可哀想だとは思う。
自信満々に隠れてたら通りすがりの受肉降魔の王に普通に姿を晒されるの、事故だよね。俺だったら台パンするわ。
しかしそれをわざわざ言って相手を落ち着けてあげるほど俺は優しくない。そもそもコイツ、俺の国を滅ぼそうとするわシャルロッティの国を滅ぼしてるわで慈悲とかかけるような相手でもない。
だから、俺は堂々とこう答える。
「──────惟神ハバキ。お前を倒し、
さぁようやくだ。
チート能力持ちらしく、この世界の絶対。人は受肉降魔に勝てないと言うそんなふざけたルールをぶち壊してやるとしよう。
遂にチートハーレムのチートの部分に辿り着きました。
おい、なんで、チートハーレム杯が終わってる……?