中華風ファンタジー大河ドラマ的世界で皇太子なんだが後宮薬漬け傀儡エンドは嫌すぎる   作:独活ノ苔玉

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Q.これドラマだったらしいけど、コンプライアンス的に大丈夫だったの?
A.本作の舞台は架空原作であり、転生前の世界も我々の世界とよく似た異世界になりまして、海外ドラマのように規制がユルユルだったとお考えください。

つまり、モザイク大活躍ですわー!


仮面の妖術師

 

 

 

 その瞬間に起こったコトを正しく把握する人間がいれば、恐らく次のように状況を分析しただろう。

 フラフラだった玉瑛の身体が、突如として活力を取り戻し、油断していたオカマをギャフンと言わせた。

 何故そんな展開が罷り通ったのだろうか。

 答えはすなわち、この世界の『気』という概念(モノ)に詰まっていると。

 

 

「この……ガキッ! よくも……ッ、ぐふッ!」

 

「ハッハァッ! うまくいったぜ、見たかバカヤロウッ!」

 

「ッッッ! とんだ食わせ物ね、坊や……!

 いったいどうやって、()()を誤魔化していたの──!?」

 

 

 変態の暗殺者が苦悶も露わに声を荒らげる。

 短剣による傷は思いのほか深く、内気の調息*1に意識を集中させなければ、すぐにも出血多量で死に追いやられるだろう。

 黒頭巾の大男は即座に止血を行い、傷口近くの筋肉をボコゥッ! と隆起。

 鮮血の噴泉を見る見る内にポタポタ零れ落ちる水滴レベルに落ち着かせた。

 

 だが、入れられたダメージが大きいことに変わりはない。

 

 変態は二転三転と後方宙返りをして距離を取り、「バーカバーカ!」と小うるさい皇太子を悔しげに睨みつける。

 逆上して感情任せの反撃もしない。

 なるほど。

 実際に目の当たりにした当人からすれば、それまで子鹿も同然だった皇太子が、突如として狼に変貌したような驚きだろう。

 牙を持たないと思っていた獣が、本当は猛獣だったと知れば警戒もする。

 一端の武人であれば、皇太子から立ち上る気炎(オーラ)も今や瞭然に違いない。

 ともすれば、一回りも二回りも大きくなったように錯覚しているはずだった。

 

 (むべ)ならん。

 

 帝の血。鳳家の才。

 三百年と続くこの国の歴史のそのまた前から、皇族──鳳家の者たちは、他の貴士族同様、あらゆる貴種の血を積極的に取り込んで来た。

 頑健な肉体、整った美貌、優れた内気。

 そのなかでも、当代鳳皇の気量は歴代を遥かに凌ぐとされており、一度調息を始めれば、人間十人を軽々持ち上げるほどの膂力を持つとも云う。

 気量とは、その人間がどれだけの内気を練れるかを指し示す秤のようなもの。

 気が続く限りは生命力だって向上するし、武器に乗せれば剣で岩をも断ち切る。

 達人が達人を嗅ぎ分けるチカラ。

 武林の人間は、まず相手の気量を()()眼に優れなければ始まらない。

 だからこそ、この暗殺者も皇太子、玉瑛の実力を見縊ることに繋がった。

 

 閉門体質。

 

 生まれつき気の元となる(ゲート)が閉ざされ、ほとんどの者は開くこともできず人生を終える。

 玉瑛は皇族でありながら、妾の血が強く出たために、宮中では下賎の雑種と目をひそめて蔑む者も珍しくない。

 恒例の狩猟行事では、まともな獲物も追うことを許されない軟弱者の皇子だと噂されて来た。

 

 しかし、鳳・玉瑛は近頃、外部からやって来た風来の剣士によって、その(ゲート)を強引にこじ開けられたのである。

 あれ以降、彼の幼童は気の何たるかを理解し、実感し、本人は自覚が無さそうだが、グングンと武の才能を開花させつつあった──が、ひとつだけ。

 

 ……これは長い間、閉じている状態が自然だったための弊害なのか。

 それとも、肉体派の師匠による荒治療にやはり問題があったのか。

 

 鳳・玉瑛の(ゲート)は、開いたり閉じたりの、パカパカバカ状態に変わっていた。

 

 普通、開いているか閉まっているかの、どちらかしか選べないのに。

 銀髪の皇太子は自由に開け閉めできる。ズルっ子だ。

 

 だから、

 

 

「べっつに誤魔化してませーん! オマエが勝手に勘違いしたんだるぉ!? 

 つか、俺の足の速さを舐めんなよ!? 気が多少練れなくたってッ、こちとら元から健脚なんだよッ! 

 ……テメェらみてぇなのにッ、毎度毎度追っかけられるせいでなァ……!」

 

「────ッ、実力を、隠していたってワケ……!?」

 

 

 仮にも皇族の気量である。

 もともとゴミに等しかったものが、目の前で爆発的な勢いで増幅し膨らめば、侮っていた敵には騙された感覚しか有り得ない。

 暗翳蛇道宗の黒頭巾は、内心戦慄に打ち震えているだろう。

 

 

(──見るべきものは、たしかに見られたと判断します。

 天萬様も、これで大いに満足されたに違いありません)

 

 

 よって、機はすでに、()()本来の務めを果たしても良い頃合だった。

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

 刀剣には大別して二種の違いがある。

 すなわちは軟剣と硬剣。

 前者は薄く柔らかで、物によっては腰に巻き付ける形で装備することも可能な細い剣。カンフー映画などでよく見かける、ペラペラしなるヤツ。

 後者は、およそ剣と言われて一般的にイメージされるヤツで、軟剣とは違ってやや分厚く頑丈な造りのもの。

 鳳国では両刃を鳳国剣、片刃を鳳国刀と呼び、どう見ても青龍偃月刀なデッケー薙刀を、鳳凰一翼刀と呼んでいた。

 国の基盤としているだけあって、伝説上の生物・鳳凰への崇敬がヒシヒシと伝わってくる。

 俺はこれまで、剣といえば護身用の短剣──鳳国剣か、稽古用の木剣のみ触って来た。

 

 だが、人を本格的に斬ったのは今夜が初めてのことだった。

 

 

(……ッべー! マジ、ヤッべー! 感触気持ち悪ッ!?)

 

 

 鶏肉や豚肉、牛肉を切るのとは違った感触が手に残る。

 死んだ獣の肉と、生きた人間の肉の違い。

 狩りを通じて命を奪うことの嫌悪感や忌避感は乗り越えたものと勝手に思っていたが、変態とはいえ、同じ人型をした生き物を斬り殺そうとしたことに、今更ながらに吐き気が滲んで来た。

 覚悟を決めたはずが、情けない。

 亜門のカラダは、無駄に筋肉質で想像以上に硬く、そのおかげで致命傷にはまるで届かなかった。

 元気に大声出して叫ばれたし、アクロバットなバク宙まで披露されるオマケつき。

 

 

(つぅか止血が早ぇよ! 調息巧すぎんだろ!?

 気のコントロールで血流操作したのか……?)

 

 

 バケモノめ。

 しくじったという思いに(ほほ)が引き攣りかける。

 と同時に、胸の底で微かにホッとしている自分がいることに腹が立った。

 とりあえずハッタリを利かすため、先ほどから「どうだコノヤロウバカヤロウ!」と犬並に吠えて威嚇をしてみているものの、亜門が本気になったら一巻の終わりである。困ったなぁ……

 

 

(実力差が明確な相手には、不意打ちで仕留めるのが最善だってのに……!)

 

 

 空燕先生直伝の〈蒼家飛燕流剣術〉まで使ったのに、完全に失敗した。

 (ゲート)の開放による渾身の斬り上げ。舞の動作を利用した完璧な緩急。相手の油断。

 何処を取っても状況は最善に近かったはずなのに、使い手がゴミカスなせいで結果が失笑物に堕してしまった。

 原因はハッキリ分かっている。

 本来は失敗ではなかった選択肢を失敗に終わらせたのは、すべて俺の愚かしさが原因だ。

 体格差と筋量を読み誤った。いや、読み切れなかった。すべてはそれに尽きる。

 袈裟斬りも逆袈裟も、胴体を斜めに斬ることで、鎖骨の下の動脈や鳩尾にダメージをブッ込み、十分な致命傷を狙える必殺技なのだが、亜門が予想以上に硬かったのだ。

 血は派手に出したが、骨には届いてないし、内蔵にも届いていないだろう。

 せいぜいが肉を裂いた程度。

 

 

(クソっ! こんなことになるのならッ、いっそ穢れる覚悟でチ〇コに剣を振り下ろせば良かった……!)

 

 

 そしたら、空燕先生にも先生が教えてくれた剣で刺客のチ〇コを斬ることが出来ましたと自慢でき……でき……いや、できねぇな!?

 

 俺はハッとし、戦慄した。

 

 危うく、恩師にとんでもねーセクハラをぶちかますところだった。

 というか、

 

 

(ここを乗り越えなきゃ、先生に会えねぇし……!)

 

 

 落ち着いて冷静になれ、と自分に言い聞かせる。

 夏の夜は思考さえ茹で上げるような暑さだが、命のやりとりの最中に冷静さを失えば自滅するのは自明の理。

 現状を整理すると、不意打ちは失敗。相手は警戒。こちらはもはや隠し球無し。

 あれ? 詰んだかな? と、そう思った時だった。

 

 

「──燃えろ」

 

「……ッ! 右丞相の妖術師が、今さら!?」

 

 

 月明かりに照らされる石庭に、轟轟と火柱が顕現した。

 亜門はバッ! と飛び退き、足元から立ち昇る炎を大きく避ける。

 しかし、火柱はそんな亜門を即座に追いかけ、間欠泉のように吹き上がっては地面を連続した。

 

 

「オマエのような変態は殿下の眼に障る。消し炭になって罪を償え」

 

「蠍家の飼い猫が! どの口で罪を語るのよ……!」

 

「死ね」

 

「そうはいくものですか!

 鳳凰信仰の〈火箭猫(かせんみょう)〉が出てくるのなら、私は帰らせてもらうわ!

 でも忘れないでね、銀色の皇子様! 私、また会いに来るわ! きっと、絶対会いに来るわー!」

 

 

 オホホホホッ!

 亜門は個性的な捨て台詞を吐いて逃走した。

 ……翻って、俺の前には、真紅と黒の衣装に身を包んだ黒髪の少女がいる。

 紋様の描かれた猫の仮面を被り、顔を半分ほど隠して、俺とそう変わらない年頃──十代前半と思われる正真正銘の女の子だ。

 だがしかし、右丞相の妖術師と呼ばれ、蠍家の飼い猫と揶揄(やゆ)された通り……単なる女の子と見なしていい人間じゃない。

 実力だけでも、あの亜門をたったいま退かせてみせたように決して侮れない相手だ。

 

 けれども、俺は思いっきり渋面を形作って言ってやった。

 

 

「──いや、そんな、如何にも私、窮地の主をカッコよく助け出しました頼れる護衛です! みたいな登場されても……!」

 

「……」

 

 

 遅すぎるだろッ! と俺はツッコミを入れた。

 

 

 

 

*1
体内の気の流れを制御する基礎中の基礎。







やっと妖術要素が出せてきましたわ〜!
プリーズ高評価でしてよ〜!

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