【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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対立 その6

 男達は生霧会、と呼ばれる組員であると分かった。

 ユミルが催眠で聞き出した情報によると、彼らの目的が詫びをさせたいだけ、というのは間違いないようだった。一度面子を潰されれば、もっと容赦ない事を仕掛けてくるのが暴力団だと思っていただけに、これには正直拍子抜けした。

 

 だがこれは、面子の問題があるにしろ、先に手を出して返り討ちにあったという事実があっての、穏当に済ませる方に舵を切ったという一面がある。

 

「けど、どうもそれだけじゃないのよね……」

「どういう事だ」

 

 ミレイユが聞くと、ユミルの顔は奇妙に歪む。まるで非常に受け入れ難いものを見るような表情だった。

 

「SNS上に動画が上がっているらしくて。……ほら、例のヤツフササマとの一件ね」

「有り得るかもとは思っていたが……。もうアップされていて、しかもこんなヤクザが見つける程に広まっていると?」

「広まり具合については何とも……。ただ、アタシたちは神宮関係の、更に言うと神使って奴だと思われてるみたいね」

「面倒な……」

 

 それを聞いて、ミレイユもまたユミルと似たような表情で顔を歪めた。

 今にも舌打ちしたくなる気持ちを抑えて溜め息を吐く。

 

「ひどい勘違いだ。……今すぐネット上から消し去ってやりたいが、まぁ無理だろう」

「そうよねぇ……」

「だが、そういう事なら利用させてもらうか」

 

 ミレイユが疲れを感じさせる声音で言うと、ユミルは面白そうに眉を上げる。

 

「何か騒ぎを起こすとか言ってたけど、それに一役買ってもらうってワケ?」

「うん、元よりヤクザなど眼中にない。私が知りたいのは、私達を今も監視しているであろう奴らの動きだ。だから、相手の反応次第で分かる事もあるだろう」

「ふぅん? ま、いいわ。退屈しなさそうだし」

 

 ユミルは訝しむ様子を見せたものの、すぐさま顔に笑みを貼り付ける。そして、今も焦点の合わない目で、呆然と突き立つ柄シャツに顔を向けた。

 

「……で、コイツどうする?」

「ここまで生霧会に行くには距離もそこそこあるだろう。運転させて案内させよう」

「命じればある程度はやってくれる筈だけど、あんまり精密な動きとか出来ないわよ」

「ま、そこは何かあれば私がフォローする」

 

 ならいいけど、とユミルは早速、柄シャツの顎を掴んでその眼を覗き込む。すると覚束ない足取りで路地から出ていく。

 恐らく自動車のある場所まで移動するつもりだろう。待っていて問題なく戻ってくるか不安なので、その場所まで着いて行く事にした。

 

 そこにアキラが横から声を掛けてくる。

 

「端にどけた男たちはどうします?」

「放っておけ」

「いいんですかね? 日干しになっちゃいますけど」

「別にいいだろう、それぐらい。死にはしない」

「いや、でもやっぱり……!」

 

 言い差して、アキラは直射日光を受けている男達を日陰のある方に移し始めた。

 どこまで人が良いんだと思うが、咎める事も止める事もしなかった。熱中症になるような気温や日差しの強さではないとはいえ、何かとその辺を刷り込まれているアキラからすれば見逃せない事らしい。

 

 実際、手間はそれ程でもなかった。アキラも内向魔術を順調に会得していると見え、明らかに持ち運べないサイズの男も軽々と肩に乗せて移動させている。

 その成果が垣間見えただけでも、やらせる意味はあったかもしれない。

 

 ミレイユはそれを見終える前に、柄シャツと十分な距離を離して着いて行き、その後をアヴェリン達が着いてくる。

 アキラは慌てた様子で男達を移動させ、急いでその背を置いかけていった。

 

 

 

 一路危なっかしい動きもあったものの、車は一つの雑居ビルの前でブレーキを踏んだ。それからうんともすんとも言わなくなったので、恐らくここが生霧会の拠点としているビルなのだろう。

 

 柄シャツを適当に昏倒させ、車から引きずり下ろして雑に持ち運ばせる。

 アヴェリンが片手で首を掴んで持っているが、あれは首が締まったりしていないか少し不安に思う。踵がアスファルトの上を引き摺っていて、階段を昇る度に鈍い音を立てる。

 靴はとうに両方とも脱げて、靴下が剥き出しのままだらし無く足が垂れていた。

 

 一階や二階はヤクザと関わり合いのない会社なのかどうか、ミレイユには分からない。ビルまるごと所有しているという話は聞いていないが、何かしら持ちつ持たれつの関係で経営している可能性はある。

 

 五階まで辿り着くと、そこには金塗りで五代目生霧会の名前が大きく刻まれたプレートが掲げられていた。ここまで堂々と掲げて良いものなのかどうか、ミレイユは鼻息を荒く飛ばしながらユミルを見る。

 

「それで、ここに詰めている人数は、そう多くないと思って良いんだな?」

「そうらしいわね。殆ど全員アタシたちを捜索させるのに駆り出しちゃったみたい。で、今は若頭だっていう生路市蔵が待ってる筈で、他に誰かいるにしても三名は越えないみたいね」

「……なんだ、つまらん」

 

 アヴェリンが明らかに落胆した声を出したが、アキラはむしろホッと息を吐いていた。

 そして苦い顔をアヴェリンに向ける。

 

「数が多くいたとしても、師匠じゃどうせ殺しちゃうでしょ……」

「手足の二、三本折ってもいいのなら、無力化は難しい事ではない。……まったく、せっかくミレイ様のお役に立てる機会だというのに」

 

 理不尽な怒りを、扉の奥の何者かに向けた。

 しかし、向けられた方も堪るまい。全く一切の抵抗虚しく蹂躙できる者が、暴れたいなどと言っているのだ。

 

 ミレイユはアヴェリンへ、顎をしゃくって扉の前に立つように指示する。

 他の者たちも移動しやすいように場所を譲ってやり、そして鍵のかかった扉を力任せに開く。ドアノブがあっさりと壊れてしまったので、扉の隙間に指を差し込もうとして、指先に力を込めた。そのままでは当然、隙間にいれるなど無理なので、鉄製の扉を指の形に変形させながら捩じ込んでいく。

 

 ユミルは隣りにいるアキラの耳に口を寄せ、囁くように聞いた。

 

「アンタももう、あれ出来るの?」

「無理に決まってるじゃないですか……」

 

 そんな事聞いてる間に、アヴェリンは扉そのものを取り外す勢いで扉を開いた。鍵の機構はすっかり歪んで外れてしまっている。

 中には構成員が二人いた。突然壊れた扉に唖然とし、そしてアヴェリンが突き出した柄シャツ男を見て更に唖然とした。

 

 明らかに白目を向いて力なく口を開けた男が、地面にギリギリ立てない高さで吊り上げられているのだ。だが、その事を男達が理解する事はなかった。

 まるで小さなボールを投げるような気軽さで、アヴェリンが男を投げ飛ばしたからだった。

 

 そしてそれは物理的に有り得ない速度で二人を巻き込んで、立ち上がりかけていた男達を薙ぎ倒す。男一人分の重量は、起きだそうとするには相当邪魔だ。

 悪戦苦闘している間にアヴェリンが近づき、二人を雑に蹴って昏倒させてしまった。

 

 その間にミレイユは男達を無視して奥にある扉へ近づき、そして蹴り飛ばしたりする事なく普通に開ける。

 そこでは音と衝撃に驚いた一人の男が、上等なソファーから立ち上がろうとしている所だった。

 がっしりとした体格をした、頬に刀傷を持つ男で、それが驚愕とも憤怒とも思えぬ表情をさせながら、ミレイユ達を見つめている。

 

 ミレイユはそのまま椅子の一つ、もっとも男から離れた場所に座る。

 距離を置きたい訳ではなく、単にそこが男と対面できる場所だったから選んだに過ぎない。ミレイユが座ると、その左後ろにユミルが立ち、その逆側にルチアが立つ。

 アキラは顔を蒼くさせたまま、ミレイユの後ろに小さくなって立った。

 

 ミレイユは足を組んで、両手の指を絡ませたものを膝の上に置いた。帽子は目深に被り、男から顔は伺えない。しかし鼻から下は見えている事だろう。不機嫌に口元を絞った、艷やかに輝く唇を。

 

 男は硬直したまま動かなかったが、アヴェリンが入ってルチアと場所を交替した辺りで観念したようだ。力を抜いて、どっとソファーに倒れ込む。

 ミレイユはヤニ臭い部屋に鼻の皺を寄せ、そして男はタバコに火を着けた。

 

「それで、お前ら――」

「あらあら、駄目じゃない」

 

 ユミルが指先を向けたのと同時、その先端から紫電が奔る。

 目にも留まらぬ速さで男の指先を撃ち抜くと、タバコが消し炭になって高級そうな机の上に落ちた。

 

 男は苦痛に顔を歪めながら、撃ち抜かれた手を片手で覆っている。痛みはそこそこあるだろうが、目標はタバコだった。強めの静電気よりは痛いぐらいで済んでいるだろう。

 男は額から脂汗を垂らしながら、戦慄く口を開く。

 

「お前ら、何の――」

「お馬鹿」

 

 ユミルから鋭い叱責が飛んで、今度は男の手の甲を紫電が撃ち抜く。

 小さく悲鳴を上げて、手の甲を庇うように抑えた。

 

「――ああッ、クソ! 何しやがった!」

 

 痛みを堪えて顔面を赤くさせ、額には血管が浮いている。目は血走って、明らかな殺意を持ってこちらを睨んでいた。

 

「――どちらが格上かも分からんのか。上の立場の者が話すまで、目下の者は黙っているものだ」

 

 そこへアヴェリンが、明らかに見下した声音と態度で男を見る。

 恐らくは多くの修羅場を潜ってきたであろう男が、その一睨みで大人しくなる。多くの鉄火場を越えて来たからこそ、アヴェリンの強大さが分かったのかもしれない。

 

 そしていざミレイユが何事かを話そうとした時に、遠慮がちにルチアが口を挟んできた。

 

「周囲二キロ、取り囲むように複数の者が接近して来ています。このまま包囲するつもりかと」

「ああ、ありがとう、ルチア」

 

 ミレイユは頷いて軽く、手を振ることで労う。

 目前の男はルチアの言葉に一縷の希望を見出したようだが、しかしこれは男の味方ではない。神宮から派遣されてきた者たちだとルチアには分かっているから、こうしてこの場で報告してきたのだ。

 

 まさか組の味方をする訳でもあるまいし、ここまで接近してくるのは予想外だった。いつものように、着かず離れずの距離を維持して様子を見る程度だと思ったのだが――。

 それとも、この組に味方する理由でもあるのだろうか。

 

 ミレイユは改めて男に目を向ける。

 サングラス越しに、その両目を射抜くように睨みつけた。

 

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