【完結】神人創造 ~無限螺旋のセカンドスタート~   作:鉄鎖亡者

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帰郷 その1

 腹の底から力づくで引っ張られるような不快感が消えた時、そこは既にドワーフ遺跡ではなかった。目を開けば安物の白い壁紙と狭い部屋、窓から差し込む日差しが見える。

 帰ってきたのだ、と思うのと同時、予想に反した光景が目の前に広がっていた。

 

 想像していたのは、かつて自分が住んでいた部屋だった。

 家具もロクに備えていない、2DKの安アパートが自分の部屋の実情だったが、今そこにあるものは随分違う。

 

 膝の丈より小さかった冷蔵庫はツードアの立派な冷蔵庫になっていたし、そこから視線を横に移せばお洒落な棚。そこには用途は分からないが見栄えのするインテリアが置いてある。

 板張りのフローリングにはラグマットが敷かれ、二人がけの白いソファが窓辺を背にし、その前にはガラステーブルが適度な距離を離して設置されていた。

 更に視線を移せば細々と生活の後を感じさせ、ダイニングから見える他の二部屋にも若い活気が溢れていた。

 

 自分の記憶にある間取りと一致する部屋と、全く記憶にない家具。

 ここは確かに現代日本だと理解できるのと同時に、全く記憶に合致しない部屋が目の前にあった。

 それらを認識して、ようやく思い至る。

 

 ――ここは自分が知るより三年後の世界なのでは?

 

 恐らく、帰ってきたこの場所は、かつて自分が過ごした部屋に違いない。

 しかし、あちらの世界で三年過ごしたのなら、こちらの世界でも三年経過していると考えるのが道理。

 あの時、願いを叶える際に、その事を加味して言わなかったのであれば、都合よく解釈して自分が消えた直後の時間に帰してくれる筈もない。

 

「あぁ、くそっ……」

 

 思わず口汚く呻きが漏れる。

 今すぐ願いが叶うという餌をぶら下げられて、気が急いたのも確かにある。

 仲間たちに何一つ相談せず、逃げるように行った最後の別れが気まずかったのは確かだ。

 だからこそだろう、簡潔に必要最低限の言葉で願いを言ってしまったのは。

 

 あれは一種の契約だ。

 自分と機構との間で取り交わす、絶対行使の契約。

 

 あちらの世界では紙面契約など稀なことで、文言を口にしなければ騙されて当然という摂理の中で生きてきた。それは長い旅の間に、よく学んだ筈だった。

 大事な部分はハッキリと、契約は細かい部分こそが肝心――。

 

 強い頭痛を感じて、額に手を当て重い溜め息を吐いた時だった。

 その視界に飛び込んで来たものに、吐き出していた息が急遽止まる。

 

 ――鈍色に染まる銀のガントレット。

 

 使い古され、かつての色が薄汚れて失われてしまったそれは、あちらの世界にいた頃なら違和感はなかっただろう。しかし、この現代日本においては齟齬しか感じない。

 全身を確認しようと慌てて視線を下に向け、そうして腕を中途半端な高さで広げて固まる。

 そこにあったのは、あのドワーフ遺跡を最後にした時のまま、変わっていない姿だった。

 

「う、ぐぅぅ……!」

 

 今度は重い呻き声が口から溢れた。

 ――ミレイユだ。

 ミレイユの姿のまま、変わらぬ装備姿のままで、この場に立っている。

 

「なんでだよ!」

 

 荒々しく声を出したのは、あくまで身に付けた装備だけで肉体はミレイユではないと期待したからだ。

 だが口から出てきた声は女性のもの、聞き慣れた――この三年間で聞き慣れてしまった声が確かに発せられていた。

 

 それでも一縷の希望を持って、部屋の中から鏡を探す。

 幸い、それは畳の一室から姿見として発見でき、そしてだからこそ勘違いや見間違いをさせない現実を突きつけてきた。

 

 全体的な色合いは藍色で、頭には先端の折れた魔女帽子。

 両手には肘までを覆う銀のガントレットに、足には同色のグリーブ。胸にもブレストプレートがあるが腹まで覆わない局所的なもので、それ以外の部分に金属部分は存在せず、帽子から分かるように魔女的な服飾を身に着けていた。

 ガントレットの上から覆う、肩を露出させた姫袖。膝下まで伸びるスカートは両サイドにスリットが深く入れられて、太腿が露出している。

 

 大枠では魔術師らしい格好だが、その上から無理に戦士の防具を身に着けたようなチグハグな差を感じる装備だった。あまりにも合理性から掛け離れた装備だが、このような格好をしているのには勿論理由がはあった。

 

 だが今は、それより――。

 今の今まで違和感すらなかった帽子に手を向ける。

 姿見に写るミレイユもまた同じ動きで帽子のつばに指先を当て、そしていつもの癖でそうしているようにつばの側面を撫でた。

 

「そんな事になるか……?」

 

 口から出たのは理解したくない現実を疑問視する言葉だったが、同時に諦観でもあった。

 そう、何一つ細かい要望は口にしなかった。

 そこに過失はあったかもしれない。ただこの世界に帰還する事、それしか口にしなかったが、だからといってゲームのキャラクターのまま帰還するなど想像できない筈だ。

 

 あくまで認識として、ゲーム世界に入るまで御影豊として生きてきた。

 ゲーム世界に入った時、自分の作成したキャラクターになってしまった事は譲ることも出来る。だが帰ってきたのなら元に戻ると、戻って然るべきだと思う筈だ。

 

「魂が乗り移ったようなもので、だから帰ってくるなら体に――」

 

 そこまで考えて思う。

 もしも魂が抜け出てキャラクターに乗り移ったとでもいうのなら、帰ってくるべき御影豊の肉体はどこにあるのだろうか。

 

 まだ確たる事は分からないし、確認もしなければならない事ではある。

 だがもし、自室でゲームをクリアした瞬間から――魂が抜けてから三年の月日が経っているとしたら、その肉体はどうなった。

 

 肉体は放置されていた筈だ。一人暮らし、密接にやりとりする友人もいない。

 無断欠勤が続く社員に会社は連絡を取るだろうが、電話に出ない同僚に対し、果たして積極的に自宅までやってきて安否を確認するだろうか。

 振り返ってみれば、努めていた会社は多くの部分が適当で、当日突然の欠勤に対し理由も確認を取らないような体制だった。

 

 だったら、魂の抜けた肉体は、一体どうなったろうか。

 そのまま植物状態になっていれば御の字で、魂が抜けたというなら、その場で死んでいたとしても可笑しくない。そして仮に息がある状態であったとしても、放置され続けたのだとすれば、三日と保たず死亡していただろう。

 

 帰るべき肉体を持たない魂がどうなるか、そんな事は理解の範疇の外だ。分かる筈もない。

 だが魂の宿るべき肉体がないのだから、このミレイユの肉体を持って帰還したというのなら、むしろ温情を与えられたと考えるべきかもしれない。

 

 帰還を望んだが故に、魂のまま現世を彷徨うなど笑い話にもならない。

 

「ハァ……」

 

 そこまで思考を捏ねくり回して、ミレイユはまたも溜め息を吐いた。

 何を考えても結局は妄想、空想の類。確証も、確認も取れない事に時間を割いて考えていても仕方がない。それより考えねばならないのは、今後のことだろう。

 

 何しろ、帰還を望めば、すぐに元の生活を再スタート出来ると考えていたのだ。

 浅はかにも、とミレイユは自嘲の笑みを浮かべ、もう一度溜息を吐いた。

 

 

 

「ああ、そうだ……」

 

 顔を上げて、一段と重くなった気がする身体の背に力を入れる。

 こんな事をしている場合ではなかった。

 この部屋は幸いにして無人だったが、いつ誰が帰ってきても不思議ではない。むしろ、この場に降り立った時点で住人と出くわしていた可能性の方が大きかったろう。

 それを思えば幸運だった。

 

「そうとも、何一つ恵まれない不運まみれというわけじゃない……」

 

 無理にでも何か一つ励まさなければ、やっていけない気がした。

 だが身一つであの世界に放り出された時の事を思えば、まだマシだ。襲ってくる獣や魔物、野盗の類に対して怯える心配はない。

 

 いや、と思い直す。

 今となってはむしろ襲ってくる相手はいた方が、都合がいいのかもしれない。

 やり方さえ知っていれば、金を稼ぐ手段に困らなかった。獣からは毛皮や肉が取れたし、魔物からは錬金素材、野盗ならば身包み剥いで金に換えられた。場合によって報奨金も得られる可能性がある。

 

 そう思って我知らず、癖になっていた全身に魔力を巡らす制御行為をして、何の問題もなく行使できる事に気がついた。

 

「なに……?」

 

 この世には魔法もなければ魔力もない。

 それが常識で、あくまで在るとされる、という類のもので目に出来るものでもなかった。

 黒魔術や儀式など、実際に体系立てて本になっている物もあるが、本気で信じれば狂人の誹りは免れない。魔法とはマジックショーで見られる娯楽として受け取るぐらいで丁度よい。

 世間の認識としては、そんなところだ。

 

 ミレイユは制御を続けて右手に炎を灯す。

 左手も続けて、別の制御に切り替えて手近にあったテーブルを浮かせた。

 

 何の束縛も重しもなく、あちらの世界で使っていた力を問題なく行使できる。

 それを確認して、ミレイユは制御を解いた。

 テーブルは静かに元の位置へ戻り、炎は小さく音を立てて掻き消える。

 

 これが良いことなのかどうか、今のミレイユに判断は出来ない。知られることで異端として排斥されるだろうか。かつての魔女狩りのように、石を持って遠ざけて火を持って浄化を願う。

 

「……ハッ」

 

 ミレイユは鼻で笑って悪い想像を頭から追い出す。

 幾ら何でも気持ちが後ろ向きに成りすぎている。

 魔法が使えるというのなら、便利に活用すればよいだけだ。姿形が同じだけの人間ではなく、ミレイユとして多くの武技と魔術を収めた能力は、何をするにも役立つ何かに変換して使える筈だ。

 

 そこまで考え、いよいよ部屋から退散しようとした足を踏み出す。

 だが唐突に横合いから掛けられた声に、思わず身を竦ませた。

 

「ミレイ様……!」

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 顔を向ければ、そこに居たのは別れたばかりの――そして、ここにいる筈のないアヴェリンだった。その更に後ろには狭い部屋の中、興味深そうに辺りを見渡すルチアとユミルもいる。

 

「ど、どうして……お前たちが? 何故ここに?」

「好きにしろと言われたので、後を追いました」

 

 事も無げにアヴェリンは告げてきたが、理解不能の事態に、顔を顰めずにはいられなかった。

 

「そういう事じゃなく。いや、それもアレだが、何がどうすればそうなるんだ?」

「あらまぁ……。アレだの、どうだの、そうだのと。混乱の度合いが凄まじいわね。ひっくり返ったバスデスだって、もうちょっとマシでしょうに」

 

 その言い回しは逆に分かり辛い、そう言いたかったが、混乱の極致にあったミレイユに、そんな気の利いた言葉は出なかった。

 呆れるようでもあり、そのくせ喜ぶような調子でユミルは言ったが、そんな事はどうでも良かった。

 

 このアヴェリンたち三人は間違いなくゲーム世界の住人だ。ミレイユがゲーム世界に入ったり出てきたりするのも大概おかしいが、ともあれ元々が人間であるという前提があっての現象だろう。

 だというのに、アヴェリン達すらもこちら側へ来る事に違和感がある。

 だが、そうは言っても、目の前の事実が消える訳でもない。

 

「その褒め言葉のチョイス、わたし嫌いじゃないですよ」

「どう聞いても貶してるんでしょうが」

 

 満面の笑みを浮かべて言ったルチアに、半眼でユミルが返す。

 いつもの聞き慣れた漫才めいた会話に、もしかしたら幻覚でも見ているかもしれない、という期待は消え去った。

 だが、何故――。

 

「ああ、いや……。聞いたことに答えていないだろう。何故ここにいる? それともやはり、私が見ている夢という事でいいのか?」

「現実ですよ。私達は貴女同様、『遺物』を使って追ってきました」

 

 アヴェリンが答えて、身体の動きが止まる。

 あらゆる願いを叶える『遺物』、確かにそういう謳い文句ではあった。あらゆる過程を飛ばして結果だけを与える、あれはそういう機構だが、それにだって限度がある。

 

 ――限度。

 そう、願いを叶えるエネルギーには神器を用いなければならない。

 ミレイユの欲する世界を超える程の願いには、最大数の神器の用意が必須のように思われた。実際に必要になる個数など提示されないから、叶えられないという返答がない限りは、それでどうにかなる算段だった。

 

 ならばやはり、この三人が後を追える筈がない。

 一度の願いで一度の結果、ミレイユは間違いなく『私を』と指定した。ならばアヴェリン達が都合よく巻き込まれる事はない筈だし、仮にミレイユの身体を掴んでいたとしても同時に飛ぶ事はなかった筈だ。

 

「それはおかしい。神機のエネルギーは全て使われただろう? それでどうして、お前たちが来れる事になるんだ?」

「いえ、ミレイ様の願いで消費された神器は一つでした。残りが受け皿から返ってきましたので、同様の手順で貴女の後を追う旨を願いました」

「一つ……? たった一つで叶う程度の願いだったのか?」

「そのようです」

 

 こっくりと頷いたアヴェリンに、ミレイユは乾いた笑みがこぼれた。

 あの苦労は一体なんだったのか、と天を仰がずにはいられない。何しろ只一つ所持しているだけでも偉業と言われる神器である。手に入れるには神の承認が必要で、そして承認を得るには神の試練を乗り越えなければならない。

 神が与える試練だから、当然生半な覚悟でも実力でも突破できるものではなかった。

 

 そんな嘆きを他所に、ユミルが軽い調子で言葉を放てば、それに追従してルチアも笑う。

 

「ま、良かったじゃない。こうしてアタシ達も着いて来られたんだし」

「ですよね。ミレイさんが寂しさで枕を涙で濡らす必要もないですし」

「相変わらずの軽口に感謝するよ……」

「どういたしまして」

 

 ルチアの額をぺちりと叩けば、大袈裟に痛がる様子を無視してアヴェリンに向き直る。

 

「まぁ、理由は分かった。手段についてはな。だが、どうして追ってきた? 未知の世界だ、恐ろしくはなかったのか?」

「それを本気で訊いているのだとしたら、ミレイ様の見識を疑いますね」

 

 アヴェリンはつまらなそうに眉根を寄せてから、ユミル達に指を向ける。

 

「未知の世界など、恐れる我々だと思いますか。恐れるというなら、私は貴女のいない世界の方が余程恐ろしい。……それに、私には貴女を追うべき理由が他にもある」

 

 アヴェリンは一度言葉を切って、改めてミレイユに向き直る。

 次いで膝を折って片膝で立ち、右手を武器の柄に、左手を胸に当てて頭を垂れた。

 

「私は貴方様に忠誠を捧げた。何があろうと、誰が敵であろうと、共に側に立ち戦うと。貴女様の立つ場所が敵地へと変わろうと、――世界すら変わろうと、私が立つのは貴女の傍のみ」

 

 ミレイユは苦虫を噛んだように顔を顰めた。

 忠誠を捧げられる程、立派な人物ではないと自覚しているからの事だった。そして、その忠誠を不実な理由で利用し続けて来たという自覚があったからだった。

 

「本当の私は忠誠を捧げて貰えるような人間じゃないんだ。それを知りながら、私はお前を利用していた。必要だったから……。お前という戦力がいれば、必ず『遺物』に辿り着けると分かっていたから」

「ならばそれは、私は誇りを持って受け入れましょう。我が武威を頼みにして下さったなら、これに勝る喜びはありません」

「そうじゃない、そうじゃないんだ。私はお前を一振りの武器として見ていた。人格は二の次、人としての扱いも三の次。ただ目的を達せられるまでの関係、使い終われば捨てる。そのつもりで接していた。大した礼もなく、さっさとこちらの世界に帰ってきたのが、その証拠だ」

 

 アヴェリンは困ったような笑みを浮かべて顔を上げた。

 

「私がその武器として捧げようと思った事こそが重要なのです。貴女には確かに思惑があった。ですがそれは、私にとって大した事ではありません。何より貴女を近くで見続けた私が、貴女に付き従いたいと思った。一振りの武器として見ていたのだとしても、それで良いのです」

「だが……」

「見返りを求めて捧げるものは、真の忠誠とは呼べません。無論、下地となるものは必要でしょう。ですが、それすら乗り越えるような誇りを貴方様は与えて下さった」

 

 それでも尚、頭を振って否定しようとするミレイユを、ユミルが横から口を挟む。

 

「信用や信頼と同じよ。この子は忠誠とか大袈裟なこと言ってるけど、積み重ねてきたモノが常人とは違うってコト。そしてアンタは、その信頼を一度として裏切っては来なかった。それが全て」

「しかし……」

 

 それでも納得を見せないミレイユに、焦れたルチアから指摘が飛んだ。

 

「ここに私達がいる事こそ、証明になると思うんですよ。どうでもいいと思ってる人に、どこに行ったかも分からないけど、とりあえず着いて行こうとは思いませんよ。単なる旅の仲間程度の認識だったら、じゃあ次のパーティ探しますか、ってなります」

「それだけの下地をアンタは作ってきたってコト。何で分からないのかしらね?」

 

 ユミルは本当に疑問を感じているように、小首を傾げた。

 

「竜殺しを成しただの、神殺しをやってのけただの、そういう偉業を共に成したこともそうだけど。でも、そこはどうでもいいのよ。アンタはアタシ達を信頼しているでしょう?」

「それは、勿論……」

「へぇ、何故?」

「……上手く言えないが、まず……有能であったからだ。背中を任せるに足る人材だと思ったし、余計な気苦労もなかった。隣に置いて苦痛じゃなく、やるべき事が分かれば説明がなくとも動いてくれた」

「それだけ?」

 

 ユミルは不満げに鼻を鳴らした。

 内心の吐露は気恥ずかしい。今まで多くの会話を交えて来たが、こうした内面に踏み込むような話題はなかった。いや、避けて来ただけだったのだろう。

 それらしい会話があれば沈黙してしまうから、会話が続かなかっただけだ。そしてそれを察して話題をずらしてくれていた。

 

「道具のように扱っていた気持ちはあったが、同時に愛着も執着もあった。離れがたいとも思っていた。……好いていたのだと思う。重ねた時間の分だけ、大事に思えていた」

 

 それを聞いてルチアが満足気に頷く。

 

「じゃあ、なんでそれが私達からも向けられているって思わないんですか? 信頼っていうのは一方通行のものじゃないでしょう? 向けられれば、向けるのも簡単。だから、一方的に離れて行っても、こうして着いてきたんじゃないですか」

「うん……」

「二度と顔を見たくないとか、何か嫌になった理由があるならともかく、別にそういう訳でもないんですよね?」

「そうだ」

「一人でしか帰れないと思ったし、帰らないという選択肢がなかったから、だからそうしたって事なんですか?」

「……そうだな」

 

 ルチアがどんどん詰問口調になっていくに従って、ミレイユも言葉少なげに返答していく。

 その口振りは呆れも混ざって、次第に訊いていくのが馬鹿らしくなっていったようだった。

 

「……ですか。じゃあ別にもう、このままで良いですよね? 帰れと言われて帰る手段も思いつきませんし」

「そうだな、帰る手段はない、だろうな……」

 

 ユミルは腕を組んでニヤリと笑う。

 

「これで帰れと言ったら外道の類でしょ。言われて帰るつもりはないけどね。アンタという娯楽がなければ、これからの人生つまらない」

「なんだ貴様、そんな理由で一緒に来たのか?」

 

 アヴェリンが下げていた頭を持ち上げ、その場に立った。

 

「貴様の父親の件があったのに、感謝の気持ちもないわけか?」

「いやぁ、感謝の気持で着いて来てるのはルチアでしょ。アタシはまた別の感情ってだけで」

「私は感謝っていうより、恩義って感じですけど」

「別にどっちでもいいわよ、そこは」

「じゃあ何か、貴様には娯楽と感謝以外で向ける感情が他にあったのか?」

「ああ……。まぁ、強いて言うなら好奇心?」

「ふざけるなよ、馬鹿者」

 

 会話の内容がどんどん険悪になっていくのを見て、ミレイユは微かに笑った。

 ああいう掛け合いもいつものこと、険悪のように見えて仲の良い者同士のじゃれ合いに過ぎない。無理に止めずとも、そのうち勝手に収まるのもいつもの事。

 

「大体、お前は……」

「アンタは固すぎ……」

 

 アヴェリンがいよいよ武器を腰から抜き放ったのを見て、これはじゃれ合いで終わらないかも、と思い直す。ルチアがさっと離れて行くのを見て、ミレイユは代わりに二人の間に割って入った。

 

 

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