多種族世界で繫栄を謳歌せよ   作:片道ころり

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サブタイトルは「そして誰もいなくなった」
分かりにくいけど天使族のエリー視点だよ。


19話 婚活舞踏会DX 後編

 どいつもこいつも目を血走らせやがって。

 

 マックガバンの家の者としては有るまじきことだが、唾でも吐きたい気分だった。

 私はヘンリーの幼馴染ということもあって、こういった出会いを求める場所に出向く必要を感じなかった為、夜の舞踏会はこれが初めてになるが、流石にこの状況がおかしいことぐらいすぐに分かった。

 人が多すぎる。

 この会場のキャパは500人だっていうのに、何人いるのか分からない。

 イモ洗いかよ。

 こいつらの目当てが何なのかなんて、言うまでもないだろう。

 なんせ今まで社交界に顔を出してこなかったヘンリーの初の舞踏会なのだから。

 

 この国有数の名家の当主の子、普人族、成人前の男児という考える限りの優良物件なのだから、ワンチャンあるかもと考えておかしくはないのだ。

 もしもラインバッハ家に嫁入りできれば玉の輿だし、顔を覚えてもらえればそれだけでも儲けものだからな。

 

 だがな、そんな汚い理由でヘンリーに近づこうとするなんてこの私が許すとでも思ったか。

 お金の大事さは重々承知している身ではあるが、それとこれとは別問題だ。

 私の怒りのボルテージがギュンギュンと音を立てて上がるのを感じていた。

 

 もはやドリンクの受け取りさえも困難な人の群れの中で、やはりというか至る所で声が上がりだした。

 

「あ? 今、何つったよテメェ」

「どれだけ雁首揃えようとも選ばれるのは私なのだから、ここにいるのは無駄なことだと言ったんだが? 

 もしかして言葉の意味が理解できなかったのかな?」

「うるせぇぞクソエルフ」

「両手広げて無駄にスペース取ってんじゃねえよモヤシが」

「この顔面偏差値没個性がよ」

「こ、この高貴な顔を没個性だとお!?」

 

「おい場所開けろや。最初に挨拶するのは俺が先だ」

「その貧弱な体でイキってんじゃねえよ。後ろに並べボケナス」

「おい押すんじゃねえよ、押すな……押すなってんだろオラァ!」

「痛ってえなテメエ!」

「人の一張羅を酒で汚しやがって! 表に出ろてめえ!」

「押すなっつってんだろ!」

「ざっけんなてめえコラ! っすぞてめーおらぁ!」

「んだっるるぁっ! もるっ! もるるあ!」

「共通語で話せ田吾作がよぉ!」

 

「貧民共は大人しく後ろに並びなさいな。

 貧相なドレスで彼とお会いするなんて恥ずかしいと思いなさいな。

 なんですのその汚ったないローブは、パジャマで舞踏会に来るなんてどういう教育を受けたのかしら」

「んだとてめぇクソエルフが」

「貧相なのはてめえのスッカスカの胸の方だろ! ぎゃははは!」

「ころす」

 

「うわ、出入り口で脳筋が殴り合い始めちゃったよ」

「やばいやばい逃げ場がない」

「あ、エルフが切れた」

「端っこ! せめて端っこに行かないと巻き込まれる!」

「こんな閉所で魔術を使うなよ! 不味いこっちに飛んでうわああああ!」

 

 何だここは馬鹿しかいないのか。

 不穏な空気だとかいう予兆なんてものは全くなく、会場全体が沸騰したかと思えば一瞬で殴り合いが始まった。

 なんでマウントを取った数秒後につかみ合いに発展するんだよ。

 

 あっちでは興奮した獣人族同士がもみくちゃになって目につく相手に殴り掛かっては殴り返されている。

 向こうではマウント合戦にキレたエルフ族と魔法族が魔術戦をはじめ、それに巻き込まれたヴァンパイアがブチ切れて撃ち合いの渦中に突っ込んで双方に殴り掛かっている。

 早々に有利な立ち位置を求めて壁に飛び上がり、ポジションが被った所為でお互い不本意なまま戦闘に突入するアラクネ族とラミア族。

 喧騒の中、ドワーフ族と鼠人族が安全地帯を求めて悲鳴を上げながら走り回り、その合間を縫って殺傷力を抑えた魔力弾が数人相手に大立ち回りをしていた鬼人族に直撃する。

 謎の言語らしき奇声を発しながら相手を酒瓶で殴る者。

 近場の相手に協力を持ち掛けて背中を見せた瞬間に即裏切られる者もいた。

 なんだここは。

 動物園かよ。

 

 こんな猿山のエテ公どもが、彼に色目を向けるに飽き足らず、唾棄すべき性欲を露わに彼へにじり寄るだと? 

 面白いなお前ら。

 私がそれを許すわけがないだろうが。

 こんな連中を近づかせてなるものかよ。

 私はヘンリーの幼馴染だぞ! 

 

 私は周囲に展開していた魔法障壁を一時的に解除する。

 壁が消えたことで、好機と見たらしく詰め寄ってくる知らない獣人族に局所集中障壁魔術(ピンポイントバリア)でカウンターで吹き飛ばす。

 背後から突っ込んでくる別の獣人族に真下からの圧縮空気弾(アッパー)を顎にぶち当てて意識を飛ばす。

 左右からの魔力弾を拳で弾き飛ばし、お返しに誘導弾をプレゼントだ。

 何人か寝かしつけた程度では女どもの数は減った気がしないが、それが一体どうしたというのか。

 元よりこの会場にいる連中を全員叩きのめすつもりで来たのだ。

 私の覚悟はその程度で揺らぐような軽いものではない。

 相手が何百人いようとも関係あるか。

 

 天使族の本気を意味する光環を頭上に輝かせ、立ち上る魔力でもって体を限界まで強化して。

 彼に恋慕する女どもに拳を叩きつけて私は叫ぶ。

 

「私がっ! ヘンリーを守るんだ!」

 

 死にたい奴から、かかって来いやぁ! *1

 

 

 ◆ー〇ー◆

 

 

 戦いは苛烈を極めた。

 床には敗者が転がって足の踏み場もなくなり、しかしまだ数人の敵が残っていた。

 獣人族が一人、鬼人族が一人、ヴァンパイア族が一人、それと私。

 

 意識を逸らした獣人族を今私が撃ち抜いたから、残るはあと2人。

 三つ巴になった瞬間、目の前の二人は息を揃えて同時に突っ込んで来た。

 

(……ッ! 卑劣な真似を!)

 

 こいつら土壇場で手を組みやがった。

 そんなにヘンリーにすり寄りたいのか、この不埒者め。

 だが二人がかりではなあ! 

 

 既に対応魔術は組みあがってるんだよ! 

 鬼人族の踏み出した足に拘束魔術が絡みつき、その反対側から私を挟もうとしたヴァンパイア族には予め設置しておいた専用の拘束魔術で全身を縛り上げる。

 あとは魔力弾で意識を刈り取るだけだ。

 口ほどにもないなあ! 

 ヘンリーの隣に立つ女は、この私! 

 エリー・マックガバンよ! 

 

 ふははは、と勝利を確信した私は、これから敗北者の列に加わる二人の顔を見る。

 だが二人は笑っていた。

 まるでその顔は勝利を確信した今の私のように──―

 

 不意に頭上から影が差した。

 頭上という完全な死角からの強襲。

 今の今まで天井に潜んでいたというのかこのラミア族めがああ! 

 

「んなあっ!?」

「殺ったぞおらああああ!」

 

 まずい。

 高速戦闘に対応するために障壁魔術のリソースを別に回していた所為で、防御が間に合わない。

 仮に間に合ったとしてもラミア族の勢いづいた尾の一撃を食らっては一溜りもない。

 だけどそれでは。

 ヘンリーが、

 間に合わないならいっそ、

 ラミア族の尾が振り抜かれ、鱗が私の視界を埋めて──

 

「うおおおおおおお! 玉の輿じゃあああああ!」

「よくやったぞラミィ!」

「信じてたぜ!」

「もっとだ! もっとこの私を褒めな!」

「「ラミィ! ラミィ! ラミィ!」」

 

 舌を噛む。

 明滅する視界を根性でねじ伏せて。

 たった一つの魔術を、人生最速で構築する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これが幼馴染の底力だ。

 たっぷりと味わうがいい。

 

「くら、え……」

「私にかかればこのくらい……なんか言った?」

「しまった! まだ俺たちの拘束魔術が解けてない! ラミィ!」

()()()()()()()()()()()*2

 

 死なば諸共の空間爆砕術式じゃあああい! 

 気付くのがちょっとばかし遅かったなあ! 

 例え! 私自身が敗者の列に加わることになろうとも! 

 ヘンリーは! 

 私があ! 

 守るんだ! 

 

「た、対ショック姿勢いい!」

「拘束されてんのに出来るわけねえだろ!」

「ガッツのある娘だねぇ、気に入ったよ」

 

 真っ白な閃光が弾けると同時に、私の意識は闇に沈んだ。

 

 ……。

 ……揺れ、てる。

 何かに乗せて運ばれているのを自覚して、私の意識は浮上する。

 念のために構築して時間凍結しておいた治癒魔術が上手く機能したようだ。

 乗っているのは担架だろうか。

 霧がかかったような視界で周囲を見回すが、会場内でまともに息をして動いているのはスタッフだけのようだった。

 良く見えなかったが多分そうだ。

 私が勝ったに決まっている。

 

 担架に揺られる私の目に、ぼんやりとだが人影が映った。

 きっとヘンリーだ。

 確証はない。

 だけど私にはわかる。

 ねえ、ヘンリー。

 彼の横を担架で運ばれながら、思ったことをそのまま言葉に乗せる。

 

「わたし……勝ったよ……」

「エリー!」

「おさななじみは……さいきょうだぁ……」

 

 あ。もう無理。

 

 

 ◆ー〇ー◆

 

 

「あ、あの、その子の怪我の具合は……?」

「気絶してるだけなんで30分くらいで治りますよ。

 自分で治癒術式を起動してますし、ベットに寝かせてれば勝手に起きだすでしょうね」

「そう、なんですか?」

「どちらかというと周りのお客さんの方が怪我の具合は酷いですね。

 まあそれも1,2時間したら起きるでしょうけど。

 この惨状の半分くらいはあの子がやったみたいですよ」

「へ、へえ……」

 

 思わぬ残虐ファイトの片鱗にヘンリーはちょっと引いていた。

 担架に揺られ遠ざかっていくエリーを見送りながら、ヘンリー達4人は顔を突き合わせて相談し始める。

 崩壊した会場と気絶した参加者の群れ。

 どこからどう見ても舞踏会の体を成していなかった。

 

「こういうのって良くあるの……?」

「まあ割とあるな。会場が半壊するのは滅多にないが」

「それよりもこれからどうする?」

「なんか食って帰ろうぜ」

「お腹減ったね」

「この辺りの地理は明るくないな、いいお店はあるかい?」

「あたしもよく知らないな。アヤメはどうだ?」

「さっき言ってた美味いラーメン屋の屋台が近場にあるんスけど……」

「じゃあそこに行こうぜ、坊も良いよな?」

「え、でもラーメン屋っすよ」

「ラーメンは豚骨? 醤油?」

「両方ありますが、味噌が美味いっす」

「よし行こう!」

「夜のラーメンの背徳感は堪らないねえ」

「本当に連れてって良いんすかね……」

「坊が良いって言ってんだから良いんだよ、ほら行くぞ」

「替え玉ってある?」

「なんすかそれ」

 

 4人は舞踏会に背を向けて、夜の街に歩き出す。

 幼馴染の見せた思わぬ一面を飲み込むには、何かきっかけが必要だったのだ。

 なお、ラーメン屋の店主はとんでもない格好でやってきた客にビビりまくっていた。

*1
殺しは誓ってやってません

*2
ラミィちゃんには殺す気はありませんでした。言葉の綾です




他に息を潜めてた連中も全員道連れにしたエリーが今日のMVPだよ。

  ドラゴン娘「遅刻したら舞踏会の会場が壊滅していて、ヘンリーの姿もおらんのじゃが」
  ヘンリー君「ラーメンうめぇ」
タチアナちゃん「ラーメンうめぇ」
 マリナちゃん「ラーメンうめぇ」
 アヤメちゃん「おかわり!」
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