【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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脅威拡大 その7

 七生が息を呑み、それがヒュッと音を立てた。

 その表情には、ハッキリと自分には無理だと書かれている。今はその実力差が壁のように立ちはだかって、無理に思えるだろう。

 

 だが、それを覆せると分かっているからこそ、ミレイユは言った。どの程度、ミレイユの干渉で強化が出来るかは、ある程度分かる。だからこそ言った。

 

 この話を請け負った時、それを確認出来た内容時点で、無理だと分かれば鬼を倒してしまうと決めていた。

 御由緒家の者たちに限った話ではないが、基礎術を修得してから、ひたすらその基礎の研鑽を続けてきたのが、現世の理術士達だ。本来なら次のステップに進んで良いのに、本来なら基礎術から初級術、中級術へと進むべきところなのに、その基礎のみを積み上げてきている。

 

 その基礎を今こそ活かす時で、そして昇華された制御術を扱えられたら、あの程度の鬼は倒せると見切った。

 

「お、お言葉ですが御子神様……。何か理術を授けて頂いたところで、あれが何とかなるとは思えません……」

「お前は知らないだけだ。自分たちが身に付けたものが、深奥へと辿り着く、ほんの些細な一歩でしかないのだと。ただ入口で、足踏みしている状態でしかないのだとな」

 

 ミレイユが言った事は表現が曖昧で、理解するには難しすぎたようだ。

 指の仕草で立ち上がるように指示すると、七生は素直に従って神妙な顔付きで立ち上がる。

 

 ミレイユは離れて様子を伺っていた三人にも、手招きして呼び寄せた。

 話の内容は聞こえていたろうに、互いに目配せして恐る恐る近寄ってくる。

 

「お前たちとは顔を合わせたから、今更自己紹介はしなくていいな」

「は、それは、勿論ですが……。神前のご挨拶などは……」

「いるか、そんなもの。戦闘中だぞ、優先するのは敵の排除だ」

 

 凱人が情けない顔をしながら首肯するところを見れば、現状がイレギュラー過ぎて対応に困った事になっているようだ。左右に立ち並ぶ漣や紫都を見ても同様で、神との対面が叶えば、まず許しがあるまで頭を上げないとか、そういう面倒な決まりがあるのだろう。

 

 それが骨の髄まで染み込んでいるのだとしたら、とかく恐れ多いというオーラを出しているのも頷ける。

 だが、それではいつまで経っても話が進まない。

 

「いいか、面倒な話じゃない。普通にしていろ、私もそうする。今はアイツを倒す事に専念しろ。勝てる手段をこれから与える」

 

 ミレイユが親指で魔物を指し示せば、そこにはユミルとアヴェリンが二人がかりで蹴り飛ばしているところが目に入る。

 文字通り()()事のみを考えての攻撃だから、敵もダメージは負っていない。単に転がされたようなものだが、凱人達の表情は引き攣っている。

 

 自分たちでは手も足も出なかった相手を、子供扱いするかのようにあしらっていては、そういう気持ちになるのも良く分かる。

 倒せるというなら倒して欲しい、とさえ考えているかもしれない。

 

「オミカゲ様はお前達が、これから鬼に対抗出来なくなる事こそ危惧している。今日、あのような鬼が出てきた事から分かるように、その戦力は強化傾向にある。そしてこれは、この先も続くと考えているようだ」

「そんな……」

「私達なら勝てる……、それはそうだ。だがお前達は? これから逃げ惑うしかないのか? 我々の到着まで、その場を死守するだけで良いのか? 戦う意思はあるのか?」

 

 言い終わって、ミレイユは素早く四人を見渡した。

 

「――どうなんだ?」

「あります! 我ら御由緒家はオミカゲ様の矛と盾! その誇りを失くしては生きていけません!」

 

 他の三人も口々に戦う意志を見せると、ミレイユは大いに頷く。

 

「お前達の基礎力は高い。これまで弛まぬ努力を続けて来たからこそだろう。やり方さえ間違わなければ、あの鬼にも勝てる」

「そうだとしても……、私どもは既に理力が底を突いております」

「あぁ、そうだったな」

 

 ミレイユが何でもない風に鼻を鳴らし、肩から力を抜いて息を吐く。

 青い光が立ち昇り、次の瞬間には四人全員を光の奔流が飲み込んだ。

 

 一瞬、立ち眩みのように身体を揺らす者もいたが、すぐに持ち直して佇まいを直す。

 そして自身を見下ろし、両手を開いたりと、体の調子を確認していった。そして、その意味にようやく得心がいったらしい。

 驚愕と尊崇の表情を綯い交ぜにして、誰もがその場に跪く。

 

「よもや神威にそのような効果があるとは思いませんでした……! なんと気高く、気遣いに溢れた力なのか!」

「だから、そういうのは止めろって言うんだ。……立て、いいから。話が出来ないんだよ」

 

 神威を浴びた者は何人といるだろうが、現代において理力を消耗した状態で神前に出るなどと言う事はなかったのだろう。

 それ故の感動と驚愕だと分かるが、いずれにしてもミレイユからすれば鬱陶しくて適わない。

 四人はそれを聞いても軽々しく頭を上げる事はしなかったが、ミレイユが重ねて言ってようやく頭を上げる。早く立てと促して、それで次の話が出来るようになった。

 

「内向理術を得意とする者は?」

「はい、私と凱人です」

 

 七生と凱人が挙手をして、二人をミレイユの前に、それ以外を少し外へ置く。

 そうしてまず、七生の手を取った。

 明らかに動揺している様子が伝わってくるが、一々構っていられない。両掌を上に向け、七生にはその上へ重ねるように命じた。

 

「では、制御してみろ。自分が普段、その力を振るう時と同じように、動かしてみるんだ」

「わ、分かりました……!」

 

 何度も頷いた後、七生は目を瞑って制御を始める。

 内向術士は自分の身体を巡回させるように運用する。必要な時、必要な場所へ力の層を作って瞬発力を上げる、という運用法もあるものの、何より重要なのは、この巡回速度にある。

 その速度が早ければ早いほど、力の層が蓄積される。それは同時に消費されていく層でもあるのだが、消費よりも多ければ多く蓄積できるし、蓄積量が多ければ多くの力を発揮できる。

 

 集中している七生からは、それでもまだ余裕があるように感じた。

 戦闘中の運用を意識しているのは分かるが、同時に全力でもない。

 

「もっと早く。全力を絞り出すように」

「はい……!」

 

 返事と共に回転速度は上がったが、それでもその差はごく僅かだ。本能的にブレーキを掛けているのか、それを全力と勘違いしているのか、どちらかだろう。

 ミレイユは断りを入れてから、その制御を奪った。

 

「お前の全力はもっと早い。巡らせる事に意識を割きすぎて、出力が疎かになっている。……いいか、こうだ」

 

 その変化は劇的だった。

 まるで軽自動車からスポーツカーへ乗り換えたような速度の違いがある。

 七生の巡回速度は全体から見ればムラがあり、また一回転する毎に一瞬の溜めがあったり、途中で引っ掛かるような部分さえあった。

 

 単純に癖の部分もあるだろうが、苦手意識が出た部分もあるのだろう。

 その全てを無視して高速回転を始めれば、戸惑うのも当然だった。身体が震え、足元すら覚束なくなる。顔面は蒼白なのに汗が溢れ始めた。

 

「こ、怖い! 怖いです……!」

「そうだな、慣れろ」

 

 ミレイユは弱音に頓着せずに続ける。実際、すぐに慣れる筈なのだ。自動車に乗った事のない人が初めて乗れば怖く思うだろうが、七生はそれに乗って普段からスピードを出して走っていたようなものだ。

 乗った車も違い、そして最高速度も違うのだとしても、スピードを出して走るのが日常的だったなら、すぐに慣れる筈だった。

 

「持て余しているものを動かしてやっているだけだ。お前は本来、これだけやれる。制御しているのは私だが、出来る事をさせているだけ……。この感覚を掴め、同じようにやってみろ」

 

 言うなりその手を離し、奪っていた制御を戻す。

 離した瞬間は不安定だったが、すぐに勘を掴んで同じように制御してみせた。初めて補助輪を外して走る自転車のような危なっかしさだが、しかしそれでも走れている。

 

 それが出来る自分が信じられないようだ。

 ミレイユを見て、次いで凱人を見ては、泣き笑いのような表情を見せる。そしてクールダウンさせるように、徐々に制御速度を落としていって、それでようやく息を吐いた。

 

 顔面は蒼白なのに肩で息して、額には大粒の汗が浮いている。

 そして顔面には、引き攣った笑顔が浮かんでいた。

 

「信じられない……! 今の本当に私がやったんですか?」

「まともな師を持てなかったのが、お前の不幸だったな。限界を決めつけられ、その運用が正しいと思い込んでいた」

「私の師は父上なのですが……」

「じゃあ、その父の教えが悪かったんだろうさ」

 

 そう言ってしまえば、誰もが渋い顔をする。

 御由緒家の技術は一子相伝という訳ではないが、それでも同じ家名の者にしか授けられない技術だ。そしてそれは代々受け継がれ、研鑽され、昇華させて伝えられてきた。

 数多の技術がそうであるように、常に進化させて継承された技術を、そうと切り捨てられてしまえば苦い顔にもなる。

 

 だが実際、その技術の限界を簡単に突破してみせたのも、神の技術なのだ。

 これが他の誰かならば反発もあったろうが、教えを授けたのが神となれば話は変わる。強力な鬼を前に、神がその力を授けたとなれば本家の誰も文句は言えない。

 

 七生は未だ心臓の音が煩い身体を必死に押し込めて頭を下げた。

 ミレイユはそれに軽く頷くように感謝の意を受け取り、次の相手へ顔を向ける。

 凱人が一歩前に出て頭を下げた。

 

「御指南の程、よろしくお願いします……!」

「あぁ、だが見ていたとおりだ。心構えは出来ているな?」

「勿論です!」

 

 凱人が両手を差し出し、ミレイユがそれに重ねる。

 そうして再び、ミレイユの手による簡易修行が始まった。

 

 

 

 

 制御技術は内向術士にとって大事なものだが、外向術士にとってもそれは同じだった。制御の方向性は異なるが、早ければその分、放つまでの時間が短くなる。

 単純に早ければ良いという訳ではないから、その扱いは内向術士とは比べ物にならない難度になるが、一流と呼ばれる者は全員それがやれる。

 

 残った漣や紫都はまだ一流ではないものの、いずれは辿り着いて貰わねばならない境地だ。

 だからその一端を味あわせたのだが、二人はすっかり参ってしまった。

 

「いや、とてもじゃないけど出来る気がしねぇです……!」

「神のみに許された領域、……だと思います」

 

 外向術士にとって、制御の失敗は死にも繋がりかねない危険を孕むから、その運用は慎重を期する。速さは重要だが、安全マージンを取る事が当然と思っている二人には酷な修行だったようだ。

 

 だが、それは別にいい。

 本来の目的は、より上位の術を使えるようにしてやる事だ。術の威力は術者の力量によって変わるとはいえ、初級の術ではどうあっても届かない敵というのは存在する。

 

 単純に外皮を貫く威力がなければ、全てを無力化してしまうような相手だと、外向術士は全く役に立たなくなる。ミレイユが本来いた世界では、魔術書があるから好きに修得すればいいが、こっちの世界ではそうはいかない。

 

 今も涙ぐましく騙し騙し使ってる状況、というのがミレイユからの評価だった。

 そして実際使わせてみて感嘆する。よくも、そんな骨董品を使っていたな、と呆れる気持ちすらあった。どんな術にも上位互換となる術はあるものだ。それが初級術ともなれば候補は膨大で、何を修得させるか迷ったのだが、今は最も得意な術に絞って与えた。

 

「これが神の扱う理術ですか……。早速使ってみたくてウズウズしてますよ!」

「不謹慎。……でも、気持ちは分かる」

 

 漣には攻勢理術、紫都には支援理術をそれぞれ与えた。理力の消費量も増えたが、それに値する働きはするだろう。習熟すれば使い勝手も分かってきて、その消費量も抑えられていく筈だから、使い始める今が我慢時だ。

 

 アヴェリン達へ目を向けると、近づけさせるな、という命令を守って敵を遠くへ追いやっている。戦況は余裕でアヴェリン達へ傾いており、口を開けて息を吸おうとする時も、素早く顔面と腹を強打して封じていた。

 

「なるほど、ああやればいいのか……」

「生半可な攻撃じゃ、どっちみち止められないでしょうけど」

 

 凱人と七生がそれぞれ感想を言い合うのを横目に、ミレイユが口を開く。

 それで一斉に佇まいを直してミレイユに向き直った。

 

「私の見立てでは、苦戦はしても負けはない筈だ。私の言葉が信じられるなら、勝てる勝負に勝ってこい」

「勿論です! 必ずやこの勝利を御子神様へ捧げます!」

「別に私に捧げる必要はないがな。……ああ、倒れてる奴らは私の方で面倒見よう。誰も死にそうな怪我していないし……、問題ないだろう」

「ハッ! 全く倒れた者どもが羨ましいくらいです! 部下たちをよろしくお願いします!」

 

 凱人が頭を下げ、同じように三人も頭を下げる。

 次に顔を上げた時には、鬱陶しそうに手を払って敵へ向かうよう指示する。それで踵を返すと、跳ねるように飛び出し魔物へと向かって行った。

 

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