中華風ファンタジー大河ドラマ的世界で皇太子なんだが後宮薬漬け傀儡エンドは嫌すぎる   作:独活ノ苔玉

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たくさんの高評価に感謝ですわ〜!
今回、人によっては吐き気を催す邪悪があります。ご注意を


右丞相の嫉妬

 

 

 

「プルラァァァァァァァァァァアア──ッッ!!」

 

 

 宮中のとある一室で、豚と猿を混ぜたような奇声が突如として迸った。

 豪奢にして華美、派手にして絢爛。

 部屋の中の内装も、調度品の数々も、何もかも一流の匠によって手掛けられた要人用の私室。

 部屋の主、大帝国“鳳国”の右丞相──蠍・天萬は、血涙を流さんほどの勢いで憤悶していた。

 天萬の手前には妖しげな水盆が置かれ、ユラユラと中身の水が波打っている。

 右丞相は、その水盆にくっつきそうになるほど顔を近づけて、血走った目で絶叫したのだった。

 

 

「殿下ァァッ! 殿下ァァ……ッ!

 うおおおおぉ、おおぉぉおぉッ、いけませぬいけませぬ……!

 そのような下賎の輩に身を預け、ああっ、あまつさえっ! 抱擁までお許しになるとは──フオオオオォォアアアアッ!!

 同じ男でも良いのなら、天萬でもよいではありませぬかアア……ッ!!」

 

 

 天萬の視界には、殿下と呼ばれた銀色の幼子と、蒼衣の剣客が仲睦まじい様子で抱き締め合う光景が映っている。

 距離にして、およそ一里は離れた空間の遠見。

 水盆には妖術がかけられており、使用者の知己がいま何をしているのかを映し出す働きがあった。

 大昔の仙人が作成したと伝わる古道具であり、さすがに音までは聞こえてこないが、天萬はこの水盆を使って、様々な敵の内情を盗み見て来た過去がある。

 そしてきっと、これからも私欲のために使い続けるだろう。

 

 ──しかし、

 

 

「い、いかん……! 嫉妬と羨望から頭がァッ! ぬおおおおおおおぉぉッ!!」

 

 

 天萬は醜く床を転げ回った。

 自身の歪んだ性癖から、銀色の幼子──玉瑛に対し、天萬は並々ならぬ関心を抱えている。

 妻帯者であり、娘を愛し、けれどそれはそれとして、幼気(いたいけ)な美少年にも興味が湧き出て止まらないからだ。

 

 ──これはきっと、前世からの宿業であろう。

 

 美しいものを自分の手で手折り汚すことに、天萬は生来、興奮する性質(タチ)だった。

 そのため、兼ねてよりあわよくばと狙っていた玉瑛が、他人……それも男……とスキンシップを重ねているのを見て、脳が破壊されそうな錯覚に襲われているのである。

 相手が女であれば、まだ許容できる。

 だが、同じ男となると、途端に嫉妬が濁流のように押し寄せ体の中を氾濫しそうだった。肉がブヨブヨとのたうってしまう。

 娘の婚約者であるとか、相手が皇太子だとかは、この際関係ない。

 ただ純粋に性的な欲求から、天萬は気も狂いそうになるほど玉瑛に執着している──が。

 

 

「フゥッ! フゥッ! …………フゥ」

 

 

 しばらくし、天萬は自身を慰めることで気を落ち着かせた。

 スッキリとした面持ちでスクッと立ち上がると、先程までの醜態もどこへやら、鳳国右丞相にまで上り詰めた狡猾で野心的な男の顔に戻る。

 ……さて。

 

 

(思った通り、やはり無能ではありませんでしたな)

 

 

 天萬は水盆に戻り、鍛錬を再開した様子の玉瑛を覗く。

 予想外といえば、蒼・空燕はいささか以上に荒っぽい指南役だったようで、こうして盗み見る稽古の様子は、通常の貴士族に施されるものとは明らかにレベルが違う。

 武術について少しでも明るいものがこれを見れば、一目で異常を察しただろう。

 このままいけば、玉瑛はそう遠からずして目論見通りの強さを獲得するに違いない。

 (ゲート)とやらも、問題なく開かれたように見える。気絶する回数も徐々にだが減って来た。

 

 

(つまり、皇族の赤髪()を持たずとも、血さえ引いていれば才能は遺伝する……)

 

 

 わざわざテキトーな刺客を見過ごさせ、追い込みをかけてきた甲斐もあった。

 次に顔を合わせれば、恐らく、いや確実に吐き捨てる勢いで「死ね」とまた(なじ)られるのだろうが……問題ない。

 天萬の業界では、美少年からの悪罵は甘露そのもの。

 

 

「──フ、フフフ、フハハハハ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!

 まっっっったくっ、最高ですなァァァッ、玉瑛殿下は!」

 

 

 だからこそ、手に入れる価値がある。今後もぜひ価値を示し続けてもらいたい。

 蠍・天萬は朗らかに哄笑して目を細める。

 初めて出会った時から、鳳・玉瑛は普通のガキではなかった。

 後宮の乳母たちに代わる代わる世話をされながら、しかし貴妃たちの不興を買うのを恐れられ、一度として愛を注がれず。

 父である鳳皇は、親子の愛情など解さない。そればかりか、武という一面でしか他者を推し量れない愚か者。

 普通に育てば、相当に擦れたクソガキに育つはずが、あの皇太子は極めてマトモな感性を備え持っていた。

 

 伏魔殿とも呼べる宮中で、それは明らかな異常だ。

 

 しかも、

 

 

「十歳にも満たない童子が、この私を相手に、取引など持ち掛けて来たのですからねェェ……」

 

 

 楽しみだ。

 天萬は素直にそう思った。

 思ったから、今日も配下に命令する。

 

 

「殿下の護衛係に伝えろ。〈暗翳蛇道宗(あんえいじゃどうしゅう)〉がまたやって来たら、今日は少し腕の立つ輩も通してよい。そろそろ腕を試してみてもよい頃合だ……デキによっては、いよいよ()かもしれんしな」

 

「──ハ」

 

「フフ。……嗚呼、今夜はあの甘露のような悲鳴が、どのように奏でられるのであろうか、実に楽しみだァァ……」

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 

 

 

 夜、汗ばむ暑さで目が覚めた。

 俺はパチリと目蓋を開け、慣れた予感に身体を起こす。

 虫の知らせ。

 第六感。

 まるで死期を捉えた老猫のように、俺は即座に護身用の短剣に手を伸ばした。

 相変わらず、天萬の寄越した護衛は職務怠慢を改める気が無いらしい。

 

 

(所詮はオークの手駒だもんな)

 

 

 そろり、そろり、と死のプレッシャーが近づいてくる。

 

 

(……さぁって、と。

 それじゃ、今晩もやってまいりましたよ? 玉瑛選手の命をかけたマラソン大会が!)

 

 

 このクソッタレっ! と思わず舌打ちしそうになって、慌てて堪える。

 僅かな物音とて敵には情報の塊だ。

 標的が気づいていると知れば、動きの起こりも変わってくる。

 俺はいつものように逃走経路を頭の中で反芻し、脱兎のごとく逃げる準備をした。

 が……

 

 

(──なん、だ? 今日はやけに息苦しいような……)

 

 

 夏の暑さのせいか、夜も深いというのに息が乱れる。

 刺客に襲われそうになっているのだ。

 緊張も恐怖も当たり前であり、が、毎日のように経験していることのため、多少の冷静さを保つことは問題ないはず。

 全身に回る気の巡りに不調も無く、内気を練れるようになってからは、俺の身体能力は成長期に合わせ、順調に向上しつつある。

 正直、逃げ回ることだけに専念さえすれば、これまでと同様、そうそうマズイ事態には陥らない。少なくとも、そのはずだ。

 空燕先生の剣術鍛錬によって、剣の腕にも自信はつき始めている。

 

 

(だってのに……)

 

 

 俺はドキン! と嫌な予感から、つい脂汗を垂らした。

 先程から感じる妙な威圧感。

 それはまるで、空燕先生や雲鷹の爺様にも似た気配を纏っているように感じる。

 もっと言えば、宮中でたまに見かけるバカゴリラや、ヤツの愉快な仲間たち(将軍ども)からも漂ってくる武錬の匂い。

 

 

(まさか──超人級か……?)

 

 

 ハァハァと荒くなってきた呼吸を必死に整えようとしながら、俺は徐々に頬を引き攣らせた。

 超人級というのは、俺が勝手に呼称している氷雪姿の危険人物ランクで、達人の上をいく人間やめちゃってますよカテゴリーに入る連中のことだ。

 空燕先生やじぃは、ここに分類されている。

 なんてったって、この世界じゃ一介の暗殺者でさえ斬撃を飛ばしてくるからな。

 達人も決して安い看板じゃないのだが、超人はもっと敷居が高い。

 原作キャラクター……ネームドと思ってもいいだろう。

 

 

(となると、いったい誰だ……!?)

 

 

 俺は固唾を飲んで最大限まであたりを警戒した。

 すると、

 

 

 

 

 

 

 

「…………おや、起きていたのね」

 

「────そんな、ウソ、だろ……」

 

「皇太子、玉瑛に相違ないわね? 悪いけど、お命頂戴するわよ」

 

「い、嫌だ……こっち来るなァ……!」

 

「……フン、残念だけど、これも運の尽きだと思うことね」

 

「や、やめろ! 俺に触ろうとするんじゃない……!」

 

「哀れね。でも、最後に私の名を聞かせてあげる。

 私の名は──」

 

「変態だあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ──ッ!!!!」

 

「へ、変ッ!? 違うわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()の刺客が思わずと言った様子で叫ぶ。

 俺も叫んだ。

 だって、なぜなら、そう──!

 

 

 

 

 

「オマっ、なんで頭巾()()被ってないんだよッ!?」

 

「え?」

 

「え? じゃ、ねぇだろ! 惚けた顔しやがって……!

 ク、クソッ! 嫌だ! 俺は嫌だ! オマエにだけは、絶対に殺されたくない……!」

 

 

 

 

 

 俺は「ピィっ!」と涙目になって駆け出した。

 オカマは、ハッとした後、真顔で追ってきた。

 黒頭巾のみを身につけ、後は全裸だった。

 

 

 

 







プルァ!(プリーズ高評価)

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