中華風ファンタジー世界で銀髪銀瞳の皇太子なんですが後宮お薬漬け傀儡エンドは嫌すぎるので血反吐吐きながら頂点を目指します   作:所羅門ヒトリモン

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Number 016「愚帝からの条件」

 

 

 阿片(アヘン)山査子(サンザシ)

 酒と血の匂い。

 その男と会う時、俺はいつも鼻が曲がりそうになる。

 

 鳳国の皇帝、鳳皇──かつての名を鳳・千覇。

 

 筋骨隆々、容貌魁偉にして、鳳凰というよりかはゴリラと呼んだ方が的確である男。

 赤髪の巨漢は常にシラフである時が無い。

 そして、酔っ払いでありジャンキーであるコトが明白な男は、この頃は四六時中、正気であるかも疑わしい胡乱な目つきをしている。

 胡乱な目つきをしながら、気まぐれ一つで暴虐を為す。

 

「つまらん。今日の狩りはつまらん。そこの貴様、ちと走れ」

「は、は? わ、ワタクシでございますか……?」

「そうだ。貴様、たしか足が早かっただろう。ちと走って、朕の無聊を慰めよ」

「ッ!? へ、陛下、ご、ご冗談を……!」

「二度は言わぬ。ああ、そうだ。ただ走るだけではなく、鹿のように飛び跳ねながら走れよ? 貴様は今より鹿だ。拒めば一族郎党を絶やす」

「……!」

 

 皇帝からの圧力に、供回りをしていた高官の一人が青ざめた顔で走り出した。

 御料での狩猟会。

 風に倒され波打つような草原のなか、それは人間を狩る狂気の催し。

 

 マン・ハンティング。

 

 ゴリラが弓を構え、矢を番えた。

 その傍でほくそ笑んでいるのは、右と左の丞相を筆頭に複数の側近たち。

 獲物に選ばれた高官はきっと、彼らの不興を買ってしまった。

 だからこその凶運だった。

 

 当代の鳳皇は武才に恵まれすぎ、暴力に取り憑かれている。

 

 ゆえに時々、こうして残酷な所業にも耽り。

 そんな鳳皇の周りには、〝あからじめ殺して良い者〟を教えこむ幾人もの悪人たちが集まっている。

 

 赤色の気炎(オーラ)が、爆ぜるように膨らんで解き放たれた。

 

 草原を貫く赤色星。

 哀れにも鹿のように飛び跳ねていた高官は、着弾と同時に上半身が吹き飛んだ。

 死亡。

 明らかな即死である。

 遠目からでも十分に分かる人体飛散。

 だというのに、

 

「ほっほ〜! これはまた見事な射でしたなぁ〜! 陛下の弓の腕は、あの狩・雲鷹を超えたものと存じまするぞ〜!」

「ええ、ええ! 暁明(ギョウメイ)殿がじきじきに選んだ鹿()を、ああも容易く破裂させるとは!」

「わずか数秒で半里は走りおったというのに、いやはやお見事お見事!」

 

 人殺しの現場を目撃しても、出てくるのは皇帝を褒めそやす賞賛ばかり。

 護衛のための将軍たちも、揃ってニヤニヤしてゴリラを讃える。

 見え透いたお世辞。

 薄汚い言の葉の裏側。

 然れど、周囲から次々に賛辞を贈られた当人は、次第に満足げな笑みを浮かべて悦に入る。

 

「フッハハハ! 暁明(ギョウメイ)、次は数を用意しておけ! だがもちろん、質は落とすでないぞ!」

「ハハァ〜! 承知いたしました! もちろんでございますぅ〜!」

「陛下。そろそろ」

「おっと。もうそんな時間だったか? よいぞ。通せ」

 

 機嫌が良くなったのを見計らったのだろう。

 天萬(テンマン)がゴリラに声をかけ、合図を出した。

 俺は離れた位置で控えていたのをやめ、必死に感情を殺しながらクズどもの元へ歩く。

 近づいていくと、ゴリラは胡乱な目つきながらも恍惚に近い表情で歓迎の言葉を放った。

 

「おお、玉瑛! 何やら朕に、話があるそうだな? 見ない間に少し大きくなったか?」

「お久しぶりでございます。陛下。この度は貴重なお時間を割いていただき、感謝にたえません」

「佳い佳い! 実に久方ぶりだ……何でも申せ。申してみよ。もちろん、朕の時間を割くに足る面白い話であればだがな?」

「ッ」

「──ハ! 小心は相変わらずか! いや、いや! 気にするな冗談だ! そう肩肘を張るな!」

 

 ゲラゲラゲラゲラ。

 ゴリラは呵呵大笑し、話は皇帝専用の天幕で聞くと俺の背中を叩いた。

 ムカつくが、俺も頷いて笑顔を貼り付けて追従する。

 後ろからは、

 

「ほっほ〜? 皇太子殿下が陛下に謁見を求めるとは、珍しいコトもあったものです。いったいどのような仕儀なのですかな?」

「さァて? やんごとなき殿下のお心積りは、私には到底推し量るコトもできませんともォ! それより先ほどの鹿の件、近頃は別件で色々とお忙しいでしょう! 数を揃えるのも一苦労なさっているはず。よろしければ蠍家が、代わりにご用意いたしますがァ!?」

「ほっほ〜! なぁになに! 右丞相殿のお手を煩わせるまでもありませんよ! ご心配めされるな!」

 

 カワウソとサソリ。

 両丞相が互いに探りを入れ合い、睨み合っていた。

 皇帝専用の天幕には、ゴリラが許した者しか近づけない。

 その理由は、言わずもがな。

 天幕内では酒池肉林が広がっているからだ。

 

(六歳の頃に目の当たりにしたあの光景……)

 

 ゴリラはいつでも好きな時にアレを愉しむべく、わざわざ専用の移動天幕まで作らせ常時控えさせている。

 だからおべっか使いどもも、ゴリラが天幕に向かえばしばしの待ち時間を強いられる。

 禁制の酒と違法な薬物の匂いが立ち込めた乱行の場。

 お楽しみを邪魔すれば、誰だろうと斬られると分かっているのだ。

 例外はこうして招き入れられた時。

 正直、鼻がバカになる。

 

(けれど、貴重な機会だ)

 

 俺は覚悟を済ませ天幕に入った。

 

 

 

 

 

 

「なるほど。話は相分かった」

 

 スパァ、スパァ……

 一通りの話を終えると、ゴリラは煙管(キセル)を吸いながら両目を混濁させて頷いた。

 

(コイツ……)

 

 本当に分かったのかよ?

 濛々(もうもう)と烟る淫気。

 頬が引き攣りかけているのは、何も異常な空間ゆえだけじゃない。

 色情に狂った奴隷の女たち。

 ゴリラは一頻り腰を動かし終わると、口に煙管を咥えたままドカリと椅子に腰掛けた。

 

 分かってはいたが、息子の前でセックスするコトに、この男は昔から何の躊躇いも無い。

 

 だが、まさか久方ぶりの親子水入らずを、セックスの片手間で済ませられるとは思いもしていなかった。

 

(しかも、なんか吸ってやがるし……!)

 

 スパァ、スパァ……

 夢見心地なのか実に気持ち良さそうである。

 快楽漬けの奴隷はとっくに正気を失っているため、別に間諜などの心配はない。

 しかし、鳳皇ともあろうものがこんな有り様では、天幕内の機密性には不安しか抱けなかった。

 

(本当ならこんなヤツ、頼りにしたくはないんだけどさ……)

 

 だが、採り得る選択肢は非常に少ない。

 現状の俺に頼れる相手がいるとすれば、それはこの傀儡皇帝しかいないのだ。

 無いものねだりをしても仕方がないのだから、ここは我慢の時……

 ニコニコ笑顔を懸命に維持していると、そんな俺にゴリラはプハー! と煙を吐いた。クッサっ!!!!

 

「そうだな……貴様の問いには答えてやっても良い」

「! 本当ですか」

「ああ。朕にはたしかに、丞相どもですら知らぬであろう味方がいる。そしてそれは、朕のみならずやがては玉瑛、貴様の味方にもなるはずだ」

「……! それは、もしや?」

「フッ、貴様も察していたか? ああ、そうとも。鳳の血にのみ仕えるモノたちだ」

 

(やっぱり──ッ!)

 

 睨んでいた通り。

 この国には、皇族にだけ忠誠を誓う存在がいる。

 いや、皇帝にだけ忠誠を誓う存在か?

 

(どっちにしても……ッ!)

 

 バカゴリラが意外なほど情報通だった理由は、これで明らかになった。

 天萬(テンマン)たちすら知らない存在が味方になってくれるなら、たしかにこれほど心強い希望はない。

 

「その者たちは、表舞台には現れないのですか?」

「そのようだ。ヤツらは異常なまでに影に徹する。朕も会ったコトは無い」

「陛下も!?」

「おうとも。まあ皇帝に即位した時、一度だけ背後には立たれたがな。曰く、ヤツらは〝真に相応しき鳳の御代にこそ姿を晒す〟そうだ。まったく! 生意気だとは思わんか?」

「──ハッ、たしかにそうですね……」

「だが、ヤツらが()()()()()()働いているのは間違いない」

「と、おっしゃいますと?」

「過去、朕が窮地に追い込まれたとき、朕はヤツらに救われた。なぜ助けるのか? と闇のなかに問うたらな、ヤツらはこう答えた」

 

 〝すべては鳳の血を絶やさぬため……〟

 

「ゆえ、朕にもしものコトがあれば、ヤツらは必ず新たな鳳皇を求めるであろう」

「なるほど……ではその者たちの力を借りられれば」

「目下貴様を悩ましている諸所の問題には、いとも容易く答えを与えられるであろうな」

「なら──」

 

 俺が頭を下げ、ゴリラに力を貸してくださいと頼みこもうとした時だった。

 ゴリラはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「が、残念なコトに貴様は皇帝ではない」

「っ、皇太子ではありますが?」

「たわけが。自ら勝ち取ったワケでもない地位に縋るな。朕の血を引いているとも思えぬ軟弱者よ」

 

 ゴリラは冷酷に言い捨て、「そうだな。こういうのはどうだ?」と顎を撫でた。

 

「良い機会だ。見れば貴様、少しは成長したか。朕の血を引く者として真に証を立てたいならば、鰐鴨(ワニガモ)を狩ってまいれ」

「! 鰐鴨を?」

「朕は貴様の歳の頃には、一人で鰐鴨狩りを楽しんだものよ」

 

 鰐鴨。

 体長五メートルを超えると云われる怪物的な動物である。

 実際に見たコトはないが、雲鷹(ウンヨウ)の爺様から伝え聞いている話だと、恐竜のような姿を連想せざるを得ない。

 しかも、

 

「アレの皮膚は常人の刃は通さぬ。超人でなければ、十かそこいらの幼童などエサになっておしまいおしまい」

「ッ!」

「臆したか? ならば諦めるか? 朕はどちらでも構わぬ」

 

 ターニングポイントなのは直観的に分かった。

 俺がここで首を横に振れば、ゴリラは完全に俺を見限るだろう。

 淀んだ瞳の奥底に、冷徹な暴君の裁定が息を潜めている。

 だから答えは、最初から決まっていた。

 

「もちろん、挑戦します」

「ハハハハハハハハハッ! であれば、すぐに支度せよ!」

 

 鰐鴨を狩ってゴリラの口を割らせる。

 俺の選択肢はそれしかない。

 

 

 

 

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