中華風ファンタジー世界で銀髪銀瞳の皇太子なんですが後宮お薬漬け傀儡エンドは嫌すぎるので血反吐吐きながら頂点を目指します   作:所羅門ヒトリモン

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Number 007「空燕先生」

 

 

 玉瑛は激怒した。

 必ず、彼の邪智暴虐の鳳皇(ゴリラ)を除かなければならなぬと決意した。

 玉瑛には陰謀が分からぬ。

 玉瑛は一般転生者である。

 神様にも会わずチートも無い。

 強いて挙げれば、持って生まれた美貌だけが取り柄の地位薄弱皇太子である。

 これまで天萬(オーク)を頼り、数々の暗殺を乗り越えて来た。

 けれども、野郎、一向に本気出して暗殺を防ぎやがらねぇ。

 このままでは命が百あっても足らん。

 玉瑛は己が身に降りかかる危機(火の粉)に対し、人一倍敏感にならざるを得なかった。

 

(……てなワケで)

 

 

 

 

 

「先生! 先生! たとえばの話、自分の何倍も強い敵を倒そうと思ったら、どうやって戦えばいいですか?!」

「斬ればいいのです。斬って斬って斬りまくって、さらに斬り続ければ、最終的には勝ちます」

「なるほど! 先生! 先生! ──ぶっちゃけ言うけど、それバカの理論じゃねぇかな!?」

 

 宮中、離宮。

 午後、剣術鍛錬。

 日差しはキツく、ダラダラと汗が流れては地面へ落ちる。

 

 ここは〈雪華宮〉──かつて白銀姫が、鳳皇(ゴリラ)より下賜された小さな離宮だ。

 

 現在は息子である俺に所有権が引き継がれ、どう使おうとも自由であるため、最近、空燕先生にはこっちの庭に足を運んでもらい──というか、生活の場所を移してもらい、隙を見ては稽古をつけてもらっている。

 

 最低限の手入れしかされていない庭では、トンボが自由気ままに小池の上を飛び回り、チョンチョンと卵を産み付けていた。

 

 打ち合いを重ねる。

 

 意識が強制的に刈り落とされる気絶の感覚を挟む。

 んで、半刻ほど経った後、俺は件の質問をした。

 空燕先生は脳筋すぎて、あまり参考になる答えをくれないだろうなと思いつつも、強者ならではの考え方に興味があったからだ。

 

 敵を知り己を知れば、百戦危うからず。

 

 超人である空燕先生が、普段どんな風に格上と対峙しているのか。

 それを聞けば、俺も弟子として似たような方法で対抗できるのではないかと。

 うっすら期待を寄せてみたが、結果は無惨すぎる回答だった。

 

(戦闘民族は、これだから……)

 

 斬って斬って斬りまくるだと?

 それができれば苦労はしねェ!!!

 俺は聞いた事を後悔した。

 

「ム。なんです、その顔は」

「空燕先生って、バカだなって」

「ハハハハハ──普通の弟子なら百回拳骨を振り降ろしている発言ですが、まぁいいでしょう。玉瑛様は皇族の割に、意外と根性がありますからね。

 しかし、私がバカとは聞き捨てなりません。これでも、経験に裏打ちされた確かな真理だと思っていますが?」

「そりゃ先生はそうでしょうよ! だって先生は水の上も走れるんだし、剣だって一本差しのクセ、抜けば残像が二刀流みたいになるんだから! なんだよあれ! いっそ素直に二刀流であってくれよ!」

「まぁ、私は天才ですからねぇ」

「は、腹立つ〜〜! もっとデキないヤツの立場に寄り添う心を持とうとかは、思わないんですか!?」

「デキなかったことが今まで無い」

 

 俺は地団駄を踏んで憤慨した。

 大変遺憾ながら、空燕先生はたしかに天才で、認めたくないが師匠としても優れている。

 稽古は言葉よりも肉体言語を活用した実践形式しかやってくれないが──そのせいで最近は服の下の見えないところが痣まみれ──実際、成果はたしかなもので、いつの間にか気栓体質とやらも、空燕先生のおかげで詰まりを解消されていた。

 

(毎度毎度、死にそうになりながら鍛錬してればな……)

 

 生死の淵で、見えちゃいけない世界も覗けてしまうのだろう。

 俺もようやく、気がどんなモノか? ってのは体感的に分かってきたように思う。

 超人になるための資格は、ちょうど得られた段階だとお墨付きも得られた。

 ただ、現在はまだ自分が、どんな風に成長したいのか。

 

(そこのところが決まっていないっていうか、イメージが湧かないっていうか)

 

 自分が人間やめちゃってる姿を、いまいち想像できないので〝幼虫〟の状態だと言われた。

 どうも、気栓体質状態が卵なら、気功術を使用可能な状態を幼虫。

 気功術を使って超人になるコトを、蛹を経るとこの国? では昔から言い表すらしい。

 

 羽化登仙、なんて言葉もあるくらいだ。

 

(中華風ファンタジーな世界じゃ、人が超常的な存在に変わるコトを、蝶々に例えるのかもしれないな)

 

 幸い、皇族である俺は内気──持ち前の気量だけはバカほど多いらしいんで、短時間の戦闘、且つ、ゴリ押しの勢いに任せれば、現状でも町のチンピラ数人程度は問題なく対処できるようだ。

 

(けど、皇太子である俺がチンピラと剣を交える機会なんて、早々ないよ?)

 

 あるのはもうちょっと、いや、かなりランクが上の世紀末系暗殺者。

 将来的にはクセの強い在野の悪党どもとか、ガチの化け物たちも視界に入ってくる。

 そのため、俺は一刻も早く強くなって、天萬(誰か)に生殺与奪の権を握られているようなクソっタレじみた状況からは、永久的におさらばしたかった。

 

 空燕先生は、半ば狂態を晒す俺に「ふむ」と頷くと、稽古用の木剣を軽く地に突き立て、おもむろに言った。

 

「玉瑛様は、なぜ強くなりたいんですか?」

「……なぜ? 俺の評判はご存知でしょう?」

「ええ。しかし正直、私は皇族の剣術指南役など、すぐにクビになるものだと思っていました。私は見ての通り、根っからの風来坊ですから、これまで大陸各地で貴士族の方に腕を見込まれ、何度も雇われたことがあります。ですが、そのどれもに共通していたのは……大して長続きしなかったコトです」

 

 蒼衣の長髪剣士は、深々と嘆息を漏らす。

 

「風来坊とはいえ、日銭は必要です。貴士族に雇われるのは、手っ取り早く稼げて良い仕事だと最初は思いました。

 ですが、いざ実際に稽古をつけ始めれば、誰も彼もが程なくして剣を放り投げる。本気で武を修めようなどと考えている者は、一人もいなかった。

 私は悟りました。彼らが真に欲っしていたのは、達人に師事したという事実だけ」

 

 それさえあれば、後は箔がついたものとしてお役御免。

 金は払われ、たしかに実入りは良かったが、心には良くないものが残り続けた。

 だからどうせ、今回も同じだろうとタカを括っていたのです。

 空燕先生はあっけらかんに言い放った。

 まぁ、特に不思議はない話である。

 才能があろうがなかろうが、超人になれるほど自分を追い込みたがる人間など、そうはいない。

 

「銀髪銀瞳の薄弱皇太子なら、なおさら根性無しだろうって思ってたワケっすね」

「──でも、蓋を開けてみればどうですか! 玉瑛様は私の稽古に文句こそ垂れながらも、決して剣を手放そうとはしない! 殴りすぎた後で、あ、やべっ、と実はちょっとだけ焦っていた私が、驚くほど気合い烈火のように立ち上がって来た!」

「なんだ。一応、ヤベェとは思ってたんですね」

 

 ベルセルクにも多少、人の心が残されていたようである。

 

「ええ。ですがやっぱり──貴方は普通じゃない。皇宮のドロドロに踏み込みたいワケじゃないですけども、玉瑛様……銀髪銀瞳の皇太子。貴方には、興味が出てきたと言ってもいい! そうです……私は正直、久しぶりに()()になっても、いいかもしれないと考えている。ただしそれは、玉瑛様の答えを聞いてからです」

 

 ──我が腕、我が剣は、決して中途半端な俗物には渡さず。

 

「なので、玉瑛様がそこまでして強さを求める理由を、教えてはくれませんか?」

 

 清澄な問いかけが、曇りなき眼差しで俺を見据えた。

 答えるのは簡単だった。

 

「なぜ強くなりたいかって……んなもん、ただ生きるのに必要だからに決まってますよ」

「……ただ、生きるのに必要?」

「空燕先生には分からないかもしれませんが、俺はこの広い宮中で、実は誰も頼れる人間がいないんですよ。白銀姫の噂が、市井の間にどれだけ広まってるのかなんて知りませんが、妓楼出の愛妾が産んだ皇族の赤髪()を持たない庶子なんて、存在しない方が、ここじゃ皆に喜ばれるんですよねー」

 

 だから話は簡単だ。

 

「俺はただ、この命を守るために強くなりたい。刺客に襲われても平気なように、敵と戦っても勝てるように。理由としちゃ、ホント、いやマジで、たったそれだけのコトです」

「……なるほど」

 

 回答すると、空燕先生はしばし瞑目して沈黙した。

 十秒、二十秒、三十秒と経過しても、沈黙は続く。

 なにやら言の葉を咀嚼され、吟味されているようだ。

 きっと期待された言葉じゃ、なかったんだろうな。

 

(でも、しょうがないよ。だって俺、別に強くならずに生きていけるんなら、剣なんて触りたくもないし!)

 

 体育会系の熱気がすごい空燕先生も、前世だったら真っ先に距離を取っていただろう。今も苦手意識がある。

 弓の雲鷹(ウンヨウ)の場合は、まだ料理という餌もあって、本人も静かな性格だから受け入れられるんだけど、空燕先生はちょっとね、思考が狂気そのものでね……

 俺は遠い視線で、そっと空を仰いだ。

 その直後だった。

 

 

「……え、えっ?」

「よく、分かりました。この蒼・空燕、これからは玉瑛様のために一層、力を入れて指導させていただきます。

 ──それが、未だ幼い貴方の身に役立つのであれば、我が剣の奥義……いいえ、秘奥義すらも喜んで伝授しましょう」

「いやそこまでは……っ、て、え、空燕先生……!?」

「なんですか、玉瑛様?」

「ど、どうして、俺を抱き締めてるんです?」

「稽古の一環です」

「いや、そんなワケ──ぬぁ!?」

「稽古と言ったら稽古です。いいから、しばらく黙ってじっとしていなさい」

「……く、くるしいんですけど〜?」

 

 大人の腕力でギュウッと抱擁され、俺は抵抗の気力を失った。

 ……なのだが。

 

(──いや、なんか、良い香りが……?)

 

 おかしい。

 女の人みたいな匂いがする。

 微かに胸元も柔らかい気がするし……く、くそぉ! これはどういうコトだ!?

 

(空燕先生は、もしかしてやっぱり女……!?)

 

 だとしたら、ちょっとドキドキするんですけど!

 俺の脳裏に、不覚にも脳筋女教師萌えの扉が垣間見えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 ……ちなみに後日。

 空燕先生はますます剣術の稽古に厳しくなったが、一方で、稽古後の介抱を妙に甲斐甲斐しく世話してくれるようにもなった。

 俺は密かに、空燕先生の性別が気になって、頭がどうにかなりそうな苦しみに襲われている。

 

 ……俺、ホモじゃないよな……?

 

 

 

 

 

 

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