中華風ファンタジー世界で銀髪銀瞳の皇太子なんですが後宮お薬漬け傀儡エンドは嫌すぎるので血反吐吐きながら頂点を目指します   作:所羅門ヒトリモン

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Number 001「銀髪銀瞳の皇太子」

 

 

 ──裸の男女が、獣のように交じり合っていた。

 

 びちゃびちゃと、ぱちゃぱちゃと。

 (くるぶし)まで沈む白濁した池。

 濛々(もうもう)と辺りに立ち込めているのは 、()せては吐きそうになるほどの酒精の気だ。

 蓮の葉を模した幾枚もの大皿。

 その上には、牛や豚、鶏、羊はもちろんのこと、変わり種を挙げれば爬虫類──蛇や(わに)などの種々様々な獣肉が豪勢に積まれてもいる。

 

(……酒池肉林)

 

 文字通りの、酒でできた池と肉の林。

 そして、少し離れた、およそ大劇場(ワンシアター)ほどはあろうかという広間にて。

 薄い白布。

 つまりは、肌着だけを身に着けた優に三百人を超える老若男女が、皆、我も忘れて獣のごとく情交に耽っていた。

 

 ある者は酒瓶を片手に腰を突き、ある物は肉の脂を裸体に塗れさせながら嬌声を上げる。

 

 誰も彼もが痴態に狂い〝よがり〟身悶え、未だ歳若い童子に群がる妙齢の女だとか、見るからに年端も行かない少女へ欲望をぶつけている老爺など。

 

 正気だ理性だなどは、何処にも存在していない。

 

 驕奢淫逸(きょうしゃいんいつ)──人の道に外れた淫らな行い。

 

 あるいは、どこぞの淫祠邪教(カルト)が執り行う、淫奔でふしだらな異端の儀式のようにもそれは見えた。

 

 なぜなら、鼻腔を通り越しもはや脳髄の奥まで犯して来そうな淫蕩の気とは別に、かすかに違法の薬物──阿片(アヘン)山査子(サンザシ)の香りまでも漂っていたからだ。

 

「──とく見るがよい。どうだ、玉瑛(ぎょくえい)よ。()()が、いずれ貴様が朕より受け継ぐチカラの臨界。皇帝となるモノだけが望める──天の恩寵よ」

 

 筋骨隆々の大男が誇らしそうに胸を張る。

 焦点(ヒカリ)を失った色情狂い人形。

 肉の欲に囚われ、ヒトとしての意識なども忘れさせられた哀れな動物たち。

 自らも酒杯を煽りながら、そんな欲望の宴を嘲笑うように見下ろして、父は息子にそう語った。

 齢にしてわずか、六歳の(みぎり)である。

 

「…………おおぅ」

 

 俺はドン引きだった。

 

 

 

 

 ──

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 ────────

 ────────────

 

 

 

 

 

 中華風ファンタジーの世界に転生した。

 

 気がついたら、銀髪銀瞳の皇太子だった。

 

 生まれ変わった場所は、見たことも聞いたこともない歴史を持っている大国で。

 空を見上げたら、明らかに地球とは異なる天体が観測可能だった。

 俺は異世界に転生したんだと察した。

 

 最初は大昔の、中国にタイムスリップ転生したのかと思った。三国志とか春秋戦国時代とか、なんかそのへん。

 

 だけど、やはりどう考えても『空』がおかしい。

 

 いや、この場合『宙』と言い換えた方がいいか。

 

 昼でも夜でも、どちらでも。

 遥か頭上を見上げると、巨大な〝リング〟がかかっている。

 壊れたリング。

 見える時も見えない時もあるが、だいたいそれが八つ。

 土星の輪っかみたいに、空を覆っている。

 リングはベルト状で、完全な真円じゃない。

 けれど、とにかくSF的で壮大で圧巻だった。

 

 見上げていたら、龍も飛んでいた。

 

 ファンタジー確定のお知らせだった。

 

 しかし、重要なのはそんな事実より、どちらかというと俺が生まれた場所である。

 

 完全な地獄だった。

 

 父親が乱交大好きなアホゴリラだった時点でお察しだが、俺の生まれた国は疾うの昔に腐敗していて、年がら年中陰謀が渦巻くヤバい奴らの巣窟だったのだ。

 

 鳳国(おおこく)──鳳帝国(おおていこく)

 

 この国は、愚帝であるゴリラを傀儡とし、様々な悪法を敷きまくっていた。

 貴士族が平民を食い物にするのは当たり前。

 役人が不当な税を徴収して、村を干上がらせるのも当たり前。

 若い娘は人攫いに攫われて、妓楼に売られるか後宮に拉致られるか。

 詐欺、強盗、略奪、殺人、エトセトラエトセトラ。

 基本的に、力ある悪人が蛆虫のようにわんさかと跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)

 挙げ句、得体の知れない魑魅魍魎、妖怪変化の類まで、世を騒がしていると来ている。九尾の狐とか。

 

 なのに、上に立つ貴士族は、ほとんど世を正そうとしない。

 

 それどころか、私腹を肥やそうと陰謀を企てたり、気に入らない誰かの足を引っ張ったり、時には罠にかけて処刑にまで追い込むなんてゲームに熱中している。

 

 クソクソのクソである。

 

 そのため、皇族が棲まう宮中でさえも……

 

「キィエエエェェエエ工エェェッ!!」

「シャアァァアアァァァァアアッ!!」

「ルゥ、ララララララララララッ!!」

 

 迫る白刃。

 月光に煌めく刃。

 振り下ろされる暗器。

 奇声とともに殺意を振り撒く、黒頭巾の暗殺者。

 

 ……字面にすると、なんだか凄く間抜けに聞こえるかもしれないけれど、真正面から対峙している当事者からしたら、まったくもって笑えない。ああ、笑えなさすぎる。

 

「──この世紀末モブじみた不細工(ブサイク)どもが……!」

 

 漏れる呪詛。

 俺はヒィッ! と息を切らしながら身を捻って、宮殿内の廊下を脱兎のごとく疾走する。

 

 気功術、スーパー拳法、果ては妙チキリンな妖術魔術。

 

 素手で岩を砕いたり、剣で岩を斬ったり、意味不明な超常現象で岩を溶かしたり……

 オマエらいったい、岩に何の恨みがあるんだよ? とツッコミ入れたいところだが、ここはファンタジーワールド。

 黒頭巾を被った一見モブみたいな暗殺者でさえ、恐るべき超人鬼人である。

 

 同じ人間とは思えない。

 

 そんな連中が、わんさかと蔓延って殺意を剥き出しに殺しに来るのだ。

 この世界じゃ、虚仮の一念は岩をも貫通する。

 雨垂れは石を穿つ。

 剣の達人は飛ぶ斬撃を余裕でバカスカ撃ちまくり──ほォら、この通り!

 

「──カァァクゴォォォッ!!」

「ヒィィッ、殺意高すぎィッ!!?」

 

 空間を切り裂く衝撃刃が、ビュンビュンと音を鳴らして飛んで来た。

 どういう原理なのかまったく分からない。

 科学法則とか物理法則とかを超越している。そんな、嘘だろ? と、驚く俺は順応が遅いのでこの世界への適性が低い。明日には死んでいるかもしれないな。ファック!

 

(チクショウめ……!)

 

 なのに、俺は皇族──帝である鳳皇(おおこう)の実子だった。

 銀髪銀瞳、イケメンだけが取り柄の、明日をも知れぬ地位薄弱の皇太子。

 何の間違いか、皇位継承権一位にまで繰り上がってしまった、絶賛お命頂戴されそうな皇子様である。

 

(皇族とかマジかよ人生勝ち組じゃねぇかと思ったヤツは、頼むから代わってくれ……!)

 

 鳳・玉瑛は、たしかに帝の血を継ぐ皇子様だが、鳳皇の血筋は代々赤髪の血統らしい。

 しかしながら、俺は銀髪銀瞳という明らかな外部遺伝。

 それもそのはず。

 元は高級娼婦でムリヤリ後宮に入れられた母親の血が強く出ているから、玉のような美貌ばかり受け継いで、赤髪などどこにもない。

 

 だから名前も、玉瑛だ。

 

 陰謀渦巻く宮中で、そりゃ理由をつけて蹴落とそうと動く者も溢れてくる。

 下賎の血、妾の子、皇族とは思えぬ異形の風貌。

 刺客に怯えない夜は無く、命を狙われる回数もとっくに二桁を超えていた。

 

 なのに、皇位継承権第一位。

 

 理由は他の兄弟が、みーんな死んじゃったから。

 

(怖すぎだろ!)

 

 ちなみに、俺がこの世に生まれいでて、まだ十年しか経っていない。

 つまり、十歳のガキに刺客を送ってくる。ヤバすぎだろこの国。いくら何でも殺意が高すぎだ。

 

(誰か助けてェ! 見える……ッ、見えちゃうよぉ……ッ!?)

 

 遥か頭上に輝く不吉のソレ。

 

「ああッ、死兆星がァッ!」

「死ねェェエエッ、玉瑛ッ!」

「輝いているのはテメェの頭上だこのヴォケめッ!!」

「ぬおぁッ!?」

 

 喉元を掠めた短剣の鋭さに、思わず股間がヒュンっ! と縮み上がるも間一髪。

 懐から取り出した護身用の短剣で、俺は刺客の腕をスパッと斬りつけた。

 正真正銘の命の遣り取り。

 脳からはもうあまり出ちゃいけない感じの物質が、ドパドパ大量分泌されちゃってる。ああ、出ちゃう。玉瑛出ちゃうのぉ! ドパドパアドレナリンンンッ!

 

「っフゥー! っフゥー!」

「クッ、気をつけろ! コイツ、やるぞ!」

「やらねぇよ、バカが……!」

 

 心に余裕さえあれば、思いっきりさらに罵倒していた。

 いったい俺の、どこに()()要素が見当たるんだ? どう見ても息絶え絶えだろうが……!

 元平和な日本の一般ピープルに、命の遣り取りは精神的負担がデカすぎる。

 それもこれも、すべてはあのクソオヤジのせいだ。

 

 ──鳳皇。

 

 皇帝になる前は、鳳・千覇と呼ばれていた赤毛ゴリラ。

 筋骨隆々の大男で、力こそすべてを地で行くパワータイプ。

 だからかは知らないが、バカ。ものすっごいバカ。バカすぎて皇帝にしちゃいけない男ナンバーワン。

 武人や将軍としてなら天賦の才があるらしいが、統治者にそんな才能マジ要らねえ。超要らねえ。

 必要なのは国を豊かにして、安定した統治を成すこと。

 

 だってのに、あのゴリラは讒言(ざんげん)に惑わされるわ、耳心地のいいおべんちゃらを真に受けるわ、貢ぎ物という賄賂にドップリ浸かって快楽に溺れるわ、面従腹背のゴミカス臣下に良いように操られてしまっている。

 

 本人の政治センスも、ハッキリ言ってクソ。

 

 民の暮らしを思いやる心眼なんて無く、重い徴税を繰り返し、攻め滅ぼす敵国もないのに厳しい徴兵を頻繁に繰り返す。気に入らないヤツは即処刑。

 

 暴君の圧政だ。

 

 そのクセ本人は、好き放題の放蕩三昧。

 六歳の子どもに自分の歪んだ趣味を見せつけて悦に入るという……なんか、なんかもう……ダメだぁアイツゥ……!

 

(オラこんな国イヤだぁ〜、オラこんな国イヤだぁ〜!)

 

 鳳国はじゅくじゅくに腐乱した果実そのもの。

 見かけは甘い匂いを発しているかもしれないが、中身は疾うに蛆虫の集る泥まみれ。

 

 もちろん、上がクソなのだから、当然下もクソである。

 

 名のある貴士族どもは各地で横領、収奪を繰り返し、犯罪組織化するなんて当たり前。

 民の間じゃ、近頃は革命なんて言葉まで広がっているそうだ。

 野心ある在野の悪党たちは、ゲラゲラ笑って滅びゆく大国を蝕む日々。

 そんな状態で、しかも、死体まで動き出しつつあるらしいから、もうね、そりゃね、黄昏は近いよね?

 

 ──斜陽の大国、落陽の栄華、抗わなければ……待っているのは絶望しかない。

 

 ついでに言うと、俺はこのままだと薬を盛られて後宮に軟禁される。

 現在ゴリラを操っている男から、堂々と宣言されているのでしんどい。

 誰か助けてくれ。

 

「チクショウ……! 俺は死なねぇ……死んでなんかやらねぇ……!」

「死ね!」

「テメェが死ね!」

 

 ……とまぁ、そんなワケで。

 これが胡蝶の夢、邯鄲の幻なのかは分からないが、とにもかくにも現実感ハンパねぇのでマジ必死です。

 

 俺は短剣を構え、三人の刺客と向き合う。

 

 殺らねば殺られる。

 だから殺る。

 

「ってバカか! 逃げるんだよおおおおおおおおォォォ──ッ!!」

「逃がすかァァ──!」

 

 夜の宮中で全力ダッシュ。

 ……ねえ、安眠って何だっけ?

 

 

 

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